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森川智之「BLはもう僕の手から離れた」TVアニメ『ただいま、おかえり』で“帝王”が感じたボーイズラブ業界の変化と家族の温もり

BLはもう、僕の手から離れていった感覚がありますね

BLが「やおい」という呼称で楽しまれていた時代から多くの作品に出演し、尊敬の意を込めて「BLの帝王」と呼ばれている声優・森川智之さん。

そんな帝王の元から“離れていった”とは、どういうことなのでしょうか。その背景には、どうやら昨今のBL作品の広まりがあるようです。

森川さんが一家の大黒柱・藤吉弘役で出演するTVアニメ『ただいま、おかえり』は、α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)の3種の人間が存在し、男女に関係なく妊娠することができる「オメガバース」という架空の世界を描くストーリー。

夫・藤吉弘(α)と専業主夫の藤吉真生(Ω)、そしてもうすぐ2歳になる息子・輝との幸せな日常を描いています。

毎週の放送時間にX(旧:Twitter)では「#ただおか」で多くのファンからラブコールが寄せられるほど盛り上がりを見せている本作ですが、オメガバース作品のアニメ化に初めは「ついに地上波で!」との驚きの声が飛び交いました。

本作のみならず、BL作品の実写ドラマや映画化が相次いでヒットを記録する令和の時代。

それを見て帝王は今、何を思うのでしょうか。BLへの熱い思いと『ただいま、おかえり』の魅力について、たっぷり伺いました。

>>真生役・田丸篤志さんのインタビューはこちら

「BLはもう、僕の手から離れた」

ーー『ただいま、おかえり』には、2020年発売のドラマCDから出演されています。アニメ化が決まった時の心境はいかがでしたか?

森川智之(以下、森川):
まずはうれしかったですし、続投が決まって安心しました。実はアニメ化するに当たって、キャスト変更があるのではないかと少し不安もあったんです。

BLを題材にした作品だとそういうことは珍しくないですし、そもそもアニメ化すること自体難しい場合もありますからね。

ーーたしかに、オメガバース作品がアニメ化した事例は、今作が初めてですよね。

森川:
でも『ただいま、おかえり』は家族愛とか人と人との関係性が主軸にある作品で、より多くの人に見てもらいやすいので映像化の壁が取っ払えたのかもしれません。

ただいま、おかえり

タイトルにある通り「ただいま」「おかえり」って言い合える温かさとか、日常の中の小さな幸せを描いていて、どんな人でも共感できる作品といいますか……。だからこそ、多くの方に見ていただく機会を得ることができたのではないかと、僕は思っています。

でも、古くからBL作品に携わらせていただいた僕から見ると、最近はその間口が広がりつつあると感じているんですよ。

ーーBL作品がよりライトに楽しめるものになってきている、ということでしょうか?

森川:
はい。ここ数年で実写ドラマや映画化されたBL作品って、本作以外にも多くありますよね。

もともとはBLに詳しくなかった方でもそういった作品に触れて、友達や家族と感想を言い合ったり、SNSで発信したりしているじゃないですか。

一昔前は、どうしても「BL=一人でこっそり楽しむもの」と言いますか……“秘密の花園”みたいなイメージが強かったと思うんです。もちろん、それはそれで魅力の一つとして残っているとは思うのですが。

それが今となっては、BL作品が好きだと公言したり、周りと共有したりしている方が増えてきましたよね。

そういう光景を見ると、以前よりオープンに楽しめるものになったんだなと実感します。あくまでも僕の肌感覚で言うと、ですけどね。

ただいま、おかえり

ーー『ただいま、おかえり』はオメガバースという特殊な設定がありますが、そうした作品がアニメ化されるのも、BLをオープンに楽しむ人が増えつつある証拠の一つかもしれません。

森川:
そうですね。エンターテインメントの一つとして受け入れられるための基盤が、BL業界にはすでに出来上がっているのだと感じますね。

なんと言いますか、「僕が見たかった世界」がもう目の前に広がっているな、と思います。

ーーどういう意味でしょう?

森川:
僕はずっと、もっと多くの方にBLの魅力が伝わればいいなと思っていたんですよ。

まだ今よりもBLが“隠れて楽しむもの”とされていた頃、20年以上前から、BL作品の魅力を伝えるラジオ番組でMCを担当していたんです。大規模なホールで行われたBL作品のイベントにも登壇しましたね。

そうやって「見る側」であるファンの方に広める努力をするのはもちろんのこと、「演じる側」にも伝えたいと思って、昔から色々と頑張っていたんですよ。

ーー声優さんや俳優さんにも、BLの魅力を伝えていたということですか?

森川:
はい。昔は「どうしてもこの手の作品には出たくない」という声優さんが多くて、生活のためにやむを得ず出演する人も少なくなかったんです。

もちろん、良さを理解して出演される先輩方もたくさんいらっしゃいましたけどね。三ツ矢雄二さんに関しては、「森川さんが帝王なら、僕は創始者だ!」って仰っていたくらいで(笑)。

でもやっぱり、「こういう作品は自分のイメージと違うから控えたい」とか「出演するなら別名義がいい」という方が多くて。

だから当時、声優の後輩や先輩に「BLって良いんですよ」って魅力を伝えて回っていたんですよ。

ただいま、おかえり

ーーBLの布教活動を、直接行っていたとは……さすがです。

森川:
少しでもその世界を知ってくれたら、絶対に「演じてみたい」って思ってくれる確信があったので。

そうやって頑張った結果、少しずつ「BLっていいね」と言ってくれる方が増えていって、今や若手の中では「やってみたい」とか、「興味がある」と言ってくれる子が増えてきた印象があります。

つい先日も、僕が出演しているインターネット配信番組で声優の井澤詩織さんが来てくれたのですが、僕がMCをしていたBLのラジオ番組を当時、聴いてくれていたそうで。

そういう世代の子達が今はプロとして活躍して、僕の代わりにBLの魅力を発信してくれているのを見ると、「もう僕だけじゃないんだな」と嬉しくなります。

こんなことを言うのはすごくおこがましいのですが、「ようやくBLが僕の手から離れていったな」という感覚がありますね。

もうBL作品を世に送り出すための準備は出来たから、あとは僕たち演者が作品を愛して、どう表現していくのかを試行錯誤するフェーズに入ったのかな。

BLには“呼吸感”が大切「二人の密な掛け合いが肝になる」

ーー森川さんにとって、BLの最大の魅力はどこにあると思いますか?

森川:
やっぱり“禁断の”関係の中で純粋な恋心を成就させる、ということかなと僕は思います。

例えば『ロミオとジュリエット』とか、身分違いの恋物語は昔から人気がありましたよね。

二人の間に高い壁があったとしても、それを乗り越えるほど強く想いあっているのを見ると、やっぱり応援したくなるじゃないですか。

そういう意味では、「男性同士」という設定が最高なのかなと思いますね。もちろん、今は多様性を受け入れる世の中にはなりつつありますが。

『ただいま、おかえり』も、身分違いの恋といえばそうですよね。

オメガバースの世界ではエリートとされる弘と、差別の対象とされやすいΩの真生。困難があるからこそ、「二人を応援したい」という気持ちになってさらに魅力的に映るのかなと思います。

 

ーーBL作品を演じる上で、特に意識していることは何ですか?

森川:
一番大切なのは、“呼吸感”ですね。当たり前ですがBLって必ず相手が存在して、二人のセリフの掛け合いが中心になっているじゃないですか。

攻めのセリフの後に受けのセリフがあったとすると、台本上ではその間に何も書かれていないけど、必ず二人の中には感情が存在している。

その行間をきちんと読み取って演技に落とし込むためには、“セリフを考える”ことが大切だと考えています。

ーー「セリフを考える」とは?

森川:
セリフを読み上げる時、キャラクターがどんな心情なのか、それに至るまでにはどんな背景や経緯があったのか、きちんと考えて声にするということです。

キャラクターとしてその場に生きているつもりで声にしないと、セリフではなくてただ「音声化された文字」になってしまうんですよね。

もちろんBLでの演技に限った話ではないのですが、二人の密な掛け合いが肝になるBLにおいては、特に重要だと思います。

ドラマCD作品が基本なので、相手役の声優さんと一緒に短時間で収録することが多いのですが、二人のセリフがうまく噛み合うと、すごく楽しいんですよね。自然な流れで繋がって、ずっと会話していてもいいなって思えるくらい。

田丸(篤志)くんとW主演として出させてもらったのは『ただいま、おかえり』のドラマCDが初めてだったのですが、全く心配なかったですね。

初めから呼吸もぴったり合っていましたし、安心して弘を演じることができました。

ただいま、おかえり

「ただいま」「おかえり」を言える、“当たり前”の幸せを感じてほしい

ーー現在放送中のTVアニメ『ただいま、おかえり』の第1話をご覧になって、いかがでしたか?

森川:
想像以上の仕上がりでした。自分がいちファンとして楽しめる作品になっていたのが、嬉しかったです。

実は第1話をアフレコしたのは放送日のだいぶ前だったのですが、当時「こんな仕上がりになればいいな」と思って声を吹き込んだものがイメージ通りに表現されていて、感動しましたね。

ただいま、おかえり

ーー完成系をイメージされて収録されたのですね。弘を演じる際には、どんなことを意識しましたか?

森川:
これまでに色んな“攻め”役を演じてきましたが、弘の場合は男らしさもありつつ、柔らかさと優しさを兼ね備えているんですよね。「寄り添う攻め」と表現すればいいかな。

その雰囲気が伝わるように意識して演じましたし、その他にもさまざまな問題を抱えているキャラクターでもあるので、それを表現するように心がけました。

ーー例えば、「格差婚」と言われることに対しての苦悩などですか?

森川:
それもありますが、オメガバース云々を抜きにしても、初めての子育てってすごく大変なことじゃないですか。

分からないことだらけの状況で色んなトラブルが生まれてくるだろうから、それに立ち向かう若い“ふうふ”が抱える苦悩の方が大きいですね。

なるべくリアルな、等身大の父親としての弘を演じたかったので、そこは意識しました。

ただいま、おかえり

弘って、会社ではエリートだと評価されている一方で、親バカになる瞬間もあるじゃないですか。第1話の冒頭では、同僚の松尾に対して、真生と輝の動画を見せてデレデレするシーンがあったり(笑)。

そういうところを見ると、守るべき存在があるからこそ弘は仕事を頑張れるんだろうなと思うんです。

「プライベートと仕事は別物」と考えるのも決して間違いではないとは思いますが、やっぱり弘のように、大切なものや「ただいま」って帰る場所があるからこそ、仕事を頑張れる人は多いんじゃないかな。

それがすごくリアルで、共感できるポイントでしたね。

ーー先日真生役の田丸篤志さんにもお話を伺ったところ、「森川さんはアフレコ現場でも大黒柱のような存在だった」と仰っていました。森川さんから見て、現場の雰囲気はどうでしたか?

森川:
大黒柱かぁ(笑)。僕自身は全然そんなふうに思っていなかったですね。むしろこの作品の大黒柱は田丸くんだと思っていたので。

ただいま、おかえり

現場では田丸くんが中心になって引っ張ってくれて、輝役の種﨑(敦美)さんが天才的な演技を乗せることで、作品にさらなる魅力が加わった印象がありました。

そこに陽役の小原(好美)さんや浅沼(晋太郎)くん、八代(拓)くんとか、ほかのキャスト陣も加わって、終始和やかな雰囲気の中で収録できたと思います。

ファミリードラマの収録って、なんと言うか、現場が自然と「幸せモード」みたいな雰囲気になるんですよね。

バトル作品の「よし、戦うぞ!」みたいな緊張感は全くなく、いつもほんわかした空気が漂っていて。原作の力でもあるのかな。個人的には、すごく癒されました。

ただいま、おかえり

ーーアフレコ現場も作中の雰囲気と同じだったのですね。TVアニメ『ただいま、おかえり』はどんな人に観てほしいですか?

森川:
世代問わず色んな方に観ていただけたらと思いますが、ちょうど新年度がスタートして間もない頃なので、新しい環境で頑張っている方にはぜひおすすめしたいですね。

慣れない生活に疲れを感じ始めた時、『ただいま、おかえり』という愛に溢れたタイトルを聞くだけでも癒されると思うんですよね。それをきっかけに、作品に興味を持っていただけたらうれしいです。

きっと、「ただいま」「おかえり」って言い合える存在の尊さとか、今日一日を無事に過ごせたことのすばらしさを実感できると思います。

弘には真生と輝、そして陽がいますが、家族と離れて暮らしている人でも、どんな人にも“帰る場所”は必ずあるはず

そんなかけがえのない場所に「ただいま」と言える幸せを、ぜひこの作品から感じとってほしいなと思います。

(取材・執筆:柴田捺美 編集:阿部裕華)

作品概要

『ただいま、おかえり』

■放送情報
TOKYO MX
4月8日(月)より毎週月曜 24:30〜
MBS
4月12日(金)より毎週金曜 26:53〜
BS日テレ
4月10日(水)より毎週水曜 25:00〜
アニマックス
4月13日(土)より毎週土曜 23:00〜

■配信情報
FOD
4月8日(月)より毎週月曜 24:30〜見放題独占配信中

その他プラットフォームにて配信中

■キャスト
藤吉真生:田丸篤志
藤吉弘:森川智之
藤吉輝:種﨑敦美
藤吉陽:小原好美
平井祐樹:八代拓
松尾知泰:鳥海浩輔
望月仰人:浅沼晋太郎
望月満:本渡楓
松尾優人:増田俊樹
松尾秀人:興津和幸

■スタッフ
原作:いちかわ壱「ただいま、おかえり」(ふゅーじょんぷろだくと刊)
監督:石平信司
副監督:松村樹里亜
シリーズ構成:中村能子
キャラクターデザイン:大沢美奈
美術監督:黛昌樹
色彩設計:安住唯
撮影監督:近藤慎与
編集:小野寺桂子
音響監督:はたしょう二
音響効果:出雲範子
音楽:大橋恵
音楽制作:日本コロムビア
アニメーション制作:スタジオディーン

■公式X(旧Twitter):https://x.com/tadaoka_anime
■公式HP:https://tadaoka-anime.com/

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柴田捺美

サンリオを初めとしたKAWAII文化をこよなく愛するライター兼イラストレーター。その他占い、アニメ、BLなど得意と好きを生かして幅広く執筆を行う。

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