双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。今月の深堀りテーマは“推しゃれ”。夏の暑さが和らぎ、過ごしやすくなってくる10月。
衣替えを悩んだり、明るい色味から落ち着いた色味の服やメイクを選ぶようになったり……さらに、月末にはハロウィンが控えていたりと、ファッションへ思いを馳せることが多くなる時期。numanでは、「推し」と「おしゃれ」を掛け合わせたさまざまなコンテンツを掲載中です。
「私は365日、常にファイルーズあい」
そう語る声優・ファイルーズあいさんのSNSは、いつ見ても彼女にしか表現できない色で彩られています。そのファッション写真の数々は、まるで海外ファッショニスタのスタイルブックを眺めているかのよう。
独自の世界観を持ち、“おしゃれ声優”としての名をほしいままにする彼女からは、きっととびきりのファッショントークが聞けるに違いない。そんな期待を胸に話を聞いてみると、意外にも「自分で自分の可能性を否定していた」という、おしゃれに興味がなかった過去が明らかになりました。
自分が好きになれずコンプレックスを抱えていたという彼女は、そこからいかにして“自分らしさ”を解放していったのでしょうか。そのヒントは、この言葉にありました。
「服は、日常で身にまとう鎧(よろい)。コンプレックスを隠して、自分の魅力をアピールすることができる」
2024年11月1日~12月1日には、自身初となるポップアップストア「FAIROUZ AI POP UP STORE『MALAIKA』」の開催が決定。「グラフィックデザインを学んでいた、専門学校時代の自分に恥じぬように」とこだわって描き下ろしたイラストにも、ファイルーズさんの唯一無二の世界観が光ります。
声優としてはもちろん、ファッション、ヘアメイク、イラストと、あらゆる武器で“自分らしさ”の道を切り拓くファイルーズさんに、今回はたっぷりとファッションのこと、そして『MALAIKA』に込めた思いを語ってもらいました。
INDEX
――今回はとっておきの私服で、コーディネートを組んでいただきました。
ファイルーズあい(以下、ファイルーズ):
展示会にもよくお邪魔させていただいてる、大好きなブランドの『PAMEO POSE(パメオ ポーズ)』さんのお洋服を中心に、まとめてみました。
非日常的なお洋服をうまく日常に落とし込んでいるブランドさんで、その中でも今回のワンピースは特にドレッシーなコレクションだったんですよ。
一目惚れで購入したのですが、パニエと一体化しているワンピースなので、普段使いするにはちょっとハードルが高いなと思っていて。でも、特別な日だったり、出演作品と関係なく「ファイルーズあい」としてインタビューしていただける機会があったりしたら、ぜひ着用したいなと思っていたんです! とっておきの一着を、今日初めてお披露目することができて本当に嬉しいです。
――一目惚れしたポイントはどこですか?
ファイルーズ:
サイドの、カットアウトの部分ですね。ただドレッシーなだけじゃなくて、スパイスを感じるというか。
普段から洋服を選ぶポイントがあって、かわいいのはもちろん大切なのですが、それにプラスして、一種の毒だったり、ケレン味だったり。そういった一味違うものが好きなんですよ。
――今着ていらっしゃるワンピースは、まさに一味違うかわいらしさがありますね。
ファイルーズ:
そうなんですよ! スカートをちらりとめくると、パニエのフリルが覗いて見えて。袖はバルーンでガーリーなデザインなのですが、襟はフワフワしていなくてシンプルに仕上げているとか。すごく計算されたデザインですよね。
――足元に合わせた、ピンクのソックスと厚底のサボサンダルも印象的です。
ファイルーズ:
かわいらしいワンピースにはレースアップのヒール付きブーツもいいなと思って悩んだのですが、今回は『PAMEO POSE』さんのアイテムで合わせたくて、こちらを選びました。
このラメが輝くGUCCIのソックスは、先日、仲の良い声優仲間と御殿場のアウトレットモールに行きまして。そこで見つけた瞬間、「これは絶対買う!」と。値段を見ずにレジに持っていったら、ソックスとしてはすごくいいお値段だったのでびっくりしたのですが、勢いで買いました(笑)。
ちょうど今髪色がピンク色なので、差し色にもピンクを使いたいなと思っていて、まさにこのコーデにぴったりのアイテムでした。
――コーディネート全体のテーマとしては?
ファイルーズ:
「戦うお嬢様」ですね(笑)。今回はポップアップストア「FAIROUZ AI POP UP STORE『MALAIKA』」についてもお話しすると伺っていたので、天使のモチーフを入れたのもポイントです。
なぜ天使なのかは後述するのですが(笑)、着けたいと思っていた天使モチーフのピアスがたまたま黒にピンクという配色だったので、コーディネートとしての統一感もばっちりだなと。
服はドレッシーだけど、ソックスとピアスでちょっとポップさを出して、ただかわいいだけじゃないアクティブさも表現しました。
――今日のコーディネートももちろんですが、SNSにアップされている私服が本当におしゃれで。ファイルーズさんがファッションに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
ファイルーズ:
高校生くらいの時に、インターネットで知り合った友達に会う約束をしたのがきっかけでした。
当時仲良くしていた方は、年上が多くて。皆さん主にイラストを投稿されていたのですが、それ以外にも、ネイルの写真や美容院で手入れした髪の写真も投稿されていたんです。
それを見て、高校生の私は「こんな芋っぽい格好じゃ会えないな」と焦っちゃって(笑)。「もうちょっと見た目にも気をつけなきゃ」と思って、服屋に足を運ぶようになりました。そうしたら、服を見ているだけですごく楽しかったんですよ。
だけど、当時の私は自分の体型や容姿にものすごくコンプレックスを持っていて。今でこそ、体を鍛えることやメイクも楽しめていますけど、昔はメイクの“メ”の字も知らなくて、髪もボサボサで、自分に自信がなかった。自分で自分の可能性を否定していたんです。
初めて行ったオフ会は、その時の私の100%で挑みましたけど、今振り返ると当然イケてなくて(笑)。だけど、そういうトライ・アンド・エラーを経て今の私がいるなと感じます。
――高校生までは、ファッションやメイクにはあまり興味がなかった?
ファイルーズ:
そうですね。諦めていたんだと思います。学校に馴染めなかったこともあって、とにかく自分に自信がない子だったので。「私なんかが化粧したって何も変わらない、逆に変だと思われちゃう」と考えていたんです。
おしゃれをしようというよりも、「お尻が隠れるようにダボッとした服を着なきゃ」とか。そういうことばかりを気にしていましたね。
――いざファッションやメイクに挑戦しようと思った際、何を参考にしたのでしょう。
ファイルーズ:
雑誌を読んでいましたね。最初は付録目当てで買っていて(笑)。ファッション雑誌にはいっぱいトートバッグとかポーチとか付いていたので。
――どんな雑誌を読んでいたか覚えていますか?
ファイルーズ:
『SEVENTEEN』とか『KERA』とかかなぁ。付録が目当てだったので、毎月必ず買っていた雑誌はなかったんです。
当時から絵を描くことが好きだったので、練習のためにいろんなモデルさんの模写をしたかったのもあって、表紙や付録を見て買う雑誌を決めていました(笑)。
――ファッションに興味を持ち始めてから、“自分らしさ”の確立は、どのタイミングで感じましたか。
ファイルーズ:
声優としてお仕事をいただけるようになって、ファッションにお金をかけられるようになったタイミングですね。めちゃくちゃ現実的な話になっちゃってアレなんですが……(苦笑)。
でも、学生時代や社会人時代も、お金がないなりに古着屋さんで手頃な服を手に入れて、工夫しながらファッションを楽しんでいました。
大好きな『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで、私が声を担当させていただいている空条徐倫がGUCCIとコラボしていることもあって、GUCCIに対する憧れがものすごくあったんですよ。とてもじゃないけれど新品は買えなかったので、古着屋さんで相当使い込まれているバッグを2万円で買って、それを修理して自分なりにファッションを楽しんでいました。
だから、その時の私にできるベストを尽くしてファッションを楽しんでいたなと思います。
――では、ファイルーズさんが思うファッションの魅力とは?
ファイルーズ:
服は、“日常で身にまとう鎧”だと思っています。例えば、今日の私のコーディネートは日常生活ではなかなか珍しいと思うんです。これで街を歩いたら、きっと道行く人全員が私から目を逸らせなくなる。ファッションってそういう力を持っていて、武器になると思うんです。
コンプレックスを隠して、自分が魅力的だと思う部分をアピールして勝負することだってできる。その点も、ファッションの魅力だと思います。
あとは何といっても、着替えるたびに新しい自分に出会えるのも魅力的。私、オードリー・ヘプバーンをすごく尊敬していて。彼女は1枚の白いブラウスとスカートしか持っていなかったらしいのですが、代わりにスカーフを16種類くらい持っていて、それを頭や首、手首に巻いたり、ベルトにしたりして、同じファッションなのにまるで違うコーディネートのように見せていたんです。
彼女の著書でそのエピソードを読んだときに、「“何を着るかじゃなくて、どう着るか”なんだな」と学んで、改めてファッションの奥深さを知りましたね。
――服はもちろんのこと、ヘアメイクとの合わせ方もすごくすてきです。ヘアメイクにも、服と同様に鎧のような役割があると感じていますか?
ファイルーズ:
そうですね。例えば、そばかすメイクが好きでよくやるんですね。私、思春期からずっとニキビがひどくて、今もニキビ跡がいっぱいあって、それがコンプレックスでした。
でも、そばかすメイクを初めてしたときに、新しい自分の表情を知って驚いたんです。「こんな顔になれるなんて!」と、自分のことがまたちょっと好きになれて。それから、服に合わせたメイクを研究するようになりました。
洋画や海外ドラマからインスピレーションをもらうことも多く、いろんな“自分の好き”をインプットしていって、自分だけの“パッチワーク”を作ることをモットーにしています。
――ファッションに合わせたメイクという点では、どんなところにポイントを置いていますか。
ファイルーズ:
1番は、リップの色ですね。今日は服に合わせて濃いめの色を選びましたが、毎回濃いとつまらないし。「自分にこの色は似合わない」と決めつけないで、とりあえず塗ってみる。リップを塗ってから服を考えることもありますね。
――リップはコーディネートの決め手にもなるんですね。
ファイルーズ:
もちろん、その逆もありますよ。服を決めてから化粧をして、「今日はこのリップを使いたいな」と思って塗ったら服と合わなくて。じゃあトップス着替えるか、とか。こんな感じだから、家を出るまで異常に時間がかかります(笑)。
――洋服と同様に、メイクアイテムもかなりの数を持っていらっしゃる?
ファイルーズ:
たくさんあります! でも、自分用にデパコス(※デパートコスメ)を買ったことが一度もなくて、全部ドラッグストアで買っています(笑)。メイク用品は消耗品という感覚なので、そこまでこだわりがないんですよね。
ただ、ファンの方からデパコスをいただくこともあって、それは大事なイベントのときに願掛け的な意味を込めて使わせてもらっています。メイク用品も、自分の気分を上げてくれるアイテムの一つですね。
――メイク用品を買う際はあまりこだわらないとのことですが、一方で、服を買う際のこだわりはありますか?
ファイルーズ:
直感で買うことが多いので、「迷ったら買う」ですね。“買った後悔”は3日くらいで落ち着くのですが、“買わなかった後悔”って3年くらい引きずるんですよ。3年経っても、未練がましくずっと探し続けている服とかあるくらいで(笑)。
誰か手放してないかな……とフリマサイトや古着屋さんで探し続けるのは大変なので、迷ったら買う。買ってみていらなかったら手放せば、それを探している人の手元に届くので、win-winだと思うんです。
――思い切りが良くてかっこいいです!
ファイルーズ:
ありがとうございます! でも、その分、失敗もしています。「なんでこれ買っちゃったんだろう……」と思う服もありますから。
――とはいえ、それだけ思い切って買い物ができるからこそ、去年、X(旧Twitter)で発信していた「逆おしゃれコーデ選手権」が開催できるというのはありそうですよね。
"逆"おしゃれコーデ選手権
~Ugly Coordination Championship~ファイルーズあいの家にあるオシャレな素敵ファッションアイテムを使って、素材の良さを消すベストダサコーディネートを披露できるのは誰か!?
1番「ダサい」と思う人に↓から投票しよう♪参加者:わたし、上田瞳、大地葉、大西沙織 pic.twitter.com/rGes3fixqf
— ファイルーズあい💜POP UP 11.1〜開催💜 (@fairouzzzzzz) November 4, 2023
ファイルーズ:
そうですね。いろんな服が大活躍してくれました。麻雀パイ柄のシャツなど、着るタイミングに迷っていた服たちが活躍できる場になってよかったです(笑)。
――あの選手権には上田瞳さん、大地葉さん、大西沙織さんなど声優仲間の方が参加されていましたが、“ファッション仲間”と呼べる声優さんはいますか?
ファイルーズ:
あんまりいないんですよね。ありがたいことに、「ファイちゃんの服好き!」って言ってくれる人はいっぱいいるのですが。自分と同じ系統の人となるとなかなかいなくて……。
でも、コーディネートを考えるのは好きなので、よく頭の中で「この人はこういう服も絶対似合う!」と想像していますし、実際に自宅に呼んで私の服を着てもらうこともあります。衣装部屋が充実しているので、「急な仕事で衣装が必要になったら言ってね」と仲の良い声優仲間には言っています(笑)。
――ほかに、見かけるとついつい買ってしまうアイテムは?
ファイルーズ:
チョーカーです。デザインがかわいいものが多くて、「首何本あんねん」っていうくらい、たくさん持っています(笑)。もし私が一般企業で働いていたら、なかなかチョーカーを付けて職場に行けないじゃないですか。これは声優というか、個人事業主の強みだなと思います(笑)。
声優とチョーカーって相性がいいと思うんです。金属製のネックレスだと、収録の時に音が鳴っちゃう可能性があるんですよ。でも、チョーカーは固定されてるからノイズが入りにくいんです!
――なるほど、たしかに! では、ピアスもそういった観点で選んでいる?
ファイルーズ:
収録がある日は、ぶら下がる系のピアスは厳しいですね。でも、ピアスもネックレスも、じゃらじゃらした装飾がついた楔帷子(くさびかたびら)のような服も、「収録の時だけ脱げば、着れるじゃん!」と思うので、気分に合ったアイテムを身につけて自分の機嫌を取っています。
――普段のコーディネートは、予定に合わせて前日から考えておくタイプですか。それとも、当日に決めるタイプですか?
ファイルーズ:
当日に決めますね。私、服を選ぶときのモットーが「毎日が死装束」なんですよ。いつ死んでも“ファイルーズあいらしい服”を着ていたいから。
武士がいつ最後を迎えてもいい覚悟で甲冑を着ていたように、私はそれを令和の時代にやっていて(笑)。いつでも自分らしい姿でいたいし、街中でファンの方に遭遇する可能性もあるわけじゃないですか。
そのときに「ファイちゃん、普段は適当な服着てるんだ」と思われるのが嫌なんですよ。私は365日、常にファイルーズあいなので!
あとは、その時の気分を、大事にすることですかね。今日これに着替えるまでは赤いパーカーを着ていたのですが、それは今朝起きた瞬間に「今日はパワーちゃん(『チェンソーマン』)の気分だな」と思って、彼女の私服からインスピレーションを受けて選んだんです。
ファッションを通して伝えたいメッセージとか意思とか、そういうたいそうなものはないのですが、その時々の気分は、すごく大事にしています。
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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