【夏野寛子×雁須磨子】人気BL漫画家に聞く、“刺さるBL”の生み出し方「正直、どんな要素が響くかなんて分かりません」

ヒット作を生み出し、多くのファンから“神”だと崇められる存在にも、憧れの人がいます。神が神として称賛する人物とは、一体どんな人なのか。

そしてその二人を巡り合わせることで、ヒットを生み出すためのスゴ技が明らかにできるのではないでしょうか?

今回お呼びしたのは、『25時、赤坂で』(祥伝社)の作者・夏野寛子さん

『25時、赤坂で』

累計130万部超えを記録し、2024年4月には実写ドラマが放送されている本作は、今最も注目を浴びているBL作品の一つです。

繊細でありながら目を惹きつけられる画と、キャラクターの心情をありありと描く表現力は、まさに神レベル。

そんな夏野先生に、憧れの存在について尋ねると「中学生の頃に出会った『のはらのはらの』(大洋図書)の作者・雁須磨子先生です」との回答が!

雁須磨子先生といえば、キャリア30年以上のベテラン漫画家。これまで『うそつきあくま』(祥伝社)や『オロチの恋』(幻冬舎コミックス)など数々の人気BL作品を手掛けてきました。

雁先生が描く“攻め”キャラって、何を考えているのかがわからないところが最高なんです」と、目を輝かせながら語る夏野先生。

神の心を鷲掴みにした作品とは、一体どんなものなのでしょう。対談を実施し、お互いの作品の魅力やBLの原点BL漫画を描き始めた頃のエピソードまで、余すことなくお話しいただきました。

しかし、肝心の“良いBLを生み出す秘訣”を聞くと「刺さる作品は意図的に生みだせない」「気持ちが乗る方向に、流されるまま描くのが大切」と意外なアンサーが。

神と神は、やはりレベルが違うのでしょうか……!? お二人の作品づくりの裏側に迫ります。

中2で雁須磨子作品に出会い、衝撃「“何を考えているのかわからない男”が好きなんです」

――今回、夏野先生に推し作家さんをお聞きしたところ、雁先生を挙げていただきました。

夏野寛子(以下、夏野):
雁さんを前にそう言われると照れますね…!

雁須磨子(以下、雁):
ふふふ。

夏野:
中学生くらいの時に『のはらのはらの』を読んでから、雁さんのBL漫画が大好きで。恐れ多くも挙げさせていただきました。

雁:
ありがとうございます……!

――おふたりは以前、『ダ・ヴィンチ』2022年5月号で対談していましたよね。

夏野:
はい。その時が初対面でした。掲載は5月号でしたが、取材をしていただいたのはまだ寒い季節だったと思います。「もう少し暖かければ、買ったばかりの春服を着てお会いしたかったな」と思ったことを覚えています(笑)。

そのあとに一度お茶にお誘いしたので、雁さんにお会いするのは今回で3回目です。

――まずお聞きしたいのですが、夏野先生が最初に雁先生の『のはらのはらの』を読んで、どんなところに魅力を感じたのでしょうか?

夏野:
雁さんの漫画は素敵なところがたくさんあるので、どう話せば一番伝わるのか……。いろんな人がいろんな素敵な言葉で語り尽くしていると思うので、難しいですね(笑)。

最初に読んだ作品は『のはらのはらの』だったのですが、とにかく衝撃的なかわいさだったんです。

当時好きだった同人作家さんのブログでおすすめされていて、気になって読んでみたのが最初の出会いでした。

冒頭シーンで、先輩の糸島さんがフリルがついた日傘を持って現れたのを見て「なんてチャーミングなんだ!」と、驚いたのを覚えています。野球部らしい坊主頭の先輩がフリルの日傘を差しているなんて、今まで読んできた漫画にはないかわいさで新鮮でした。

のはらのはらの

『のはらのはらの』P9

 

雁先生の作品って、相手が何を考えているのかわからない人物の場合が多い気がしていて、彼らの心情を追いかけるようにほかの作品にもどんどんハマっていきました。

雁:
たしかに、そういうキャラクターは多いかもしれないですね。もともと好きなので、どうしても多くなっちゃいます(笑)。

夏野:
だからこそ、不安や動揺にも似た、好きな人に対して抱いている気持ちがありありと伝わってくるのだと思います。

『のはらのはらの』の心情描写もそうですが、ほかに衝撃を受けた作品の一つが『こめかみひょうひょう』(大洋図書)。受けが攻めに憧れていて、会話の中でつい声が大きくなってしまうシーンがあるんです。

こめかみひょうひょう

そこで「大声やめたい!落ち着いて、落ち着いて……」と会話を続けながら心の声まで描写されていて。 こんな“瞬間”的な心情さえも描いている漫画は読んだことがなかったので、衝撃的でした。

雁さんの作品は、そういう細やかな心理描写がたくさんあって、読みながら何度も「キュン」としています。

雁:
ありがとうございます(笑)。

何を考えているのかわからない人に対して、戸惑いつつも徐々に分かり合っていく様子を伝えるために、丁寧に描写するようにしています。

夏野:
そういえば「“分からない人”の思考を、雁さん自身も把握した上で描いていらっしゃるのかな?」とずっと不思議でした。実際、どうでしょうか?

雁:
「この人だったら、こういう行動をするだろう」という確信を持って描いてるんですが、動機自体は私にもわからないことが多いです(笑)。

なのでキャラクターの言動に無理やり理由をつけるのではなく、謎は謎のままにしている部分は多いですね。

夏野:
そうだったのですね。謎が多い人って魅力的に見えてしまいますよね。だからこそ雁さんの作品のキャラクターたちは恋をする相手に夢中なのかな……。

あと、雁さんの作品では柔らかい方の男性が受けになっているイメージがあります。

それを踏まえると、もし雁さんが『25時、赤坂で』の羽山(麻水)と白崎(由岐)を描くなら攻め受けが逆になるのかなと思うんです。白崎は突拍子もない行動をよく取るし、羽山は基本的に優男なので。

雁:
その二人に関しては、私も夏野さんと解釈が一致していますよ。私も羽山が攻めで、白崎が受けにすると思います!

夏野:
そうなのですか!? なんでだろう。絶妙な何かがあるのかな。

雁:
私は受けが攻めのことをすごく好きで、愛情の矢印が「ガッ!」と向いているのを見ると、「良い!」と思うんですよ。だから、羽山と白崎のカップリングは正解なんだと思います。

25時、赤坂で』3巻P124

『25時、赤坂で』3巻P124

 

攻めに対して「もっと触って」と要求を素直に伝えるタイプの受け。読み手が「この人、はっきり言うな(笑)」と思うくらい気持ちを隠さない、もしくは隠せないくらいの人が好きなんです。

夏野:
ありがとうございます! 実は私、今日の対談のために『オロチの恋』を読み返したんです。

物語の終盤、オロチが海外に行ってしまう話をしたシーンで、「これまでの流れだと先輩は身を引いてしまうのだろうな…」と思っていたんです。

なのに(受けの)田之崎先輩は「いやだ!離れないぞ!!」と伝えていたのが、すごく可愛くて。今の雁さんの話を聞いて、「受けが欲望に素直だったな」と思い出しました(笑)。

雁須磨子が語る『25時、赤坂で』の魅力は、“眩しくてカラッとしている”二人の関係性?

――夏野先生が、いかに雁先生の作品やキャラクターを推しているのかが伝わってきました。では、雁先生から見た“夏野先生の作品の魅力”について教えてください。

雁:
『25時、赤坂で』を読んで「魅力的だな」と感じるのが、攻めと受けの気持ちが双方向なところですかね。

そしてそれが、あまり“陰”にこもらないところ。心情が吐露されていくと、どうしても暗くシリアスに描かれることが多いけれど、『25時、赤坂で』はシリアスになりながらも、すぐに光が入る感じが良いですよね。強すぎないけど、真っ白なシーツに照り返す光みたいな。

お互いに気持ちをぶつけ合っているのだけれども、「ま、まぶしい!」ってなります(笑)

#『25時、赤坂で』3巻P179

『25時、赤坂で』3巻P179

 

夏野:
雁さんにそう言っていただけて、うれしいです。

雁:
両思いと同じくらい、片思いで終わるお話も好きなんですよ。でも『25時、赤坂で』を読んでると「思いが実ると、なんて気持ちいいんだ」と思います。両想いの醍醐味ですね。

羽山さんと白崎くんは、お互いの“付属物”にはならない関係性も好きですね。 自分を大切にしながらも、お互いを思い合っていると言いますか……。

――過度に依存しすぎない関係性、ということですか?

雁:
いえ、依存していてもいいのですが、それを素直に伝えてほしいなと。羽山さんと白崎くんは「依存してるから、ちゃんと応えてね」みたいな態度じゃないですか(笑)。

第4巻で羽山さんが自分の家族について白崎くんに打ち明けるシーンがありましたが、そうした複雑なことを伝えるところもいいなと思いました。

夏野:
たしかに、『25時、赤坂で』の2人はカラッとしているかも。でも、本音を隠してすれ違っていくBLも楽しいですよね(笑)。

雁:
それはそれで楽しいですね(笑)。

『25時、赤坂で』の2人はカラッとしているというか、サラッとしている感じがします。特に羽山さん。

夏野:
私自身がこれまで好きになったキャラを振り返ると、そんな特徴はないのにどうしてだろう……。

もしかしたら、反動なのかもしれないです。デビュー作(『冬知らずの恋』(祥伝社))が割とジメッとした性格の二人で、「まどろっこしい!」と思いながら描いていたので。

『冬知らずの恋』

雁:
そうなると『25時、赤坂で』の次の作品を描く時は、また反動ですごくジメッとした作品を描きたくなるかもしれないですね。

夏野:
それはありますね。読者の皆さんをビックリさせるかもしれません(笑)。

某少年漫画と少女漫画で、BL沼にドボン!「中1の頃から、カップリングには厳しかった」

――夏野先生がBLにハマったきっかけは、何だったのでしょうか?

夏野:
BLを初めて読んだのは、小学生の頃に某少年向けアニメの同人誌をいとこに見せてもらった時で、その頃からじわじわと……という感じです。

ハンターを目指す某少年漫画の主人公と準主人公の組み合わせが好きでした。

雁:
私もその漫画は好きでした。ちなみに、どっちが攻め派だったんですか?

夏野:
主人公が攻めでしたね。

雁:
主人公は白崎くんっぽい感じがしますが、攻めなんですね。

夏野:
そうですよね。なので実は、原稿を描いている時、「なんで自分は白崎を受けにしているんだろう」と不思議に思うこともあります(笑)

雁:
攻めと受けの話って、よく太陽と月に例えられるじゃないですか。私は「太陽がいて初めて月は光ることができる」関係性が好きなのですが、『25時、赤坂で』のは二人ともが自ら光を放っていますよね。

夏野:
たしかにそうですね……。昔から、対等な関係性のカップリングを好きになることが多いからかもしれません。

背格好があまり変わらなくて、持っているものが対照的みたいな。

――昔ハマったカップリングの特徴が、多少なりとも『25時、赤坂で』に影響しているのですね。

夏野:
自覚していなかったのですが、そうかもしれません。でも最近、『25時、赤坂で』では羽山のかわいいところばかり描いているような気がします(笑)。

雁:
羽山さんかわいいですよね。

夏野:
嬉しいです。以前、BL好きの友達と「攻めのかわいい一面って良いよね」と話していたんですよ。そうしたら「あなたが言う“かわいい”は、私の想像と違うかも」と言われて。

雁:
例えば、どんな一面が見えた時に「かわいい」と思うのですか?

夏野:
その辺ですっ転んで、ぐちゃぐちゃになっているみたいな……少し間抜けな一面が見えた時ですかね(笑)。

雁:
うふふ。「頭にリボンをつけてかわいい」みたいなものかと思っていたけど、それは想像以上でした(笑)。

夏野:
もちろん、リボンがついているかわいさも好きです! 最近はあまり見かけなくなりましたが、攻めキャラが女の子のような外見をしているBL作品も好きでした。

少女漫画でも、女装している男の子が出てくる作品もありますよね。最近だとドラマ化もされた『ジェンダーレス男子に愛されています。』(祥伝社)とか。そういう作品も、すごくかわいくて昔から大好きです。

――雁先生は、BLにハマるきっかけとなった作品はありますか?

雁:
岸裕子先生の『玉三郎恋の狂乱曲』(小学館)です。小学校3年生くらいの時にたまたま本屋さんで読んで、衝撃を受けました。これほどに美しい男の子がいるのかと。

当時「BL」と呼ばれる作品はほとんどなかったので、かわいらしい格好をした男の子が出てくる少女漫画をたくさん読んでいましたね。

中学1年生くらいでハマったのは、『摩利と新吾』(白泉社)。お互いのことが大好きなんですけど、摩利は新吾の存在が眩しすぎてなかなか距離を縮められないんですよ。

それで摩利は、新吾ではなくて夢殿先輩という別のキャラと深い関係になってしまう、という切ないストーリーなんです。

夏野:
雁さんは、どっちが受け派だったんですか?

雁:
私は志乃先輩という人が受けだと良くて……二人で言ったら摩利かな。当時、カップリングには厳しかったです(笑)。好みの範囲が狭いというか、“逆の気配”を感じると読まない、みたいな。

幼いながらもこだわりがあったのでしょうね。今思うと、不思議です。

夏野:
わかります。不思議ですよね。雁さんは「攻めに憧れている受け」みたいなカップリングもよく描かれますよね。それは『摩利と新吾』の影響を受けているのですか?

雁:
ちょっと違うかな……。摩利は「新吾がまぶしすぎて距離を縮められない」タイプだけど、今の私が描く受けは「なにを考えているかわからない攻めに、一方的に憧れて振り回されている」のが多いかもしれませんね。

一番好きなカップリングは変わっていないはずですが、振り返ると多少の変化はあったのかもしれません。

――どのようなカップリングが一番お好きなのですか?

雁:
昔から、「兄貴分×舎弟」みたいな関係性がすごく好きなんです。でも、当時はあまり流行っていなかったんですよね。

夏野:
先輩×後輩とは少し違いますか?

雁:
もう少し距離が近い、兄弟みたいな関係ですかね。でも、決して兄弟ではないみたいな……。私が攻めに選ぶ人ってだいたい“世界中で受けになっている”んですよね

夏野:
世界中で受けになっている人!(笑)

雁:
兄弟で幽霊や超常的な存在を退治していく海外ドラマ作品があるんですが、一般的に見るとお兄ちゃんの“受けの才能”がすごいんですよ。

しっかり者で、劣等感と無力感に振り回されながらも虚勢を張って、ちょっとチャラくて涙もろい、男らしくあることに通常以上にこだわりをもっている。そういう人って、世界中で受けなりがちというか……。

あと、SF時代劇の某少年漫画の主人公と助手のカップリングも好きです。舎弟分ってかわいく描かれないことが多いのですが、その助手のキャラが本当にかわいらしいんです。

――兄貴分×舎弟ではないですが、教師×生徒の『かわいいかくれんぼ』(幻冬舎コミックス)は、受けがとてもかわいらしい印象を受けました。

雁:
教師と生徒のストーリーは、また描いてみたいと思っているんです。

夏野:
『かわいいかくれんぼ』は生徒が思いのほか成長しちゃう感じがかわいくて、大好きです! 雁先生が描く教師×生徒の話、ぜひまた読んでみたいです。

雁:
ありがとうございます。今は別の連載で忙しくなってしまったのですが、時間ができたら描きたいですね。

漫画家としての第一歩は、創作コンクール受賞と『こどもチャレンジ』の漫画家セット?

――創作意欲がすばらしいです! お二人が創作を始めた時期は、いつ頃だったのでしょうか?

雁:
私は中学校1年生くらいだった気がします。その頃、創作漫画のコンクールに投稿したこともありました。

主人公の男の子が、学校への不満をひたすら言っているだけの内容だったのですが、末賞の「もう一歩賞」をもらいました。

夏野:
読みたいです…!

雁:
ありがとうございます。その原稿は、さすがにもう手元に残っていないです(笑)。あとは、近所の印刷屋さんによく来ていた他校の中学生や高校生のお姉さんと仲良くなって、某サッカー少年漫画の同人誌を貸してもらったり、同人即売会のイベントに連れて行ってもらったりしました。

いろんなサークルがコピー誌を頒布しているのを見て、「私も作ってみたい」と二次創作でBLを描き始めましたね。

夏野:
近所のお姉さんがきっかけで、本格的に創作活動を始めたのですね。ハートフルなお話だ……! 私は小学生くらいに漫画のようなものを描き始めて、初めてきちんと完結する漫画を描いたのは、高校生の頃でした。

雁:
夏野さんが高校生の頃は、文房具屋さんとかで漫画用の原稿用紙が手に入りましたよね?

夏野:
そうですね。あと、『こどもチャレンジ』で赤ペン先生にテストを送るとポイントがもらえるのですが、その景品の中に「漫画家セット」がありました。

ほかにも天体望遠鏡とかいろんな景品があったのですが、当時の私はどうしても漫画家セットが欲しくて、頑張って手に入れましたね。

雁:
そんな景品があったんですね! ちなみに、中には何が入っていたんですか?

夏野:
A4の原稿用紙とつけペンと、基本のトーンが1~2枚……あとインクとホワイトでしたね。

雁:
すごい、けっこう本格的ですね!

夏野:
道具を手に入れた後、友達と文房具屋さんへトーンを買いに行ったんですけど、当時トーンの使い方をきちんと理解していなくて。なので、はにわとかカニの、可愛い柄のトーンを買った記憶があります(笑)。

雁:
「いつ使うの?」ってくらい個性的な柄のね(笑)。

夏野:
シールを集める感覚で、楽しんでいましたね(笑)。もちろん漫画家セットも使っていましたが、はにわやカニのトーンをノートに貼って、漫画を描いていました。

小学生の頃はそんな感じで、高校生になって本格的に二次創作のBL漫画を描き始めて今に至ります。

雁:
私は逆算すると、30年間BLを描き続けていることになりますね……! 考えると恐ろしいです(笑)。

「“同性同士だからこそ”の不安が、二人を応援したくなる」二人が語るBLの魅力とは

――長い間BL漫画を描いているおふたりに、改めて伺います。BLならではの魅力はどこにあると思いますか?

夏野:
うーん、最近は男女の恋愛モノとあまり区別なく読まれる方も多いので、「BLだからこその魅力」って一体何でしょうね。

男体×男体であるということ、でしょうか……?

雁:
男体(笑)。それもありますね。どんな物語でも、ハードルを超えていくのが醍醐味だと個人的には考えているので、BLにもそれを当てはめて考えてしまいます。

2人の男性が友達以上の関係になって、いつのまにか体の関係を結んでしまう。必ずしも結ばれる必要はないけれど、「ハードルを超えるまでの過程を見届けたい!」という気持ちが強いのかな。

今は多様性が尊重される世の中なので、多少はその障害が無くなったとは思うし、そういう関係性の人々が増えていくことは嬉しいのですが、それでも本人たちが抱える不安は大きいんじゃないかなと思います。もちろん、物語としてのハードルは性別じゃなくてもいいと思っていますが。

夏野:
雁さんのBL作品をはじめて読んだ時、「相手は自分を好きにならないかも」という主人公の不安が柔らかく切実に伝わってきて、応援したい気持ちでいっぱいになりました。

相手のセクシュアリティがわからないからこそ抱える“不安”も、BL作品の魅力の一つなのかもしれないですね。

そういえば、私は比較的早い段階でセクシャリティを開示して恋愛を進めていく作品を多く描いてるな、ということに最近気がつくことがありました。

『25時、赤坂で』1巻P28

『25時、赤坂で』1巻P28

 

雁:
モダモダしない感じが、夏野さんの描く作品の良いところだと思います。

夏野:
嬉しいです。モダモダしない(笑)。

雁:
もちろん相手のことを探って、「こいつ……もしかして俺が恋愛対象なのか!」みたいに探り合うのも良いですけどね(笑)。

刺さるBLを生むためには、寄り道も大切?「心が動くまま、描きたいものを描く」

――読者の心に刺さるBL漫画を数多く生み出されているおふたりですが、どうやって生み出しているのかお聞きしたいです。

夏野:
あまり「これは絶対に刺さるぞ」と確信を持って描いていないですね。強いていうなら、「ちょっとエッチな描写があった方が、みんな好きかな?」とは思っていますが……(笑)。

雁:
狙っても読者の心に刺さるとは限らないので、「自分が描きたいから描く」のが多いかもしれません。

でもストーリーの展開を2パターンで考えることができる場合、つい私は読者が望まない方向に走ってしまうことがあるような気がして(笑)。わざとマイナーな方を選んでいるわけではないのですが。

大きく道を踏み外す前に、担当編集さんが「こっちの方が面白いよ!」と軌道修正してくれるので、いつも助かっています。

夏野:
意図せずに王道から外れていくのですね。でも、「描きたいものを描く」感覚だからこそ、雁さんの作品が私を含め多くの方に刺さっているのだと思います!

ということは、初めから緻密なプランを練ったり、作画に入る前に全てセリフを考えたりすることはほとんど無いですか?

雁:
無いですね……細かく計画を立てることができないんです。もちろん大まかな骨組みとか目標地点は決めていますが、あとは行き当たりばったりで決めることが多いです。

なので、つい描きたい方に寄り道してしまったり、同じ話ばかりを深掘りしてしまったりします(笑)

夏野:
そうだったのですね。実は私も、プロットを作るのは苦手です……。

最初に考えていたプランとは関係なく、面白いかもと思う方に舵を切る方が描いていて自分自身が楽しくて。『25時、赤坂で』では、その“ズレ”は白崎に託されていますね。割と行動が予想できない一面があるので(笑)。

雁:
『25時、赤坂で』の最終回の構想は、決まっているんですか?

夏野:
そこにたどり着けたら話がまとまるかな、というふんわりとしたゴールは設定しています。

でも、いざ描くときになったら“楽しい方”に流されてしまうと思うので、今のところは細かいプランは立てていません。

――お二人がBL漫画を描く上で大切にしているのは、「描いていて楽しい」ことが共通しているのですね。だからこそ、作品にお二人の個性が反映されているのだと思います。

雁:
そうですね。私の場合、感覚を頼りにして描いていくとつい“まろやか”になってしまうんですよ。そうしたいわけではないのですが、自然とそういう作風になってしまうんです。

「いつか刺激の強い作品を描いて、読者の期待を裏切りたい!」みたいな気持ちはありますね。“嫌われたくないけど裏切りたい”と。

夏野:
優しくしたいけど傷つけたい」みたいなものはありますよね。攻めキャラのセリフみたいな言い方になってしまいましたけど(笑)。

雁:
(笑)。

なので漫画家になって20年目くらいから、読者の期待を良い意味で裏切るためには、何かテーマを設けた方が良いと気付いたんです。

まろやかな作風とは正反対の、刺激的なテーマを選んでみるとか、流行りに乗っかってみるとか。そうした方が、もっと多くの方に読んでいただけるかなとは思っています。

――時代の変化に合わせて、題材や表現を変えることもあるのですか?

雁:
それらについては、今のBL業界は二極化していると感じているんですよ。ちょっと扇情的で刺激があるものと、誰でも楽しめる普遍的なものと。

だからこそ、読者の方々も好みのものを選びやすくなっているのかもしれないですね。

私が漫画を描き始めたばかりの頃と比べると、本当にテーマが細分化しているので、今の自分がその中からどの題材を選んで何を描くのか、試してみたい気持ちもあります。

夏野:
今興味があるテーマはありますか?

雁:
以前からずっと、オメガバースを描きたいと思っていたんです!

でも描かないまま何年も経ってしまった……オメガバース以外だと三角関係の話も描きたいと思っていて、現在『FEEL YOUNG』で『ややこしい蜜柑たち』を連載させてもらっています。

#『ややこしい蜜柑たち』 1巻

夏野:
雁先生のオメガバース作品も、ぜひ読んでみたいです。

雁:
夏野さんは、次にどんな話を描きたいですか?

夏野:
描きたいテーマが浮かんでは消えて、というのを繰り返していて…。前に『セックス・エディケーション』というドラマを観て「性をテーマに描きたい」と思ったり、『スラムダンク』の映画を観て部活ものが描きたくなったこともありました。

雁:
面白そう。夏野さんが描いたら、すごく面白くなると思う。

夏野:
ほんとですか、嬉しいです!

その時に読んだり観たりした作品やトピックを、自分だったらどう描くかなと想像することが多いので、いざ次回作に取り掛かれるタイミングで気になっているテーマによるかもしれません。

“描いていて楽しい”のが大切なので、その時の気持ち次第ですね。

雁:
描きたい衝動が消えないうちに、描いておきたいですね。

あともう一つ影響すると思っているのが、年齢による変化。歳を重ねるごとに学生時代の記憶は薄れてしまって、学生ものを描きにくくなってしまうかもしれませんよね。

夏野:
そうですね。何歳になってもすばらしい学生ものを描いていらっしゃる方はたくさんいるので、頑張りたいです。

雁:
それか、歳を重ねたからこそ描けるテーマを選んでみてもいいかもしれないですね。

個人的には、『25時、赤坂で』の老後のふたりが見てみたいです。羽山と白崎が植毛したり、ボトックスを打ったりする話とか(笑)。

夏野:
植毛(笑)。面白いですね! 芸能人だから美容は大事ですよね。

どこまでこのキラキラした芸能界の雰囲気から逸脱していいのかな、とは伺っているのですが…。

雁:
逸脱したところも、読者のみなさんは喜んでくれると思いますよ。

夏野:
そうだったら嬉しいです!

先ほどの“刺さるものを描く秘密”に戻りますが、BLは描き手が好きなものを思う存分に描いてこそ、たくさんの人に喜ばれるような魅力が宿るのかもしれないなと思っていて。

一口に“BL好き”と言っても、好きなカップリングや題材、ストーリーの展開など、それぞれ描き手に細かいこだわりがあるところがBLの面白いところだなと感じているので。

なので私も「お口に合えば幸いです」という気持ちで自分の好きと向き合いながらこれからも描いていけたらなと思います。

(執筆:羽賀こはく、取材・編集:柴田捺美・阿部裕華)

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羽賀こはく

横浜市出身。インタビュー記事をメインで執筆。愛猫2匹に邪魔をされながらゲームや漫画を楽しむことが生き甲斐。

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