羽賀こはく
横浜市出身。インタビュー記事をメインで執筆。愛猫2匹に邪魔をされながらゲームや漫画を楽しむことが生き甲斐。
――幼少期からホラーが好きなおふたりですが、ホラーを表現する上で意識していること、こだわっていることをお聞きしたいです。まず伊藤先生から。ホラーマンガを描く上で意識していることは?
伊藤:
「誰かのせいで」という人為的な怖さではなく、「何が原因なのか分からない」という超自然的な怖さを1番重視して描いています。
というのも、幼少期にオカルトブームがあったんですね。映画『エクソシスト』(1973年公開)が大ヒットしてオカルトブームに火がつき、超能力者を名乗るユリ・ゲラーが登場したり、『ノストラダムスの大予言』という書籍が出版されたりしました。『ノストラダムスの大予言』には、「1999年7の月人類滅亡の日」と書いてあり、幼い頃の私は「35歳くらいの時にこの世が滅亡するんだ……」と覚悟していました(笑)。
堀江:
信じていたんですね(笑)。
伊藤:
半信半疑でしたけどね(笑)。ほかにも幼少期には、『お昼のワイドショー』で毎週木曜日と夏休みのお盆時期に1週間程度放送されていた『怪奇特集!!あなたの知らない世界』という番組で流れるオムニバスドラマを楽しんで観ていました。一般視聴者が体験した恐怖・心霊体験を再現ドラマや取材などを交えて検証するという、今の『ほんとにあった怖い話』のようなドラマでした。
堀江:
お昼に放送されていたんですね……!
伊藤:
そういった幼少期を過ごす中で、私は怖くてゾクゾクする雰囲気を味わっていましたし、多くの子どもたちは同じ感覚を味わっていたと思います。
伊藤:
だから、自分がホラーを描く立場になり、幼少期の感覚を思い出せるような「ノスタルジーに浸れるホラー」を描くこと、「怖いだけではなく、怖いけどワクワクする」という怖さと楽しさを感じてもらえるマンガを描くことを大事にしてました。
そんな理由から、作品の中にミステリー的な謎を用意しているんです。その中に、事件が起こるのに事件の原因を明かさない……「何が原因なのか分からない」という超自然的な怖さを取り入れるように意識しています。明かしてしまうと、それはホラーではなくただのミステリーになってしまいますから。
堀江:
たしかに「特定の犯人がいて、なぜそんなことが起こったのか」を読者に分からせないまま終わる作品が伊藤先生の作品では多い気がします。「結局これってなんだったんだろう……」という独特の不気味感・気持ち悪さがずっと残り続けるのは、意図されたものだったんですね。
伊藤:
オチがないという風に言われますが(笑)、謎を放置したままにすることが多いです。
――あえて考える余白を残すというということですか?
伊藤:
考える余白を残すというのもありますが、謎の原因を明かしてしまうと、「なんだ、そういうことか」と怖さが半減してしまうと思っているからです。
堀江:
伊藤先生作品は謎が明かされないからこそ、「僕の身近でも起きるかもしれない」と思えて怖いんですよね。謎の原因が分かると、それに対しての解決策みたいなものが自分の中で作られてしまう。「これを回避すれば、怪異や不気味なものと邂逅(かいこう)せずに済む人生が歩めるぞ」と思ってしまう。どうしようもないからこそ「次は僕かも」「この街にもこういうのあるのかも」と不気味な気持ちが残り続けて楽しめるんですね。そこに、そういう意図があったとは……!
また、伊藤先生の作品って人、怪異、惑星などさまざまな怖さを描かれていますよね。
伊藤:
そうですね。私は長編を描くのが苦手で、読み切りが得意だったんです。だから、月刊誌で読み切りを描くことが多くて。そうなると、いろんなタイプのホラーを描かないと読者は飽きるだろうし、自分も飽きてしまう。だから、「人間が怖い」「場所が怖い」など、怖さの趣向を変えて描いていました。
――堀江さんはいろんな作品を演じている中で、“ホラーだからこそ”意識していることはありますか?
堀江:
ないんですよね。どんな作品でも演じる上で重視しているのは「その役がその瞬間、何を感じているのか」。
堀江:
たしかに幼少期から、ホラーマンガ家は伊藤先生や楳図かずお先生、画家は竹久夢二さんや高畠華宵(たかばたけ かしょう)さん、最近は山本タカトさんなどシュール系やホラー系の作品がすごく好きでした。でも、好きだとどうしてもオタクとしての自分を捨てきることができず、「いや、俺にしかこの良さはわからないから……!」「俺ホラーめっちゃわかっているから」「シュールコメディーわかっているから」とエゴが出てしまう。
だから、役を演じる時はエゴを全て取っ払って、「その役がその瞬間、何をどう感じているか」のただ一点を重視して演じています。ホラーだから、ラブコメだから、とジャンルによって意識を変えることはあまりないです。
――ホラー好きとして、ホラー作品を演じている時、「楽しい」という感覚はあるのでしょうか?
堀江:
それもないですね……。特定のジャンルや作品を特別視してしまうと、自分のキモいエゴが絶対にどこかで出ちゃうと思うから。僕自身は、そういう気持ちは持たない方がいいと考えています。それは、作品だけではなく、学生の頃から大好きだった声優さんと仕事をご一緒する時も同じですね。ミーハーな気持ちを殺せるようになりました。
アフレコが終わってスタジオを出てから、「うわ、僕あの人と一緒に仕事をしていたんだ!」「伊藤潤二先生の作品に出れたんだ!」と思うことはあります。だけど、アフレコ中に「伊藤先生の作品だぜ!」と考えないようにしています。
伊藤:
お話を聞いていると、堀江さんはとても客観的にご自分の仕事と向き合っているなと感じます。私も、作品に対して客観性を持ちながら描いているところがあるんですよね。
例えば、ネガティブな気持ちは作品の糧になりますが、ネガティブな気持ちになっている瞬間に描くより、落ち着いてからネガティブな気持ちを思い出してホラーマンガに落とし込んでいることが多いです。
堀江:
その瞬間の気持ちではなく、その後の気持ちを作品にしているんですね。僕の勝手なイメージでは、憂鬱な気持ちや負の気持ちを抱いている時、ホラーテイストのマンガを描いていらっしゃるのかなと思っていました。どういう時に筆が進むのでしょうか?
伊藤:
「今までなかったものを描いているな」と思いながら描いている時は、モチベーションが上がりますね。例えば『富江』の場合は、「富江がどの女の子よりもかわいく描けた!」「富江がモンスターになった姿がいい感じに描けた!」と思えた時に、すごく楽しさを感じます。
ただ、「自分が、自分が」という話を描いていると独りよがりな話になって、“読者に伝わらない”なんてことになりかねないので、気をつけるようにしています。堀江さんも1歩引いて自分を見ていらして、とてもプロフェッショナルな方ですよね。客観性は非常に大切だなと改めて思えました。
堀江:
これからもその気持ちを忘れないようにします。
伊藤:
私はその点、近くに編集者がいるので客観性をさらに確保できていると思います。
堀江:
たしかに、マンガ家の方だと編集者さんがコントロールしてくださるのか……。でも、伊藤先生が描く「読者が置いてきぼりになる作品」は読んでみたいです(笑)。
伊藤:
人に見せられるようなものではないので(笑)。描いている時は気付かないのですが、時間が経ってから読み返すと「自分で描いたのに、自分でも意味が分からない作品」が結構あります。マンガ家になる前の作品ですけどね。
堀江:
そういった作品は捨ててしまうんですか? それともずっと保管されているんですか?
伊藤:
保管しています。物持ちがよくて、まだ残っていますよ(笑)。
堀江:
読ませてほしい……!!
――本日、推しである伊藤先生にお会いしてみていかがでしたか?
堀江:
初対面でしたが、こんな僕に伊藤先生がとても物腰柔らかくお話してくださってすごく嬉しかったです。今もこうしてお話できていることが信じられない気持ちです。
下界に降りてきてくださり、本当にありがとうございます!
伊藤:
こちらこそ(笑)。堀江さんは若いのにいろいろ考えていらして、プロフェッショナルな声優さんだなと思いました。
還暦のおじいさんなので、好青年に推していただけてマンガ家冥利に尽きるなと思います。お会いできてよかったです。
――世界中にファンがいる伊藤先生ですが、堀江さんを含め“推されていること”に対してどう感じてらっしゃいますか?
伊藤:
どのマンガも自分なりに妥協せず、「駄作を描かない!」と集中して描いてきたことを評価していただいているんだなと思います。
”読者あってのマンガ家”と思っているので、買って読んでくださる読者の方にはいつも感謝しています。同時に、私もマンガに全力を注いで楽しんでもらえるよう、これからも頑張りたいとも思っています。
堀江:
これだけ世界中からラブコールを一身に受けていると、不気味な要素を一切抜いたラブコメを描いてみたいとはならないのでしょうか……?
伊藤:
半分冗談なのですが、「ラブコメを描きたい」とはほうぼうで言っているんです。実際はラブコメを描こうとしても、最後はホラーになってしまうと思いますが……(笑)。
堀江:
誰かが死んじゃう……!でも、それはそれで読んでみたいです(笑)。
あと、願わくば今も保管されているという「ご自身が好きなように描いた原稿」をいつか読みたいです。
伊藤:
ははは。機会があれば(笑)。
――最後に、せっかくなので推しである伊藤先生に堀江さんから何かお聞きしたいことはありますか?
堀江:
ええ、何だろう……いろいろあり過ぎるけど、時間が足りなくなりそう……。
(逡巡して)好きな歌手は誰ですか?
一同:
あははは!
堀江:
すみません(笑)。でも伊藤先生のプライベートが謎すぎて、どんな音楽を聴くのか、どんなドラマを観るのかが気になってしまって……。
伊藤:
音楽はこの間ラジオでお会いした松任谷由実さんが好きで、よく聴きます。
堀江:
描かれている作品とは対照的に、聴かれている音楽は爽やかだった……!
伊藤:
あとはビートルズですね。音楽の趣味は割と爽やかな方です(笑)。
でも、映画『サスぺリア』の楽曲を制作した「ゴブリン」というバンドの音楽も好きです。
堀江:
僕も『サスぺリア』は好きな映画です……!
伊藤:
いいですよね。なので、音楽はいろいろ聴いていると思います。
堀江さんはどんな音楽を聴かれるんですか?
堀江:
僕も松任谷由実さんの曲が好きです! あとは「人間椅子」や「筋肉少女帯」も聴きます。
伊藤:
そういう方向も良いと思います。
堀江:
あと、最近触れたドラマ、小説、アニメなどでおもしろかった作品はありますか?
伊藤:
最近観た作品ではないのですが、『半沢直樹』とインド映画の『RRR』がおもしろかったです。
堀江:
音楽も作品もジャンルにこだわらず触れているんですね。そういった作品が伊藤先生のマンガの糧になっているんですか?
伊藤:
ジャンル関係なく、いろんなところにヒントがあると思っています。それを無理やりホラーにしちゃうだけなので(笑)。
堀江さんの最近おもしろかった作品もお聞きしたいです。
堀江:
いやいや、僕なんかの好きなものはいいですよ……!
伊藤:
映画などはご覧にならないですか?
堀江:
映画、よく観ます。最近は時間が取れなくて映画館にはあまり行けていないのですが、一時期はオフの日に映画館をはしごして、1日5作品くらい映画を観ていました。
伊藤:
それはすごい。
堀江:
シネコンだけではなく、ミニシアターにも行くほど映画は好きですね。
――そんな堀江さんが最近観ておもしろかった映画は?
堀江:
藤本タツキ先生原作の『ルックバック』の映画がおもしろかったです。
僕は王道な作品や友達にオススメされた作品に対して「染まらないぞ!」となるタイプなんですね。だから、観ないことが多いのですが、『ルックバック』を観て「逆張りは良くないな……」と思いました(笑)。ちゃんとみんなが「良い」とオススメしてくれる作品は素直に受け取るべきなのかもしれないと。
伊藤:
私もだいぶ前にそれに気づきました(笑)。評判になっているものは良いものが多いですからね。
堀江:
意地を張るのはよくないですよね(笑)。
(執筆:羽賀こはく、取材・編集:阿部裕華、撮影:小川遼)
羽賀こはく
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