numan編集部
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そもそも声優とはどんな職業なのか、声優としてやるべきことはなんなのか。声優という仕事の仕組みも含め、森川さん自身がデビューした当初から現在にいたるまでのこと、出演したさまざまな作品のことなど振り返りながら、5章にわたって声優論・演技論を展開しています。
また同時に森川さんは、自身が起ち上げた声優事務所の社長・養成所の講師でもあり、後進を指導・育成する側にある立場でもあります。そんな森川さんが、本書の中で声優を目指す人たちへ投げかけた言葉がありました。
それは「アニメばかり観ていたりゲームばかりしていてはダメだ」というもの。そこには、一体どんな意図が込められているのでしょうか。本書の内容から、その想いを探ります。
INDEX
好きを仕事にしたい気持ちはわかるけれど、それだけでは声優にはなれない、と森川さんは語ります。昔に比べて圧倒的に"なり手"が増え、養成所などの制度も整った今、声優の仕事をする上での基本的な知識ならほとんどの人が身につけることができます。
そんな時代の声優に求められるもの、それは"演技に対する思い入れ"が大前提だと森川さんは断言。声優としてモノになるかどうかは、最終的には演技ができるかどうかでしかない――そこには森川さんの"声優という職業"に対する確固たる思いがあったのです。
演技のレッスンでは、「いらっしゃい、いらっしゃい」というたった一言の台詞で、その生徒がどれだけ台本を読み込んできたのかがわかるとも。その台詞ひとつで、街の雰囲気や人混みの様子、建物の配置などといったシーンの空間設定がまるきり変わってしまうというのです。
声で演じるとはそういうことなのかと、思わず唸ってしまうくだりでした。
聞いていても違いがわからないほど、繊細に自分の声をコントロールする職人技。演じることへの情熱と向上心。
森川さんの考える"声優に必要なもの"であり、そこに真摯に向き合うならば、アニメやゲームを楽しむ時間はアニメの表現技術を磨くための時間になっていく――それが、森川さんの言葉の真意ではないでしょうか。
「僕がもっとも多く男性声優の”初めて”を奪った声優になるそうです(笑)」と、"BL界の帝王"という異名の由来についても、茶目っ気たっぷりに語っています。
現在では、若手男性声優がブレイクをつかむための登竜門的作品にもなっているBLCD。 それについて森川さんは「役者として感情を開放できなければ土俵にも上がれない」「色気を感じさせる秘訣は、色気を出そうとしないこと」と、後輩へアドバイスしています。
せっかく先輩声優とガッツリ組んで何ページも渡り合えるチャンス――それを存分に活かしてほしいという、森川さんの思いが伝わってきました。 アニメでも吹き替えでもBLCDでも、どんなときも台本を読み込み、自分の頭で考え、演じることを大切にする。そんな森川さんの姿勢はつねに変わることはないようです。
それこそが、経歴30年のベテラン声優・森川智之が"帝王"として愛され続ける理由なのかもしれません。
どれだけキャリアを積んでも年齢を重ねても、常に新しく、挑戦し続けていく演技への向上心。自身の声をコントロールし、役に埋没し、声の差異で聴く者の心を揺さぶる技術。それらを併せ持ち、若手を脅威に感じないと言い切るのが"声優・森川智之"なのです。
帝王はいったいどこまで登りつめるのか――それをこの目で見届けたいと思わせる一冊でした。
著者:森川智之/新書::224ページ/出版社:岩波書店
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2024.11.1