50年にわたって愛される国民的作品
『ドラえもん』は、泣ける話、爆笑できる話もありますが、原作者藤子・F・不二雄先生の悪意や凄すぎる想像力によって作られた
超怖い「トラウマ回」も有名です。
今回は、ぜひ読んでほしい“トラウマ道具”を4つをご紹介します。
『ドラえもん ひみつ道具百科 タケコプターのまき』(小学館)
via 『ドラえもん ひみつ道具百科 タケコプターのまき』(小学館)
『ドラえもん』の「トラウマ回」のなかでも特に有名なのが、
「バイバイン」のエピソードです。
のび太が一つしかない栗まんじゅうをどう食べるか悩む、というくだらないスタートですが、ドラえもんがひみつ道具で、一滴たらすだけでその物体が5分ごとに2つに分裂して増えていくという「バイバイン」を出してからとんでもない事態が巻き起こります。
ドラえもんは、増やした栗まんじゅうを残さず食べるよう言いつけ、出かけてしまいます。しかし、のび太は「バイバイン」で2つに増えた栗まんじゅうはさらに5分後に4つ、もう5分後には8つと「ネズミ算」式に増えていくことに気づき、大喜びで栗まんじゅうを食べまくります。
『ドラえもん』17巻(小学館)
via 『ドラえもん』17巻(小学館)
そして、のび太はそのうちお腹いっぱいに。しかし、お構いなしに
栗まんじゅうは倍、さらに倍と無限に増え続け、怖くなった彼は増えた栗まんじゅうをゴミ箱に入れてしまいます。
しかし、増殖する栗まんじゅうはあふれかえり、庭を埋め尽くしてしまうのです。事態に気づき、「えらいことをしてくれた!!」と驚愕のドラえもんは、このままでは地球が栗まんじゅうで埋め尽くされると、増え続ける栗まんじゅうを大風呂敷に包み、ロケットに括りつけて宇宙に飛ばしてしまいます。
ここで話は終わりますが、これは解決になっているのかと子供ながらにモヤモヤした回でした。「バイバイン」を最初の栗まんじゅうにかけてから、約一日で栗まんじゅうが全宇宙を埋め尽くしてしまう、もしくはブラックホール化するなど恐ろしい考察も出回るなど、みんなのトラウマになっている回です。
「どくさいスイッチ」15巻収録
続いては『ドラえもん』屈指のブラック回の紹介です。いつものように草野球でへまをこいてジャイアンにどやされたのび太。野球の練習をすればいいというドラえもんにも耳を貸さず、とうとう「ジャイアンさえいなければ」ととんでもない発言をしてしまいます。
『ドラえもん』15巻(小学館)
via 『ドラえもん』15巻(小学館)
するとドラえもんはその発言を咎めず、
「どくさいスイッチ」というひみつ道具を取り出します。なんとターゲットの名前を言ってそのスイッチを押すと、その人間が消えてしまうというのです。
いつも通り深く考えないのび太は、それを使ってジャイアンの存在を抹消。さらにいろいろ気に食わないことを理由に、周りの人間をどんどん消して、最終的には世界で独りだけになってしまうのでした。
絶望して泣き叫ぶのび太。するとドラえもんが現れ、「どくさいスイッチ」は本当に人を消す道具ではなく、自己中心的な考えで周りの人間を排除するとどんなに恐ろしくて孤独かを相手に知らしめるためのものだと説明します。そして、のび太にとって世界は元通りになり、彼は反省して野球の練習をするのでした。
『ドラえもん ひみつ道具百科 もしもボックスのまき』(小学館)
via 『ドラえもん ひみつ道具百科 もしもボックスのまき』(小学館)
気に食わない人間を消しても今度は別の人間がその存在になり替わる、横暴に歯止めが利かなくなる、というのは世界中の独裁的立場の人を見る限りでもかなりリアルです。教訓話としてはとても優れていますが、のび太一人だけの世界になった時の絶望感は思い出してもゾッとします。
「石ころぼうし」4巻収録
「石ころぼうし」もかなり有名な道具で、覚えている人も多いのではないでしょうか。単に相手から見えなくなる、というより「道端の石ころのように」
あいてから認知されなくなるという道具で、劇場版では敵地に潜入する際などに非常に便利な道具として使われています。
しかし、この秘密道具の初登場エピソードは、とても恐ろしいものでした。
家族からもろもろのことでガミガミ言われるのが嫌になったのび太は、ドラえもんに「自由になれる道具」を出すよう求めます。それが誰からも認知されず、被った後は「その人物は最初からそこにいなかった」ということになってしまう「石ころぼうし」だったのです。
『ドラえもん』4巻(小学館)
via 『ドラえもん』4巻(小学館)
おまけにドラえもんがいちばん小さいサイズしか出さなかったため、のび太は帽子が脱げなくなり、道具を出したドラえもんからも忘れられ、誰からも全く認知されず、地獄のように孤独な状況に置かれる羽目に。最終的に帽子が水でふやけて脱げたおかげで解決しましたが、あのまま誰からも忘れ去られる人生だったらと思うと恐ろしすぎます。
自分を認識して怒ってくれる人がいるうちが華、という教訓なのでしょうか。石ころぼうしをかぶらなくても、誰からも相手にされない状況というのはありうるので、大人になっても思い出して怖くなってしまいます。
「かげがりばさみ」1巻収録
先ほどからのび太が孤独になるエピソードが続いていますが、
こちらはもっと怖い話です。
パパから面倒な雑用を頼まれたのび太は、ドラえもんに「自分以外に動いてくれる存在」が欲しいとドラえもんに懇願。するとドラえもんは「かげきりばさみ」という道具を出します。
『ドラえもん』1巻(小学館)
via 『ドラえもん』1巻(小学館)
これは自分の影を切り取って使役することができるのですが、30分以内に再度くっつけないと影が自我を持って自分の立場を乗っ取ってしまうという危険すぎる道具でした。案の定のび太は自分の影に入れ替わられるピンチに追い込まれ、最後はママの影に手伝ってもらって何とか助かるというオチに。
のび太の影は実に嫌な表情をしており、「モウスグ入レカワレルゾ」と言いに来るコマの邪悪な笑顔は忘れられません。
以上、『ドラえもん』のトラウマ回を解説してきました。22世紀ではこんな悪事や嫌がらせにしか使えない、もしくは宇宙規模の大事故になりかねない道具が普通に発売されているのかと思うと、それも恐ろしいです。
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