柴田捺美
サンリオを初めとしたKAWAII文化をこよなく愛するライター兼イラストレーター。その他占い、アニメ、BLなど得意と好きを生かして幅広く執筆を行う。
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。今月の深堀りテーマは“音楽”。
うれしい時、悲しい時、幸せな時。そして、ちょっぴりつらい時も。いつも私たちに寄り添ってくれる…「音楽を推す」特集を実施中です。
人は、少なからず「音楽」から影響を受けるもの。幼い頃から聴いていた懐かしい曲。そして、ずっと推していたアーティストの価値観や人間力に共感したり、憧れたり……。
人生における大切なことを教えてくれた音楽やアーティストも、また特別な意味を持つことでしょう。
2024年9月20日(金)公開の『映画 ギヴン 海へ』で佐藤真冬を演じる声優・矢野奨吾さんも、とあるアーティストとの出会いをきっかけに良い変化があったと語ります。
その人物とは、センチミリメンタル・温詞さん。2019年放送のTVアニメ『ギヴン』から、同作の主題歌および劇中歌の制作を担当しているアーティストです。
彼と出会った約6年前を振り返り、矢野さんは「歌への取り組み方が大きく変わった」「温詞くんは、“天才・真冬”そのもの」と語ります。
一体、矢野さんにどのような影響を与えたのでしょうか。『映画 ギヴン 海へ』で感じた真冬の成長と合わせて伺いました。
INDEX
ーー『ギヴン』で矢野さんが演じる佐藤真冬は、上ノ山立夏と出会い、音楽に触れ、ミュージシャンとしての人生を歩んでいきます。矢野さんにとって、人生で最も影響を与えたアーティストは?
矢野奨吾(以下、矢野):
センチミリメンタル・温詞くんですね。 『ギヴン』で(センチミリメンタル制作の)楽曲を歌わせていただいたことで、温詞くんから学んだことが本当に多いんです。
僕自身、温詞くんと知り合うまで「歌」に対してアーティスト視点で考えることがあまりなかったと思っていて。でも、温詞くんが“音楽をとことん突き詰める”大切さを教えてくれました。
曲のメロディはもちろんのこと、歌詞にある言葉の一つひとつを本当に大切にされていて、音楽と本気で向き合っている方で。
どうしたら歌に感情を乗せられるのか、歌詞に込めた意味を伝えるためにはどのように歌えばいいのかと悩む僕に、「こういう風に歌ったら、もっと伝わるよ」と、教えてくれたんです。
歌はもちろんのことお芝居でも、“表現する”すべてのお仕事において、彼が教えてくれたことが生きているなと感じることがあって。
ーー声優業においても、良い影響を与えてくれたのですね。
矢野:
そうですね。一つの事柄に対して真摯に向き合う大切さを、改めて学ばせてもらったなと思います。
あと、温詞くんは自分の感じたことを音楽で表現する力がとにかくすごくて 。0から1を生み出すだけでなく、その魅力を何倍、何百倍にも倍増させる才能を持っている方だと思います。
僕が演じる真冬も、その美しい歌声と音楽センスから「天才ボーカリスト」だと言われているので、温詞くんが真冬そのものだと感じるんですよね。
歌声も本当にすてきですし、彼が紡ぐメロディーや歌詞もすばらしいので。“天才”だなと思います。
ーー温詞さんと知り合ったのは、『ギヴン』がきっかけだったのでしょうか?
矢野:
はい。TVアニメのオーディションで初めてお会いしました。アニメの放送開始は2019年でしたが、制作準備が始まったのはその前なので、2018年頃ですかね。温詞くんはサウンドプロデューサーとして、ボーカルの審査に携わられていて。
真冬役が決まってからは、レコーディングを重ねるごとに仲良くさせてもらって、今では仕事の場以外でも交流がありますね。実は今日も仕事が終わったら、一緒にご飯を食べに行く予定なんです(笑)!
ーー尊敬するアーティストでもあり、よき友人でもあるのですね。そのほか、今“推している”アーティストはいますか?
矢野:
今は、そうですね……。コロナ渦に自宅で過ごす時間が増えた時、「Nizi Project」を見て衝撃を受けたんですよ。それまではあまり積極的にアイドルの方の曲を聴いたり、ライブを観たりしたことはなかったのですが、アイドルってものすごいなと。パフォーマンスを磨くために想像以上の努力を積み重ねていらっしゃって。番組を視聴して、すっかりNiziUさんのファンになりました。
そうしたら、アイドルに詳しい友人からいろいろなグループを勧められて(笑)。いつの間にか、日向坂46さんにハマっていました! 櫻坂46さんも含め、“坂道グループ”は最近ハマったアーティストさんで言うと、一番ですね。
“坂道”の楽曲といえば、温詞くんも楽曲提供されているんですよね。
ーー日向坂46の7thシングル曲「僕なんか」、櫻坂46の4thシングル曲「五月雨よ」ですよね。
矢野:
日向坂46さんの公式YouTubeからMVが上がって、初めてクレジットを見た時に「作曲・編曲:温詞」と書いてあって。すぐさま温詞くんに連絡しました。「その曲、温詞くんが作ったんか〜い!」って(笑)。
名前を見た時はすごく驚いたのと同時に、不思議な縁を感じたりもしましたね。『ギヴン』だけでなく、僕の応援しているアイドルの方々とのご縁もあったなんて(笑)。
ーー温詞さんとは、よく日向坂46さんについて話されるのですか?
矢野:
話しますね。温詞くんが制作した楽曲が初披露されたコンサートに個人的に観に行っていたのですが、クレジットが解禁になったあとに温詞くんから「実は前に開催されたあのコンサート、僕も観ていたんだよね」と言われて。偶然同じ会場にいたことがあとから発覚したこともありました(笑)。
なので、温詞くんとは『ギヴン』だけでなく“坂道”グループについても話していますね。
ーーそんな温詞(センチミリメンタル)さんが歌う、『映画 ギヴン 海へ』の主題歌「結言」について伺います。最初に聴いた際の印象はいかがでしたか?
矢野:
大切な人に向けて「僕がいなくなっても忘れないでね」と伝える歌詞は、僕自身が家族や友人、そして真冬など心から大切にしたい人たちにも伝えたい願いでもあったので、その人たちのことを頭に浮かべながら聴いていました。
(TVアニメのEDテーマである)「まるつけ」と同様に、今作の「結言」は書き下ろし楽曲ではないんですよね。確か、2015年頃に制作したと聞いて。
ーー公式HPにある温詞さんのコメントには、「9年前に大切な人に向けて制作し、大切に歌い続けてきた曲」とありました。
矢野:
9年前というと『ギヴン』がアニメ化されるよりずっと前なのですが、それにも関わらずストーリーや世界観とマッチしていることに驚きました。
そして、9年前の時点でこれだけ心の琴線に触れるような歌詞やメロディーを生み出せるなんて。改めて、彼の感性の豊かさを実感した曲でもあります。
実は、この曲を聞いてパッと頭に浮かんできたのは、家族よりも温詞くんが先だったんです。
「遺言」ではなく“結言”と、「結」の文字が使われているタイトルの通り、真冬との縁を結ぶことができたのは、まさに温詞くんという存在があってこそ。だから、一番最初に顔が浮かんだのかもしれません。
彼が本作に携わっていなかったら、もしかしたら真冬を演じることはなかったかもしれませんし、僕一人では真冬を表現しきれなかった部分もあったかもしれないなと。
ーー「一人では表現しきれなかった」とは?
矢野:
バンドとしてのギヴンの楽曲は(作中では)ボーカルの真冬が作詞を担当していますが、温詞くんが紡ぎ出した歌詞があったからこそ真冬のキャラクターについて理解が深まったことが多くあったんです。
「この感情を表すために、真冬はこの言葉を選んで歌詞にするんだな」と、真冬の気持ちを歌詞が補足してくれたといいますか……。
つまり、真冬を理解するうえで欠けていた部分を、温詞くんの歌詞が補ってくれたのかと。そういう意味で、温詞くんは僕と真冬を結んでくれたのだと思っています。
もちろんこれまでの『ギヴン』シリーズの楽曲もそうでしたが、「結言」は改めてそれを実感するような楽曲でしたね。
ーー本作は、真冬や(上ノ山)立夏を中心としたキャラクターたちが音楽を通して成長していく姿を描いています。今作『映画 ギヴン 海へ』で、真冬の成長を感じた点について教えてください。
矢野:
いい意味で、“欲”が出てきた部分ですね。「こういう感情を、歌で表現したい」「人の心を動かしたい」みたいな感情は、ミュージシャンに限らず、表現者としてすごく大切なものだと思うんですよ。今作において、真冬からそうした思いがどんどん溢れているのを見て、とても成長を感じました。
でも、それは決して特別な欲求ではなくて、特に高校生くらいの子なら誰しもが持っているものだと思うんです。
その点では「普通の高校生らしい一面があるんだな」とも感じたのですが、終盤のあるシーンでは、ミュージシャンとして今まで以上に強い意志を感じるところがあって。そのシーンは特に、真冬の成長を感じて驚きましたね。
ーー今作では特に、未来を見据えた真冬の成長の姿が描かれているシーンが多くありました。
矢野:
もともと真冬は、すごく繊細で臆病な子ですよね。しかも、元恋人の(吉田)由紀を失ってしまうというつらい出来事をきっかけに、未来に目を向けることはおろか、今自分が何をしたいのかが分からなくなっていて。
その状態から、立夏と出会って音楽で感情を表すことを学んだのですが、それでも由紀を失った経験から「大好きな立夏を、いつか失ってしまうかもしれない」という恐れが常にあって。
これって、真冬にとってはとんでもない恐怖だと思うんです。
そんな真冬が、立夏をはじめとして周囲のキャラクターたちに背中を押され、自分の未来をどう見据えて、どのような選択をするのか。
そんな真冬の気持ちを大切に演じさせていただいたので、ぜひ劇場で感じ取っていただけたらと思います。
(取材・執筆・編集=柴田捺美、撮影=井上ユリ)
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