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原作漫画の連載終了から約1年半。BLファンの間で長年愛されてきた青春群像劇『ギヴン』のアニメシリーズが、2024年9月20日公開の劇場版3作目『映画 ギヴン 海へ』で堂々の完結を迎えました。本作の大きな魅力といえば、バンド・音楽にかける男たちの姿。そして彼らが恋をして好きな人とどう生きていくのか、覚悟を決めていく過程にあったと感じています。
この覚悟を描くうえで重要だったのが、「音楽をとるか、恋をとるか」という天秤です。この天秤は、TVアニメから劇場版1~3作をかけてどんどん重量が増し、キャラクターたちを大いに悩ませてきました。そしてこの天秤に悩んだ彼らを導いたのは、真冬の成長を通して見た、音楽が持つ“可能性”の変化だったように思えるのです。
※『映画 ギヴン 海へ』およびTVアニメ「ギヴン」、『映画 ギヴン』『映画 ギヴン 柊mix』を鑑賞済みの方に向けた記事です。未鑑賞の方、ネタバレを避けたい方はご注意ください。
INDEX
真冬の成長と比例して描かれる、音楽が持つ“可能性”は、TVアニメからシリーズ完結編となる『映画 ギヴン 海へ』へと継承されるだけでなく、枝分かれして広がりを見せてきました。
はじまりはTVアニメ版で描かれた、感情の爆発。その象徴として挙げられるのは、感情を表に出すことを避け続けていた真冬が、歌を通して押し殺し続けていた「さみしい」という本音を吐き出すライブシーンです。
シリーズを通して真冬は、バンド・ギヴンのフロントマンとして成長を遂げてきています。最初は、ギヴンのギタリスト・上ノ山立夏からのバンド加入の誘いを断っていた真冬。その理由は、気持ちを表現することへの恐怖心でした。
真冬は、死別したかつての恋人・由紀を、「じゃあ俺のために死ねるの?」と音楽と恋を天秤にかける強い言葉で失ってしまった後悔から、自分の感情を表に出すことを避けていました。しかし立夏の「お前の歌に心が動かされた」という言葉に背中を押され、ギヴンへ加入しギターの腕を磨きながら音楽と向き合うこととなっていきます。
そんな彼に窮地とも言える状況が訪れたのが、作詞でした。気持ちを表現することに強い抵抗感を持っている真冬にとって、何かを伝えるために言葉を紡ぐという行為は難関中の難関で、はじめてのライブ当日を迎えても歌詞は未完成、リハーサルでも歌わないという始末。しかし本番直前に口論した立夏が「自分も伝えるのがへたくそ」だと打ち明けながらも自身の思いを伝えようとする姿を受けた彼は、ステージに立ち感情を歌にあふれさせたのです。
「だれかにずっと分かってほしかった、少しだけでいいから」という思いを胸に、真冬が歌った「冬のはなし」。まるで真冬が音楽と一体となったかのような感覚すら覚える楽曲は、切実なエゴイズムの塊でした。
他者からどう見られるか、思われるか、そんなことを考える余裕もないくらいの激情的な時間を通して真冬は、“感情を出すことで救われることがあること”、そして“気持ちを表に出す方法は何も言葉だけでないこと”に気付き、音楽に“自分の背中を押すことができる”大きな可能性を感じたのだと思います。
その証拠に彼は、初ライブの後に「曲が作りたい」と、音楽で踏み出す次の一歩について口にしていました。
この可能性に変化が訪れたのが、劇場版1作目。真冬は、ギヴンでドラムを担当している
梶 秋彦の元カレ・村田雨月のコンサートを見て、音楽に“感情を共鳴させる”力を感じます。そしてその力を自分のものにすべく、ジャンルレスに様々な音楽を聴きこみ、自ら作曲にも挑戦。さらに自分が経験してきたこと、感情を歌に乗せ「伝えたい」「届けたい」と願い作詞も担当します。
「伝えたい」という気持ちも、一種のエゴイズムでしょう。しかしTVアニメの頃と明確に違うのは、感情を紡いだ歌の先に自分以外の誰かを思い描いている点と、「伝えたい」というエゴイズムを自分の“欲”として自覚している点です。その証拠にこれらの違いは、緊張という“他者を意識した”感覚を真冬にもたらしています。
なによりステージに立つ真冬の姿が、TVアニメのライブシーンで見た姿とは異なっていました。自分を剥き出しに一切の余裕が感じられない激情的なものではなく、緊張感の中にもどこか目の前の人に語りかけるようなぬくもりが感じられるライブは、彼の成長そのものだったと思うのです。
真冬が自身の経験や思いを糧に、恋に自分のこれからに悩む大切な人々を思い、歌った「夜が明ける」は、ギヴンのベーシストの中山春樹、秋彦、そして雨月が次の一歩を踏み出す力となります。真冬が感じた“背中を押す”音楽の可能性は、自分から周りの大切なひとへと広がりを見せてきたのです。
音楽・バンドに打ち込む若者たちを描いてきたアニメ「ギヴン」シリーズ。筆者はTVアニメ、劇場版を通して「音楽はあくまで手段にすぎない」という、どこかドライなメッセージを受け取ってきたように感じています。
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