【推しの子】2期OPは星野アイの“無自覚な罪深さ”を描いている?キタニタツヤが中島健人を起用した意味

今作のタイトルに冠された「ファタール」は、フランス語で「運命の、魔性の」という意味の言葉。他者を(特に男性)を魅了し狂わせる女性を差す、「ファム・ファタール」という言葉で馴染みのある人も、オタクの中にはきっと多いことでしょう。

大勢を魅了し、誰かの希望の光や人生の指針ともなるアイドル。一方で時にはそんな誰かの運命を狂わせ、本来歩むはずの真っ当な道から外れさせる力を、彼ら・彼女らは持っています。

『アイドル』がアイドルの“希望”を正面から描いた王道曲であるなら、『ファタール』はそんなアイドルの裏側。言うなれば“罪深さ”を真正面から描いた曲、と言うべきでしょう。本作の主人公として物語を紡ぐアクアは、まさに「アイドル・星野アイによって人生を大きく狂わされた」典型例です。

母・星野アイの死後その真実を知るべく、彼は不本意ながらも結果として、芸能界という魔窟へ進んで足を踏み入れました。さらに遡れば前世で医者だった頃、彼はアイの狂信者に殺され、自らの命までも落としています。

『アイドル』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

『アイドル』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

良くも悪くも大勢の運命を変えてこの世を去った、あるいは死後もなお人々の運命を狂わせ続ける、天性のアイドル・星野アイ。

彼女は大衆を魅了する『アイドル』であると同時に、誰かにとっての『ファタール』でもあった。そんな彼女の人物像の側面を見事に描いたのが、GEMNによるアニメ2期主題歌なのです。

真のファム・ファタールの条件…それは“無自覚”であること

さらにもう一段解深い解釈をするならば、GEMNの二人が星野アイを今回“ファタール”と表現したのは、非常に言い得て妙というべきでしょう。

先ほども登場した、大勢を魅了するファム・ファタールという存在。大勢を狂わせる、というニュアンスから、この言葉に悪女のようなイメージや、魅惑的な女性を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

中にはこれまでそんな意味合いで、ファム・ファタールと言われた女性もいます。ですがそれだけでは、彼女たちを真のファム・ファタールとは呼べないでしょう。真のファム・ファタールの条件。それは彼女自身が誰かを狂わせることに、ひどく無自覚な点が重要だと筆者は考えています。 

星野アイもまた、「誰かに愛されたい」という感情や承認欲求からアイドルになったわけではありません。むしろその逆で、彼女のアイドルとしてのスタート地点にあったものは「誰かを愛する気持ちを知りたい」という、自身の人間的欠落を埋めるものでした。

 真のファム・ファタールには、自分の魅力で誰かを狂わせよう、相手の人生を壊そうという作為はありません。むしろそんな作為がないからこそ、ただただ強すぎる光に惹かれ魅せられ、こちらが勝手に狂って破滅している。それだけです。

しかしそれこそが、男女を問わずファタールと呼ばれる人間の真の恐ろしさ。そしてそんな人々の魅力の真髄でもあるのでしょう。星野アイ、あるいは中島健人のようなアイドル。そしてキタニタツヤのようなアーティスト。様々なマンガやアニメに出てくる、物語の中のキャラクターたち。

彼ら彼女らを推したり、時には大きすぎる情熱や愛を傾けている我々オタクにとっても、これは決して他人事ではないかもしれません。世はまさに国民一億総“推し活”社会。現在も様々な形で、粛々と沸々と自分の“推し”に熱狂する人々もきっと多い事でしょう。

その中には大勢を魅了する天性の才を持つ、ファタールとも呼ぶべき人々も確かに存在しています。彼ら彼女らに魅入られすぎて、自分の人生を破滅させないよう要注意、ですね。

(執筆:曽我美なつめ)

 

アニメ【推しの子】作品概要

<INTRODUCTION>

「この芸能界(せかい)において嘘は武器だ」
地方都市で働く産婦人科医・ゴロー。
ある日"推し"のアイドル「B小町」のアイが彼の前に現れた。
彼女はある禁断の秘密を抱えており…。
そんな二人の"最悪"の出会いから、運命が動き出していく―。
<STAFF>
原作:赤坂アカ×横槍メンゴ(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:平牧大輔
助監督:猫富ちゃお
シリーズ構成・脚本:田中 仁
キャラクターデザイン:平山寛菜
サブキャラクターデザイン:澤井 駿
総作画監督:平山寛菜、吉川真帆、渥美智也、松元美季
メインアニメーター:納 武史、沢田犬二、早川麻美、横山穂乃花、水野公彰、室賀彩花
美術監督:宇佐美哲也(スタジオイースター)
美術設定:水本浩太(スタジオイースター)
色彩設計:石黒けい
撮影監督:桒野貴文
編集:坪根健太郎
音楽:伊賀拓郎
音響監督:高寺たけし
音響効果:川田清貴
アニメーション制作:動画工房

<CAST>
アイ:高橋李依
アクア:大塚剛央
ルビー:伊駒ゆりえ
ゴロー:伊東健人
さりな:高柳知葉
アクア(幼少期):内山夕実
有馬かな:潘めぐみ

<公式サイト>
https://ichigoproduction.com/

<公式Twitter>
https://twitter.com/anime_oshinoko

 

 

 

 

 

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曽我美なつめ

音楽、二次元コンテンツ(アニメ/マンガ)を中心にカルチャーを愛するフリーライター。コロナ禍を経て10年ぶりにオタク・同人沼に出戻りました。全部宇髄天元のせいです。

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