zash
子供の頃から培ってきた映画、海外ドラマ、特撮、アニメの知識を活かして活動中。各媒体でコラム、取材レポート、インタビュー記事を執筆する他、雑誌やマスコミ用リリースへの寄稿も行っている。
“シリーズ初”の『桃太郎』をモチーフにした『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』、“シリーズ初”の昆虫をモチーフにした『王様戦隊キングオージャー』……。
1975年放映開始の『秘密戦隊ゴレンジャー』から幕を開けた「スーパー戦隊シリーズ」の歴史は、間もなく50年の節目を迎えようとしています。50年もの長き歴史を誇っていればこその宿命とでも言いましょうか、これだけ長くシリーズが続いていると、どうしても作品のテーマなどにマンネリ化が顕著になってしまうこともあるかと思います。
そういった理由からか、ここ数年、とりわけ2021年のシリーズ第45作『機界戦隊ゼンカイジャー』頃からシリーズの刷新を図っている様子が見て取れ、“シリーズ初”のテーマ、モチーフが新鮮な印象を大いに与えていると言えるでしょう。
そんな「スーパー戦隊シリーズ」ですが、2024年3月より放映開始となったシリーズ第48作『爆上戦隊ブンブンジャー』は、どこかここ数年の斬新さ、新鮮さとは一味違う印象を視聴者に与えています。
新しさばかりを追い求めていた視聴者にとっては、違和感すら覚えてしまうこの感覚は一体何なのでしょうか。
INDEX
『爆上戦隊ブンブンジャー』は、地球侵略を目論む大宇宙侵略大走力団・ハシリヤンの暴走を止めようと奔走する5人の戦士を主人公にストーリーが展開。
あらゆる物を運び届ける“届け屋”を生業としている範道大也=ブンレッドを中心に、クールな“情報屋”の鳴田射士郎=ブンブルー、天真爛漫な性格が持ち味の“運転屋”志布戸未来=ブンピンク、正義感に溢れた“警察屋”の阿久瀬錠=ブンブラック、ミステリアスな“調達屋”の振騎玄蕃=ブンオレンジというメンバー構成のもと、毎話、様々な試練を乗り越え、チームとしての結束を強めていく様子が非常に小気味いい作風となっています。
前述のように『爆上戦隊ブンブンジャー』には、ここ数年のシリーズとは異なる違和感のようなものが存在します。結論から言うと、その正体はノスタルジーだと筆者は感じました。
近年の「スーパー戦隊シリーズ」は、チームの一人だけが人間で残りの4人はキカイノイドというキャラクター配置で物語を展開したり、約50年の歴史の中で初めて『桃太郎』や昆虫をモチーフにしたりと、王道から逸脱した全く新しい「スーパー戦隊」を作ろうとする製作陣の熱意が視聴者に真っ向から届けられた形となっていました。
一方で、本作『爆上戦隊ブンブンジャー』は、「スーパー戦隊」の王道ど真ん中とでも言うべき「車」をモチーフにした作品。言ってみれば“王道回帰”を果たした作品と言えるわけです。
「スーパー戦隊シリーズ」における車モチーフの作品は、『高速戦隊ターボレンジャー』(’89年)、『激走戦隊カーレンジャー』(’96年)、『炎神戦隊ゴーオンジャー』(’08年)が存在。その他『轟轟戦隊ボウケンジャー』(’06年)や『魔進戦隊キラメイジャー』(’20年)のような別テーマやモチーフを中心にしながらも、「車」がサブ要素となっている作品もあります。
つまりは、新機軸に次ぐ新機軸を目の当たりにしてしまったことから、元々あった当たり前だったものが、逆に“違和感”として心の中に現れてしまったという現象なのです。
そういったノスタルジーを感じさせる要素は車がモチーフというだけの部分にとどまりません。主人公の範道大也がオープンカーを乗り回し、結婚式の最中に花嫁を連れ出したり、ヒロインの洋服を用意するために店ごと買い占める……。
バブル期、もしくは平成初期のトレンディドラマを彷彿させるような描写にも垣間見ることができ、30代以上の視聴者にとってはもはや鳥肌級の懐かしさを感じずにはいられないことでしょう。
さらに、ブンブンジャーたちのスーツにも、良い意味での時代錯誤感があります。レーサーやメカニックを思わせるジャンプスーツのようなボディデザインに、タイヤをまるまる顔面に据えたヘッドデザインという何ともシンプルなものとなっており、まさにシンプル・イズ・ベスト。
無駄なものを削ぎ落とした親しみやすいデザインとなっているのです。もはや作品全体に漂うノスタルジーな雰囲気に熱くならずにはいられないというのが、筆者の正直な感想でございます!
しかしながら、何もノスタルジーばかりに振り切った作品というわけではありません。随所に「令和」らしい新鮮味も組み込まれているのが、本作の魅力でもあります。
近年の「スーパー戦隊シリーズ」のストーリー構成には2パターン存在すると筆者は解釈しています。主人公の赤い戦士(レッド)が力を手にし、戦士として覚醒するパターンと主人公の赤い戦士(レッド)がすでに戦士として覚醒しているパターン。
『爆上戦隊ブンブンジャー』は後者のパターンとなっており、物語冒頭の主人公となるのは、チームの紅一点であるブンピンクこと志布戸未来。彼女がブンブンジャーの存在を知り、仲間となり、一人前になっていくために様々な試練を乗り越えていく様が描写されます。
女性ヒーロー視点で展開されるストーリーと言えば、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のオニシスターが記憶に新しいですが、爆発的な人気を誇ったオニシスター同様に、本作のブンピンクにも目を見張るような活躍を期待したいところです。
また、本来の主人公である範道大也に関しては、いまだベールに包まれている部分も多く、彼の素性が明らかになっていく過程もまた楽しみの一つであり、彼らブンブンジャーを監視するISA(国際宇宙対策機構)という組織も登場することから、キャラクター同士の掛け合いも気になるところ。
「スーパー戦隊シリーズ」特有のコメディ要素に充実している作品ではありますが、そういったドラマ性にも富んでいるという点には、やはり子供向け番組だけでは終わらせないという製作陣の思いの強さがあるのではないでしょうか。
とはいえ、特撮ドラマの新しい姿を披露した前作『王様戦隊キング―オージャー』が多方面から評価される傑作だったことを考えると、やはりそこを超えるのは難しいと考えるファンも多いことでしょう。
しかし、『爆上戦隊ブンブンジャー』は、あえて新時代の作品だった前作から逆行するような形で製作されているような印象を受け、本来の特撮らしさを十二分に発揮していると思うのです。
『王様戦隊キングオージャー』がVFXを多用した作品だったのに対して、本作はできる限りミニチュアやスーツを使用した特撮に力を入れているように感じます。
グリーンバックではなく、現場での撮影にこだわった迫力のアクションシーン、ミニチュアで表現された市街地で戦う巨大ロボと怪人などなど、前作で培った技術力を生かしながらも、きっちりと差別化できている点は素晴らしく、話題作の次回作として、ここに行きついたことには、もはや脱帽です。
ストーリーに関しても同様のことが言え、前作が大河的なストーリーラインだったのに対し、本作は一話完結型の構造となっています。届け屋、情報屋、調達屋といった具合に、キャラクターそれぞれに役職があることから、毎回、様々な視点から楽しめるのも大きな魅力で、どこか“万屋”然とした存在感を放っているのが実に面白い。
どうやら作中のTVニュースなどでも「タイヤ人間」などと報道され、市民からも認知されているようなので、もしかしたら今後の展開として、街のお助け屋的な存在となっていくブンブンジャーの姿が描かれるのかもしれません。それはそれで非常に面白い展開だと思いませんか?
筆者は敵役の「ハシリヤン」の存在も個性的で面白いなと思っています。
人間の悲鳴から生み出されるエネルギー・ギャーソリンを集めようと奔走し、幹部の一人がマッドレックスという名前である点などから、ジョージ・ミラー監督の名作『マッドマックス』シリーズへのオマージュも感じ取ることが出来、個人的に大歓喜していることをここにお伝えしておきます(笑)。
ニチアサ枠では2014年から2015年まで放映された『仮面ライダードライブ』以来の「車」がメインモチーフとなるヒーローの登場。車離れが加速していると言われる現代日本のお茶の間に、改めて「車」のカッコ良さを伝える最高のヒーローがやってきました。
迫力満点の遠藤正明ボイスが響き渡るオープニングテーマで、一気にテンション“爆上げ”の『爆上戦隊ブンブンジャー』の活躍を、これから1年間応援していきましょう!
(執筆:zash)
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