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90年代は俺様系男子、令和は「溺愛系男子」の時代?社会背景とリンクする少女漫画のイケメン像【花男、君に届けetc.】

すず木:
これまでそんな生き方をしてこなかったけれど、ヒロインとの出会いで「誰かと歩む人生もいいよね」と変化していくタイプです。

代表格は『うるわしの宵の月』(やまもり三香/講談社)の市村、『ゆびさきと恋々』(森下suu/講談社)の逸臣、『山田くんとLv999の恋をする』(ましろ/KADOKAWA)の山田、『顔だけじゃ好きになりません』(安斎かりん/白泉社)の奏人などでしょうか。

『山田くんとLv999の恋をする』(KADOKAWA)

『山田くんとLv999の恋をする』(KADOKAWA)

「他者排除タイプ」との共通項は、「モテるけれど女の子を寄せつけない」ところ。ここが90年代の男性キャラクターと大きく違う点です。

――女性に囲まれている男性はチャラくて信用ならん、ということでしょうか。

すず木:
そうですね。「溺愛系」はとてもモテているのに他の女の子に囲まれることなく、ヒロインしか目に入っていない。女性読者はそこに誠実さを感じるし、同時に「特別な人に選んでもらえた」というカタルシスを味わえるのだと思います。

令和のスパダリは「すでに仕上がっている」。過去との違いは?

――令和の男性キャラクター像を語るうえで、「誠実」がキーワードとしてあげられそうですね。

すず木:
たしかに令和の少女漫画では、「ヒロインを不安にさせない」男性像が好まれることが多いですね。

ヒロインは不安や自分への自信のなさを抱えていることが多いのですが、それでいて自立心はあるので、「きみはそのままでいいんだよ」と安心させてくれる男性像が求められているのかなと思います。私はこれを「(少女漫画における)心理的安全性」と呼んでいます。

「友だち親子」という言葉もあるように、現代のティーンエイジャーは家族仲が比較的良好で、いさかいを避ける傾向があるように思います。

外的な圧力に対する反骨精神よりも、自分がいかにしっかりと自立するかに重きを置く人も多い時代なんですよね。こうした、向き合うべきはあくまで自分だという世相も、求められる男性像に影響しているのだと思います。

それと、令和の男性キャラクターはすでに「仕上がっている」ケースが多い。

『ゆびさきと恋々』1巻(講談社)

『ゆびさきと恋々』1巻(講談社)

――「仕上がっている」男性像は、90年代にも「スパダリ」として存在していたようにも思います。

すず木:
その仕上がり度合いが、令和ではより強化されている感じですね。
90年代のスパダリはいわゆるオラオラ系で、女性サイドとしては「強引に迫られたから、流されても仕方ないでしょ」と、ある種の責任転嫁ができました(笑)。

対する令和のスパダリは、そこからオラオラ要素を除いた男性像となっています。女性のエスコートはバッチリだし、女の子をからかって気を引くようなこともしないんですよね。

――相手をからかったり、わざとイヤがることをして関係性を築こうとする男性にNOを突きつけたという側面もあるのでしょうか。

すず木:
現実の問題として、そういうアプローチの仕方にイヤな思いをしたり、うんざりさせられたりした女性は結構いると思うんですね。今の少女漫画ではむしろ、そういうことをしてくる人から守ってくれるような男性像が求められているように思います。
強引さはないから、いきなり抱きしめたりするケースも少ないんですよね。どちらかといえば「充電させて?」と、そっと触れてくる感じ。

――「溺愛系」という言葉には、あふれる愛情を相手に注ぐような響きも感じられるのですが、それだけではないのですね。

すず木:
溺愛といっても、まずヒロインの気持ちを尊重してナンボなんですね。女性の気持ちを最優先するからこその「溺愛系」だし、そんな彼らの登場に私自身も衝撃を受けました。
特に「ともに歩む系」は女性へのリスペクトが高く、ヒロインのサポート役に徹するようなところがあります。

移り変わるヒロイン像。呼応するように男性像も変化する

――時代によるヒロイン像の変遷についてもお聞かいただけますか。

すず木:
90年代は起伏の激しい物語が多く登場した時期で、それに合わせてヒロインも男性と張り合えるような女性像が好まれました。『花男』のつくしや、『ヤマトナデシコ七変化』(はやかわともこ/講談社)のスナコなどがそうですね。

その一方で、『快感・フレーズ』(新條まゆ/小学館)の愛音のような「守ってあげたくなる女の子」も登場しています。両者とも芯はしっかりしているのですが、表出の仕方が二分化されている。『NANA』(矢沢あい/集英社)はその対極するふたつのヒロイン像をひとつの作品の中で描いた、画期的な少女漫画ではないでしょうか。

『快感・フレーズ 完全版』1巻(小学館)

『快感・フレーズ 完全版』1巻(小学館)

90年代の男性キャラクター像は細分化の時代でしたが、ヒロイン像については二極化の時代といえそうですね。時代によってヒロイン像が変化し、それに呼応する形で男性像も変遷しているんです。

――最近の少女漫画には、ヒロインに対抗するライバルキャラが少なくなっているように思います。

すず木:
昭和までさかのぼると、同じ男性を好きになった者同士として、ヒロインとライバルが仲良くなるケースが多々見られます。
90年代に入ると意地悪な女の子がライバルとして登場したりするのですが、令和ではそもそもライバル自体あまり見かけなくなっていますね。

ライバルと競い合って相手の心を手に入れるより、ふたりの関係をいかにじっくり、厚みをもって描くかに重心が移っている。その時代の転換点にすっぽりハマった作品が『君に届け』だったのだと思います。

DVD『君に届け』VOL.4(バップ)

DVD『君に届け』VOL.4(バップ)

――誰とも争わず、じっくりふたりの関係を育んでいくこと。この点も、先ほどおっしゃいっていた「心理的安全性」につながるポイントではないでしょうか。

すず木:
令和のティーンエイジャーはSNSが身近にあって、アプリを開けばキラキラした同世代の様子を簡単に知ることができます。そうした世相を反映してか、最近の少女漫画のヒロインは「普通である自分」に悩むケースがよく見られるんですね。

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合田 夏子

アニメ・漫画誌を中心に活動。ミステリ・ホラー好き。別名義にて漫画原作、小説執筆や講演も行う。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。変格ミステリ作家クラブ会員。

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