すなくじら
下町育ちのエンタメライター。アニメ&映画ジャンルを中心に執筆活動中。ダークファンタジーやゴシックなテイストの世界観の作品が好きです。乙女ゲームの新作情報が生き甲斐。
「ヴィレッジヴァンガードの漫画コーナーで浅野いにお作品に出会いました」と語るのは、声優の入野自由さん。
一見ありふれた日常の中に、登場人物たちの痛みや葛藤、優しさが溢れている漫画家・浅野いにお先生の描く世界。その独特の作風は、ページをめくる読者の手を止めさせません。
そんな浅野ワールド全開の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下、デデデデ)』が、満を持してアニメ映画化。
巨大な宇宙船が上空に突如現れた東京を舞台に、小山門出と中川凰蘭の二人の女子高生の“日常”を描く本作は、前章が2024年3月に公開され、好評を博しています。
読者の想像力を掻き立てる、浅野いにお先生ならではの魅力が詰まった本作で、宇宙人の"器"となった少年・大葉圭太を演じた入野さん。本作のキャストコメントでも「浅野作品の大ファン」と綴った彼は、『デデデデ』のアニメ化に「声優という仕事柄、絶対に関わりたかった」と本作のオーディションを受けた経緯を明かします。
そして、5月24日公開の後章では前章以上の活躍を見せる入野さん演じる大葉。『デデデデ』の持つ独特の言葉の響きや登場人物たちが繰り広げる痛みと優しさに満ちた物語を、声の演技でどう表現したのでしょうか。
本作で共演した幾田りら(小山門出役)さん、あのさん(中川凰蘭役)という個性派の俳優陣との掛け合いや、アニメならではの新しい魅力についても語っていただきました。
▼「numan」公式インスタでは、撮り下ろし未公開カットを公開中!
https://www.instagram.com/numan_media/
INDEX
――まずは浅野いにお先生の作品との出会いから教えていただけますか?
入野自由(以下、入野):
きっかけはいくつかあります。ヴィレッジヴァンガードによく行っていた時に浅野先生の作品に出会い、購入しました。
あとは、ファンだった宮﨑あおいさん主演で映画化された『ソラニン』を観たあとに、原作の漫画も買って読みました。映画『ソラニン』のテーマ曲だったASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ソラニン」もよく聴いていました。
――『ソラニン』は作品も楽曲も名作ですよね。ちなみに、浅野先生作品のなかで1番好きな作品を挙げるなら何でしょうか。
入野:
1番好きで衝撃を受けたのは、『おやすみプンプン』ですね!
作品だけでなく、浅野いにお作品のなかで特に好きなキャラクターも『おやすみプンプン』のヒロイン・愛子ちゃんです。
あなたがずっと私を忘れませんように pic.twitter.com/wIQCmuj38A
— 浅野いにお/Inio Asano (@asano_inio) July 7, 2023
あと同じく『おやすみプンプン』にでてくるプンプンのおじさん。大人になって読み返すと、かなりぶっ飛んだキャラクターだなと(笑)。でも、プンプンのおじさんを通じて人間の本能的な部分をリアルに描いている気がして、すごくグッとくるキャラクターだと思います。
――『デデデデ』の原作は、連載または単行本発売当初から読まれていたのでしょうか?
入野:
『デデデデ』の原作は、当時はまだ全巻発売されていなかったので、最終巻まで出揃ってから一気読みしようと思って温めていたんです。そしたらアニメ化が先に決まって(笑)。そこで一気に読みました。
まさに“浅野イズム”が炸裂していました。日常を丁寧に描きながら、痛みや苦しみ、切なさも含めて描いている。綺麗事だけじゃなくて、時に辛辣な言葉で表現することで、逆に優しくあたたかい気持ちになれる。
何より登場キャラクターが生き生きとしていて、特に女の子キャラが魅力的に描かれているんです。「見どころしかない!」と感じました。
なので、「もう(キャスト)オーディションが始まっているかもしれない!」と焦りましたね……。
――アニメ化を知り、原作を読んでからオーディションを探したということでしょうか?
入野:
はい。浅野先生の作品が初めてアニメ化されるタイミングなんて、ファンとしては絶対に逃したくないじゃないですか。声優という仕事柄、「絶対に関わりたい!」「これはやらねば!」という気持ちが強くありました。この先チャンスがあるか分からないですから。
それでマネージャーに「『デデデデ』のオーディションを探してほしい」と頼んで、いろんなところに問い合わせてもらったんですよ。おかげで参加することができました! 探してくれたマネージャーには本当に感謝です。
――実際、大葉圭太役に受かった時の心境はいかがでしたか。
入野:
実はオーディションで、大葉圭太のほかに小比類巻健一も受けていたんです。しかもオーディションテープを一人で録っていて、自分の中で「ピンとくる」ものがあったのは小比類巻でした。
だから「大葉に決まった」と聞いて、驚きました。大葉のような可愛らしくて幼い雰囲気のキャラは最近やっていなかったので、新鮮な気持ちで臨めた気がします。
――入野さん演じる大葉圭太は、後章を中心にさまざまな活躍を見せるキャラクターです。彼をどう捉えましたか?
入野:
『デデデデ』全体のストーリーを俯瞰する上で欠かせないキャラクターだと感じました。宇宙人と人間、(中川)凰蘭と(小山)門出、過去と現在など……とにかく重要な要素を繋ぐ役割を担っていて、原作での登場シーンはそれほど多くないですけど、キーパーソンだと捉えています。
――そんな大葉を演じる上で意識したことはありますか。
入野:
見た目の可愛らしさや幼さは大事にしつつ、実は人間ではないからこそ言葉がうまく操れないところを序盤では特に意識しました。
加えて、浅野先生作品特有のセリフ回しやノリがストレートで淡々としているんだけど、ニュアンスでは痛みも優しさも伝わってくるというか。そこはアニメーションで描かれるキャラクターの表情だけじゃなくて、「声の演技でも表現できたらいいな」と思って臨みました。
――人間ではないキャラクターだからこそ、大葉が扱う言葉のニュアンスを表現するのは難しそうですね……。
入野:
そうなんです。設定としては彼は宇宙人で、人間の体を使っているだけなんですよね。だから言葉もうまく扱えない。そういう部分は役づくりのベースにありました。
一方で、彼の行動を見ていると、宇宙人にも関わらず時々うかつなところがあるんです。人前でくしゃみをしてしまったり、浮遊してしまったり(笑)。だから、「見た目は大人なんだけど、中身は小学生くらいなのかもしれない」と想像して演じていました。
アフレコ現場ではそこまで細かい設定について話していないのですが、自分の中にそういうイメージがあるかないかで(演技も)だいぶ変わってくるので。そういう風に想像力を膨らませながら、大葉を演じさせてもらいました。
――大葉は凰蘭との掛け合いのシーンが多かった印象です。凰蘭役を演じるあのさんのお芝居の印象を教えてください。
入野:
オーディションの段階で、(凰蘭について)「こういうキャラクターと喋ります」と先に声だけ聞いていたんです。その時、「凰蘭役はあのさんです」とは言われていなかったんですけど、声を聞いたら「あのさんだ!」ってすぐにわかりました(笑)。
個性が爆発している凰蘭に対して、どんな個性を持った人をキャスティングするのかとなると、あのさん以外に考えられないなと思います。
声のお仕事は初めてということで、わからないことも不安もたくさんあったと思うのですが……結局、個性に勝るものってないですよね。
あのさんは迷いながらお芝居をしているところは素敵でしたが、その様子を見て「もう思い切りやっちゃえ!」という話を1回したことがありました。
とあるアフレコのタイミングで、あのさんが迷えば迷うほどわからなくなったのか、「えいっ!」とやらなきゃいけなくなった瞬間があったんですね。
ちゃんと理解して役を演じるのではなく、「わかるかっ! ボケ!」と勢いに任せてしまうのがおんたん(凰蘭)だと思うので。その瞬間の表現は、パッと目を惹くものがありました。
――では、門出役の幾田りらさんのお芝居の印象はいかがですか?
入野:
門出役として抜擢された幾田さんは、直接共演はしていないのですが、歌では鈴のようなキレイな声ならではの存在感がありつつ、セリフで声を聞いていると、いわゆる“普通の女子高生”というキャラにベストマッチしていて。
これまでも声のお仕事をされていますが、とはいえ普段のお仕事とは違う表現の仕方や喋り方だと思うので、いい意味で違和感があるんです。
幾田さんとあのさんの2人のお芝居は、アニメ的な声のお芝居になり過ぎず、アニメ的な声のお芝居じゃないからこその違和感がありすぎない、どちらかに偏りすぎていないところがすごくいいなと。ベストなキャスティングだったと思います。
――劇場アニメ化したことにより感じる、『デデデデ』の新しい魅力はありますか?
入野:
原作には、災害や天災、社会的・政治的な問題、人間の考え方やコミュニケーションの問題など、さまざまな要素が詰め込まれているんですよね。「まるで浅野先生自身が登場人物に細胞分裂していって、ああいうキャラクターが出来上がっているのではないか……」と思うくらい。
だからこそ、『デデデデ』は浅野先生の今を感じられる作品になっていると感じています。昔の作品からずっと積み重ねてきて、現在の浅野先生の表現に繋がっている。それは今を生きる僕たちや社会にも繋がっている気がします。
ただ、アニメですべての要素を入れてしまうと、カオスになってしまうんですよ。それを(シリーズ構成・脚本の)吉田玲子さんをはじめとするスタッフの皆さんがうまく精査して、「このアニメで何を見せたいのか」に焦点を絞ってくれました。
もちろんファンとしては、原作の要素を1から100まで全部盛り込んでほしい気持ちはなくもないですけど、アニメ『デデデデ』で表現したいものは何なのか。そこがシンプルで見やすくなっていると思います。
――アニメ『デデデデ』で大葉を演じたことで、作品への理解が深まった部分はありましたか?
入野:
うーん……。具体的なポイントを挙げるのは難しいですけど、自分で声を出してみるとか、誰かほかの人の声でセリフを聞いてみることでの印象の変化は大きいですね。
自分の中だけで完結していたものが、演じる人それぞれの声やディレクションから他者の解釈が入ってくる。「こういう風に表現したい」「こう作品を見せていきたい」というキャストやスタッフの方向性が反映されていくんです。
浅野先生の作品っていろんな見方ができるから、考察もたくさん生まれるじゃないですか。アニメはそれを1つの形にまとめ上げているわけです。先生の監修が入っていることを考えても、これはこれで1つの“『デデデデ』の答え”なんじゃないかと思います。
――入野さんご自身は本作をどのように見て、どんなメッセージを感じましたか?
入野:
ディスコミュニケーションが大きなテーマだと感じました。お互いのことを考えているのに思いが伝わらなかったり、言葉が通じていても認識がずれてしまったり。そういうなかなかうまくいかない人間関係の機微を丁寧に描いた作品だと思います。
だからこそ最後まで見ると、「相手を思いやる気持ちをもっと大事にしなきゃ」というメッセージが伝わってくる作品だと受け止めました。
――本作では、門出を中心に登場人物の掲げるさまざまな形の“正義”が表現されています。入野さんが掲げている「声優としてのポリシー」はありますか?
入野:
「これ!」というものは難しいですね(笑)。ただ、「一つのことに囚われないこと」……歌ったりアニメの声優をやったり、舞台に立ったり。ジャンルにとらわれず、ボーダレスにいろんな表現をすることで、自分の“声優としての個性”というものが生まれてくるんじゃないかと思っているので。
実は昔から“個性”というものにすごく悩んでいて、今でもいろいろ迷うことが多いんです。「もっと個性を出した方がいい」と周りから言われたこともありましたし。そういう言葉にすごく悩まされてきました。でも、いろんな表現をすることで、そういう悩みすらも次第に自分をつくり上げる軸になっていきました。
とはいえ、幾田さんやあのさんみたいに個性が爆発している方を見ると、すごく羨ましく感じますけど(笑)。
――では最後に、「世界の終わり」を前にした少女たちの物語を描いた『デデデデ』にちなみ、入野さんは世界が終わる日を前にしたらどう過ごすかを教えてください。
入野:
普通に過ごすと思います(笑)。何をしていいかわからないですからね。世界が終わる日だからって何か悪いことをするつもりはありません。ただ慎ましく、みんなにお礼を言いながら、最後の時を過ごすんじゃないですかね。
(取材&執筆:すなくじら、編集:阿部裕華、撮影:小川遼)
後章:2024年5月24日(金)
全国ロードショー
■キャスト
幾田りら あの
島袋美由利 大木咲絵子 和氣あず未 白石涼子
入野自由 内山昂輝 坂 泰斗 諏訪部順一 / 竹中直人
■スタッフ
アニメーションディレクター:黒川智之 シリーズ構成・脚本:吉田玲子 世界設定:鈴木貴昭
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東伸高 色彩設計:竹澤聡 美術監督:西村美香
CGディレクター:稲見叡 撮影監督:師岡拓磨 編集:黒澤雅之
音響監督:高寺たけし 音楽:梅林太郎 アニメーション制作:Production +h.
原作:浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
アニメーション制作:Production +h.
製作:DeDeDeDe Committee
配給:ギャガ
主題歌:前章「絶絶絶絶対聖域(ぜぜぜぜったいせいいき)」 ano feat. 幾田りら|後章:「青春謳歌(せいしゅんおうか)」 幾田りら feat. ano
映画公式X:https://x.com/dedededeanime
公式HP: https://dededede.jp/
©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee
すなくじら
下町育ちのエンタメライター。アニメ&映画ジャンルを中心に執筆活動中。ダークファンタジーやゴシックなテイストの世界観の作品が好きです。乙女ゲームの新作情報が生き甲斐。
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます
特集記事
ランキング
電ファミ新着記事
2024.11.15