まりも
アニメ作品を扱う某テーマパーククルー、原宿ファッションメディアのライター、アニメ作品のコラボカフェ企画、グッズデザインを経てアニメライターに。ONE PIECEとロロノア・ゾロを人生の主軸・指針としています。
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。
2024年8月の深堀りテーマは“ホラー”。「苦手…」と言いつつ、ついつい見たくなる・聞きたくなる…「ホラーを推す」特集を実施中。
35度を超える日が続く、暑すぎる夏。イベントの多い時期とはいえ、これほどの酷暑となると外出も億劫になりますよね。この夏は涼しいお部屋でアニメを観るのが至福のひとときという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回、まもなく『ONE PIECE』ガチオタ歴15年を迎える筆者が、体感温度を少しでも下げたい今夏にぜひ観てほしい、ホラー級に怖いアニメ映画『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』についてご紹介していきたいと思います。
本作は、『サマーウォーズ』『時をかける少女』『バケモノの子』などで知られる細田守氏が監督を務めた作品。偉大なる航路(グランドライン)を航海中、「オマツリ島」に立ち寄った麦わらの一味の冒険を描いています。スパ付きのリゾート地でお宝探しと意気込む一行でしたが、上陸した「オマツリ島」は異様な空気で……!?
“今度の冒険(えいが)、もれなく笑いがついてくる!!”というやたら明るいコピーと弾けるような笑顔の麦わらの一味が並ぶ、楽しげでポップなビジュアルと温度差の激しい本編。「怖すぎてトラウマ」「子ども向けではない」と、2005年の公開当時から話題になっていました。
実際、『ONE PIECE』にまだハマっていなかった当時まだ小学2年生の筆者もミーハー心で映画館へ連れて行ってもらい、あまりの怖さに劇場で顔を覆った記憶が……(笑)。
そんな『ONE PIECE』ムービーシリーズの中では異色とも言える本作のとくにコワい3つのポイント「崩壊していく麦わらの一味」「スプラッター映画のようなグロテスクな戦闘シーン」「ゾクっと鳥肌が立つラストに向けた伏線」を解説していきます。
INDEX
ファンの間でも「怖い」という感想が第一にあがってくると言っても過言ではない本作ですが、何がそんなにコワいのか? まずは、なんといっても視覚に訴えかけてくるコワさがあります。
控えめな色彩となめらかさのある線が織りなす独特なタッチの作画……普段の『ONE PIECE』の世界観とは雰囲気の違う不気味さがあります。
オマツリ島の描写は、リゾートと称しながらほとんど人の気配がなく寂れているだけではなく、無数の墓石が立ち並んでおり、まるでホラーゲームの舞台のよう。
そして突如現れる敵キャラたちは賑やかでハイな雰囲気から一転、意味不明なことを口走ったりグロテスクに姿を変えたりと、ポップな第一印象を容赦なく裏切って襲いかかってきます。中でもオマツリ男爵の部下であるDJガッパは、何度見てもゾクっとくる気味の悪さ。ホラー味が強いので、見る方はご注意を。
そんなミスマッチが重なり合う独特な環境に放り込まれた麦わらの一味もまた、普段の彼らを知る人が観たら「一体どうしちゃったの……?」と不安になる言動の数々……こちらの恐怖心を煽ってきます。
たとえば、ウソップがナミに対し彼女の過去を知る者からは出るはずのない一線を越えた暴言を浴びせたかと思えば、いつ何時もナミファーストで優しいあのサンジが余裕を無くしてナミにまで怒鳴ったり、苛立ちをぶつけるかのように仲間に食事をさせなかったりと冷たくて……。
ゾロも開幕直後からなぜかずっとイライラを募らせており、ナミもだんだん語気が強くなって、いつもの痴話喧嘩とは明らかに温度の違う“ガチ”な言い合いを繰り返す。そうしていくうちにギスギスしていき、まさしく“仲間割れ”状態に。
どんな苦境も力を合わせて跳ね返しポジティブに乗り越えていく、絆が強固なあの麦わらの一味はいったいどこへ……!? と、正直ファンとしては精神的にクるものがあります。
しかし、こんなふうに仲違いをする麦わらの一味が描かれたのは、「仲間だからこそ時にすれ違って信頼を深めていくもの」という細田監督ならではの見解からなんだとか。過去のインタビューでは「仕事での実体験に基づいている」とも語られており、険悪になっていく過程のリアルさにも納得。ネット上では「麦わらの一味の性格がまるきり違う」というレビューもよく目にしますが、これも細田監督の思いが込められているからこそなのです。
そして本作のコワさを象徴する存在といえば、リリー・カーネーション。
一見、オマツリ男爵の肩にちょこんと咲いている、お顔も声もとても愛らしい花。しかしその正体は、“生きた人を取り込むことで死者を蘇らせる力”を持つ化け物だったのです。
可愛らしい姿から少しずつ異変が生じ、牙と触手をもつおぞましい、本来の姿を現した瞬間は完全にホラー! その体内にぐちゃりと麦わらの一味を取り込んだ姿も恐ろしく、直視するのをためらうレベルのグロテスクさ……。バトルの末に倒れる瞬間は、スプラッター作品に負けず劣らずなグロ描写で抜かりなく恐怖をお見舞いしてくれます。
また、さらに衝撃的なのは、バトル中にグロ怖指数マックスのリリー・カーネーションから放たれた無数の矢が身体中に刺さったルフィの登場。白目を剥いて呻きながらヨタヨタと歩くルフィの痛々しい姿は、さながらゾンビ映画のワンシーンです。
開幕から少しずつ積み重なってきた不気味さや違和感が爆発するかのように、この場面で一気に畳み掛ける強烈なホラー描写は、あの『ONE PIECE』にも関わらず「トラウマ映画」という評価を生みました。
一方で、意識も朦朧の中、仲間への強い想いのみで戦い続けるという、いつものルフィらしさを垣間見ることができるシーンでもあったりします。
また、最後に尾を引くような恐怖を残していくのも本作のコワいポイント。
ラストシーンではついにオマツリ男爵の心の内に触れ、本編中に散りばめられていた伏線の数々に気付かされることになります。
その伏線の中で、かなり(コワくて)印象的なのが、オマツリ男爵の部下であるムチゴロウが気が狂ったかのように支離滅裂なことを言いながら朽ちていくシーン。死の前兆を演出するための不思議発言かと思いきや、言葉の本当の意味が映画の最後に判る仕掛けになっているのです。
伏線に気づいた上で知るオマツリ男爵の気持ちにはちょっぴり共感してしまい感傷的にもなりますが、それでもコワさが勝ってしまう。「あの特徴的な頭も、海底の描写も、手配書の謎も、つまりそういうことだったのか……」と、切ない感動系ホラーのような余韻を残す秀逸なラストは、ぜひじっくり本編を観て体感していただきたいと思います。
さて、ここまで耐え難い暑さをクールダウンしてくれそうな本作の恐怖ポイントを語ってきましたが、もちろんホラー一辺倒な映画というわけでもありません。
軽快なギャグシーンやデービーバックファイト編を彷彿とさせるテンポの良いゲームシーン、そして勝利のラストに向けた希望の示し方やストーリーのまとめ方にはしっかりと『ONE PIECE』を感じることができ、見応えのある作品になっています。
また、本作の安心要素ともいうべきお茶の間海賊団の親子3人組も細田作品らしい味わいがあり魅力的なので、ぜひそちらにも注目して募る恐怖を和らげてくださいね。
(執筆:まりも)
まりも
アニメ作品を扱う某テーマパーククルー、原宿ファッションメディアのライター、アニメ作品のコラボカフェ企画、グッズデザインを経てアニメライターに。ONE PIECEとロロノア・ゾロを人生の主軸・指針としています。
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