羽賀こはく
横浜市出身。インタビュー記事をメインで執筆。愛猫2匹に邪魔をされながらゲームや漫画を楽しむことが生き甲斐。
――堀江さんが猫さんと暮らしていることもあり、愛猫について描かれた伊藤潤二先生初のコミックエッセイ『伊藤潤二の猫日記 よん&むー(以下、よん&むー)』の創作秘話もお聞きしたいです。堀江さんは『よん&むー』は読まれていますか?
堀江:
もちろんです! 僕も猫を飼っていますので、猫好き、そして伊藤潤二作品推しとして『よん&むー』は外せません。
伊藤先生の描かれる動物は、猫に限らず解像度が高いですよね。動物の本能に対する焦点の当て方は、「前世でそういう生きかたをしてきたのではないか……?」と思うほどリアリティを感じます。例えば、『ギョ』に描かれている気味が悪い魚もそうですが、人間とはまた違ったアグレッシブさがありますよね。
動物の動きや本能について、普段から意識して観察をされているのですか?
伊藤:
実は……私は動物を描くのが得意ではないので、写真を参考にしながら描いています。
人間はいろんなモデルさんがポーズをとっているデッサン用のポーズ写真集があり、よくデッサンしていたから得意なのですが、動物はあまり描いたことがなかったんですね。
でも、妻が結婚と同時に猫を連れてきまして。妻が猫ブログを書いていて、そのブログに写真がたくさん載っていたので、それを見て猫を描いていました。
堀江:
結婚した時に、奥様が猫と一緒に来なかったら……。
伊藤:
猫を飼うことも『よん&むー』が生まれることもありませんでしたね。妻が連れてきたのがヨンスケという名前の猫で、背中にドクロの模様があったり、よく脱走をしたり、焼き魚を狙ったりする本当にやんちゃな猫でした。いろいろと振り回されて……マンガのネタになる子だったんですよ(笑)。
伊藤:
猫を飼い始めて生態が少しわかってきたから、『双一シリーズ』というマンガに猫を登場させたんですね。そしたら、私が猫を飼い始めたというのを担当編集さんが察知して、「エッセイを描きませんか」と声をかけてくれました。いろいろと猫に事件を起こされていたので(笑)、「ネタもあるし!」と思って楽しんで描き始めましたね。
堀江:
身近にモデルがいたからこその躍動感だったんですね!
伊藤:
ええ。猫じゃらしとかで飛び跳ねている猫など、躍動感がある絵はよく観察しないと描くのが難しいんですよね。
昔、「手塚治虫先生や動物が出てくるマンガを描く先生方は、1日中動物の出てくる映画を観ながらデッサンをしていた」と聞いたことがあります。私はその話を聞いて、「みんな対象物をよく見て、たくさんデッサンをして自分のものにしていったんだな」と思いました。
――猫がものすごく好きだからこそリアルに描けるのかと思っていました。
伊藤:
猫のことは好きですし、かわいいとも思います。飼っていると愛情が出てきますけど、「猫好き」と言われると少しむず痒いです(笑)。
堀江:
そうなんですね(笑)。そういう好き嫌いは絵のタッチに出るものなんですか?
伊藤:
絵にする時は対象の好き嫌いが絵のタッチに影響されることはないですね。嫌いなものもたくさん描きました。ゴキブリとか……(笑)。
堀江さんは猫好きなんですよね?
堀江:
そうなんですよ。愛猫のダイフクに対しては、「この子は本当に幸せなのかな」「本当にこの家に来てよかったと思ってくれているのかな」とか考えるほど好きです。
#全日本きもちよさそうに眠るねこ選手権 pic.twitter.com/Tu91Kldhh5
— 堀江瞬(ほりえしゅん) (@holy_yell0525) June 7, 2024
伊藤:
そこまで考えるんですね。
堀江:
実際には生きているのですが、夢の中で亡くなっているダイフクがお盆の時期に帰ってきてくれて……遠くの方でダイフクの声が聞こえて探す、という複雑な夢を見ることもあります(苦笑)。
伊藤:
夢ってそういうところがありますよね。夢で聞こえているダイフクちゃんの声が、実は実際に近くで泣いていた本物の声で、それが夢の中で聞こえているとか(笑)。
複雑な夢を見た時は、目が覚めて「あー、よかった……!」ってなるんですか?
堀江:
なります。「よかった、生きてる!」と猫を抱きしめます(笑)。そういう夢を見なくても、「君はどう思っているんだい」「もっと大切にするから、これからも一緒に生きていこうね」「化け猫になってもいいから一緒にいてね」と普段から抱きしめています。
伊藤:
本物の愛猫家ですね。私はそこまで思ったことはないかもしれない……。餌をあげる時も「どうだ、ありがたいだろう」みたいな感じですから(笑)。
堀江:
ははは! 僕は、「我々人間は猫様より下」と考えています(笑)。
堀江:
ちなみに、今伊藤先生の話を聞いていて思ったのですが、『ギョ』を描くきっかけは魚を飼い始めたとかですか?
伊藤:
それは違います(笑)。『ジョーズ』という映画が怖くて、「サメが陸に上がってきたら嫌だな」と思って描き始めた作品です。
子どもがお祭りですくってきた金魚を飼ったことはありますけど、『ギョ』は金魚を飼う前に描いた作品なので関係はないですね(笑)。
――せっかくなので、アニメ「伊藤潤二『マニアック』」第2話Aパートにて、堀江さんが主人公・五郎を演じた『トンネル奇譚』のお話もお聞かせください。
伊藤:
『トンネル奇譚』は実体験をもとに描いた作品です。私の実家は田舎の山間の町なのですが、使われなくなったトンネルの真ん中あたりに、名古屋大学の「坂下宇宙線観測所」という研究所がありました。宇宙線とは宇宙から降り注ぐ、岩石も通り抜けるほどの非常に微細な粒子で、それが山の中のトンネルを通過するのを観測する場所でした。
「大々的に研究所があるわけではなく、ひっそりと拠点が構えられている」という噂を、幼少期に友達のお父さんから聞きまして。
堀江:
大人が噂していたんですね。
伊藤:
そうなんですよ。その噂を聞いて、私を含め友達4人くらいで「 探検に行こう!」と懐中電灯を持って廃トンネルへ探検をしに行きました。カーブになっていてなかなか先が見えないのですが、進んでいくとコンクリートの壁で塞がれている地点にたどり着きました。真ん中にドアがあり、すりガラスになっているドアの窓から光が見えて、電気の付いた部屋に誰かがいる気配を感じたことを覚えています。
堀江:
すごい! 本当にあったんですね。
伊藤:
当時はまだ研究していたみたいですが、研究所から誰かが出てくることもなく、私たちもすぐに帰ってしまったので詳細は分かりません。その研究所も今はもう廃墟になっていて、使われなくなって久しいようです。
ただ、その思い出を「マンガにしたいな」とずっと思っていたことから、『トンネル奇譚』を描きました。
――主人公の五郎はどういった経緯で生まれたキャラクターなのでしょう。
伊藤:
『トンネル奇譚』はトンネルに人々が吸い込まれて人がどんどんいなくなってしまう「孤独」がテーマの1つにあったので、五郎も孤独で友達が少ないというキャラクター設定にしました。
思い出の話なので自分に重なるところも多少はあります。私も友達が少なかったので。
堀江:
孤独か……。僕は、五郎を通して伊藤先生の幼少期を演じていたのかもしれないということですね。
伊藤:
堀江さんは、五郎の孤独感を見事に演じてくれました。
堀江:
嬉しいです。アニメのアフレコって作品に限らず、どれだけ楽しみにしていてもすごくあっけなく終わってしまうんですよ。「伊藤潤二『マニアック』」は各話30分尺の中で伊藤先生の2つのお話が描かれています。『トンネル奇譚』に関しても15分尺なのですが、普通のTVアニメの30分尺でもすごくあっけなく感じるのに、その半分だったのでなおさら「あっという間だったな」と思いました。
伊藤:
そうだったんですね。
堀江:
収録も非常にスムーズだったんです。何度もディスカッションを重ねるわけではなく、監督の田頭(しのぶ)さんとのイメージ共有が早い段階でできていたことがあるかもしれません。おそらく1時間かかっていないくらいだったかと思います。
堀江:
また、コロナ禍での収録ということもあり、分散して少人数でのアフレコでした。僕はマリ役の嶺内ともみさんと一緒にアフレコできたのですが、ほか「伊藤潤二『マニアック』」作品の出演者の方たちとお会いすることもなかったので、個々の戦いではありましたね。
加えて、伊藤先生の作品に関われるという喜びもあったので、収録が終わってスタジオを出たあとに「短い夢の時間だったな」と感じた記憶があります。
――五郎を演じる上で意識したことはありますか?
堀江:
引き算を意識しました。伊藤先生の絵のタッチ、嶺内さんや小山役の水野(理紗)さんのお芝居が、濃いテイストだったので、主役が1歩引くことによってバランスが取れるんじゃないかなと思ったんです。
なので、五郎を演じる上ではアニメアニメしたお芝居からちょっと離れた感じのお芝居をしました。日常の中に非日常を感じてもらえるように。
伊藤:
堀江さんのお芝居はリアリティを感じました。原作の雰囲気を全く損なうことがなかったですし、堀江さんの声がすごくよかったです。
堀江:
ありがとうございます……!
羽賀こはく
横浜市出身。インタビュー記事をメインで執筆。愛猫2匹に邪魔をされながらゲームや漫画を楽しむことが生き甲斐。
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