【考察6】『おそ松さん』2期24話『桜』|“ちゃんとする”ってなんだよ?

『おそ松さん』とは、赤塚不二夫のギャグマンガ『おそ松くん』を原作に、おそ松(CV:櫻井孝宏さん)、カラ松(CV:中村悠一さん)、チョロ松(CV:神谷浩史さん)、一松(CV:福山潤さん)、十四松(CV:小野大輔さん)、トド松(CV:入野自由さん)の6つ子が、クズでニートな大人に成長した姿を描くTVアニメ作品です。

2015年に放送されると、2016年度の流行語大賞にノミネートされるほどの大ヒットを記録。
2017年10月から待望の第2期がスタートしています。

numanの人気シリーズ、深堀考察記事の第6回をお届けします。

『おそ松さん』2期24話『桜』はこんな話

まずは、24話『桜』のあらすじを簡単におさらいしましょう。

いつものように昼過ぎに起き、脱いだ服は散らかしっぱなし、食べ終わったお皿も片付けず、のんびりと釣堀に向かうクズニートの6つ子たち。そんなとき、末弟・トド松のスマホに母・松代から着信が。父・松造が倒れたという知らせを受け、6つ子は慌てて病院へ駆けつけます。

大事には至らなかったものの、突然の出来事に焦りを感じる6人。長男・おそ松「そろそろやんなきゃいけないのかなぁと思ってさ。その〜、しゅ、就職? とか。あと、自立? とか。なんかそういうようなこと」という発言をきっかけに、松代の家事を手伝い、バイトを始めるようになります。

自立しようと努力し、それぞれの生活を歩み始める兄弟に、言い出しっぺであるはずのおそ松はなぜかモヤモヤ。雨が降り、葉桜になりはじめている桜の木のそばで、幼なじみのトト子に思いを打ち明けます。

翌日、仕事へ出かけようとする兄弟たちに集合をかけるおそ松。彼の「お前らにちょっと言っときたいことがあるんだよ」という意味深なセリフのあと、25話への「つづく」という文字が表示されました。

 

バラバラにほどけ、“6つ子”ではなくなっていく6人

このように、終始シリアスな雰囲気をまとっていた2期24話『桜』。1期から見ているファンの中には、ギャグアニメであるはずの『おそ松さん』の突然の展開に、懐かしい不安を覚える人も多かったのではないでしょうか。同じく1期の24話『手紙』も、三男・チョロ松の就職をきっかけに6つ子が仲違いし、それぞれの道を歩みはじめるというシリアスなストーリーで視聴者を驚かせたからです。

1期24話『手紙』がケンカからの自立というややネガティブなストーリーであったのに対し、2期24話『桜』は6つ子が前向きに自立を目指すという、比較的ポジティブなお話です。
にもかかわらず、主人公・おそ松がトト子に「さびしい気持ちもあるんだよね。なんかみんなバラバラになっちゃってさ。いろんなことが前みたいにいかないっていうか」と語ったように、彼らの成長は視聴者にもさびしさと不安を感じさせます。

それは、彼らがこれまでどおり同じ屋根の下で暮らしていながら、“6つ子”ではなくなってゆく様子が描かれているからでしょう。

たとえば、一松がバイトするチビ太のおでん屋へやって来た次男・カラ松は、仲間の一人から「“松野”っていちいち発言がイタイんだよな」とからかわれます。
同様に、職場の仲間たちと飲み会へ出かけるトド松は、先輩から「おい“松野”! 早くしろ」と声をかけられます。
おそ松は、1期2話『就職しよう』で6人交代でバイトしていた中華料理屋にて、一人で働きはじめます。裏口からゴミを出し、桜の花びらを見つけたおそ松を、「松野〜!」と店の中から呼ぶ声が聞こえます。
このように、2期24話は、6人が6つ子の中の“○○松”という個性を離れ、社会の中で生きる“松野”という人間になっていく様子が描かれているのです。

また、6人が同じ行動を取らないことを強調するかのような描写も印象的です。
『おそ松さん』で食事といえば、6人そろってちゃぶ台を囲んで食べるもの。しかし、おそ松は台所のテーブルで夕食を食べ、松代から夕食がいるか尋ねられた五男・十四松は「いらない。(職場の)みんなと食べてきた」と断ります。「風呂行く?」という誘いを十四松に断られたおそ松は、かつて6人で一緒に向かっていた銭湯を一人で訪れます。
自立し始めてからの6人は、おそろいの服もほとんど着ていません。ジャージを着たまま疲れ果てて眠る十四松と、パーカーのままソファで眠る四男・一松。就寝のシーンであるにもかかわらず、“6人が同じ”ことを連想させるブルーのパジャマを着ている様子が描かれないことも、深読みしてしまいたくなるポイントです。

6つ子の区別がつかないことのおもしろさを描いた原作『おそ松くん』から、一人ひとりに個性が芽生えた彼らの姿にフィーチャーしてきたアニメ『おそ松さん』。2期24話『桜』は、そこからさらに、“6つ子”というアイデンティティを失ってゆく6人の様子が描かれているのです。

 

2期の隠れテーマ“ちゃんとする”ってなんだ?

松造が倒れたあと、6人が土手で会話をするシーンで、おそ松はこう言いました。

「どうしよっかなぁ、これから。いよいよ“ちゃんと”しなきゃいけないのかなぁ」

そして、雨上がりのベンチでトト子に自分の思いを打ち明けるシーンでも、こう語っています。

「俺、“ちゃんとした”のかなぁ。つか、“ちゃんとする”ってなんだよ。知らねえよそんなの」

おそ松が繰り返す“ちゃんとした”という言葉。そこで思い出すのが、2期1話『ふっかつ おそ松さん』です。落ちぶれた未来の自分たちの姿を見た少年時代のおそ松“くん”たちは、「今から“ちゃんと”努力すれば、きっとみんなに愛してもらえる立派なアニメになれる」と努力し、見事“ちゃんとした”アニメのキャラクターへと成長。お互いの変化した姿を見て、「ちゃんとしてる〜!」と讃え合います。
ここで登場した6つ子の合体ロボットは、第20話『こぼれ話集2』の『出動! チャントシター!!』でも再登場しました。

このように、“ちゃんとする”ということが隠れテーマのように根底に流れている『おそ松さん』2期。実は、『アニメージュ』3月号では、脚本家・松原秀さんがこんなことを言っています。

「第1期があんな風に話題になって嬉しいんですけど、同時にギョッとしてちょっと怖くなったとも思うんです。だから、より真面目になったっていうか「第2期、ちゃんとしなきゃな」みたいな雰囲気で(笑)。「浮かれないで行こうぜ! まず原作は『おそ松くん』、原作者は赤塚不二夫先生」「そう、そう。そこだよね、まずは」とか確認作業から改めて(笑)」

また、『月刊ニュータイプ』4月号では、藤田陽一監督がこんなコメントをしています。

「第1期の盛り上がりを受け、幸運にも第2期までやらせていただいた責務として、今考えうる限りで、赤塚不二夫作品っぽいことを、ちゃんと残したいと思っていたんです」

これらを踏まえると、製作陣が繰り返す“ちゃんとする”という言葉は、「赤塚不二夫先生が描いた『おそ松くん』に立ち返る」ということであるようにも見えてきます

2期24話『桜』で描かれたのは、社会の一員として“ちゃんと”しはじめた6人の姿でした。努力して稼いだお給料を手に喜ぶおそ松の前に現れたのは、探検隊の格好をしたイヤミ。彼はおそ松を、10億円相当の金銀財宝を探す宝探しに誘います。バイトがあるからとイヤミの誘いを断ったおそ松は、宝探しに出かけようと盛り上がるイヤミ、デカパン、ダヨーン、ハタ坊の姿をしんみりと見つめます。

社会人として“ちゃんとする”なら、地道に働き、お金を稼ぐ。しかし、ギャグアニメとして“ちゃんとする”なら、ありもしないような金銀財宝を探しにいくほうが正しいのかもしれない。
イヤミ、デカパン、ダヨーン、ハタ坊を見つめながらおそ松の気持ちが揺らいだのは、4人が赤塚不二夫作品として、ギャグアニメとしての“ちゃんとした”キャラクターたちだったからなのでしょう。

トト子に「大丈夫? まだちゃんと“おそ松”でいれてる?」と尋ねたおそ松。それは、この展開が『おそ松くん』『おそ松さん』という両方の作品にとって正しいことなのか、「まだちゃんと“おそ松(くん/さん)”でいれてる」のかを自問しているようにも聞こえます。

 

1期24話『手紙』と似ているようで少し違う

1期では、ファンたちを不安に陥れたシリアスな24話『手紙』のあと、25話『おそまつさんでした』が一週間の不安を吹き飛ばすほどの超展開を見せました。
24話『手紙』でチョロ松が出そうとしていた兄弟への手紙は、25話が始まってすぐになぜか発火。代わっておそ松に届いた手紙は「センバツ」出場への報せ。24話でバラバラになった兄弟たちをおそ松が呼び集め、みんなで力を合わせてセンバツに挑む! というはちゃめちゃな最終回となりました。

そのため、2期24話『桜』についても、不安な思いを抱えながらも「最終話はそれを吹き飛ばしてくれるに違いない」と予想している視聴者は多いところでしょう。

しかし、少し気になるのが、今回の『桜』が1期24話『手紙』と正反対に展開しているようにも見えることです。

 

たとえば1期24話『手紙』において、おそ松は終始黙り込んでいました。チョロ松の就職によって機嫌を損ねているようにも見えましたが、その心情は一切語られず、何を考えているのかがまったくわからなかったのです。それが、今回の『桜』では反対に、気持ちを赤裸々に語っています。
1期24話『手紙』で「変わりたいんだ」と主張し、イタさを捨て男らしさを披露していたカラ松は、今回はイタいキャラクターを保ったまま自立。前回は仕事を見つけることもなく放浪していた一松はチビ太の店でしっかり接客をし、1期では不安そうにしたり、怪我をしたりしてしまった十四松も、今回はまともに働いている様子。一人暮らしをして泣きそうだったトド松も、先輩たちに囲まれてうまく立ち回っています。前回就職をしたチョロ松は、今回仕事をしている様子が描かれていないのも気にかかるところです。
また、1期24話『手紙』でおそ松に「デートしない?」と声をかけたにもかかわらず無視されてしまったトト子が、『桜』では彼の話をじっくりと聞き、的確なコメントを返しているのも前回とは正反対なポイントです。

このように、1期24話と同じようなシリアスな展開を見せながらも、少し様子の違う2期24話。果たして、最終回はどんな方向に転んでいくのでしょうか?

 

考察を受け入れてくれる『おそ松さん』。でも、答えは25話の放送にある!

1期24話『手紙』の放送後、一週間にわたりファンの間でさまざまな考察が飛び交いましたが、25話『おそ松さん』は、全く別の展開でありながら、それらを一切否定しないものでした。24話が確かに存在したこと、ファンによるいろいろな考察の余地があることを肯定したうえで、「でも、そんなことよりセンバツだ!」という結論に飛躍。視聴者の不安や期待をありのままに受け止め、それらを吹き飛ばしてくれる最終回だったのです。

いろいろな展開が予想される25話ですが、視聴者がたくさん悩み、考え、闘った時間は今回も決して無駄にはならないはず。
『月刊ニュータイプ』4月号では、藤田監督がこう話しています。

「最後までいろいろな球を投げたいなと思っているので、入れられるだけ入れました。本当に最後まで、皆さんが見たいものも見たくないものも、ちゃんと詰まっています」

果たして25話には、私たちの“見たいもの”が待っているのでしょうか? 『おそ松さん』が考える“ちゃんとした”25話まで、あと少し。このモヤモヤとした時間も『おそ松さん』の醍醐味のひとつ。私たちにできるのは、待つことだけです。

 

(執筆:飯塚ゆとり/編集:小日向ハル)

■DATA

おそ松さん
キャスト 櫻井孝宏、中村悠一、神谷浩史、福山潤、小野大輔、入野自由、遠藤綾 他
配信情報 テレビ東京系列 他
原作 『おそ松くん』著:赤塚不二夫
備考 監督/藤田 陽一、キャラクターデザイン/浅野直之
Copyright ©赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会
TVアニメ公式サイト http://osomatsusan.com/

numan編集部

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