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『うた☆プリ』企画は大反対された――原作者・上松範康の"アイドル"を生む覚悟

「頭がおかしくなったのか」と社員の顔に書いてあった

2018年4月20日に上松範康さんの著書『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』(主婦の友社)が上梓されました。

上松さんといえば多数のアニソン・ゲーム音楽を手がけるElements Gardenの代表であり、『うたの☆プリンスさまっ♪』(以下、『うた☆プリ』)や『戦姫絶唱シンフォギア』の生みの親。

もはや二次元界隈の音楽を語る上で、決して抜きにはできない唯一無二の存在となった上松さんですが、本書の中で初めて『うた☆プリ』企画を提案したときのことをこう回想します。

スタッフたちは本当にびっくりしていました。「うちの社長は会議で突然、なにを言い出したんだ?」「ついに仕事のしすぎで頭がおかしくなったのか」と、みんなの顔にそう書いてありました。
(『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』より)
ただでさえ忙しいなか、新たな企画を始めることにマネージャーも困惑。「意味がわからないんですが……」とまで言われたとのこと。

そんな最悪な空気のなか始動した『うた☆プリ』がなぜ多くの人に愛され、第一作の発売から8年が経過した今でも私たちを惹きつけてやまないのか――その理由を『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』から印象的な個所を引用しつつ、探っていきます。

 (20243)

『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』

常識を凌駕する。それこそがアイドルの姿

常識を絶対に凌駕する。それこそがアニメで描くべきアイドルの姿であり、我々がアニメとともに追い求めてきた非日常=ファンタジーへの憧れの形です
(『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』より)
なんとしても『うた☆プリ』を世に出したいという情熱と、企画への自信があったと語る上松さん。アイドルへの情熱や感動、キラキラしたものを、二次元の世界で生み出したい――できるはずだと。

『うた☆プリ』以前のゲームやアニメの中には、男性アイドルものはほとんど存在していませんでした。
氏は、スタッフの大反対にあっても粘り強く説得し、制作会社に売り込み、ついに『うた☆プリ』を本格始動させます。

キメカットにこだわり、ぶっ飛んだ演出でもちゃんと女の子がときめくように。
『うた☆プリ』アニメの第一話制作時、上松さんはそんなふうに、徹底的にアイドルたちのかっこよさを追求してほしいと依頼したのだそう。

自身が手がけるテーマソングの歌詞も、インパクトを重視して制作。響きが良ければ、英語の文法が間違いなど気にしない。アイドルたちのグループ名を呼んでもらうために意図的に仕込んだコールも、常識にとらわれないタイトルも、すべてはインパクトの重要性を分かっていたから。

とことんまで攻めるのが『うた☆プリ』の美学――そんな上松さんのこだわりがすべて詰まったアニメ版第一話。冒頭で『マジLOVE1000%』を彼らが歌い踊る姿は、視聴者たちの心を見事にさらっていきました。

そこには、上松さんの『うた☆プリ』に賭けるありったけの思いが形となって躍動していました。二次元のアイドルだからこそ描けるもの。常識の型にはまらない、でも決してかっこよさは外さない。まさに、私たちが知る『うた☆プリ』アイドルたちの姿です。

声優が命を吹き込むと、キャラに尊さが宿る

『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕...

『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』2

『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEレジェンドスター』
(C)UTA☆PRI-LS PROJECT
声優の皆さんにはできるだけ純度を高めた生命を吹き込んでもらう。そうして生まれたキャラクターたちには尊さが宿る。
(『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』より)
上松さんのTwitterなどでも言及されていることですが、『うた☆プリ』の中には、最初から担当声優へのオマージュという形で設定が構築されているキャラクターがいます。

たとえば一ノ瀬トキヤには、宮野真守さんの隠し持つストイックさが与えられたのだそう。
『うた☆プリ』以前から宮野さんを知っていたという上松さん。宮野真守にほれてしまった、とまで語る上松さんにとって、エンターテイナーとしてもアーティストとしても素晴らしい才能を持つ宮野さんは『うた☆プリ』の企画に必要不可欠な存在でした。

同様に、蒼井翔太さんの存在は、美風藍というキャラクターが生まれるきっかけになったとのこと。
蒼井さんの持つ切なさやはかなさを感じる美しさに触れ、『うた☆プリ』に登場させたいと考えていたロボットのキャラクターとどこか重なると感じたのだそう。

実際の声優のイメージからこぼれ落ちるように生まれたキャラクターのエピソードは、ほかのゲームでもアニメでも、なかなか聞いたことはありません。  

こんなふうに、上松さんが担当声優とキャラクターの絶妙な距離感や設定を構築するのには、理由がありました。
担当声優に、キャラクターへの共感を抱いてもらいたい、より深く入り込んでもらいたい。何よりキャラクターを好きになってもらいたい、という願いです。  

その思いが声に込められれば、キャラクターはより生き生きとしはじめる。そうして血の通ったキャラクターは、ユーザーにとっては紛れもなく"本当のアイドル"になる――。

そして、"本当のアイドル"である彼らの歌に熱狂し、愛を注ぎ、彼らの成長を感じながら、この先どんな展開が待っているのだろうかと楽しみにしている、ファンの私たち。

作り手と受け手からの双方向の愛がぶつかって瞬く、それこそが『うた☆プリ』が私たちを惹きつけて止まない理由であり、今日までの8年間少しも陰らず輝き続けてきた理由なのだと、本書を読んで強く感じました。

『うた☆プリ』を生んだ責任を果たす覚悟

今、『うた☆プリ』のアイドルと私たちの関係は、まぎれもなく上松さんの願ったとおりに築かれています。
一方で、上松さんの心にはこんな想いも生まれました。
多くのユーザーの皆様が青春や人生の一部を捧げてくださる作品になったということを自覚しています。それはある意味で罪深いことでもあるのかもしれませんが、僕は『うた☆プリ』を永久に続けることで、その責任を果たしていこうと思っています。
(『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』より)
キャラクターを生みだし、多くのファンを得ただけで終わらせず、その先の未来まで見据える。

『うた☆プリ』が永遠であるならば、私たちもまた、永遠に彼らを愛し続けることができる――その幸福な予感こそが、ファンを惹きつけてやまない『うた☆プリ』の魅力なのかもしれません。

『アニソン・ゲーム音楽作り 20年の軌跡~上松範康の仕事術~』目次

Chapter1 音楽のルーツから探る、上松範康サウンド
Chapter2 戦友・水樹奈々 ~高め合っていくふたりの天才~
Chapter3 『うたの☆プリンスさまっ♪』はこうして生まれた
Chapter4 『戦姫絶唱シンフォギア』で変えた業界の常識
Chapter5 『BanG Dream!』エレガ流ガールズバンドの作り方~
Chapter6 『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』~ファイナルファンタジーの音楽を創りたい!~
Chapter7 これからの上松範康とElements Garden

著者:上松範康/単行本(ソフトカバー): 196ページ/出版社: 主婦の友社

著者プロフィール

音楽ブランドElements Gardenの代表、作詞・作曲・編曲家、音楽プロデューサー。ゲーム・アニメ作品の作詞・作曲などを手掛けるほか、水樹奈々をはじめとする多数のアーティストへの楽曲提供を行っている。また企画・原作や音楽プロデューサーを務めるなど、幅広く活動している。

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numan編集部

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