BL作家は「妄想の合間に日常がある」レジェンド小説家が明かす“想像の広げ方”【岩本薫、榎田尤利、木原音瀬】

男性同士の物語を紡ぐBL作家。繊細な言葉で彼らの世界を表現し、私たちの元へと物語を届けてくれる存在です。

そんな第一線で活躍する商業BL小説家や漫画家らが集う商業BLイベント、『ちるちるフェスティバル』(主催:株式会社サンディアス)が2024年4月5日から7日までの3日間にわたって開催されました。

「ちるフェス2024」公式サイトより

「ちるフェス2024」公式サイトより

numanでは商業BL小説家のレジェンドである、岩本薫先生、榎田尤利先生、木原音瀬先生が登壇した「BL小説のこれまでとこれから」を取材。

声優の野島裕史さんが進行を務め、先生たちの執筆におけるこだわりや、BL小説家にはどういう人が向いているか、トレンドはどう意識しているのか……など興味深い話題が語られる回になりました。

「小説家には小説をあまり読まない人もいる」「妄想の合間に日常がある」など印象的な言葉が続々と飛び出し、BL作家を志す人はもちろん、BLファンにとっても必聴のイベントとなりました。

生活の中で「何に心を動かされたか」を大事にしている

登壇した3先生は、それぞれ小説大賞や雑誌投稿からBL小説家としてデビューを飾りました。野島さんから、「皆さん最初から作家志望だったのでしょうか」と聞かれると、3人とも即答で「NO」とまさかの回答。

出版系の会社で働いていた榎田先生は「小説家として食べていくのは難しいと分かっていた。けれど、物語を書くのもBLも好きだったので、投稿していたらお声がかかった」といい、その時に「BL小説家」の道が開けたと語ります。BL小説家レジェンドでも、デビューはなかなかの幸運だったと感じているようです。

精力的に作品を生み出していく先生たちに対して、ちるちるユーザーから事前に寄せられた「執筆活動において、どのようなものから刺激を受けていますか?」という質問がぶつけられます。

「ちるフェス2024」BL小説のこれまでとこれから

木原先生は、「ドキュメンタリーや実録ものの映像作品などをよく見る」との回答。ドキュメンタリーや実録作品は「実在する人間の感情の動きやリアルな反応が見られるので、作中のキャラクターを動かす際の参考になる」と独自の視点を解説します。

岩本先生も「他の作品で見たストーリーや要素を自作品に取り入れるということは無いですけど、生活の中で自分が『何に心を動かされたか』という事実は大事にしている」と語ります。

「私も作品に現実の出来事が影響しているな、と思うことはあります」と榎田先生も同意。「特定の作品から刺激を受けて執筆する」というより、日々の生活の中で研ぎ澄まされた感性を重要視していることが読み取れます。

「ちるフェス2024」サイン色紙

その事実に野島さんも「小説家の方は、『小説作品をたくさん読んでいて、そこから影響を受けて執筆している』というイメージがありました」と驚いた様子。「意外に映画や実際の生活だったり、小説以外の部分から刺激を受けることが多いですね」と、会場の皆さんの気持ちを代弁。

すると、木原先生は「資料として小説を読むことはありますね。実生活だと、やっぱり読むとしたらノンフィクション作品が多いかな」。他のお二人も「確かに!」と盛り上がります。

榎田先生が「小説をあまり読まない小説家もいるということですね」と暴露すると、会場は驚きに包まれました。

BL作家に向いているのは「妄想しないと窒息する人」

多作な3先生だからこそ、そのあふれるようなネタ元が気になるもの。ちるちるユーザーから「アイディアを思いつくのはどんなとき?」との質問が寄せられます。

榎田先生が「私は基本的には、日常の中でいつも妄想しているので、そこで思いつきますね」と独自の視点を熱弁します。「妄想の合間に日常がある、という感覚。料理や掃除をしながらも、ずっと妄想している」と語ると、客席のBLファンたちも「分かる!」と賛同ムード。

(C)photoAC

「BL小説家に向いている人は、妄想していないと窒息してしまうくらい妄想が好きな人だと思います! われわれBL小説家は、妄想をしていないと日常に支障が出ます!」というパワーワードが連続で飛び出し、会場が笑いに包まれました。

木原先生も「面白い出来事に遭遇したときは、そこから想像を広げますね。『私だったらこうするな』とか、『こうなったら面白いかも』と膨らませて、より面白いストーリーに進化させるみたいな」と極意を伝授。

日々の生活の「面白いこと」を見逃さない想像力・妄想力が、魅力的なストーリーを生み出す重要なポイントなのかもしれません。

次々と変わるBLトレンドにどう対応していくのか

商業BLは漫画、小説に関係なく時代によって「トレンド」が生まれやすいジャンル。かつては「スパダリ」と言われる裕福で社会的身分が高い攻め・平凡な受けとの格差をベースに展開する作品が多かったものの、最近は日常系BLが主流だと言われています。

さらに「オメガバース」などのファンタジー要素を持つ作品の人気も高まってきました。長年の間、商業BL小説家として最前線で活躍するお三方だからこそ、その「トレンド」を正直どう思っているかを知りたい……。

そんなBLファンたちの思いを汲み取った野島さんが、「時代によって執筆したいモチーフは変わりますか? 先生がたはトレンドをどれくらい作品に取り入れますか?」と切り込んでくれます。

(C)photoAC

木原先生は「わたしはトレンドだからといって、作品に取り入れない。『流行っているな~』と思って、遠巻きに見ていますね」と回答。

榎田先生も“無理に取り入れない派”。「トレンドに沿った作品を生み出すというよりは、自分が持っている手札で皆さんが喜んでくれる作品を書きたいので」と真っ直ぐな持論を語ってくれます。執筆の依頼の際にも、「トレンドを取り入れた作品にしてください」というオファーが来たことはないそう。

「そのトレンドが好きな作家さんの方が、私より素敵な作品を生み出せることを分かってもらっている気がします。なので私は、自分が好きな要素で勝負したいと思っています」。意外にもレジェンドたちの間では、「BLトレンドを無理に取り入れない」が多数派なようです。

(C)photoAC

対する岩本先生は”出来るだけ取り入れる派”。著書にも『共鳴発情』などオメガバースを扱った人気作もあります。「トレンドの設定やモチーフを、ストーリーのスパイス的に使うようにしています」と時流を掴む方法をレクチャーしてくれます。

榎田先生が「昔は『アラブの石油王と花嫁』みたいな設定がトレンドだったのに、今はすっかり『日常系』が流行りですよね」とかつてを思い出すと、岩本先生は「でも、私はいまでもお金持ちの攻めを書くのは好き!(笑)」と明るく話します。岩本先生は、トレンド最先端を走りながら、現在でも「リッチな攻め」が書ける、希少な作家の一人であるようです。

三者三様に「トレンド」に向き合いながらも、自身の作品の色や執筆スタイルに基づいて適切なスタンスを大事していることが分かります。

優先するのは読者?自身の萌え?

BLトレンドで盛り上がる中、「自分が書きたいものと読者の読みたいものが異なっている場合する?」という刺激的な話題に移ります。榎田先生は「『自分の書きたいもの』と『皆さんが読みたいもの』が一致していると信じています!」と強気の姿勢。

トレンドこそ無理に追わないものの、もっと深い所で「読者の方が求めているもの」には敏感でいようという心構えでいるそうで、「BLファンの皆さんの“萌え”を受信して、それを形にして生み出せるような小説家でありたいと思っています」と語ります。

(C)photoAC

木原先生は「私は『自分が書きたいもの』を優先」といい、「新しいトレンドを打ち出していきたいタイプなんです」とさらりと話すと、野島さんが思わず「かっこいい!」と感動。

「新しい流行を木原先生が打ち出して、BLファンの皆さんに受け入れられていくんですね」と感慨深くいうと、木原先生は「もちろん、受け入れられないときもあります」と笑って空気を和ませました。

BLを書く理由は「喜んでほしいから」

唯一「トレンドを取り入れる派」の岩本先生は、「この問題については、昔は結構悩みました」と打ち明けます。しかし、自身がBL小説を書く理由について深掘りしていくと、「読者に喜んでほしいから」という理由だと気付いてからは、心情が一転。

いまでは、「自分が書きたい」より「読者に喜んでもらいたい」という気持ちを重視して、読者の萌えやニーズに寄り添う執筆を心がけるようになったとのこと。「でももちろん、全く萌えないシチュエーションだと書けないので、好きな設定やキャラクターを採用するようにしています」と譲れない芯が垣間見えました。

(C)photoAC

それぞれの先生の「BL小説家」という職業への向き合い方についてたっぷり語り尽くされ、BLファンのほか、創作活動を行う人にも有益なステージとなりました。

先生たちの真摯な回答に、大盛り上がりで幕を下ろした「BL小説のこれまでとこれから」。また来年の「ちるフェス」に今から期待が高まります。

(執筆:住岡)

登壇者プロフィール

岩本薫先生
1997年に小説『TOUGH!』でデビュー。『共鳴シリーズ』『発情シリーズ』『ロッセリーニ』など、多数のシリーズBL小説を執筆する。職業BLからオメガバースまで幅広い作品が特徴。現在、ihr Hertzにて「Ωの花燭 共鳴恋情」連載中。

榎田尤利先生
小説雑誌『JUNE』内の投稿コーナー「小説道場」の出身。2000年に投稿作品だった『夏の塩』が文庫化、商業デビューを果たす。ちるちるが主催する「BLアワード 小説部門」を3回受賞。著書に『nez[ネ]』シリーズ、榎田ユウリ名義の『カブキブ!』、中村明日美子さんとの共著『先生のおとりよせ』がある。

木原音瀬先生
1995年に小説『眠る兎』でデビュー。『美しいこと』『パラスティックソウルシリーズ』など、多くの著書を持つ。昨年末にファンタジーBL小説『吸血鬼と愉快な仲間たち』最新作が発売。BL小説以外にも一般誌でも執筆している。

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住岡

アニメ、漫画、2.5次元・アイドル・声優などのジャンルを一通り嗜むライター。自宅が商業BLの山に埋もれている。お笑いも好き。

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