試練を乗り越えた先に…『ヒプノシスマイク』イケブクロ、山田三兄弟それぞれの成長とは

ガチオタである一方、約10年のミュージシャン歴も持つ音楽ライターの私・曽我美なつめが紐解くアニソン連載。

音楽×二次元両方の側面からアニソンを解剖する本連載、第6回の今回は、今まさに開催中のバトルからも目が離せない『ヒプノシスマイク』（以下『ヒプマイ』）関連の楽曲を数回に渡りご紹介。

今回ピックアップするのはイケブクロ・ディビジョンBuster Bros!!!による2nd Division Rap Battle楽曲「Re:start!!!」。楽曲から感じられる、彼らの凄さと兄弟それぞれの成長とは？

※本記事はその性質上、ドラマCDトラックストーリーのネタバレを含みます。

ヒプノシスマイクの人気を牽引するイケブクロ・ディビジョン、山田一郎率いる山田3兄弟によるユニットBuster Bros!!!。
ヒプマイにおけるディビジョンの中で唯一の肉親によるユニットであり、それ故に既存の6ユニットの中では最も平均年齢の低い、若いメンバーによるチームです。

彼らの持ち味はやはりその若さならではの爆発力や勢い、そして兄弟という血の繋がった仲間である3人の固く強い絆でしょう。
しかしそれを以てしても、1st Division Rap Battleでは絶大な人気を誇ったシンジュクディビジョン・麻天狼の前に敗れ去った彼ら。

大きな敗北を経験したBuster Bros!!!が見つけた、自分達の「兄弟だからこそ」の弱さと、それを乗り越えて新たに自分たちが目指すべき姿。
それらが描かれているのが、ずばり今回の2nd Division Rap Battle楽曲である「Re:start!!!」なのです。

Buster Bros!!!の何よりの強みである、強い絆で結ばれた実の兄弟という関係性。
両親はおらず文字通り3人だけで育ってきた彼らでしたが、実質この兄弟を様々な面で守り支えてきたのは、長男である山田一郎の存在が非常に大きいものでした。

弱い存在を見捨ててはおけない正義漢であり、ラップバトルの強さも相まってそれらを守る力も人に比べてある一郎。
だからこそ、彼の後を追う弟の二郎や三郎も。ある意味で兄の一郎に守られ支えられることを、半ば無意識で当然のようにこれまで享受していたことに、それぞれが気付かされるのです。

ヒプマイシリーズの最年少キャラクターであり、一方で大人も顔負けの頭脳明晰なチームのブレーンでもある三郎。
並みの大人より、ずっと賢い少年であるからこそ。彼はこれまでに年齢のハンデを過剰に自らのコンプレックスとして表現したり、一方で年齢に拘わらず周囲の人間を過剰に見下すような節が、今までにも度々見受けられています。

彼のソロ曲でもある「NEW STAR」「レクイエム」や、オールメンバーでの各種楽曲の彼のパートからも、それらの彼の意識を読み取る事ができますね。

ですが絶対的な信頼をおく存在であった兄・一郎の隠し事と葛藤を知り、追い打ちをかけるように実の父・天谷奴零とも邂逅し揺さぶりを掛けられた三郎。
それでも他人から見聞きした事実や一時的な感情に身を委ねることなく、彼は自分自身の手で真実を掴むことを新たに決意しました。

世の中には多くの情報と、同時に人の数だけの価値観と考え方がある。それを知ったからこそ三郎は、兄でもなく父でもなく、自分自身だけの真実を見つけ出そうとします。

それは人より多すぎる情報と知識を持つ彼が、他人と比較した自分ではなく、確固たる自分自身を見つける為の非常に大きな、そして重要な成長なのではないでしょうか。

そして本楽曲においては、Buster Bros!!!の成長に何よりも大きな一役を買った山田家次男・二郎の進化を語らずにはいられません。
これまで一郎を絶対的な存在の兄として、深い信頼を貫いていた二郎。ですが今回、一郎の弟たちへの隠し事が発覚したことで、彼の兄への信頼は大きくぐらついてしまいました。

信じていた兄に嘘を付かれていた事と併せて、兄の存在が無ければなにもできない人間になっていた自分に気付く二郎。
兄に依存し、兄を盲信していたことに気付いた二郎。同時にだからこそこのままでは自分は永遠に山田家の、そしてイケブクロディビジョンの「二番手」でしかないことに気付きます。

兄でもなく、誰の為でもなく、自分自身の為にラップバトルをして、イケブクロディビジョンの一員としてバトルステージに立つ。
それに気付けたことで、二郎は真の意味でやっと兄・一郎の背中を追随するのではなく、彼の隣に立ち共に肩を並べ、兄を支える弟として歩むことができるようになるのではないでしょうか。

彼のそんな決意が如実に表れているのが、兄・一郎を呼ぶ敬称の変化です。
「兄ちゃん」から「兄貴」へ。彼が兄への依存から抜け出し自立する事を表現した、彼にとっては非常に大きな変化が、この呼び方にも表れているように感じますね。

各予選を勝ち抜き、決勝の三つ巴の戦いへと駒を進めたシンジュク・麻天狼、シブヤ・Fling Posse、そしてイケブクロ・Buster Bros!!!。

それぞれがそれぞれに、互いに負けられない理由のために、背負うべきもののために。激闘を繰り広げる2nd D.R.B Final Battle。3チームによる楽曲「SHOWDOWN」もついにリリースされ、戦いの結末が我々ファンの手に委ねられることとなりました。

これが各チームの威信をかけたバトルである以上、確かにその結末には勝者と敗者が存在します。
ですが、どんな結果が待ち受けていようとも。彼らが勝利のために歩んできた道のりには、きっと何一つ無駄なものはないはずなのです。

（執筆：曽我美なつめ）