『BOW AND ARROW』ジャケット

『メダリスト』OP、フルVerは印象が異なる? 米津玄師の深い解釈と巧みな技巧が圧巻だった

「BOW AND ARROW」、和訳すれば「弓矢」となる今回の主題歌の曲名。
この言葉はまさに、物語の主人公である司&いのりの関係性にジャストフィットする表現ともなっています。

優秀な矢=選手を送り出すには、こちらも優秀な弓=コーチの導きが必要不可欠。弓と矢は二つで一つであり、矢は弓があってこそ、弓は矢があってこそ輝く。

そんな作中の二人の関係性を、非常に端的かつこれ以上ない表現で表した曲題。それがこの「BOW AND ARROW」なのです。

また予告PVにも盛り込まれていた、楽曲の中にある<手を放す>という歌詞。

この言葉には「保護される側(いのり)の自立を促すべく、保護者(司)が<手を放す>」と、「弓を引いて矢を放つ際に<手を放す>」の二つの意味が込められており、その巧みなワードチョイスも大きな話題に。

重ねてOP映像では該当シーンに「いのりが司との試合前ルーティンを終え<手を放す>」の動作も重ねられていたことにも、大勢の原作ファンが感動していました。

このように、主人公の師弟コンビをこれ以上ない表現で表した曲名「BOW AND ARROW」。この『メダリスト』という物語には、司&いのり以外にも様々なコーチと選手のコンビが登場します。

いのりのライバルとなる選手たちも、皆幼い頃からフィギュアスケートの世界で戦い続け、ワールドクラスのトップ選手を目指し厳しい練習を重ねています。

『メダリスト』2巻(講談社)

『メダリスト』2巻(講談社)

コーチ陣もみな、そんな彼女たちの夢を本気で叶えるべく伴走している点は同じ。様々な性格・価値観のキャラクターがいる分、コーチと選手の関係性もまさに千差万別です。ですが司&いのりと同じく、彼らも皆等しく一対の弓矢であるとも言えますね。

矢=選手はより美しく、より遠くへ、より高みへ飛んでいくために。
弓=コーチもまた、選手となる彼女たちをより遠くへ、より高みへ導くために。

司&いのりだけでなく、作中すべてのコーチ&選手の奮闘と輝きを描いた楽曲。それが主題歌「BOW AND ARROW」でもあるのではないでしょうか。

「e」で韻を踏む歌詞。踏まない言葉には重要なメッセージが

また今曲の配信リリース直後には、米津さん自身の口から楽曲制作時のエピソードが語られたインタビュー記事(※)も公開されました。

※米津玄師「Plazma」「BOW AND ARROW」インタビュー|あの頃の気持ちで、軽やかな自分で 今解き放つ2つのアニメ主題歌:https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi30

その中で大勢が特に注目したのは、やはり歌詞に関するテクニックでしょう。今回の歌詞について、米津さんは特に1番で母音「e」の音で韻を踏むことを意識。

確かに内容をよく見ると、フレーズごとの末尾はすべて<靴は汚れ><雨><そのままで><夢>と、母音が「e」の言葉になっています。

ですが曲が進む中で一部、その法則に当てはまらない歌詞が登場します。

<きっとこの時を感じる為に生まれてきたんだ>
<今に見なよ きっと君の眩しさに誰もが気づくだろう>
<見違えてく君の指から今 手を放す>

この部分はすべて、米津さん自身が曲中でも特に重要なメッセージを込めた部分です。

上記の歌詞の一節は、いわば教え子・いのりを見守るコーチ・司の心情を、非常に解像度高く代弁するようなフレーズともなっています。特に<手を放す>の箇所は、先ほど登場した弓矢の例えにも通ずる表現ですね。

特に聴いて欲しい部分の歌詞に上記のようなテクニックを用いて、リスナーの意識が敢えて集まるような言葉をチョイスする。そんな国民的アーティスト・米津玄師の“作詞術”が垣間見えた、貴重なインタビューでもありました。

アニメVer.とフルVer.に変化。よりフィギュア感が増す楽曲に

さらに楽曲フルバージョンが公開された際、サウンド面でもアニメ主題歌のショートバージョンとはアレンジに大きな変化があった点も聴き所のひとつです。

こちらに関しても米津さん曰く、「フル版を作っているうちに形が変わってしまった」とのこと。

特に顕著にわかりやすい部分は2番以降のメロディでしょう。通常楽曲の展開はAメロ→Bメロ→サビの進行がよくあるパターン。

この「BOW AND ARROW」に関しても1番はわかりやすく上記の進行となるのですが、2番ではAメロ→Bメロの間に、1番にはなかった特殊なメロディフレーズが登場します。

さらに楽曲の細部をよく聴き比べてみると、フルバージョンの方がショートバージョンに比べ全体的にテンポを刻むビート感の重さが軽減され、より軽やかに氷の上を舞うフィギュアスケート感あるサウンドに。

またサビに入って以降フレーズの合間合間に差し込まれる細かい動きのある音が、フルバージョンの方がよりくっきりとわかりやすくなっていますね。まるでフィギュアのプログラム中にあるジャンプなどの技のように、その瞬間にグッと意識が引きつけられた人も多いのではないでしょうか。

これまでにも米津さんはたびたび、様々なタイアップで主題歌として使われるショートバージョンを公開したのち、さらにサウンドを作り込んだフルバージョンをリリースすることがありました。

もちろんどの楽曲のショートバージョンも、その瞬間の米津さんにとっては120%の力で作った作品です。

ですが時間が経つにつれ、「あれをもっとこうしたい」「ここをもっとこうしよう」と改善欲が沸々と湧いてくる…。それはきっと米津さんだけではなく、何かしらの“ものづくり”や創作が好きな人にとっては、“あるある”の気持ちでもあるはず。

『メダリスト』作中でも、プログラムの精度を“いちごたい焼き”と“ショートケーキ”に例えるシーンがあります。
物はまったく違っていても、どちらもとっても美味しそうなスイーツ。優劣があるわけではなく、好みは人によっておそらく別れることでしょう。

ファンの間でも、今回の米津さんの楽曲のアニメ版・フル版を、この“いちごたい焼き”と“ショートケーキ”に例える声もあちこちで見受けられました。
「BOW AND ARROW」、あなたはたい焼き派?それともケーキ派? どちらが好みか、いろんな人と話し合ってみても面白いかもしれませんね。

2025年冬最注目アニメ『メダリスト』をまだまだチェック!

アニメ『メダリスト』のために、米津玄師さんによって書き下ろされた主題歌「BOW AND ARROW」。楽曲の素晴らしさはもちろんのこと、アニメの物語の面白さも、今まさに大勢の人をどんどん虜にしています。

まだアニメを見れてない…という人は、ぜひ主題歌と併せてのアニメ『メダリスト』を。そしてすでにアニメもチェック済み!という人は、米津玄師さんも「全人類見て欲しい」と激推しする原作マンガも、併せてチェックしてみてはいかがでしょうか。

2025年冬アニメ覇権作の呼び声も高い『メダリスト』。その波に乗るのは、今からでも遅くはありませんよ!

(執筆:曽我美なつめ)

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曽我美なつめ

音楽、二次元コンテンツ(アニメ/マンガ)を中心にカルチャーを愛するフリーライター。コロナ禍を経て10年ぶりにオタク・同人沼に出戻りました。全部宇髄天元のせいです。

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