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ガチ恋勢のコワさに震撼…「推し活×サイコホラー」漫画3作品を舞台俳優オタが読んでみたら、“3次元を推す”ことの恐ろしさを痛感した

「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。2024年8月の深掘りテーマは“ホラー”。「苦手…」と言いつつ、ついつい見たくなる・聞きたくなる…「ホラーを推す」特集を実施中です。

推しがいるみなさ~ん、推しごと楽しんでいますか?

近頃すっかり身近になった“推しのいる生活”。「デジタル大辞泉」によると、推しとは「ほかの人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物」とのこと。

「いや、でももっと推しって重い感情では?」と思ってしまう筆者は、舞台俳優オタク歴15年。

現在はいろいろな舞台を観るスタンスなので、ガッツ気味で推している特定の俳優さんはいませんが……かつては某テニスミュージカル出身の俳優さんを5年ほど、その後はもっと規模の小さい舞台に出演する俳優さんを8年ほど推していました。

決して広いとはいえない界隈で、時には推しが出演する舞台の全通や遠征をしながら、推し活に心血を注ぐ日々を過ごしたものです。

そんな筆者が思わず共感せざるをえなかったのが、「推し活×サイコホラー」を題材にした漫画3作品。

・『わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~』作:岩城そよご先生・科丈ひとな(セブンデイズウォー)
・『推し活デッドライン』作:佐倉えび
・『ガチ恋粘着獣 ~ネット配信者の彼女になりたくて~』作:星来

特に3次元の推しがいる人にとっては、分かりたくなくても“理解(わかって)”しまう、人間のコワさ。オタクなら必ず背筋がゾッとする作品たちで、ぜひ涼をとってみてください。

【1】真面目で善良なオタクが“害悪化”していく過程が、あまりにリアル…

1作目は、岩城そよご先生・科丈ひとな(セブンデイズウォー)先生の『わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~』(KADOKAWA)。

©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

 

イケメン声優・土岐野カエデを推すことが生きがいの、いたって普通の社会人オタク・美花が主人公です。

ストーリー序盤の美花は、お手本のようなオタクそのもの。まめに推しのSNS投稿にリプライをつけて、グッズを買い漁って、推しが出演するイベントのために円盤を積んで、友人にチケット協力を頼んで……。熱心に推しを応援しています。

#1話P.10©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

1話P.10
©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

 

しかし、「カエデくんのため」という思考が少しずつ彼女を暴走させ、ついに美花はイベント中に他担との暴力沙汰を起こしてしまうのです。その結果、「害悪オタク」と罵られてしまうことに……。

オタクはつい「推しのため」という言葉を免罪符に、オタク→推しの一方通行な絆を持ったつもりになってしまうのですが、その思いはたいてい、当の本人には届かないものです。

「推しのために、私がしっかりしなきゃ」「厄介なオタクが湧いてきたから、私が守ってあげなくちゃ」という思考は、実はとても独りよがりな感情なのかもしれません。

実体験を申し上げると、推しはじめて3年目くらいまでが一番我を失う時期。なので、こういう思考に陥る美花の気持ちが痛いほど分かります。

エスカレートした美花がついにライブ現場で暴力沙汰を起こしてしまうのですが、その時のカエデくんの表情がこちら。

#5話P.170©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

5話P.170
©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

 

美花の「カエデくんのために」という気持ちが、1ミリも本人に届いていないのが分かりますね……。推しからこんな表情を向けられたらと思うと、心が死ぬ。お墓がいくつあっても足りません。

ですが、視点を美花ではなく“同じ現場にいる同担”に変えてみましょう。すると1人のオタクに個別レスをしないカエデくんが、“しごでき”な推しに見えてきます。えらいぞカエデくん!

そんなカエデくんが2巻以降、どんな本性を表すのか、そもそも裏表がないタイプの人物なのか、1巻時点ではまだ分かっていません。

#ちなみに、カエデがもともと劇団に所属していた舞台俳優なところや、イベントの規模感などに見覚えがありすぎて、個人的に「うっ……」と古傷が痛みました。※画像は3話P.87 ©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

ちなみに、カエデがもともと劇団に所属していた舞台俳優なところや、イベントの規模感などに見覚えがありすぎて、個人的に「うっ……」と古傷が痛みました。
※画像は3話P.87 ©岩城そよご/科丈ひとな/KADOKAWA

 

ただ、カエデくんはいじられキャラで売っているところがあるし、迂闊な言動で燃えやすいタイプのよう。

独りよがりな正義感に火のついたオタク×可燃タイプの推し。なかなか相性の悪い組み合わせですね。共倒れしなければいいのですが……。

絵柄がふわっとしていてかわいらしいのでとても読みやすい分、オタクの思考回路が暴走していく様が生々しく感じられる本作。

自分は害悪とはほど遠い“良いオタク”だと思っている人ほど、「もしかして私って害悪!?」と冷や汗をかいてしまうかもしれません。

【2】ここは地獄か? 病んだ登場人物が多すぎて泥沼の匂いにクラクラする

次に紹介するのは、『推し活デッドライン』(小学館・Cygames, Inc.)。佐倉えび先生が描く、メン地下(※メンズ地下アイドル)推し活漫画です。

©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

 

主人公の四方田さえは、消費者金融の無人契約機担当コールセンター勤務のOL(24歳)。

仕事で心が擦り切れていく中、街中でビラ配りをしていた地下アイドル・一ノ瀬碧と出会い、彼を推すことが心の支えとなっていきます。

さえはTO(トップオタク)の「めぃめぃ」が特典会を周回するのを横目に、「推し活は楽しくやってナンボ」を信条に慎ましい推し方をしていました。

「めぃめぃのマウントの取り方がリアルだな」「さえもダークサイドに堕ちていくのかな?」などと思いつつ読み進めていくと、次第にストーリーはとんでもない方向に転がっていきます。

なんと、さえの職場に推し(碧くん)がやってきたのです。

#5話より©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

5話より
©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

 

仕事が軌道に乗るまでバイトを掛け持ちするアイドルがいるという噂は聞いたことがありますが、まさか借金があるとは……!

笑顔で謙虚に頑張る(さえの目にはそう映っている)推しの、重大な秘密を知ってしまったさえ。「碧くんを救うのはこの私!」という使命感を強く覚えたことで、めぃめぃと張り合いながら、特典会でさらにチェキを積むようになっていきます。コワいコワい。

ちなみに筆者が推していた界隈でも、まれにチェキが撮れる接触イベントがありました。

最初はゆるく推すスタンスだった人が、次第に“鍵閉め”にこだわったり、チェキをたくさん撮るためにATMへとダッシュしたり……。さらには、グッズを枯らす(※完売させる)ためにブロマイドタワーを錬成するようになったりと、激しいオタクへと変化していく様子を何度か目にしたことがあります。

まさか彼女たちも、推しの秘密を……!? という邪推はさておき。

さえが「もっと、もっと」と推しに課金する一方で、じわじわと見えてくる碧やめぃめぃの闇もかなり深そうで、思わず背筋がゾクっとしました。

序盤から、いろいろな地獄が待っていそうな香りがプンプンしてくるのです!しかも、それぞれの闇が現実でも起こり得る内容なのが、なんとも恐ろしい。

#5話より©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

5話より
©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

 

こちらは“オカン顔”で自分のすべてを把握しようとしてくるさえへの、碧の心の声です。容赦ありません。碧いわく「自我を持ち始めたオタクは厄介」とのことなので、筆者もしっかりこの言葉を胸に刻もうと思います。

このシーン以外にも、「推しは麻薬」「使える子はオキニにしないと」などなど、メン地下界隈への高い解像度から生み出されたオタククリティカルヒットフレーズが、次から次へと登場する本作。

9話より©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

9話より
©佐倉えび/小学館・Cygames, Inc.

 

「お金」という推し活と切っても切り離せないところをザクザクと切り込んでくるので、ダメージを受けそうな人は心の準備をしてからページを開きましょう!

ちなみに1話序盤には、あるオタクが血まみれで倒れている衝撃的なシーンがありました。果たして、推し活の末に“デッドライン”を超えてしまうのは誰なのか、なぜなのか……。続きが気になりすぎます。

【3】粘着質なオタクにゾッ…しかし、ガチ恋もここまでいけば純愛なのかもしれない

最後に紹介するのは、2023年にドラマ化もされた話題作。星来先生の『ガチ恋粘着獣 ~ネット配信者の彼女になりたくて~』です。

©星来/コアミックス

©星来/コアミックス

 

タイトルから分かる通り、配信者にガチ恋したオタクたちの痛々しくも真剣な恋の物語。なんちゃってガチ恋ではなく、“ガチな方のガチ恋”の末路が、リアルかつサスペンスなテイストで描かれているのが印象的です。

本作はシリーズによって登場人物が異なるのですが、今回は1~2巻で描かれる「スバル編」を中心に紹介していきます。

3人組動画配信グループ「コズミック」のスバルを推している「ヒナ」こと輝夜雛姫と、「りこめろ」こと都竹里穂子の2人が、スバルを巡ってガチ恋の火花を散らす本編。

同担拒否なヒナが、りこめろへの対抗心から生活費を削って高額スパチャを投げるあたりはまだ微笑ましく読めるのですが、スバル自身がオタクを食い散らかすどうしようもない配信者だったことで、彼女の人生は一変することに。

単行本1巻P.9より©星来/コアミックス

単行本1巻P.9より
©星来/コアミックス

 

本来なら叶うはずのないヒナのガチ恋は、スバルの裏垢から届いた1通のDMで、不意に現実味を帯びていきます。

スバルと繋がれてヒナが幸せの絶頂にいたのもつかの間、スバルにはりこめろをはじめとしたたくさんの彼女がいたのです。

はたから見れば、スバルは裏垢でかわいいオタクを食ってはポイしているクズ男なのですが、ヒナは最後まで長年推してきた“スバル”を信じようとします。しかし、スバルはそんなヒナの思いを「一番とかねーし」と一蹴。

ここからのヒナの行動力が、まさに粘着獣の暴走でゾッとします。彼女がスバルにもたらしたものとは一体なにか、ぜひ実際に読んで楽しんでもらいたい!

単行本2巻P.56©星来/コアミックス

単行本2巻P.56
©星来/コアミックス

 

ヒナはたしかに暴走するのですが、彼女は本当に“配信者のスバルくん”が大好きなんですよ。推すことから始まって、「そんなに好きになれることあるんだ!?」と感動してしまうほどの純愛なんです。とくにラストのヒナの独白は、きっと多くのオタクの胸に刺さるでしょう。

推しに恋して狂ったオタクの物語ではありますが、不思議と「スバル編」の読後感はタイトルの“粘着”とは裏腹にどこか爽やか。この絶妙な着地点を描ききった星来先生に拍手喝采です。

推しへの感情に、“執着”や“依存”が混ざってきてしまうことって、とくに生身の人間を推しているとあるあるなのかなと思います。

筆者のいた界隈でも、カテコ(※カーテンコール)で推しから目線をもらうことに全力を注いで、該当の席番号のチケットを全公演分揃える人や、毎日自分語りの日記を長文リプで報告し続けている人を見かけたことがあります。

そして(今となっては黒歴史ですが)、筆者も接触の現場があると、認知が切れていないか心配で推しを困らせるような質問をしたこともあります。推し君、その節は大変申し訳ありませんでした。

筆者自身にガチ恋の経験はありませんが、改めてこの作品で「本気のガチ恋ってこういうことかぁ」と学ぶと同時に、その過程で描かれた推しへの執着や依存には心当たりがありすぎて、思わず目を背けたくなりました。それほどに心情がリアルなんです。

単行本2巻P.76より©星来/コアミックス

単行本2巻P.76より
©星来/コアミックス

 

続く「コスモ編」「ギンガ編」では、また違ったガチ恋の形が描かれていきます。人の数だけ恋の形があるし、オタクの数だけガチ恋の形もあるのです。

1人の人間としての推しに恋愛感情を抱くことの危うさを、繊細な心理描写とダイナミックな展開で多角的に見せてくれる本作。

「ドラマは観たけど漫画は読んでない」という人がいたら、ぜひ漫画も読んで、ゾッとするようなコワさを味わってほしいです!

人の“推し方”見て我がふり直せ。コワいオタクにならないための教訓になった

今回紹介した3作品は、もちろんフィクションではありますが、「実際のアイドルや声優、俳優などの推し活現場で、今まさにそういうことが起きているかも?」と思える程度にはリアリティ抜群。

しかも、普通のオタクが少しずつ壊れていくので「同じく生身の人間を推していた自分も、一歩間違えればそういう未来があったのかもしれない……」とコワい気持ちになりました。今後また最前線でオタクをすることがあれば、主人公たちと同じ末路をたどらぬよう気をつけたいところです。

しかし、この漫画の主人公たちも「自分は普通のオタクだ」と思っているように、狂ってしまうと自分では気付けないのでしょう。

幽霊や妖怪より生きた人間の方がコワいとは、まさにこのこと。特に3次元を推している人たちは、ぜひこのゾッとする感覚を味わってみてください!

(執筆:双海しお)

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双海 しお

エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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