双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。今月の深堀りテーマは“推しゃれ”。夏の暑さが和らぎ、過ごしやすくなってくる10月。衣替えを悩んだり、明るい色味から落ち着いた色味の服やメイクを選ぶようになったり……さらに、月末にはハロウィンが控えていたりと、ファッションへ思いを馳せることが多くなる時期。numanでは、「推し」と「おしゃれ」を掛け合わせたさまざまなコンテンツを掲載中です。
その一環として実施した読者アンケート「おしゃれな2.5次元俳優といえば?」で、圧倒的な投票数で1位を獲得したのが新木宏典さんです。
ミュージカル『刀剣乱舞』のにっかり青江役や舞台『モノノ怪〜化猫〜』の薬売り役、トニー賞戯曲『ヒストリーボーイズ』の主人公・アーウィン役など、ヒット作や話題作に次々と出演。涼やかでいて凛とした佇まいと、内側からにじみ出るストイックで熱いお芝居で、2.5次元舞台のみならず幅広い作品で第一線を走り続けています。
持参してもらったコーディネートでの撮影後、編集部が用意した表彰状をお渡しすると……。新木さんは柔和な笑顔を浮かべつつも、「業界関係者の方たちにいろんなところで“おしゃれ”だと言っていただいていたので、この界隈では僕が1位だと思っていました」と自信をチラリと覗かせました。
じっくりお話を伺っていくと、その自信ある笑顔の理由が見えてきました。
「ファッションは自分の感性、自分の美しいと思うものを発信・表現するための手法の一つである」
これまでも、衣装ではなく私服で取材を受けたり、フォトブックでは全カットを自らスタイリングをしたりと、さまざまな形で私たちに表現を届けてくれた新木さん。今回はそこからさらに一歩踏み込み、新木さんのファッション遍歴から、“最強の服”が集まったクローゼットの話、おしゃれ好き・ファッション好き・服好きの違いまで、じっくりと語っていただきました。
新木さんをよく知るマネージャーさんいわくファッションの話は“パンドラの箱”。「このジャンルを理解している」と力強く生き生きと語る新木さんの姿に一同いつしか生徒のような気分で聞き入ってしまうほどのファッショントークを、たっぷりの1万字インタビューでお届けします!
INDEX
――今回の撮影では、私服を持参いただいてコーディネートを披露していただきました。コーディネートについて詳しく教えてください。
新木宏典(以下、新木):
僕は自宅が関西にあって、東京には仕事用にマンションを借りているだけなのでほとんど服を持ってきていないんです。その中で、東京に持っていく服は、デザイナーの友人がやっているブランド「ⅢKTH MY LUCK KEY」のアイテム。今日もそこのアイテムでコーディネートをしました。
――どちらのコーディネートも袴風のパンツスタイルが印象的でした。
新木:
袴って僕にとっては“究極のパンツ”なんですよ。だって、日本人なんだから袴が合わないわけがないじゃないですか。和服を着ていた時代が実際にあったことを考えれば、和服のアイテムって日常で使えるものだと思うんです。中でも袴は着流しの上に着るものなので、ようは当時の“外に出かける用のパンツとして一着持っておけばいいアイテム”だったんじゃないかと。それを考えると、袴が究極のパンツだと思ったんですよね。
でも、袴パンツとして世の中に出ているものはモード系に寄ったものばかりで、日常では使いづらい。「デニムのようなカジュアルな素材のものが使いやすくていいと思う。さらに言えば、袴の腰回りは紐で調整することで、どんな体型の人でも履けるようになっているけれど、日常的に使うと考えると面倒くさい。だから、腰回りを洋服と同じ形にしたものがあれば、袴パンツが僕にとってこれ以上ない最強のパンツだと思う」。デザイナーの友人にそう伝えて生まれたのが、今回持ってきた袴パンツです。
――袴パンツの愛用者として、最強だと感じる点はどんなところですか。
新木:
まず圧倒的に楽。僕ら舞台役者は稽古着が必要なのですが、袴パンツだと中にジャージを着込めるんですよ。冬の稽古場の更衣室で寒い思いをして着替える必要もないし、夏は夏で裾をパタパタすれば熱を逃して空気が入ってくるから涼しい。
それに、もともと袴は外出用のアイテムだから、帰宅したときにすぐに脱ごうと思えるんです。帰ってから着替えもせずにダラダラしちゃうようなことが防げて、生活の良いサイクルも生まれるんですよ。古き良き時代も感じられるし、生活習慣も正してくれるという意味でも、袴パンツは最強のアイテムです。
――1着目のコーディネートは袴パンツとジャケットのセットアップでしたね。とても素敵でした!
新木:
あのセットアップは「ⅢKTH MY LUCK KEY」の新作で、薄めのカーゴ生地のものなんです。デニム系生地のセットアップと2色2サイズ展開なのですが、全色全サイズ買いました(笑)。友人への応援の気持ちも込めて、毎回全色全サイズを買っています。
――カーゴ生地のセットアップに合わせたのが、皮のベルトと革靴でした。
新木:
僕は経年変化を楽しめるものが好きなので、皮のアイテムを合わせました。革靴に関しては、どんなに高くてもソールを張り替えられるという条件をクリアしないと買わないです。ソールがダメになったら捨てる、だと皮である必要がなくて、スニーカーと同じ部類に入るんですよね。
――スニーカーは買い替えを前提としているということですか?
新木:
はい。シーズン中にとことん履いて使い切って買い替える、“消耗品”の感覚です。スニーカー好きの人はソールにカバーをつけて保護しますけど、僕は買い替える前提。だから、スニーカーに関しては経年変化を楽しむというよりは流行のデザインのアイテムでも良くて、処分していいやと思える金額までしか払わないです。
同じく靴下もどんどん処分します。先輩の家にお邪魔したときに靴下が汚いと失礼じゃないですか。いくら外側のおしゃれをしていても、内側の靴下が汚れていたり傷んでいたりしたら、すごくだらしないし失礼。だから、「この靴下で先輩の家に上がれるかどうか」を考えて、ダメなものは捨てていっています。
――靴下は消耗品とのことですが、一つ目のコーディネートでは、ズボンに隠れたおしゃれな靴下も素敵でした。今回の小物はどんな狙いで選ばれたのですか。
新木:
トータルコーディネートを考えたときに、見えないかもしれないけれど、何かしらのタイミングで見えるポイントとして重要なアイテムが靴下だと思います。だから、ファッションでよく“色を拾う”って言うじゃないですか。それです、それ(笑)。今日は色を拾って黒の靴下にしました。
セットアップのコーディネートでは、黒のソックスと黒のベルトにして、アクセサリーは全部シルバーに。インナーはブラックネイビーで、真っ黒ではないんですが一見すると黒に見える色味のものです。全体的に黒とベージュとシルバーでトータルバランスを合わせました。
――一つ目はカッチリした中に遊び心のあるコーディネートである一方、二つ目のコーディネートはカジュアルな印象を受けました。
新木:
カーディガンのコーディネートに関しては、暖色系の黄色と寒色系の緑の配色なので、中和させるためにゴールドのアクセサリーではなく真鍮(しんちゅう、銅と亜鉛を混ぜた合金)を合わせました。
――ゴールドではなく真鍮というのがまたおしゃれ上級者……!
新木:
真鍮はくすみが強い黄土色の風合いになるし、ギラギラした感じのあるゴールドに比べると冷たい質感があって、色味を中和させるのにいいなと思って選びました。ただ、カーディガンのインパクトが強いので、靴下に緑を入れることで、色を拾ってコーディネートとしてまとめた、という感じです。
――コーディネートのお話を聞いただけで、すでにファッションへの熱量の高さを感じたのですが、新木さんが最初にファッションに興味を持った一番古い記憶というのはいつ頃ですか。
新木:
一番古い記憶でいうと、姉と妹が集めていたコミックスですね。中学生くらいの頃に矢沢あいさんの『天使なんかじゃない』や『Paradise Kiss』、『NANA』とか。そういった作品を読んで、ファッションに興味を持ちました。
絵が綺麗だったんですよね。人物はもちろん、服も小物も。矢沢あいさんの描かれるマンガの特徴として、ファッションアイテムをフューチャーするカットが入る。例えば、アクセサリーをつけている手元のカットとか。そういったファッションアイテムにフィーチャーしたイラストを見て、“身につけるものの美しさ”に興味を持つようになりました。
――ファッション雑誌を読んで、ではなくマンガがきっかけだったんですね。
新木:
ファッション雑誌も読んでいましたけど、それは“服を見ている感じ”がすごく強かったんですよね。ファッション雑誌のメインは日常的に着る服じゃないですか。もちろん、ファッションに興味を持つようになってから見るようになったコレクションのラインとかは、見ていてアートだなとは思いましたが、基本的には芸術性よりも、日常生活を送るために作られたアイテムが多く掲載されているから、僕はそこには刺激を感じなかったんです。
だけど、矢沢さんの作品では、“ファッションって一番身近なアートだ”と思ったんです。「服って美しいもの」だと認識させてくれたという感覚です。
――服の美しさに気づいたことで、実際に身につけるものへの変化は起きましたか。
新木:
起きました。でも当面、そっち側(芸術性を感じるファッション)にはいかなかったです。なぜなら、服を着る自分自身がそこの表現ができないと思ったので。その服が最大限、素敵に見えるような体のラインに、当時の僕はなっていなかったから、そういったファッションをしようという選択肢はなかったです。
「じゃあ自分は何で見せようか?」というところで、ヒップホップ系のストリートカルチャーの方に行きました。自分のライフスタイルに合っているファッションで、無理がないスタイル。だから、学生時代はストリート系が多かったですね。
――学生時代にそれだけご自身のことを俯瞰で眺めて分析できるのは、すごいですね。
新木:
そうなんですかね。それはきっと、“ファッションは美しいもの”というところから入っているからでしょうか。「自分が身につけて美しく見えるかどうか」をすごく考えますね。身につけること自体はできたとしても、美しく見えなければ僕としては恥ずかしいことだと思ったので。
――では、ストリート系を好んでいた10代から、次に変化が起きたのはいつ頃でしたか?
新木:
アルバイトをするようになって、自分で買えるようになったことがきっかけですね。「これが欲しい」と思って、それを買うための目標金額を貯めるまでに時間の猶予があるじゃないですか。その間に、自分磨きもできる。僕は“そのアイテムが似合う自分”になっていないと買えないから、焦らずゆっくり時間をかけて、本当に気に入ったアイテムを集めていった感じです。
――今も新しいアイテムを買う際は、その集め方をしているんですか?
新木:
今はもう買わなくなりました! 自分の欲しいものは全部集めきったので、それぞれのジャンルで自分が着たい好みのものは一通り揃っているし、コーディネートも何パターンもできる状態になっているので、今持っている服で事足ります。
――新木さんは昨年末(2023年)のブログで「たくさんの服はいらない俺からすると、ずっと使いたい服が最強」と綴っていました。新木さんが“最強の服”を選ぶ際、一番こだわっているのはどういったところですか。機能性なのか、デザイン性なのか、それともまた違う部分なのでしょうか。
新木:
こだわるポイントは、アイテムにもよると思うのですが、一番大切なのはやっぱり“ずっと使いたい服”であることですね。具体的な服選びで重要視しているのはサイズ感だと思います。そこを大切にすれば、自分に合ったコーディネートができるので、サイズ感さえ間違えなければいいと思っています。買い物のテクニックとはまた別の話でいえば、自分の肌に合っていて、自分のライフスタイルを考えたときにどこにストレスを感じないコーディネートにしたいのか、ということも重要になってくると思います。
僕の場合、ずっと使いたいものの条件は、経年変化を楽しめるアイテムであるかどうかということが重要ですね。服は身につければ傷つくものだし、痛むものだし、ときには汚れることもある。新品状態を継続していくことは不可能なものとして考えたときに、汚れや傷といったものすらも風合いを感じ取れるようなものであることがすごく重要。ヘビーユースして、その変化を楽しめるものである点にはこだわっています。
――先ほども「もう服を買わなくなった」と仰っていましたが、新しく欲しいものと出会った場合はどうするのでしょうか。
新木:
流行って12年サイクルで巡っていくと言われているじゃないですか。例えばスキニーパンツ。これも一度流行ったら、12年後にまた流行る時期がくる。次の流行がきたときに、生地やデザイン、股上のサイズ感といったものが、そのときの時代に合わせて微調整されると思うんですよね。それで、その微調整が好みかどうかというのが、買うかどうかの決め手になります。
僕はエディ・スリマンというデザイナーのタイト系の服のデザインが一番好きで。彼がイブ・サンローランのクリエイティブ・ディレクターに就任して、ブランド名を「サン・ローラン・パリ」に変えた頃に作ったスキニーパンツが一番キレイだと思っているんです。裾口幅が15.5センチで、ストレッチポリが2%入った若干のストレッチ性のある生地が僕の中ではドンピシャだったから、それを買いました。だから、「このスキニーパンツを捨ててでも持っていたい」と思うような新しいアイテムが出たのであれば、たぶん僕は新しいものを買うと思います。
――逆にいうと、それくらいのものじゃないと、新しく買うことはない?
新木:
そうですね。手持ちの同系アイテムを捨てる覚悟ができるアイテムではないと新しく買いません。それを繰り返して集めていったのが、今のアイテムたちです。
――新しい服との出会いというのは、調べて買い求めるのか、店頭などで運命的に出会って購入に至るのか。どういったタイミングなのでしょうか。
新木:
それでいうと運命的な出会いの方が多いですね。時間があるときにふらっと古着屋を回っています。バイヤーさんによって店に置いてあるアイテムが全然違うので、お気に入りの古着屋にはよくチェックしに行きます。古着屋はシーズン関係なくアイテムが入ってくるし、バイヤーさんがどのタイミングで仕入れるか分からないですからね。街を歩きながらのウィンドウショッピングや、すれ違う人たちのファッションを眺めるのも、服を買う買わない関係なく好きですよ。流行りの系統が見えてきて楽しいです。
あとは、単純に「アートとしてこれは素晴らしい、これは所持しておきたい」と思うような素晴らしいデザインのものに出会ったら買いますね。そういった出会いはなかなかないですけど(笑)。
――そうして厳選された新木さんのクローゼットには、実際どれくらいのアイテムがあるのですか。
新木:
数えたことないな……。とにかくたくさんあることだけは分かります(笑)。クローゼットはもちろん、リビングも服だらけですね。アウター系だけで50着くらいあるし、パンツは100本届かないくらいはあると思います。
――すごい……思わず圧倒されてしまいます。トータルするとかなりの量のアイテムをお持ちだと思うのですが、こだわり抜いている分、自分がどんなアイテムを持っているのか、全部頭の中にも入っている?
新木:
入っていますね。新しく気になるアイテムがあれば、手持ちの似たデザインのものと頭の中で比較しますし、購入したらアレとアレと合わせてこういうコーディネートができるなとパターン数も考えます。
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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