『テニミュ』『舞台「黒執事」』のアートディレクターを直撃!――舞台ビジュアルはどうやって作られる?【前編】

■岡垣吏紗(おかがき・りさ)
アートディレクター。株式会社Gene & Fred所属。『ミュージカル「テニスの王子様」』、『ミュージカル「黒執事」』ほか、『舞台「パタリロ!」』、『舞台版「こちら葛飾区亀有公園前派出所」』など話題作の宣伝美術を多く手がけている。

ゼロから公演の世界観を作り上げていく

Gene & Fred1

Gene & Fred1

2018年6月に開幕した、MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER~の宣伝美術も担当。10月には東京凱旋公演を控えている。
© Liber Entertainment Inc. All Rights Reserved.© MANKAI STAGE『A3!』製作委員会 2018
――まず最初に、岡垣さんの仕事内容を教えてください。  

岡垣吏紗(以下、岡垣)  アートディレクターとして舞台の宣伝美術(※)を制作しています。ポスターなどで使用される”メインビジュアル”やキャストが衣裳に身を包んだ”キャストビジュアル”、パンフレット、そして作品によってはブロマイドなどのグッズまわりやWEBサイトのビジュアルまで、舞台の"絵作り"に関するものに全般的に関わっています。  

※宣伝美術=公演作品の世界観を象徴したビジュアルのこと。

――”アートディレクター”は、”デザイナー”とは異なるのでしょうか?

岡垣 そうですね。"アートディレクター"の仕事はまだ何もないゼロの状態からビジュアルのコンセプトを練り、最終的なデザインチェックまで行うディレクション作業がメインになります。 "デザイナー"の仕事は実務的なデザインの仕事が主です。

アートディレクターの仕事について具体的にお話しすると……まず依頼を受け、作品や宣伝の方向性を主催側にお伺いするところから制作がスタートします。それから原作作品や舞台脚本を読み込んで、"ラフ"と呼ばれるビジュアルの設計図を3~5案ほど提案し、構図やイメージなどを考えていきます。

方向性の決定後は撮影に入ります。カメラマンに撮りたい写真の要望を伝え、キャストにはポージングや表情の指示を行い、何十、何百と撮った写真の中からベストなものを選びます。

その後、ようやくビジュアルに落とし込むためのデザイン作業をしていく――という流れになります。デザイン作業は私が行うこともありますし、他デザイナーにお願いしディレクションに徹することもあり様々です。

テニミュ

テニミュ

ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 全国大会 青学vs氷帝
© 許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト © 許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

一枚のビジュアルで物語や関係性を表現

――ディレクションやデザインをする際、2.5次元舞台だからこそ心がけていることなどはありますか?

岡垣 その作品の本質、何を目指している作品であるかを大切にしています。たとえばキャラクターの関係性でも、一人のキャラクターがどこかを見て笑っているとすると、見ている先に誰がいるかによってその笑顔の意味が変わります。

2.5次元舞台は普通の舞台よりもストーリーがはっきりしているので、そういう部分は作りやすいですね。「この人はこの人と今どういう会話をしているのか」と考えながら作るのが醍醐味だと思っています。

――そうやって作品を感じ取れるビジュアルが完成するんですね。

岡垣 いろいろな要素が詰め込まれて、見た人が想像や妄想ができるビジュアルのほうが面白いと思うんです。だから表情もなるべく「撮りました!」という感じがでないよう自然な表情を意識してもらっています。

Gene & Fred6

Gene & Fred6

『ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス-』
©2014 枢やな/ミュージカル黒執事プロジェクト
――なかでも一番印象に残っている撮影はありますか?  

岡垣 『ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス2015-』のビジュアルはかなり時間を費やしました。建て込み(※)をやっての撮影で、ライトを決めるのにものすごく時間がかかってしまったんです。  

バタバタしながら焦って撮影したら、やっぱり自分もカメラマンも迷いが生じてきてしまって……(ビジュアルを見ながら)これ、少し固い感じがしませんか?   初めての建て込みで試行錯誤だったし、撮影でしっくりこないと後々加工で頑張らないといけないので本当に大変でした。

※建て込み=スタジオや舞台のセットをつくり、飾り込むこと。

――加工でどうリカバリーしたんですか?  

岡垣 通常よりたくさんの合成をしています。  それから中央にいるセバスチャンとシエルの後ろにあるステンドグラスも作っていただいたんですが、より理想通りに近づけるために、それも上からいろいろなものを重ねて合成しています。

私が最初に手掛けた2.5次元作品が『ミュージカル「黒執事」』だったので、このシリーズにはたくさんの思い出があるんです。

――では、2.5次元舞台の宣伝美術を担当することになった経緯もお聞きできますか?

岡垣 どうしても舞台の仕事がしたいと思い、現在所属しているGene & Fredの門を叩いたんです。最初は代表の二宮と一緒にに動いていて、その時に演劇のビジュアルを作る上での大切なことをみっちり仕込まれました。『ミュージカル「黒執事」』を初めて手がけたときに、二宮が“自分よりも岡垣のほうが向いてる”と言って、仕事を任せてくれるようになったのがきっかけです。

当時はまだ2.5次元舞台もここまで流行っておらず、何が正解なのかが分からなくて。あの時代は2.5次元舞台ビジュアル=顔を白くする……みたいなイメージがあって、最初は私もその流れを若干汲んでいました。今見返すと、レタッチもなんとなくやり過ぎたかなという反省があります(笑)。

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『ミュージカル「黒執事」-千の魂と堕ちた死神-』
©2013 枢やな/ミュージカル黒執事プロジェクト

実際にキャラクターが撮影をしているように

――ご自身の中で”正解”に行きついたのはいつ頃だったのですか?

岡垣 『ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス-』からですね。このときに初めて“キャラクターがその場所にいて、その場所にいるキャラクターを撮る”という感覚が理解できたというか、実際にキャラクターが今ここにいて写真撮影をしているという考え方になったんです。

そして、その後の『ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-」』でもネルケプランニング代表取締役(現会長)の松田さんのやりたいことなどを聞いて、方向性が見えてきた気がします。

カメラマンの中村理生さんとの出会いも転機でした。『ミュージカル「黒執事」』は『~NOAH'S ARK CIRCUS~』から、ミュージカル『テニスの王子様』シリーズは全部彼にお願いしています。

カメラマンさんの中には2.5次元舞台に興味がない方もいらっしゃるのですが、中村さんは興味を持って撮影してくれます。それは私の作るビジュアルの仕上がりに大きく関係していると思います。

"好き"だけじゃなくその先の"何か"を見据えたい

――仕事をしていくうえでやはり興味や”好き”という気持ちは大事だということでしょうか。

岡垣  好きな気持ちはもちろん大切ですが、それだけではなく”そこから何をしたいのか”をきちんと持っている方がいいと思います。  

私はある舞台をきっかけに、”自分が楽しいと思える人生を歩もう”と思ったので、舞台に”感謝を返したい”という想いでお仕事をしています。こんなに素晴らしい作品がいっぱいあるんだからそれを広めていきたいし、演劇界を盛り上げて、観劇するのが当たり前の世界になってほしいなと。  

ただ”好き”なだけじゃなくて”何か”を持っていた方が未来につながると信じています。

Gene & Fred

Gene & Fred

岡垣吏紗さん(Gene & Fred)

まとめ

岡垣さんのビジュアル制作に対するこだわりと情熱がビシビシと伝わってきたインタビュー前編。
【後編】では、これまでに手がけられた作品、『NARUTO-ナルト-』や『テニミュ』、『黒執事』『青の祓魔師』などの制作裏話を語っていただいています。こちらもぜひチェックしてくださいね♪
【株式会社Gene & Fred(ジーンアンドフレッド)】
岡垣さんが所属するGene & Fredはエンターテインメント分野におけるデザイン・編集のプロフェッショナルが集まったクリエイティブプロダクション。ミュージカルや演劇をはじめとした公演作品の主催からの依頼をもとに、作品の象徴となるキービジュアルを作ることに始まり、その魅力を多くの方々に届け、劇場や会場に足を運んで満喫していただくためのコミュニケーションツールやグッズのデザイン・編集・印刷・製造までを行っている。

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numan編集部

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