双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
――今回の読者アンケートでは、「歌唱力がスゴイ!」「今井さんは唯一無二の歌声を持っている」といった、今井さんの歌唱力を絶賛する声が多く寄せられました。今井さんはもともと歌うことはお好きだったのでしょうか。
今井:
好きでしたが、“友達とカラオケで歌うのが好き”くらいのレベルです。歌の仕事もやりたいと思うようになったのは2020年以降、『プロセカ』に携わるようになってから。僕の武器の一つにしていきたいという思いが芽生えたんです。
――では、声優を志した頃は「歌を武器にしていこう」とは思っていたわけではなかった?
今井:
全然なかったですね。なんなら、芝居1本でいきたいと思っていました。歌ったり踊ったり、声優アーティスト的な仕事ももちろん魅力的だけど、僕はやっぱり芝居を突き詰めたいと。今思えば、当時は肩ひじを張っていましたね(苦笑)。
でも、事務所に入って3〜4ヶ月経った頃に、事務所の社長陣やスタッフ陣の飲みの場に急に呼ばれたんですよ。なにか怒られることをしたかなと……いくつか心当たりもあったので、ドキッとしつつも向かったんです。
実際、ちょっとお叱りを受けた部分もあったのですが(苦笑)、それと同時に「所属1年目の新人だから、お互いのことをまだよく知らない。君のことを知りたい」と。そこで「どういう仕事していきたいの?」と聞かれて、「僕は芝居をもっとやりたいですね。アニメとか吹替とかナレーションとか。現場で収録する仕事をやりたいです。歌とかダンスとか、そういうのは正直興味ないですね」と答えたんです。
そうしたら速水さんが「今井くん、それは今『興味ない』と言いながらもやってみた方がいいかもね」と。「20代に入りたての時期だから、もちろん自分が好きな仕事に向き合ったほうがいい。だけど同時に、もっと好きだなと思えるものに出会うチャンスを失わないためにも、いろんなことに手を出していった方がいい」と言われたんです。
初めて歌の仕事をもらった時、その言葉を思い出して。歌の仕事も自分の表現や芝居につながるものがあるかもしれないなと、前向きに受け取れるようになりました。
実際やってみたら、あれよあれよと「歌って楽しいな」という方向に向いていったんですよね。ありがたいことに今では歌唱シーンがある作品への出演も増えて、本当に現場が楽しいなと思える瞬間が増えました。
――現在の今井さんがあるのは、速水さんのおかげでもあるのですね。ちなみに、初めてステージで歌った時のことは覚えていますか?
今井:
初めての大きなライブは『プロセカ』2周年のステージイベント「プロジェクトセカイ 2nd Anniversary 感謝祭」ですね。僕は全然緊張しないタイプなので、この時もまったく緊張はしていませんでした。「シネマ」という楽曲を歌ったのですが、ペンライトでピンクに染まった会場の景色は今でも覚えています。
当時はコロナ渦で声出しが禁止されていたのですが、ファンの皆さんからはなんとなく「わぁ……」と心の声が漏れていて(笑)。僕たちも皆さんの前で歌えることが嬉しかったので、「そりゃ心の声も漏れちゃうよね」と思ったことを覚えています。
――歌に関しては、ほかにも「演じ分けがすごい」「パフォーマンスがキャラクターそのもの」といったコメントも多く寄せられました。キャラクターとして歌う際には、どんなことを意識しているのでしょうか。
今井:
あんまり考えたことないな…。芝居も歌も、頭で考えてするタイプではないんですよ。「こっちの方がハマるよね、こっちの方がなんかキャラっぽいよね」とフィーリングで演じていますし、歌っています。
歌に関しては、特に『プロセカ』のディレクションはその傾向が強いですね。「もうちょっとここは彰人くんっぽくやってみて」「なるほど、分かりました」と(笑)。逆にこちらから提示して、「それ彰人くんっぽいね、いいね」と言ってもらうようなやり取りもありますし。そういう感じで決まることが多いので、僕としてはすごくやりやすいです。『神クズ☆アイドル』の時もそうでしたね。もちろん自分なりにキャラクターを研究しますが、最終的には感覚的なところに頼っていた部分が大きかったと思います。
キャラクターごとの演じ分けや歌い分けに関しては、僕からすると「細かすぎて違いに気づいてもらえないかな」と思うようなところにも、ファンの方は気づいてくれるので、本当にすごいなと。自分なりに入れている“味”の部分に気づいてもらえると、すごくやりがいを感じますね。
――ここまでのお話から、今井さんが“自分らしさ”を大切にしていることが伝わってきました。その考えはこの世界に入った当時から持っていたのでしょうか。
今井:
もともと、良くも悪くも忖度しない性格なので、見る人から見たら「尖ってるね」と言われるだろうし、かなり好みが分かれるタイプという自覚があるんですよ。所属1年目から(笑)。そのことで事務所の人とぶつかったこともありましたし。
もちろん、自分に非がある部分は受け止めていかないといけないのですが、それはそれとして、自分が思う自分らしさを譲ってしまったら、周りの人と同じ道を辿ってしまうんじゃないかと。
周りと合わせることって、学生のような集団の中で生きていくためにはすごく大事なことだと思うんです。でも、こうやって突出しなきゃいけない世界に入ったのであれば、周りと合わせるのって、何も考えていないのと同じだなと、専門学校時代からずっと思っていて。
であれば、使い回された言い回しですけど、“ナンバーワンよりオンリーワン”を目指したい。ナンバーワンは僕が決めるのではなく、僕の芝居や歌を目にした人やお客さんが決めるもの。であれば、僕が目指すべきは“唯一無二であること”なんです。
だから、今回のランキングでもそうですよね。こうして1位を取れたことは、「今井さんを1番に応援しています」と思ってくれている方がたくさんいたからであって、それはすごく嬉しい。嬉しいのですが、そこにおごらず、妥協せず、“自分らしい”軸に関してはブレずにいきたいなと思うんです。
――今井さんにとって絶対に譲れないこだわりや軸が、明確にあるのですね。
今井:
人それぞれ譲れないものはあると思うのですが、僕の場合はすごく多くて。「ここだけは“自分らしさ”を出したい」というこだわりがたくさんあるんです。だから、普通の声優さんだったら言わないようなことを、僕は言っちゃうんですよね(笑)。中には「なんでそんなこと言っちゃうかな」と思う人もきっといると思うんですよ。
もちろんそう思ってもらうのは構わないのですが、僕の考えを知ってもらえたら嬉しいなと思っていて。だから今この瞬間もですし、どんなインタビューでも自分らしく正直に話すようにしています。
あまり素直に受け入れてもらえると、「こんな自分で大丈夫?」という気もしてしまうんですが(笑)、正直すぎる部分も含めて応援してくださるファンの方々には、すごくありがたく思っています。
――素直な表現だからこそ、ファンの方は受け入れているのかもしれませんね。でも、「ナンバーワンよりオンリーワン」を体現できているのは、今井さんの行動力があってこそだと思います。
今井:
たしかに、行動力はありますね。去年も急きょ連休ができたから大阪に弾丸旅行に行こうと手ぶらで行って、ホテルも現地で「今日空いてますか?」と突撃して確保したくらいで(笑)。
あとは、自分の機嫌を取るのも得意なんだと思います。遊ぶ時はちゃんと遊んで、仕事のことに関してはあまり真剣に考えすぎないようにしている。こう言うと、軽く捉えているように聞こえちゃうかもしれないのですが、僕にとって仕事も遊びも、“楽しむ”ことが何よりも大切だと思っているんです。
事務所の後輩の子たちと話していていると、何事も重く捉えすぎているなと思うことがあって。たしかに理解も共感もできるのですが、そんなに重く考えてしまうと疲れちゃうなと。もっと肩の力を抜いて仕事ができたら、悩む時間よりも楽しい時間にできるじゃないですか。
――では、デビュー当時から仕事のことで大きく凹んだり悩んだりといったことは…?
今井:
仕事に関しては、あまりないですね。「そのうちなんとかなるだろう、仕事も来るだろう」と(笑)。マネージャーに泣き言を言うようなこともなかったですし。
それよりも「僕はこういう仕事をやりたいです」と、ちゃんと意思表示をするようにしていましたし、そこは今も変わらないですね。
――今回は、良い1年のスタートダッシュを切るために「2025年の目標」をテーマに書き初めをしていただきます。
今井:
習字道具を使って書くなんて、小学生の頃ぶりです! なんて書くかは、もう決まっていますよ。
――では、完成したものを披露いただくとともに、目標について説明をお願いします。
今井:
「爆発」の“爆”という文字にしました!
最初は燃え盛るように熱い1年にしたいという思いを込めて、「燃」にしようと思ったんですよ。だけど、昨今、燃えるって絶対ダメじゃないですか(笑)。じゃあ、「炎」もいいなと思ったけど、これも炎上を連想してしまってよくない。なので、「爆」にしました。何事も派手にバーン!という感じが好きなので、2025年が派手な1年になればいいなと。
具体的にどう派手にするのかと言われると難しいのですが(苦笑)。これから情報解禁となることも水面下で動いているので、その発表が楽しみですし、昨年以上に楽しいことをしたいという思いも込めて、爆発の“爆”です。
――ということは2025年、新たに挑戦したいジャンルや磨いていきたい部分があるのでしょうか。
今井:
挑戦したいものばかりで、正直何か一つに絞れないですね(笑)。磨いていきたい部分に関しては、自分としては、何一つ“完成”という言葉にはほど遠いんです。
表現力というとちょっと軽々しい感じもしますが、そういうものに関しては貪欲だという自覚はあります。言語化するのが難しいんですが、「ここはもっとこうしたい」とか「現場でここはこだわっていきたい」とか、そういうものがいっぱいあるんです。それは今の段階で出来上がっていたらつまらないと思いますし、その過程も楽しみたい。きれいにまとまっていなくてもいいし、その場で出たものを、僕は良いと感じるタイプなんです。
その至らない部分さえも、一つの味として大事にできたらなと思います。「2024年の今井文也はこういうところに粗さや抜けている部分がある。これはこれで、まとまりきっていなくて面白いな」と。
今この瞬間の僕にしか、出せないものもあると思うので。なんなら2〜3日前にアフレコしたものを聞き直した時でも、「なんでこう演じたんだろう?」と思うことがあるくらいで(笑)。
いい意味でまとまっていない、という部分はこれからも大事にしていきたいですね。きっとこの仕事をしている限り、それがずっと続くんじゃないのかなと思いますし、何事もそういう楽しみ方をした方が長続きするんじゃないのかなと思います。
――では、長期的な目標もあまり設けないようにしているのでしょうか?
今井:
そうですね。気分屋なので、やりたいことがしょっちゅう変化するんですよ(苦笑)。先週は悪役を演じたいと思っていたのに、今週は王道の主人公を演じたい、みたいな。
10年後、なんなら1〜2年後ですら、今と全然違うことを言っているかもしれないですし。「この先こうなりたい」と目標を立てるよりも、「過程を楽しみながら、今の最善を尽くしていく」というのが僕には合っているのかな。
「2025年は絶対にこれをやるぞ!」と具体的なことを宣言しても、これまで年始に立てた目標が叶った試しがないので(笑)。とりあえず“爆”をテーマにしつつ、健康に気をつけて楽しくやっていきたいですね。
――では来年の目標は、“爆”から大きく変わっているかもしれませんね。では最後に改めて、今井さんのさらなる活躍を期待している読者に対して、メッセージをお願いします。
今井:
まずは「2025年にブレイクしそうな男性声優」1位受賞、本当にありがとうございます! 賞をいただくなんて仕事を始めた頃には想像もしていなかったのですが、今後も仕事へのスタンスやこだわりが、ここから大きくブレるということはないと思います。だから、僕のそういうところを好きでいてくれるファンの方々は、これからも安心して楽しんでもらえるんじゃないかなと。
僕はこの先もこのまま、まずは自分自身が楽しめるように、そしてその楽しんでいる姿を見てもらってファンの皆さんに楽しんでもらえるように、これからも進んでいきます。
お互いに健康にだけは気を付けて、一緒に無理のない範囲でエンタメの世界を楽しんでいきましょう! 2025年もよろしくお願いいたします。
(取材・執筆=双海しお、撮影=井上ユリ、編集=柴田捺美)
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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