すなくじら
下町育ちのエンタメライター。アニメ&映画ジャンルを中心に執筆活動中。ダークファンタジーやゴシックなテイストの世界観の作品が好きです。乙女ゲームの新作情報が生き甲斐。
少し微笑みながら「闇落ちするキャラクターをよく振られるんですよ」と話すのは、声優の内山昂輝さん。劇場アニメ『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下、デデデデ)』では、東京の上空に突如現れた巨大な宇宙船(通称"母艦")の襲来による恋人の死をきっかけに、大きな変貌を遂げる高校生・小比類巻健一を演じます。
本作のオーディションで内山さんは、小比類巻と渡良瀬を受けたそう。
結果「自分の特性を活かせそう」と挑んだ小比類巻役に選ばれたことに対して、「そうだろうな……」と納得したとのこと。というのも、これまで内山さんは悪役や闇落ちキャラを演じることが多くあり、時にはオーディションを受けずに指名で役を掴んだ経験があるから。
そして、今作で演じた小比類巻について、過去に演じてきたキャラクターとの“悪性”の違いをこう語ります。
「ファンタジー世界の悪役ではなく、彼は現代社会の普通の学生なんです。闇落ちしてしまったことで、『侵略者狩りこそが正義』だと信じ込んでしまった」
非日常が日常になるという異様な状況によって変化した、小比類巻の繊細な心の機微を表現するために「ギャップを意識した」と明かすと共に、「自分の高校生時代を辿ると小比類巻に共感する場面もあった」と振り返ります。
“自分にとっての正義が、必ずしも他者にとっての正義とは限らない”、そんな普遍的なテーマを描いた本作の魅力を、劇場アニメ『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』(2024年5月24日)公開に向けて語っていただきました。
また、内山さんが「(声優の)商売あがったり」と称賛するほどの幾田りら(小山門出役)さん&あの(中川凰蘭役)さんのお芝居、作品で描かれる門出と凰蘭たちの友情、小比類巻とキホの恋愛にちなみ、学業と仕事を両立していた内山さんの高校時代の青春エピソードも伺います。
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INDEX
――内山さんは『デデデデ』に関わる以前から、浅野先生の作品に触れたことはありましたか?
内山:
『ソラニン』や『おやすみプンプン』は読んでいましたし、短編集も読んだことがあります。浅野さんの作品は、若者のなんとも言えない複雑な感情、日常に潜む憂鬱やモヤモヤとした心情を巧みに描写しているのが印象的でした。描かれるテーマも濃密で読み応えがあります。
ただ、今回の『デデデデ』に関しては、僕が勝手に抱いていたイメージとは少し違って、スケールの大きいSF的な世界観の中で物語が展開していくので、その辺りはもしかしたら新しい挑戦なのかもしれないなと感じました。
――侵略者の存在や門出と凰蘭の友情など、さまざまな要素が詰まっている『デデデデ』ですが、内山さんが特に魅力的に感じた部分を教えていただけますか。
内山:
日常の中に異質な「母艦」という非日常的存在が混在している、不思議な世界観だと思いました。日常と世界の終わりを同時に意識させられる感じが独特ですよね。世界の終末のすぐ横で、終わりそうだけど終わらない、だらだら続く日常が丁寧に描かれているというか……その上で、自分たちの普段の生活では全然想像もつかないような出来事が次々と起こっていくところが魅力的でした。
また、(小山)門出がよくできた優しい子で、おんたん(中川凰蘭)がちょっと変わった子かと思いきや……というドラマ展開ですよね。2人の絆が世界の命運を握ることになっているのですが、“セカイ系”的でもあると感じました。
そこに平行世界や世界改変のような設定が絡んでくるので、「どれだけ物語が練られているんだろう」と思いました。さまざまな設定が組み込まれているから複雑で難解になる可能性もあります。だけど『デデデデ』は、それらの設定がストーリーとうまく絡みあって展開していくからわかりやすいのも魅力です。
――そんな『デデデデ』は浅野先生初のアニメ化作品です。アニメ化決定を知った時はどんな感想を抱きましたか。
内山:
原作の持つ複雑さや奥行きを、アニメーションで再現するのは大変そうだなと感じました。また、母艦の描写とか、たくさんの侵略者が降ってくるとか……ディテールが細かい上に大掛かりな場面が多いので、チャレンジングな企画ですよね。
『デデデデ』はキャラクターも多い上に、それぞれのキャラクターにドラマがぎゅっと凝縮されている。どのキャラクターの視点で見るかによって、浮かび上がるテーマも異なる作品だと思います。そういう意味でも、映画2本にまとめるのは本当に大変だっただろうなと。
――実際、3月に公開された前章をご覧になってみていかがでしたか?
内山:
原作の絵がそのまま動いている印象で、見事なアニメ化だと思いました。日常の描写もすごく丁寧だし、侵略者との争いなど大掛かりなアクションシーンの描写も素晴らしい。
あとは画面の色使い、明暗のコントラストが劇場で映えそうだなと。映像的に作り込まれていて、見応えがあって面白かったですし、こういう野心的な作品に携われることは「ありがたい」という気持ちです。
――『デデデデ』のキャスティングはオーディションとのこと。内山さんは小比類巻だけ受けていたのでしょうか?
内山:
オーディションでは小比類巻と渡良瀬を受けました。そんな中、小比類巻という役柄には自分の特性を活かせそうだったので、より可能性を感じてオーディションに臨みました。
結果的に小比類巻役に選んでいただきましたが、「そうだろうな……」という感じでした。闇落ちするところも含めてよく振られるタイプのキャラクターなので(笑)。
――たしかに、内山さんは悪役や闇落ちキャラなどを得意とするイメージがあります。
内山:
なぜか、悪役ほどオーディションもなく呼んでいただくことがありますね(笑)。
――オーディションもなく呼ばれることもあるとは! そんな中、『デデデデ』で演じた小比類巻と過去に演じてきたほかの悪役キャラとで違いを感じた部分はありましたか?
内山:
今回はファンタジー世界の悪役ではなく、現代社会の普通の学生なんですよね。よくいるタイプの男の子という印象です。
そんな彼が現実世界で起きたことに影響を受けたり、ミュージシャンの言動やネットの言論に踊らされたりして危ない方向に進んでいく。自分の判断基準や感性がまだ育ちきっていない、若さ特有の青さがある年相応の子というあたりがこれまで演じてきたキャラクターとの違いだと思います。
――公式サイトのキャラ紹介でも「サブカル好きでSNSの情報に溺れがち」と書かれている通り、情報に染まりやすい一面があります。
内山:
最初の頃の小比類巻は、素直すぎるところが良くも悪くもあったのかなと。ただ、キホさんが亡くなって、高校を卒業した後は一変して闇堕ちしていく。そこからよからぬ方向へ進んでいってしまうわけですが、彼としては「侵略者狩りこそが正義」だと信じ込んでいる。
もし自分なりの主義主張がもともとしっかりとあったなら、あんなにも簡単に過激な思想に染まることもなかったんじゃないでしょうか。でも、そういう影響を受けやすい未熟さ自体が若者らしさだとも思えるので、必ずしも欠点とは言えないですけどね。
今の世界と完全に重なるわけではないにしろ、現実味がある作品なので、その“リアル感”は表現しなきゃいけないなと思いました。「現代の日本を舞台に変化をたどっていくキャラクター」というのは、小比類巻ならではのポイントだと思います。
――小比類巻を演じるにあたり、“リアル感”のほかに意識したことがあれば教えてください。
内山:
ギャップですね。原作を読んだ段階で、別人とまではいかずとも雰囲気は変えなきゃいけないなと思ったんです。序盤は自分のできる範囲でちょっと可愛らしい感じを表現して、闇落ちしてからはダークな方向にガツンと行こうと、アフレコ前から決めていました。
序盤の収録の段階で、スタッフの方からも「そういう風に差をつけてほしい」と言われていたので、前章と後章は雰囲気が変わるよう意識して表現しようと思っていました。
――ちなみに、収録の際に浅野先生とお話はされましたか?
内山:
直接はお話ししていないですね。(浅野先生が)アフレコの様子をご覧になっているところを、ちらりと拝見しました。
その時の勝手な印象になってしまいますが、(浅野いにお本人が)お描きになる漫画の雰囲気と近く感じられたんです。「想像と違った」というギャップがなく、浅野先生のような方が描くからこういう作品に仕上がるんだなという意味で「なるほど」と思いました。
――門出役の幾田(りら)さん、凰蘭役のあのさんのお芝居についてはどんな印象を持たれましたか。
内山:
「見事」としか言いようがないです。声優以外のジャンルで大活躍されている方にこうやって見事なお仕事をされたら、声の仕事を生業としている人間としては商売上がったりという感じです(笑)。キャラクターにぴったりハマっているのはもちろん、お二人とももともとの声の良さに加えて表現力が素晴らしいと思いました。
――内山さんを含め3人で録る場面もあったのでしょうか?
内山:
いえ、基本的にはずっと僕1人で収録していました。ある収録のテストで、幾田さんが直前に録ったセリフがスピーカーから流れてきたときに、「整音前の素の声でこんなに良い声なんだな」と感心しました。あまりの声質の良さに羨ましくなりました(笑)。
――あのさんの声については、いかがですか?
内山:
今のアニメにはまりやすい良い声だと思いましたし、それに加えて表現力も素晴らしい。おんたんはキャラクター性も独特ですし、物語が進むと号泣シーンや幼少期もあるので、演技の幅も広くこなさなければいけない。にもかかわらず、どのシーンも見事でした。セリフの量が多いだけでなく、独特なノリのセリフも多かったと思いますが、あのさんはまさにおんたんにピッタリだったと思います。
――すでに前編でさまざまなキャラクターが登場している『デデデデ』。その中で、内山さんのお気に入りのキャラクターを教えてください。
内山:
おんたんの兄・(中川)ひろしが面白かったです。ひろしがおんたんに言った言葉をきっかけにおんたんが決断し、それが門出に影響を与えるという流れなので、「ひろしが世界を変えたんだな」とも思いました。
――ちなみに、前章では小比類巻と付き合っている栗原キホとの掛け合いがメインだったかと思います。キホの印象についても知りたいです。
内山:
キホさんは本当にいい子ですよね。小比類巻は自分のことでいっぱいで、そっけない態度を取っているのに、常に小比類巻のことを気にかけてくれたり、小比類巻が影響を受けているアーティストの曲を聞いて感想を伝えてくれたり。
自分の経験を思い出しながら小比類巻に対しては「高校生ってそんなものかな」と思いつつ、キホさんが本当にいい子なので「おい、小比類巻!」という感じになります。
――前章でキホを失ったことも、小比類巻の心境の大きな変化に繋がっていそうですよね。
内山:
キホさんの死は小比類巻にとって大きな転機になったと思います。闇堕ちした後も、携帯の画面に彼女の写真が残っていたので、彼女の死が小比類巻の行動の原動力になったのだろうなと。
でもそれなら、彼女が生きていた時にもっと優しくしてあげてほしかったですけどね。彼よりもずいぶん大人になってしまった自分としては思ってしまいます(笑)。
――小比類巻に対して「高校生ってそんなものかな」とおっしゃっていましたが、高校生時代の頃のご自身を振り返って、小比類巻に共感できる部分はありましたか?
内山:
ありましたね。陰謀論とかに踊らされる道は辿らなかったですけど、好きなミュージシャンが雑誌のインタビューで歌詞に込めた意味を語っているのを読んで、それを熟読する……みたいなことはあったなと。自分の高校生時代を思い出しました。
――小比類巻にとってのミュージシャンのインタビューだけでなく、門出にとっての人生のバイブルには「イソベやん」があります。内山さんは高校生時代に、「人生のバイブル」と思っていた作品はありましたか?
内山:
難しいですね……。バイブル的なものは特になかったかもしれません。僕はあまり同じ作品を繰り返し読んだり見たりするタイプではないので。面白いと思ったらそれで満足しちゃうタイプです。
ただ、高校生の頃に友達から借りて「スラムダンク」を読破しましたね。この間の新作映画を見る前に、久々にもう一度全巻読み返しました。当時は友人からいろいろ新しい漫画や音楽を教えてもらう機会が多かった気がします。
――『デデデデ』でも門出と凰蘭をはじめ、友人同士の何気ない青春が描かれています。内山さんが本作を通じて青春を感じた場面はありますか?
内山:
印象に残ったのは、学校生活の大きなイベントというよりは、門出とおんたん、キホさんを含めた5人組(出元亜衣、平間凛)がだべっている姿が幸せそうに描かれているところで、そこに青春を感じました。
登下校の風景であったり、ファミレスとかに行ってご飯を食べたりするシーンは、多幸感があって。そういうなんでもない時間の尊さといいますか、「特別なイベントは起きないけれど、今日1日楽しかったね」みたいなところが青春っぽいなと思いました。
――内山さんご自身の学生時代を振り返って、作中の青春と重なる部分はありましたか。
内山:
(記憶が)ちょっと遠すぎて……15年くらい前の話なので(笑)。友達と「テスト期間が終わったからラーメン食いに行くか!」みたいなことはありました。それくらいですかね……。
――それも青春ですね! また、内山さんは高校生の頃、すでに演技のお仕事をされていたかと思います。お仕事と学生生活の両立は大変ではなかったのでしょうか?
内山:
その時期を振り返って、業界の大人の皆さんに感謝していることなんですけど……学校にちゃんと通えるように、アフレコの開始時間を標準より少し遅くしてもらっていた作品もあったんです。今になってみると、ありがたいことだったなと思います。
ただ当時は声優を自分の職業にしようとは全く考えていなかったんですよね。どこかの企業に就職して会社員になる可能性だって全然あったので。今こうしていることは不思議な感じがします。
――『デデデデ』には、日常と非日常が融合した世界観が描かれていて、それはコロナ禍の状況にも通じるものがあるかと思います。この数年間で、ご自身の仕事や日常に対する考え方に変化はありましたか?
内山:
仕事面だと、アフレコのやり方がコロナ直後は大きく変わりましたね。コロナ禍前はみんなで一斉に収録していましたけど、コロナ禍になってからは少人数でバラバラに録るようになって。最近は徐々にコロナ禍前の方式に戻しつつも、個別収録の良い部分も活かした形になってきています。
――複数人で一斉に録る方がやりやすいものなのでしょうか。
内山:
そこは一長一短だと思います。みんなで一斉に収録するからこそ生まれる勢いとか空気感というのはたしかにあります。
ただ、俳優さんもそうだと思うんですけど、“演じる仕事”というは、待つのも仕事なので。例えば以前だったら、ある話数の最後に一言しか喋らないキャラクターなのに、収録の頭から終わりまでずっと現場にいるのがわりと普通だったんですよ。
(コロナ禍以降の)今は、そういうキャラだったら「じゃあ最初に録っちゃおうか」とか、「アフレコの後半の時間帯に来て収録しようか」とか柔軟性が増した気がします。システマチックに全体が動くことでのメリットが増えた反面、昔の方が牧歌(ぼっか)的だったなとは思いますね。
――アフレコ以外、例えばオーディションの形式の変化もあったのでしょうか。
内山:
オーディションは基本的にあまり変わっていないですね。ただ自分自身に関していうと、コロナ禍で自宅での録音環境がだいぶ改善されました。何種類かマイクを買って比べてみることまでできましたし、今でもそれらを使っています。
そうやって自分の声をより高精度で聞ける環境になったことで、「自分の声ってこう聞こえるんだな」と改めて素材として捉えて考えられるようになった。さらにそこから、「じゃあこういう風に変化を加えてあげると、このキャラクターとこの作品にはまりやすいかな」「素材としてはこういう要素もほしいな」とかどんどん新たな表現のアイデアが浮かんでくるようになりました。
以前は自分なりの表現で録音してだいたい満足したらオーディションの素材などを提出していましたけど、今はそこに客観的な目線を加えて、いろいろ試すようになりました。
自分の声を客観的に捉えられるようになった気がするのも、コロナ禍前後の変化かもしれません。
(取材&執筆:すなくじら、編集:阿部裕華、撮影:小川遼)
後章:2024年5月24日(金)
全国ロードショー
■キャスト
幾田りら あの
島袋美由利 大木咲絵子 和氣あず未 白石涼子
入野自由 内山昂輝 坂 泰斗 諏訪部順一 / 竹中直人
■スタッフ
アニメーションディレクター:黒川智之 シリーズ構成・脚本:吉田玲子 世界設定:鈴木貴昭
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東伸高 色彩設計:竹澤聡 美術監督:西村美香
CGディレクター:稲見叡 撮影監督:師岡拓磨 編集:黒澤雅之
音響監督:高寺たけし 音楽:梅林太郎 アニメーション制作:Production +h.
原作:浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
アニメーション制作:Production +h.
製作:DeDeDeDe Committee
配給:ギャガ
主題歌:前章「絶絶絶絶対聖域(ぜぜぜぜったいせいいき)」 ano feat. 幾田りら|後章:「青春謳歌(せいしゅんおうか)」 幾田りら feat. ano
映画公式X:https://x.com/dedededeanime
公式HP: https://dededede.jp/
©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee
すなくじら
下町育ちのエンタメライター。アニメ&映画ジャンルを中心に執筆活動中。ダークファンタジーやゴシックなテイストの世界観の作品が好きです。乙女ゲームの新作情報が生き甲斐。
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