羽賀こはく
横浜市出身。インタビュー記事をメインで執筆。愛猫2匹に邪魔をされながらゲームや漫画を楽しむことが生き甲斐。
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnumanでは、誰かの推しとなり得る人が、自身の推しに会いに行く特別企画をスタートします。
その名も【推しに会ってみた】。記念すべき第1弾は、24年10月クールのTVアニメ『合コンに行ったら女がいなかった話』(浅葱役)や『妖怪学校の先生はじめました!』(神酒凜太郎役)などに出演する人気声優の堀江瞬さんと、堀江さんの推しであり世界中のホラーファンを魅了するホラーマンガ家・伊藤潤二先生の特別対談を敢行!
「幼少期からホラーが好き」など共通点が多いおふたり。実は23年1月よりNetflixにて配信、2024年7月にはTVアニメが放送されていた伊藤潤二作品20タイトルを全12話で描くアニメプロジェクト「伊藤潤二『マニアック』」でも関わりが……。同作内の『トンネル奇譚』では、主人公・五郎を堀江さんが演じています。
しかし、今回の対談が初対面とのこと。少し緊張気味の堀江さんですが、伊藤先生作品について語り始めると愛が止まりません!
伊藤先生の代表作である『富江』をきっかけに、学生時代から伊藤先生を推していた堀江さん。「伊藤先生の作品はすみっこにいる人たちの教科書であり、“一筋さす光明”」と並々ならぬ思いを語ります。そんな堀江さんの言葉を聞いた伊藤先生も「私自身がすみっこで生きてきたので、堀江さんのお話を聞いて逆に共感しました」と明かします。
堀江さんの“伊藤潤二愛”に迫る中、推し作品である『溶解教室』『地獄星レミナ』についての贅沢な創作秘話を伊藤先生からもたっぷりお話いただきました。
numanでしか読めない話が詰まった1万字超のロングインタビュー。伊藤潤二ワールドを表現したような写真と共にお楽しみください。
INDEX
――おふたりは今回が初対面ですか?
堀江 瞬(以下、堀江):
(少し緊張気味に)はい、初対面です……!
伊藤潤二(以下、伊藤):
そうなんです。『トンネル奇譚』を含め、「伊藤潤二『マニアック』」のアフレコ現場には一度も伺えなかったので……。今日はよろしくお願いします。
堀江:
よろしくお願いします……!
――堀江さんは伊藤先生をいつから推しているのでしょうか。
堀江:
学生時代から推しています。伊藤先生の作品で初めて読んだのが『富江』で、そこから伊藤先生の作品を追うようになりました。
自分と同じく日陰で独特の道を歩んできた人で、「シンパシーを感じるな」と思う人たちとお話すると、伊藤先生の作品を挙げられることが多いんですよね。気持ちのベクトルが陰(いん)に向いている人にとって、伊藤潤二作品は外せない。すみっこにいる人たちの教科書というか、“一筋さす光明”だと思っています。
伊藤:
私自身がすみっこで生きてきましたので、今のお話を聞いて逆に共感しました。堀江さんがすみっこで生きてきたとは思えませんが(笑)。
堀江:
いやいやいや……。僕は幼少の頃から、学校の休み時間にグラウンドでサッカーをしている子たちが読むような王道のマンガにのめり込めなくて。当時から親の本棚にあった、絵のタッチが不気味だったりホラーテイストだったり、厭世的な表情をするキャラクターが描かれていたりするマンガを勝手に読んでいる子どもでした。
王道マンガが好きな子たちから「こんなに恐ろしいマンガを読んでいるの?」と言われてきたぶん、同じ趣味嗜好を持った同志に出会った時に「お前も……伊藤潤二作品が好きなのか!」と絆が深まると同時に、「人と違うものが好きでもいいんだ」と思えました。大人になっても交流が続いているくらい強固な絆なので、陰でできた結びつきはすごいなと思います(笑)。
伊藤:
(笑)。
――伊藤先生は幼少期にどんなマンガを読まれてきたのでしょうか?
堀江:
気になります……!
伊藤:
堀江さんの話を聞いて、私の幼少期と似ていると思いました。
幼少期は田舎に住んでいたこともあり、書店も町に1軒しかなくて。私も王道の「スポ根」と言われるマンガや青春ラブコメに触れる機会があまりありませんでした。さらに、家にあったマンガは楳図かずお先生や古賀新一先生の作品で。ホラーマンガばかりに興味を持っている子どもでした。
堀江:
へえ……!
伊藤:
雑誌を読む習慣もなく、当時連載中だった『あしたのジョー』の話を友達がしている中、怪奇マンガの単行本ばかり買っていたので、友達とマンガの話はあまりできなかったです。
堀江:
僕と同じだ……。
伊藤:
田舎で同級生も100人足らずだった中、ホラーマンガが好きという友達はごくわずか、幼馴染に無理やり読ませていました(笑)。
堀江:
布教活動ですね!(笑)
伊藤:
そうですね(笑)。なので、同好の士に出会うのは私も難しかったです。根っからのホラー好きという友達に出会ったのは、高校生になってからでした。
堀江:
僕の学生時代は「オタク文化好き」を公言すると、少し遠巻きに見られるような時代だったのですが、伊藤先生の学生時代もホラーやSFを読んでいる人たちが敬遠されるような風潮はあったんですか?
伊藤:
敬遠されるというか、そもそもそういったものを好きな人が少なかったという感じです。今の若い人たちの方がホラーやSFといった、私たちの世代ではニッチだったジャンルが好きだと公言している方が多いですよね。
堀江:
たしかにそうかもしれません。
伊藤:
堀江さんもお若いと思うのですが……堀江さんの時代でも遠巻きに見られることがあったんですか?
堀江:
僕の時代もまだまだそんな感じでしたよ。最近出会う10、20代の若い人たちと話していると今や「オタク文化=オシャレ」になっていて。アニメやホラー、SFなどのニッチなジャンルに傾倒していないと馴染めないという話を耳にします。僕としては、時代が良い方に流れているなと感じます(笑)。
――それこそ現在は、TikTokを中心に「富江メイク」が若い子の間で流行っていますよね。
堀江:
そうそう。TikTokですごく流れてきます!
伊藤:
本当に意外でした。「富江」は、「男たちにバラバラにされても再生する」という非常にグロテスクなキャラクターなので(笑)。おしゃれな女子の皆さんに受け入れていただけるなんて……。
堀江:
「富江」を含め、伊藤先生作品の美しいキャラクターたちは絶対に関わってはいけない予感がします(笑)。ただ、伊藤先生の作品を読んでいると「不気味とエロスって紙一重なのかもしれない」と思わされるんですよ。それは女性キャラクターだけでなく、男性キャラクターにも感じます。『溶解教室』のお兄ちゃんもすごく色男じゃないですか。だけど、やっていることはヤバいですよね(笑)。
伊藤:
悪魔と繋がっていますからね(笑)。
堀江:
顔の整った人たちがヤバいことをしているというアンバランスさが不気味なんですよね。
――そのアンバランスさは狙って描かれているんですか?
伊藤:
『溶解教室』の場合は、秋田書店さんの女性向けマンガ雑誌「もっと!」で連載していた作品だったんです。なので、イケメンを出さなきゃいけないなと、あのキャラクターが生まれました。
堀江:
そうだったんですね……! 読者層に合わせていたとは。
伊藤:
マーケティング的な意図というのもありますが、美少年美少女を描いている方が楽しいというのはあります。
堀江:
恐ろしいものを描いている方が楽しまれているのかと思ったので、意外です。
伊藤:
私は中間のキャラクターを描くのはあまり得意じゃないのですが、美少年美少女か化け物か……その両極端は描いていて楽しいなと感じます。
いかに「かわいい少女」「美しい少女」を描くかは自分なりに挑戦しながら描き進めています。作家によると思いますけど、もともと漫画家は「どれだけ美少女をかわいく描くか」に挑戦する傾向があるんですよね。
堀江:
美しさやかわいさの価値観の基準って、その時々の流行によってどんどん更新されていくと思うのですが、各時代の“かわいいの基準”を意識して描かれているのでしょうか?
伊藤:
意識はそんなにしていないです。ただ、無意識的に「富江」の顔も時代によって変わってはいます。最初はちょっと面長だったのが、だんだん丸顔に近づいているとか。流行を追っているわけではないですけど、無意識的にその時代の美意識みたいなものが反映されているのだと思います。
――ここからは堀江さんの特に好きな伊藤潤二先生の作品を挙げていただきつつ、その作品の創作秘話を伊藤先生にお聞きしていきます。
堀江:
たくさんあるので、かなり悩んだのですが……2作品に絞ります!
まず1作目は先ほども話題に出した『溶解教室』です。悪魔に魅入られた青年・夕馬と、史上最凶の妹・ちずみの兄妹がいろんな街で事件を起こし、町を転々としていくお話。本作の主人公は兄妹2人なのに、各話一人の被害者が登場し、その被害者たちの観点で物語が進んでいきます。
秋田書店より12月19日発売の「溶解教室」のカバー画や口絵、あとがきマンガ描きました。単行本どうぞよろしくお願いします。 pic.twitter.com/Xkhb2tmLSQ
— 伊藤潤二 (@junjiitofficial) November 2, 2014
堀江:
僕が出会ったことのない構成だったから、斬新でとても面白かったです。毎話始まるたびに、「今度はこの人たちが犠牲になるんだ……」と思いながら読んでいました。
伊藤:
被害者視点にしたのは、兄妹視点だと怖さが出せないかもしれないと思ったことが理由です。
1話完結のお話だったため、兄妹が行く先々で必ず被害者が出てひどい目に遭うという構成にしました。主人公の兄妹は悪魔と契約したという設定になっているのですが、基本的に少し謎めいた存在として描きたくて。被害者の立場からすると、「あの謎めいた兄妹は何者なんだ?」と思うように描きたかったんです。
堀江:
なるほど。夕馬くんが謝ると周りの人間が溶けていく、という設定が生まれたのはどんな理由があったんですか?
伊藤:
当時、私がよくいろんな人に謝っていたのが癪に触り、自分に対する腹いせに生まれた設定です(笑)。
マンションのベランダから物干し竿を落として1階の人に謝りに行くなど、いろいろと謝りに行くことが多かったんですね。もちろん自分が悪いのですが、そんな謝っている自分に腹が立っていて。マンガで八つ当たりしたいなと(笑)。『溶解教室』に限らず、その時々の自分の気持ちが、作品の設定を生み出す素になっています。
堀江:
おもしろい!
最終話では、全国放送の記者会見の場で夕馬くんがカメラの前で「申し訳ございません!!」と謝ってしまうじゃないですか。今までは少数の被害で済んでいたけど、最後の最後で全国に被害が広がってしまう残酷なオチがまた好きなんですよね。
カメラの前で観ている人のことを考えながら「謝る、謝るぞ……」と読み進めて、いざ謝った瞬間に「うわ、謝った!」とゾッとさせられる。「謝ると溶ける」という設定の伏線回収の仕方に、鳥肌が立ちました。
伊藤:
『溶解教室』は主人公(夕馬)がやたら謝る設定を、自分では「斬新だ!」と思っていたのですが、あとからほかのマンガでもそういう話があると分かり、少しモチベーションが下がってしまって……モチベーションが下がりきる前に終わらせました(笑)。
堀江:
先生のモチベーションが下がりきる前に終わってよかった(笑)。
――実際、『溶解教室』連載当時の反響はどうだったのでしょう?
伊藤:
ファンレターを少しはもらったかもしれないですけど、10年くらい前なので記憶が……。
堀江:
女性向け作品ということでしたけど、怖すぎて泣いちゃう人がいたかもしれないですよね。
でも、9割くらいむごたらしくて残酷なのに、残りの1割くらいに希望もあると思っています。犠牲になった人たちが何とも言えない汁に溶けてしまうんですよ。その中で、拘束されていた男の子が汁を潤滑油の代わりにして、「これでヌルヌルするからきっと縄が解ける……!」と助かる可能性を見出す。あのシーンにわずかながら希望を感じました。
まあ結局、その男の子は殺されちゃうんですけど(笑)。全部が全部絶望ではないところは、もしかしたら女性読者を意識されてのことだったのかなと思ったのですが、どうなのでしょう?
伊藤:
そうかもしれないです。今、堀江さんに言っていただいて思い出しました(笑)。
本当に救いのないストーリーを描いていると自分も嫌になってしまうんですよ。だから、どんなに恐ろしい内容のホラーマンガを描いていても、スパイスとしてどこかにギャグを入れたり、少しの希望を入れたり……「100%嫌な話にはならないようにしよう」と、意識的にも無意識的にも取り入れています。
――それでは、堀江さんのもう一つの伊藤潤二推し作品は?
堀江:
『地獄星レミナ』ですね。突如出現した未知の惑星が、すべての惑星を呑み込みながら地球に接近してくるというお話で、同作も「ここからどう生きていけばいいんだよ……」というオチではあるんです。けれども、絶望ではない終わり方をしている。伊藤先生の「スパイスとして少しの希望を入れている」というお話を聞いて腑に落ちました。
伊藤:
そうですね……。助かる可能性はわずかですけど、「何か奇跡が起こって助かるかもしれない」という救いの余地を残しました。
堀江:
僕は宇宙やSFに思いを馳せると、ちょっとゾッとしてしまうところがあるんです。だだっ広い宇宙空間のカプセルの中に閉じ込められた自分1人だけが放り投げられる。点よりも小さい点になって存在する自分の図を想像するとゾッとしてしまう。
未知への恐怖と、化け物に遭遇した時のような気持ち悪さ・不気味さの恐怖という2つの恐怖の「ゾッ」が奇跡的に融合しているのが『地獄星レミナ』なんです。 ハリウッドで実写化されてもいいくらい、とってもスペクタクルで迫力満点に描かれている。ホラーマンガとしてもアドベンチャーSFマンガとしても、素敵な作品だと思っています。そういう意味で、『地獄星レミナ』は忘れられない作品の一つです。
伊藤:
ありがとうございます。『(地獄星)レミナ』は、私自身が幼少期からSF好きというのもありますが、当時の担当編集者のアイデアから生まれた作品なんです。
編集者から「宇宙の果てから惑星を食べる星が来て、地球をガリガリ食べちゃう話はどうですか?」と提案されたんですね。最初は「そんな馬鹿な話……」と思っていました(笑)。
伊藤:
ですが、堀江さんがおっしゃったように、宇宙は想像すると無限で果てしなく、夜空を見ていると身が縮こまるような恐怖を私も感じることがありました。また、「(ハワード・フィリップス・)ラヴクラフト」というクトゥルフ神話の創始者が、宇宙をホラーとして描いていたため、「宇宙ものでホラーもいけるだろう」と考えを改めました。
堀江:
『レミナ』の誕生には、そんな理由があったんですね。
伊藤:
その後、設定を詰めている時、編集さんに「地球がガリガリ食べられて三日月みたいになってしまい、三日月の端っこで主人公が『あー!落ちるー!』ってなっている話はどうですか?」と言われたんですよ。そこで私はまた、「そんな馬鹿な」と思いました(笑)。
堀江:
あはは(笑)。
伊藤:
「地球を齧ったとしても三日月ほどの原型はとどめないだろう」と私は考えたので、そこは三日月にはしなかったです(笑)。
また、「地球が食べられるだけ」だとストーリーを膨らませることができないので、主人公が拷問にかけられたり空を飛んでみたりする話を付け加えました。
堀江:
主人公が空を飛ぶシーンは絵から躍動感が伝わってきて……膨大な予算で作られたハリウッド映画のワンシーンを見ているような感じがしました。
また『地獄星レミナ』では、人間の浅ましさがしっかり描かれているところも好きです。最初に主人公・(大黒)麗美奈を「助ける」と言っていたお金持ちの息子(峰石邦弘)が、結局麗美奈を押しのけて「俺が助かるんだ!」と自分よがりになる描写に「人間の浅ましさがでているな」と思いました。
ほかにも、「これからこの惑星でどうなるのか分からない」とレミナ星に漂着した人たちが感じる恐怖を、自分自身も感じられる。『地獄星レミナ』はいろんな怖さを1つの作品の中で味わえるから、何度も美味しさを感じます。
羽賀こはく
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