双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
あなたがライブに足を運ぶ理由はなんだろうか?
「そのアーティストが奏でる音楽が好きだから」というのが多くの人にとってライブに行く最たる理由だろう。そしてそれと同じくらい、ファンは「そのアーティストが作り上げる世界観」を愛しているのではないだろうか。
そんな“アーティストが作り出す世界観”を肌で感じられたのが、アーティスト土岐隼一のライブだ。
2024年5月5日(日)、土岐隼一バースデーライブ「Shunichi Toki Birthday&5th Anniversary Live」が昨年のバースデーライブと同じ場所・KT Zepp Yokohamaにて開催された。
1月クールアニメで同時に2曲のタイアップを担当するという絶好調のスタートダッシュを切った2024年。その勢いのまま、さらに広がる“土岐隼一の世界”を予感させてくれる約2時間のライブとなった。
彼は自身の音楽を「トレンドと戦いにいっている」と表現する。シビアなアーティストの世界で、自分のやりたいことを貫き通すのはきっと容易くはないだろう。しかし、土岐の表情はいつだって穏やかに温かにファンを見つめ続けている。彼の柔和な笑みの裏側には、はたしてどんな思いがあるのか。
本記事では、ライブの昼公演の様子をお届けするとともに、サプライズから垣間見えた“アーティスト土岐隼一の魅力の本質”に迫っていく。
INDEX
高層ビルの街頭ビジョンに歴代楽曲のMVが続々と流れるオープニング映像。その合間、客席は夜空のように青いペンライトで染まっていく。期待と緊張が混ざり合い不思議な静けさが客席に漂う中、ステージ中央に現れた土岐の姿に歓声があがるが、その歓声はすぐさま彼の透明な歌声に吸い込まれていった。
土岐の1人ひとりに語りかけるような歌声と、1音だって逃すまいとするファンの距離感は、物理的な距離を飛び越えてまさに“ゼロ距離”。M1「ENVY」からはやくも、土岐の音楽を共通言語に繋がるファンとの密接な関係性に、彼の魅力の一端を見ることができた気がする。
曲中の<La La La La La>パートでは「歌え!」と客席を煽って温めながらも、M2「Good For」へ入る曲間ではチラリとはにかむ笑顔を見せる。自身は「ギャップあるよねって言われる人になりたくて34年、俺は諦めました」とSNSで発信していたが、きっとギャップとは本人が気づかないものなのだろう。
ギャップあるよねって言われる人になりたくて34年、俺は諦めました。
でも彼らはとても良いギャップを持っています。羨ましいです。
よろしくお願い致します🤲#ギャップ日和 https://t.co/Qa8RLm43pQ
— 土岐隼一🍥 (@tokishunichi) February 12, 2024
大人な世界観の色気ある歌詞とふわっとした笑顔、客席を煽る熱さと不意に見せるはにかみ仕草、ハードにかき鳴らすエレキギターと黒のセットアップから覗く萌え袖……。この2時間弱のライブだけでも、至るところにギャップが散りばめられていて、思わずファンの心臓は帰路まで保つのだろうかと心配になってしまったほどだ。
M3「約束のOverture」は2019年発売のデビューシングル。新曲からデビュー曲へと歴史を遡る構成と、ファンにもおなじみとなった「約束のOverture」のclapが合わさり、1回目のMCを迎える頃にはすっかり会場は熱気に包まれていた。
昨年は5月7日に同じ会場でバースデーライブを開催した土岐。1人ひとりの表情を確認するように客席を見渡した土岐は、感謝の言葉を述べるとともに「やっぱりこの景色はいいもんですね」としみじみ。
そこからMCは「半端にならないコーレス」企画と題したコール&レスポンス練習タイムへと突入。「ぼっち参加の方も、いつも来てくださっている方も、一致団結してこの空間をみんなで楽しもう」と、ファンを誰1人として置いていってはならないという気概を見せてくれた。
練習の甲斐あってM4「半端なDistance」のコーレスは完璧。ファン渾身の「Foooo!」の合いの手がきれいに決まると、土岐からは「最高!」と満点の笑顔がこぼれた。
M5「Highway Love」を挟み、M6「ワスレモノ」、M7「Home」は情感たっぷりにしっとりと歌い上げる。この「ワスレモノ」、リハーサルでは最近飼い始めた愛犬のことを思って大号泣してしまったそう。
「アーティスト活動を続けている中で、歌への感情が年齢や環境によってちょっとずつ変わってきている」との言葉に、3年後、5年後、10年後の彼はどんな姿を見せてくれるのか、5周年のその先が楽しみになったファンは少なくないはずだ。
新たな出来事という意味では、2024年1月クールにアニメ主題歌を2曲担当したことも、彼の軌跡の中で大きな意味を持ったことだろう。M8では「どっちも大好き」という2曲のうち、アニメ『月刊モー想科学』エンディングテーマの「SCIENCE」を、アニメ映像に乗せて披露。
そこから続くM9「original scenery」、M10「きっと、もっと」、そしてアニメ『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』のオープニングテーマ「Another Birthday」の流れは、まるで万華鏡。
“土岐隼一らしさ”という枠の中でとことん遊び尽くす楽曲&選曲に、彼の引き出しの多さを感じずにはいられない。「『SCIENCE』と『Another Birthday』は一緒に聴いたら風邪引いちゃうようね」という彼の言葉が、まさに彼の無限大の可能性を物語っている。
「もっともっと盛り上がっていけますか!」の掛け声とともに、ラストスパートは1stミニアルバム収録の「Adolescence」からスタート。軽快なclapで客席のボルテージはいっそう熱を帯びていく。曲中に「でも言うよ『ありがとう』」というフレーズが登場するこの楽曲。その歌詞に合わせ、全力で「ありがとう」を土岐に届けようと声を出すファンの思いに胸を打たれた。
M13からはファンお待ちかねのギターコーナー。今年はエレキギターをかき鳴らし、生バンドとのセッションでM13「KEY」とM14「Glorious World」を最高の笑顔で歌い上げた。去年と同じ顔ぶれが揃ったバンドメンバー紹介を挟み、「最後の楽曲も盛り上がっていきましょう」と新曲の「Stand by Youth」で最高潮の盛り上がりの中、ライブ本編を締めくくる。
アンコールではライブTシャツで再登場した土岐が「Nonfictional」で客席に再び火を灯す。グッズ紹介やライブ告知を経て、「皆様のおかげで僕のアーティスト活動は成り立っていると感じています」と改めてアーティスト活動5周年への思いを紡いでいく。
なかでも印象的だったのが、土岐が「ファンとの距離が1番近い」と語るラジオ「土岐隼一 ラジオ“Time with You”」について語った際の彼の表情だ。ラジオに寄せられた1通1通のお便りを脳裏に浮かべているかのような、慈愛に満ちた表情からは、彼にとってファンという存在がいかに“宝物”なのかが感じられた。
そして、ライブラストの楽曲「Time with you」の曲紹介に続いたのは、「Time with you」のイントロ……ではなくサプライズのバースデーソング! 土岐の背後には昨年同様、いかにも怪しい真っ黄色なひよこのキグルミ姿が……。
札束デザインのケーキを持ってきた謎のキグルミの正体は、専門学校の後輩声優・今井文也だ。
楽屋でライブを聴いていたという今井は、改めて「土岐さんのライブは世界観が独特でおしゃれ」とファンの声を代弁する。土岐と今井はよく一緒にドライブやご飯に行くそうで「仕事やエンタメの話になると熱いんですよ。おもしろいものを作ることに関して、僕が知っている先輩の中でもすごく熱量が高い。なんなら1番かもしれない」と、土岐の熱い一面を後輩ならではの目線で語った。
本日開催 #土岐隼一 「Shunichi Toki Birthday & 5th Anniversary Live」
昼の部サプライズゲストは #今井文也 さんでした🐤
お金型のケーキでお祝いしました💵夜の部は17時15分開場、18時開演です!
チケットの一般発売もございますので是非お越しください🙌https://t.co/hlPi1elC07#toki5th pic.twitter.com/tH7XDbXMR5— 土岐隼一MusicOfficial (@tokishun_music) May 5, 2024
少し照れた笑顔を浮かべた土岐だが、声優仲間の“とっとさん”こと伊東健人が先日ライブを開催したことに触れ、「同じ世代の活躍に本当に感化されるんですよね。とっとさんは曲も作れるじゃないですか。だから俺もいつかやってみたいなと思っております」と、謙虚な物腰の奥にたしかな闘志を覗かせた。
冒頭で触れた“アーティスト土岐隼一の魅力の本質”。その答えへのヒントはここにあるような気がした。これだけしっかりと自分のやりたいエンタメ像を見すえた彼が創り上げてきた“アーティスト土岐隼一の世界”は、この5年の中でそのときどきに色合いを変えながらも、“ファンに楽しんでもらえる自分だけの色”を貫いてきたように思う。
土岐はライブ序盤で、最近初参加のファンが増えていることを嬉しそうに語っていた。以前からのファンを離さないのはもちろん、新規ファンが増え続けている所以も、彼のこの飽くなき追求心の結果なのだろう。
「最後の楽曲、みんなで盛り上がりましょう」土岐がラジオでリスナーに語りかけるようにそっと語りかけた言葉は、「Time with you」のメロディーとともにKT Zepp Yokohamaにじわりと広がっていく。
“「届けたい」その想いで
僕らの声は旅をできる”
これは「Time with you」サビのワンフレーズだ。声優としていくつもの世界でいくつもの人生を演じる声優 土岐隼一は、アーティスト 土岐隼一としてファンとこの先も終わりのない旅を歩んでいくのだろう。おもしろいものを生み出すことに、静かに、けれど誰よりも貪欲な彼の旅路は、きっとファンが飽きる暇のないほど楽しい道になるに違いない。
(執筆:双海しお、編集:阿部裕華)
日時:2024年5月5日(祝・日)
会場:KT Zepp Yokohama
▼セットリスト
M01 ENVY
M02 Good For
M03 約束のOverture
M04 半端なDistance
M05 Highway Love
M06 ワスレモノ
M07 Home
M08 SCIENCE
M09 Original Scenery
M10 きっともっと
M11 Another Birthday
M12 Adolescence
M13 KEY
M14 Glorious World
M15 Stand by Youth
EN1 Nonfictional
EN2 Time with you
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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