双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
2024年もいよいよラストスパート!今年もnumanではアニメ、声優、アイドル、2.5次元俳優など…幅広いジャンルの“推し”を深掘りし、さらなる魅力をお伝えしてきました。きっと皆さんも、さまざまな推しに魅了されてきたことでしょう。そんな皆さんにとっての推しを振り返り、さらに掘り下げるために、スペシャルな年末特集を実施。今年1年の推しへの感謝とともにお楽しみください。
毎クール魅力的なTVアニメが放送されている中、毎週X(旧Twitter)のトレンドに関連ワードが並び、SNS上に「イサミィーーッ!」と主人公の名を叫ぶ文字が溢れる……そんな社会現象(?)を巻き起こせるアニメは、そう多くはありません。
numanで実施した読者アンケート「2024年面白かったTVアニメランキング」で1位に輝いたオリジナルTVアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン(以下、ブレイバーン)』(2024年1月クールTBS系にて放送)は、社会現象を見事に巻き起こしたアニメと言っても過言ではないでしょう。
これまで数多くのロボットアニメにて“バリメカ”“バリってる”と評される、独自のロボット表現方法を追求してきた大張正己さんが監督とあって、放送前から往年のロボットアニメファンの注目を集めていました。
実際に放送が始まると、これまで見たことのない展開やキャラクター同士の関係性にハマる人が続出。今回のnuman読者アンケートでも「激重感情の男が大好き」「今まで感じたことのない時間の流れを感じるアニメ」など、ブレイバーンの熱さ顔負けのコメントが集まっており、いかに本作が視聴者のハートを掴んだのかがひしひしと伝わってきます。
ロボットアニメながら、女性人気も獲得した『ブレイバーン』。その裏側に迫るべく、読者からの熱量あるコメントを携え、CygamesPictures代表取締役社長であり本作のエグゼクティブプロデューサーを務めた竹中信広さん、そして大張監督にインタビューを敢行。
「本当にブレイバーンが1位ですか……?」
「そんなバカな……」
アンケート結果に対して驚きを隠せない様子だったおふたりですが、誰も見たことのないロボットアニメをつくりたいという作り手としてのこだわりや、実は最初は決まっていなかったスミス=ブレイバーンのキャラクター誕生秘話など、生き生きとした表情で制作当時を振り返ってくれました。
放送開始から約1年経った今、『ブレイバーン』の生みの親であるおふたりが語る本作への思い、そして気になる今後の展望についてたっぷりと1万字超えインタビューでお届けします。
INDEX
――読者アンケート「2024年面白かったTVアニメランキング」にて、『勇気爆発バーンブレイバーン』が第1位を獲得しました。おめでとうございます!
竹中信広(以下、竹中):
女性向けメディアで『ブレイバーン』が1位ですか? 本当ですか? まさかそんなはずはない、という気持ちです。2024年、もっといろいろなアニメがあった気がするのですが……
大張正己(以下、大張):
そんなバカな、と思ってしまいますね。いいんでしょうか(笑)。
――まごうことなき1位ですので、ご安心ください(笑)。それではまず、おふたりが本作で担当されていた役割・ミッションについて教えていただけますか?
竹中:
僕が「やりましょう」と発起人として『ブレイバーン』の企画を立ち上げました。肩書としては、エグゼクティブプロデューサー。かつ、ちょっとややこしいのですが、CygamesPicturesの社長でもあります。
大張:
実はどこが作るのか(制作)という問題があったんですが、竹中さんが「うちでガッツリやります」と言ってくれたんですよね。
竹中:
企画をいろんな制作会社に持っていっていたのですが、どこも受けてくれなかったんですね。内容が大変だったことと、ちょうどその時期、ロボットアニメ自体が減っていて、「ロボットアニメは売れない」という風潮だったこともあって、ずっと断られていました。
受けてくれる制作会社を探しながらも企画を進めて行く中で、かなり作品に愛着が出てきていたので、もう自分の会社でやればいいじゃんと。
大張:
僕も竹中さんと企画立ち上げから関わっていたので、(CygamesPicturesでの制作が決まって)本当に助かりました。
ちなみに、僕の役割的には、監督・ブレイバーンデザイン・音響監督ですね。本当はブレイバーンのデザインも大御所の先生にお願いしようかとも考えていたのですが、作品のオリジナリティを追求するという意味で、あえて僕自身が担当しました。
また今回、自分の全てを賭けて挑戦する作品である以上、成功しても失敗しても誰かのせいにしたくなかった。その責任を負いたいという意味で、音響監督も僕自身でやらせてもらっています。
――企画立ち上げ時点で、大張さんと一緒に作品を作るということが大前提にあったのでしょうか。
竹中:
そうですね。「一緒に何を作りましょうか」という話から始まっています。
大張:
最初に、“ボーイミーツロボ”というテーマがありましたよね。
竹中:
そうですね。新しくて面白い形ってなんだろうと考え、“ボーイミーツガール”ならぬ“ボーイミーツロボ”、“ロボミーツボーイ”みたいなものがやれるといいのかなと思いました。ボーイとロボのちょっと「ぽっ……」とする出逢いを表現したら新しくて面白そうだと。
大張:
当初は、思いついたアイデアを捨てる作業をしていました。ふわっと思いつくものって、スタンダードな流れのものなんですよ。だから、それは横に避けて、もっと面白い展開は何かと考えていきました。
竹中:
女の子がロボに乗るとか、女の子を助けるためにロボに乗るとか。登場人物が固定されたら、ストーリーがある程度決まっちゃう感じがしていて。
でもこの作品には、違った新しさが必要だなと考えていって、その結果出てきたアイデアを1個ずつ絡めていったときに「これは面白くなりそうだな」と。少しずつこの作品のフォーマットが固まっていった感じですね。
――新しい形を模索していった結果、“ボーイミーツロボ”というテーマが生まれたということですか。
竹中:
男の子はロボがかっこよければ見てくれるだろうなというのはイメージができていたんですよね。
ただ、既存のロボットファン以外の広い層に見てもらえるものを作りたいなと考えたときに、女性も見てくれる形ってどういうものだろうと。そういう入口からの“ボーイミーツロボ”ではあったんですが、最終的に出来上がったものは、最初にイメージしたものではない気がしています(笑)。
大張:
1話を見て「あれ!?」ってね(笑)。
竹中:
そうそう。もっと爽やかな感じをイメージしていたんですが、こんなに濃くなるとは(笑)。
――爽やかさ、というよりは全12話という限られた話数の中で、かなり熱く濃い人間ドラマへ見応えを感じている読者も多くいました。物語を作るにあたってこだわった点とは?
大張:
僕が思う“リアルスーパーロボット大戦”というか。リアルロボット世界の住人の目の前に、スーパーな存在(ブレイバーン)が登場する展開って、今までなかったと思うんですよ。そこは突き詰めましたね。
なので、いろんなロボットアニメやヒーローアニメの1話を、70年代くらいまで遡って全部見ました。そのうえで、「絶対負けないNO.1の1話にしてやろう」という気持ちで作ったのが、あの1話です。僕自身が見たことのない1話を見たかったので。
本当に新しいものが作りたかったんですよね。ロボットものをやってきた僕だからこそ、新しいロボットアニメに挑戦する必要があったというか。あの1話に監督生命を賭けていましたからね。
竹中:
よかったです、監督生命が『ブレイバーン』で終わらなくて。
大張:
本当によかったです(笑)。『ブレイバーン』も、○○系ロボットアニメとか○○風ロボットアニメと括られるかもしれないけど、でも考えてみてほしい。「本当にこんな作品ありましたか?」と(笑)。
過去のロボットアニメから技術的に継承しているものはもちろんありますし、僕自身もスーパーロボットを体現してきた側の人間なので、そこは反映させています。自分の持つ引き出しを開けたうえで、新しい部分も開けて作ったのが本作ですね。見たことのないものにとことんこだわった。ゆえにそれが皆さんに刺さって、「何だこれ」という質感とともに受け入れていただいたのかなと思っています。
竹中:
12話全体の構成でいうと、「じゃあ作り始めよう」という段階では、具体的なテーマやエピソードというのは実はありませんでした。「面白いロボットアニメを作りたいね」というところがベースにあったうえで、視聴者が続けて見たくなる作品にするには、どうシナリオを展開していくといいのかを考えていきました。
ご時世的な意味でも、底抜けに楽しい、明るいものにしたいという思いは常にあって、鬱っぽい展開で気持ちが下がる部分があったとしても、すぐに解決して気持ちを上げていけるようなスピード感でやろうというのは、本読み(シナリオ会議)のときからずっと言っていました。
大張:
スピード感につながる部分でいうと、1話の中に2話分以上の要素を取り込みましたね。Aパートだけでも1話分の密度があるように、というのは狙っていました。
竹中:
ストーリー的には2クール分くらいの内容がありますからね(笑)。
大張:
そうなんですよね(笑)。どこまででもいけちゃうし、実際、もっと描写したいところもありましたし。でも、1話が始まる前にアフレコが全て終わっていて、音響作業も終わっていたので、そこはブレずに最後までいけてよかったです。
――全体的に明るい作品に、ということでしたが、読者からは「全体の体感2割のシリアスシーンでボロボロに泣いた」というコメントも寄せられていました。ストーリー内のギャグとシリアスのバランスはどの程度意識していたのでしょうか。
竹中:
本当に泣けましたか!? 僕たちは泣くことはなかったですが……毎回ゲラゲラ笑っていましたね(笑)。
大張:
覚えていますよ。ご自身が作ったお話なのに、竹中さんがV編見て「面白れえ!」って言っていたことを(笑)。
竹中:
ははは(笑)。企画段階から5年くらいやっているから、面白いかどうか麻痺しちゃってわからなくなっちゃうんですよね。だから、映像になって上がってきたものを見て、新鮮に「面白いな」と思えました。
バランスという意味では、シリアスに行きすぎないようにというのは意識しました。ただ、戦争で命のやりとりをしているという真面目な世界観があるからこそ、あのブレイバーンの笑いが通用するので、そこのシリアスさというのは意識しましたね。
大張:
メインキャラも、1歩間違ったら死んでしまうかもしれないという危うさは大事にしたかったんですね。
例えば、2話の“生理的に無理だ橋”のシーンのスミスとブレイバーンのやり取り。ここはギャグの温度差というか、どこまで笑いに振るのかというのを非常に気をつけました。本来はイメージBG(キャラの感情を表した背景)はあり得ない世界観なのですが、あえてそれを使いましたし、2話に関しては曲込みであのシーンに賭けていました。
あとは、アニメーション、そして地上波である以上、ゴア表現はしたくなかったので、死にゆく方たちもフレーム外にしています。1話に登場するワンちゃんも死んでいませんよ! 犬に優しいアニメというのも気をつけました。
――メインキャラクターのイサミとスミス、ブレイバーンの制作秘話についてお聞かせください。まず、イサミとスミスはどういった話し合いを経て生まれたのでしょうか。
竹中:
ヒーロー感のあるスミスと、対照的なイサミ。と、キャラクターの関係性としてはベーシックかなと思っています。
大張:
そこを徹底した感じですよね。
竹中:
そうですね。作品の入口でその対比を際立たせて、そこからイサミが転げ落ちていくという(笑)。
大張:
そうそう(笑)。完璧かと思ったらそうじゃない、その落差は計算しましたね。鈴木くん(イサミ役の鈴木崚汰)にも、そこを抑えた芝居をお願いしていました。
竹中:
ヘタレ主人公が成長していくという展開はよくあるじゃないですか。だから、ヘタレじゃなさそうな主人公が実はヘタレで、そこから成長していくという感じで、ヘタレ主人公という設定の前に1つV字になるようなフックを作った感じです。キャラクター像としては意外とシンプルなところから生まれたキャラクターですね。
なので、そんなイサミの成長ストーリーと、その横にいるスミスというのは、設計として初めからありました。
スミスに関しては、ヒーローに憧れているのにブレイバーンには乗れなくて、彼なりにイサミへの嫉妬もあったと思うんですよ。ただ、あの体験があるからこそ、ブレイバーンになった際のカタルシスに繋がると思っていて。彼にはかわいそうでしたが、そういった都合で2話では「生理的に無理」と言われるしんどい状況になってもらいました。
――イサミ、スミスはベーシックなキャラクター性とのことですが、ブレイバーンはいかがでしょうか。大張監督はイベントでブレイバーンについて「アルティメットハンサムフェイスでヒーローでヒロイン」と表現されていました。やはり“アルティメットハンサムフェイス”という部分も注力した部分ですか?
大張:
そうですね。顔の造形に関しても、これまでにないものをちゃんとチョイスしているんですよ。あの顔は絶対にほかではない顔なんです。そこはデザイナーの友人たちにも「あれは新しいですね」と褒めてもらえました。
人でもないロボでもないような顔の造形に関しては、デザイナーとしての我の部分を貫いてこだわっていて。これだけオリジナルで勝負できる機会はなかなかないので、監督としてはもちろんですが、デザイナー冥利に尽きると思っています。いやぁ本当に楽しかったな。
変形以外にもいろいろ考えて伏線を入れています。スミスが1話で着ていた「トリコロール」と書かれたTシャツや、彼が着用していたサングラスは、バーンブレイバーンのデザインの伏線になっているんですよ。9話でバーンブレイバーンに変形して初めて、理想のヒーローとして完成するという伏線で入れていました。
――なるほど。そんなブレイバーンの造形に関して、竹中さんからオーダーした部分はあったのでしょうか。
竹中:
僕からは1点だけ、「口パクしたいんで口ありで」ということだけお願いしました。
大張:
そこに関しては、CygamesPicturesの3DCG班が本当に優秀でしたね。単なる口パクじゃない感情表現を作ってくれて、そこにも救われました。女性視聴者にも支持いただけたという意味では、ブレイバーンがずっとアルティメットハンサムで絵が崩れなかった。そこも大きかったんじゃないかなと思います。
――第9話で描かれたスミスがブレイバーンになるという展開は、どの段階で決まったのでしょうか。
竹中:
実は、最初から決まっていたわけではなくて。外宇宙から敵が来て、そこに現れた謎のロボットにイサミが乗り込んで戦う、その隣にはスミスという存在がいる。ここまでを決めて脚本を進めていたのですが、それだとどうしても、敵が来て倒す、敵が来て倒すの繰り返しになってしまう。「これって本当に面白いのか?」という話になったんですよね。
シリーズ構成をもう1回練り直そうと小柳(シリーズ構成・軍事考証の小柳啓伍)さんに投げたのですが、2週間経っても上がってこなくて(苦笑)。最終的に「僕は原作じゃないから、竹中さんが考えてよ」と言われたので、小柳さんに腹を立てながら僕が考えた展開なんです(笑)。
大張:
スミスが未来から送り込んだロボとか、『デビルマン』的に実は敵の1体だったとか。いろんなアイデアがありましたよね。
竹中:
でも、どれもどこかで見たことあるロボットアニメだなとなってしまって。それでいろいろ考えたんですよ。
当時、ある死にゲーをやっていて、その設定から着想を得ています。ロボットに転生したら面白いんじゃないかと考えて、スミスがブレイバーンになりました。
実際、その展開にしてみたらストーリーに縦軸が生まれて、そこまでの話にも全て意味が生まれて。それが決まってから、逆算で伏線を足していって、面白いと思えるものになっていったという形です。縦軸が決まったことで、まず9話まで書いたのですが、最後どうするかはその時点で決まっていませんでしたよね。
大張:
そうですね。
竹中:
地球を救うんだろうなということは決まっていたのですが、その先はまた別途、煮詰まるタイミングがありました。
大張:
10・11・12話大変でしたよね。実は先に11・12話ができて、10話が最後でした。
竹中:
構成ややることも決まっていたのですが、単純に脚本として時間がかかりましたね。やることが多くて、それを1話に収めるというところが大変で。
大張:
これは本来の進行としてはない方がいいことではありますが、勇気を持って10話のアフレコも12話のあとにしました。
竹中:
会沢さん(ルル役の会沢紗弥)が本当に大変そうでしたね。10話のルルが覚悟を決めるところを飛ばして、11・12話で覚悟の決まっているルルの芝居をしていかないといけない。プロットをお渡しして説明はさせてもらったうえで、頑張っていただきました。
大張:
でも、それだけ時間を取ってもらったことで、10話は本当に高いクオリティになりました。ありがとうございました。
竹中:
制作としては反省すべき点だなと思っています(苦笑)。
――1話放送終了後から、ブレイバーンは「かっこいいけどどこか気持ち悪くてクセになる」とSNSで話題となりました。熱演された鈴村さん(ブレイバーン役の鈴村健一)には、どんなディレクションをされたのでしょうか。
大張:
最初に “ザ・ヒーロー”という形でテストを演じていただいたあと、竹中さんと一緒に「すみません、ちょっとこちらに……」と鈴村さんだけブースにお呼びして、ブレイバーンの正体や先の展開をご説明しました。
竹中:
だから、鈴村さんにしか言ってないんですよ。ほかの方には9話まで展開を伏せていました。なので、ブレイバーンの芝居はその設定を聞いた鈴村さん自身の解釈で作ってもらった部分が大きいです。
大張:
1話の初登場シーンなんか、憧れのヒーローになりたての瞬間じゃないですか。ゆえに、自分の力への不安で震えていて、そういった部分も内包した素晴らしい芝居をしていただきました。
――イサミと対面したブレイバーンの反応に対する、放送後のSNSの反響にはどのように感じていたのでしょうか。
竹中:
大張さんがどう考えているかはわからないんですが、僕は作り手側として気持ち悪いロボを目指していたわけではなく(苦笑)。「こいつ何なんだ」という異質な存在を突き詰めていったら、「気持ち悪い」と言われるようなロボが出来上がってしまったのかな。
大張:
要は見たことがないロボ、という意味合いなんだろうなと。
竹中:
だから、僕的には全然「気持ち悪い」って言われているのが理解できないです(笑)。
大張:
「かっこいいやろがい!」とね。ブレイバーンは可愛くはありますけど、かっこいいつもりで作っていましたから。情けないところも、気持ち悪いというより、ちょっと面白いなくらいの感覚でしたね。
2話のイサミを呼ぶ声なんか、すごく情けないじゃないですか。あそこは「もっと情けなく、もっともっと!」と。結果、本当に素晴らしくて最高なブレイバーンになりました。鈴村さんの芝居が入って初めて魂を得たというか、あの瞬間、ブレイバーンが完成した気がしましたね。
――スミスとブレイバーンは、声を同じにすることもできたかと思います。あえて別のキャスティングにした意図はどんなところにあるのでしょうか。
竹中:
やっぱり一緒だったら楽しくないですからね。性格もクーヌスが混ざっているし、スミスとブレイバーンが対峙して話すシーンもあるし。スミスにとってブレイバーンは“ヒーローになった理想の自分”になった状態なので、そこは声が違っていてもいいかなと思いました。きっとスミスが憧れた声質が、あの声なんです。
大張:
劇中に登場するスミスが愛する特撮作品『機攻特警スパルガイザー』で、ヒーローに変身する主人公の声が鈴村さんなんです。そこも伏線になっていて、憧れていたヒーローの声=鈴村さん=ブレイバーンなんですよ。
――憧れの存在になるからには、声質も憧れにするとは。ちなみに、キャスト陣の芝居によってアニメーションが影響を受けたり、変更されたりするということはありましたか。
竹中:
もちろんありました。アフレコの段階では、まだ画が完成していない状態だったので、芝居のテンション感に作画は引っ張られていますね。最終話のイサミの泣き芝居とかも、かなり引っ張られていますし。それほど、キャストの皆さんの芝居が熱くて素晴らしかった。
大張:
今回、本当に好きにキャスティングさせてもらえて嬉しかったです。鈴木くんも本当によかったですし。
竹中:
よかったですよね。キャスティングはほぼ大張さんが最終決定していて、僕は唯一、「イサミは鈴木さんがいいな」と気持ちを伝えたくらいでした。
大張:
そこは僕の中でも、鈴木&阿座上(スミス役の阿座上洋平)ペアがいいなという気持ちがありましたね。
竹中:
ほかはもう大張さんにお任せしていましたが、僕が「いいな」と思った人を、やっぱり大張さんも選んでくれていました。
大張:
デスドライヴズの面々もかなり悩みましたが、『スーパーロボット大戦』でもご一緒したことのあった田中さん(クーヌス役の田中敦子)とも、この機会にご一緒できて本当によかったです。
――大張さんは音響監督として、収録時はどの程度ディレクションとして入られていたのでしょうか。
大張:
事前に話す時間を作って理解をしてもらってから演じてもらっているので、細かく言わずとも、皆さんズバリな感じの芝居をしてくださいました。
竹中:
皆さんすごく真面目な方々なので、どちらかというと、「もっと弾けちゃっていいですよ、ふざけていいですよ」というのを僕たちが後押ししていた感じですね。そこは、鈴村さんが芝居で皆さんを引っ張っていってくれた気がします。
大張:
(鈴村さんが)座長としていい空気を作ってくれていました。
竹中:
鈴村さんが「こんなにふざけていいんだ!」と示してくださったので、すごくいい雰囲気で現場は進みましたね。ただ、デスドライヴズの皆さんはすごく難しかったと思います。「今どういう状況?」という感じでの出番が多かったので。
大張:
アフレコでも、皆さん「どういうことなんですか」と首をかしげていましたね(笑)。
竹中:
デスドライヴズに関しては、こちらも正解を提示するのが難しかったんですよね。熱心にこちらの説明を聞いてくださったうえで、「今の感じで大丈夫ですか?」と。当然こちらからしたらバッチリなのですが、皆さんちょっと首をかしげながら帰っていかれましたよね(笑)。
大張:
唯一、僕と付き合いの長い緑川さん(ヴァニタス役の緑川光)が、やりきったという感じで録り終わったかな(笑)。「大張さん、こういうことでしょ」と。
でも皆さん、状況がわかりにくいキャラクターではあったんですが、本当に素晴らしい芝居をしてくださいました。
――全12話、いずれも熱い展開が描かれていますが、おふたりが特に思い入れのあるシーンやエピソードはどこでしょうか。
竹中:
1番難産だった10話ですかね。本当にやることが多すぎて、V編で色のついたフィルムを見たときに、散々携わってきたのに「これ初めて見るな」という感覚になったほどでした(苦笑)。
大張:
撮影監督(林賢太)がまた優秀な方で、なんというかアーティストなんですよね。撮るだけじゃなくて、自分の意思も入れてくださるので劇場っぽい仕上がりになっていて、本当に素晴らしかった。
竹中:
10話のV編を見たときに、アニメーションって集団芸術なんだなと改めて実感できた気がします。脚本の時点で狙ったところとは違うところにいっているのですが(笑)、それがすごく面白かった。今後アニメを作っていくうえでの可能性を感じました。監督は?
大張:
僕はやっぱり全てをかけた1話ですよ。全エピソード好きで思い入れがありますが、1話全部と9話のAパートかな。あとはエンディングですかね。チャレンジングなエンディング、いいですよね。
竹中:
(笑)。エンディングは僕もかなり気に入っています。
――あのエンディングもインパクト抜群でした。竹中さん発案とインタビュー記事で拝見しましたが、あの発想はどこからきたのでしょうか。
竹中:
最初はデュエットじゃなかったんです。昔のロボットアニメってああいう曲が多かったじゃないですか。でも、普通に1人で歌ったら、つまらないなと思って。そこで、2人でデュエットにすればいいなと閃いたわけです。
男性デュエットの昭和テイストを感じるエンディング曲って意外とないのかなと思ったので、「男2人の曲で手を重ねながら歌っている感じ」と伝えたら、あの曲(「双炎の肖像」)が上がってきました。楽曲に関しては、ほぼノーリテイクでしたね。
大張:
“2人の男が心と体を1つにして奇跡を起こす”というコンセプトがありましたよね。
竹中:
そうですそうです。それで、エンディングアニメーションはどんな感じがいいかアニメーション担当に聞かれたので、実際に踊って伝えました(笑)。
大張:
突然立ち上がって踊り出しましたよね(笑)。
竹中:
そうそう(笑)。でも、僕はそのとき、「エンディングにそんな作画カロリーの高いものを作っている余裕はないから、5枚くらいの止め絵でいいよ」って言ったんです。そうしたらゴリゴリのハイカロリーな作画のものが出てきて。派手ではないのに、作業としてはすごく重かったですね。
大張:
枚数もかかっているしね。
竹中:
だから、僕は「今からでも止め絵にした方がいいよ」ってずっと言っていたんですよ。
大張:
指を絡めるシーンとか、とんでもない作画でしたからね。あれはなかなか描けないですよ。
竹中:
本当に大変でしたが、林さんがコンテ・演出・撮影としてやり切ってくれて。
大張:
完成したときは不覚にも感動しましたよね。
竹中:
完成したものを見て、僕も「止め絵にして」と言ってごめんと思いました(笑)。本当に作り手の思いが込められているエンディングになったと思います。
実は最後の部分は当初、パーンアップすると舞台照明が見えるという映像だったんですよ。でも舞台照明はなんだか違うなと思って、白飛びにしようかなと言ったら、大張さんが「宇宙にしましょう」と。
大張:
ビッグバンです。
竹中:
それで宇宙にしたら、ハマりましたね。
大張:
放送後の皆さんのリアクションが気になってSNSも見ていましたが、「かっこいい」という意見もあって救われた思いがしました。
――今回の読者アンケートからも見えてくるように、女性からも高い支持を受けている本作。これだけ多くの女性視聴者に支持されるというのは想定されていましたか。
竹中:
「多くの人に見て欲しい」というところが出発点にあったので、もちろんそこには女性視聴者も含まれていましたが、まさか今回のようなランキングで1位になるとは思っていませんでした(笑)。
大張:
男女問わず、国も問わず、いろんな方々がファンアートなども描いてくださっていて嬉しい限りですね。僕は反響が気になって、SNSも見ていましたけど、放送される度にリアクションやいろんな意見もいただいて。作業は終わっていたのでそれによって作品の内容が変わるということはありませんが、新たな視点をもらえて勉強にもなりました。
あと、やっぱり僕は絵描きなので、ファンアートが多くて本当に嬉しかったです。こうして作品を面白がってくださるのって、作り手冥利に尽きますからね。
――放送終了以降も、映画『ヴェノム:ザ・ラストダンス』、ホテルニューオータニとのコラボなどでたびたび話題になっている『ブレイバーン』。今後の展開はどのように考えていますか。
大張:
詳細発表はこれからですが、先日(12月28日)発表した通り、まずはDDTプロレスさんとのコラボが年明けに決まっています。
/
🚨特報‼‼
\🔥勇気爆発バーンブレイバーン × DDTプロレス コラボ決定🔥
描き下ろしイラストなど様々な展開を予定❗ 詳細は来年1月26日(日)後楽園ホール大会にて発表‼ 乞うご期待✨https://t.co/WW1TaRYu2X#anime_bbb #ブレバン #ddtpro pic.twitter.com/qi7KwQBy68
— DDT ProWrestling (@ddtpro) December 28, 2024
竹中:
先方からコラボ相談をいただいたのですが、僕はなんで『ブレイバーン』がプロレスとコラボするのかよく分かっていないんです(苦笑)。『ブレイバーン』は版権フリーなので……というのは冗談ですが、オリジナルアニメなので基本NGはありません(笑)。
そのため、ありがたいことにかなり多方面からコラボのご相談をいただいています。今後もコンスタントに、コラボやポップアップショップなどの開催が控えているので、ぜひ楽しんでもらえたら嬉しいですね。
――これだけ話題になったので、続編を期待するファンも多いと思いますが……。
竹中:
いやぁ、続編ね。なにかしらはしないといけないなとは思っています。
大張:
映像をやりたいですよね。
竹中:
……という気持ちは、我々にもあるんですよ。
――では、期待して待っていてもいいのでしょうか。
竹中:
いや、そんなには期待はしないでください(笑)。だってアニメ放送開始前も、「『勇気爆発バーンブレイバーン』って何? あのキービジュアルでタイトルこれって何?」って皆さん絶対期待していなかったと思うんですよ(笑)。なので、それくらいの気持ちで待っていてもらえればと思います。
――最後に、放送開始から約1年経った今、改めておふたりにとって『勇気爆発バーンブレイバーン』はどんな作品になりましたか。
大張:
大張正己の最新作にして代表作になりました。アニメ業界以外の方や海外クライアントの方からも、“『ブレイバーン』の大張正己”と言っていただける。それだけこの作品が響いたということだと思うので、やってきたことは正解だったんだなと自信が持てましたし、僕にとって本当に深い思いが乗った作品となりました。
竹中:
プロデューサーとして、多くの人に見てほしい、話題になってほしいと考えては作っていましたが、結果としていい意味で全然想像通りにいきませんでした。だからこそ、この作品を通して、アニメのさまざまな可能性を感じましたね。
それこそ、ロボットアニメでこんなに女性層が見てくれるとは考えてもいなかったですし、放送開始から1年経っても話題にしてもらえるアニメになるとは思っていなかったですし。僕の通過点の1つとして、いろいろな作品に向き合っていけるといいなと思っています。言葉にするのが難しいのですが、『ブレイバーン』は夢なのかなと。
大張:
本当のヒットアニメってオリジナルからしか生まれない気がしていて、今回それを体現できた気がします。アニメーションの現場が中心となってオリジナル作品を発信する。その場を与えてくださった竹中さんには本当に感謝しています。
竹中:
それは同じく僕も感謝しています。実は今年は、弊社の採用面接で「ブレイバーンを見て応募しました」と言われる場面が多くて(笑)。本当にそれでいいのか?という気持ちはありつつも、いろんな意味で可能性が繋がった作品となりました。
大張:
本当ですね。今後とも、ぜひとも本作の応援をよろしくお願いします。
(取材・執筆=双海しお、編集=阿部裕華)
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます
特集記事
ランキング
電ファミ新着記事
ランキング
特集記事