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もちろん、竹宮恵子先生の『風と木の詩』(小学館)を始め、寄宿舎ものや男子寮ものを読んで来たので、男子が集団で生活することへの憧れとかロマンのようなものが自分の中に脈々と息づいていたというのもあると思うんですよね。そうした土壌がある中で『土竜の唄』を観て、描きたい気持ちに火が付いたというか(笑)。
――映画『土竜の唄』は2014年の公開ですね。
暮田:
長く寝かせましたね。折に触れて設定を作り足してきて、本格的に形にしようと思ったのが2020年頃です。現在の設定を固めたあと、いくつか編集部を転々として、最終的に花丸(白泉社)さんに見い出していただきました。
――キャラクターについてはいかがでしょうか。入学当初は小柄で泣き虫だった薬袋(みない)が、わずか一年で心身ともすっかりたくましくなり、立派な攻に仕上がるという点も話題を呼びました。
暮田:
この設定は、初めて描いたオリジナルBL『君を好きになってから』(青林堂)が下敷きになっています。小柄な後輩と、ケガでバレーボールができなくなり鬱々としている先輩のお話でした。同人誌で発表したもので、このときシュークリーム編集部さんにお声がけいただき、BL一冊目の単行本となる『僕の可愛い酔っぱらい』を描かせて頂くことになりました。
『オズアン』の薬袋と由一は、それぞれ事情は違えど「親から呪いをかけられた子ども」です。由一は母親から歪んだ愛情を向けられ、薬袋も家族からつま弾きにされている。そんな育て方はまさに「呪い」だし、長い時間をかけて確実に人生を蝕んでいきます。じゃあそれを解くにはどうしたらいいだろう……と考えたとき、本作の物語が浮かびました。
たとえば容姿をけなされた人がダイエットをして綺麗になって…といった具合に、呪いをかけた相手を見返すのも「解呪」の一つの手段だと思います。
フィクションではそういうのスカッとすること多いんですけど、現実では、手段と目的がすり替わってかえって辛そうなケースもたびたび見聞きするから。特殊な状況下にいる人達の「幸せ」について考える時、その要素を無視できないというか、したくないなって思ったんです。フィクションなんですけどね。
――先生の作品『シュガーベイブ』(白泉社)も、そんな呪いをかけられた少年の物語でした。
暮田:
『シュガーベイブ』の主人公・千果は天使のような美少年でしたが、成長するにつれある人物から「醜い」と呪いをかけられてしまいます。千果は別に昔に戻りたいとは思っていないし、ただ成長した今の自分を認めてほしいだけ。だからその呪いを解くのは、やっぱり攻の「可愛い!」攻撃なんですね。
『オズアン』の薬袋、由一のケースでも、呪いを上回る愛があればきっと解くことができる。そんな想いで描いていましたね。私も以前は「愛の力でどうにかなるなんて青臭い」とか「きれいごとだろう」と思っていた時期がありました。
でも今は愛が呪いを解く力になり得ると信じていますし、究極の真理じゃないかと考えています。
――先生が描かれるキャラクターはつらい過去があったり、誰にも言えない心の傷を抱えたりしていますね。孤独な者同士が惹かれ合う物語は、暮田先生の作家としてのテーマなのでしょうか。
暮田:
最近、知り合いから「暮田さんの漫画は福祉BLだね」といわれたんです。それってどういうことだろう…と思い、辞書で「福祉」という言葉について改めて調べてみたら「幸せ、安定した生活を達成しようとすること」と第一義にあって、まさにこれ! と思いました。
私も「このキャラクターは、どうすれば幸せになれるのか?」を考えながら漫画を描いているので。だからこれが作風であり、作家性なのかと問われれば、たしかにそうだといえると思います。
――先生は法学部出身とうかがいましたが、大学で学んだことが作風にも活かされているのでは。
暮田:
勤勉な学生ではなかったのでそこはどうかな(笑)。それよりは父が早くになくなったことの影響の方が大きいかなと思います。中学校の修学旅行の直前のことで、葬儀なども済ませて旅行に参加したのですが、クラスメイトにずいぶん気をつかわせてしまいました。「暮田の前で父親の話はやめよう」と。
良心からの言動だってことは理解してるんですけど、申し訳なくて居たたまれなくて、自分が悪い事をしているような気持ちになる、あの空気のしんどさ。今でも覚えています。周囲からの気づかいや社会の支えはもちろんありがたいですし、実際めちゃくちゃ助けられてきました。
ただ、四六時中感謝の姿勢、というのは結構しんどいんですよね。私自身にもそういうところあるのですが、社会は「かわいそうな人」に誠実と潔癖を求めがちで、同情や憐憫を語る口で理不尽な言葉をぶつけることもたびたびあります。
一見優しいように思えても実は無神経で想像力のない言葉が世間にはこんなにも溢れてるんだな、という気づきは、この境遇に身を置いて初めて得たもののような気がします。だから漫画の中では「この表現をして読者さんが傷つかないだろうか」は常に考えています。ただ考えすぎてしまうと思い切った表現ができなくなるので、そこはバランスですね。
――先生が作品を通じて描きたいこと、表現したいことを教えてください。
暮田:
もちろんシーンごと、コマごとにそれぞれ意図を込めて描いているのですが、読者さんにはこちらの意図と違って伝わることもままあります。でもそれは解釈違いということではなく、私の技術の問題だし、読者さんが感じたこと、受け取ったものが全てなんですよね。
私自身、本を読むときは作者の顔を思い浮かべないで読みたいと思うタイプなので、皆様にも何の制限もなく、自由にお読みいただければと思います。
――2024年11月9日~11日、デビュー10周年を記念した個展が東京・原宿で開催されますね。どのような展示になりそうでしょうか。
暮田:
ささやかな個展ではありますが、発表時にモノクロになってしまったカラー原画を中心に展示します。また、会場ではこれまでの全作品をイメージした、オリジナルミュージックを流す予定です。先日デモを聴かせていただいたのですが、とても素敵なBGMになっていました。
――グッズなどはいかがでしょうか。
暮田:
まだまだ未定なことが多くて、急な変更もあるかと思うのですが……ひとつは既刊コミックスのサイン本販売です。ただいま各版元さんと交渉中ですが、昔の作品のサイン本は今では手に入らないので、この機会にお求めいただけたら嬉しいです。
それと新作グッズやパンフレットのほか、以前個人で出して人気のあったグッズの再販もあります。
ガチャなどもご用意する予定で、当たりが出るとグッズがもらえるなどの色々企画しているのですが、進行がかなり危うくて…当日だだっ広い空間にただ私が座っているだけ、みたいなイベントになる可能性も充分ありますので、X(旧Twitter)の方で様子をうかがいながら参加のご検討を頂けたら幸いです(笑)。
――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いいたします。
暮田:
10年も漫画を描いて暮らせるとは思っていませんでした。作品を気に入ってくださった方が口コミで広げてくださって、拙作を知ってくださる方が増えていったことは本当に嬉しく、感謝しかありません。
これから先も皆様に喜んでいただけるように、そして私自身も楽しめるように、初心を忘れず描いていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!
(執筆:合田夏子、編集:三鷹むつみ)
日程:2024年11月9日(土)~11日(月祝)
会場:原宿デザインフェスタギャラリー
EAST/201・202
暮田マキネ公式X @peccato7
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