双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
2024年もいよいよラストスパート!今年もnumanではアニメ、声優、アイドル、2.5次元俳優など…幅広いジャンルの“推し”を深掘りし、さらなる魅力をお伝えしてきました。きっと皆さんも、さまざまな推しに魅了されてきたことでしょう。そんな皆さんにとっての推しを振り返り、さらに掘り下げるために、スペシャルな年末特集を実施。今年1年の推しへの感謝とともにお楽しみください。
皆さんは2024年、どんなゲームをプレイしましたか?
numanで実施した読者アンケート「2024年発売・配信で、一番遊んだゲームは?」で見事1位に輝いたのは、今年5月リリースのアプリゲーム『ブレイクマイケース(以下、ブレマイ)』でした。
『スタンドマイヒーローズ(以下、スタマイ)』や『魔法使いの約束』を手掛ける株式会社colyの新作アプリとして、リリース前から注目を集めていた本作。
読者アンケートでは、「キャラクターが魅力的。あまり女性向けゲームにない平均年齢の高さが良かった」「本編ストーリーやイベントストーリーが現実に近いようなシナリオで没入感があった」など、物語やキャラクターのリアリティを絶賛する熱いコメントが多く寄せられました。
果たしてそのリアリティは、どのようにして生み出されているのでしょうか? 魅力的な『ブレマイ』の世界観の裏側を知りたい! ということで、お話を伺ったのは本作の仕掛け人であるプロデューサーK.Iさん。
「1位受賞ということで、ここだけの話などもたくさんできればと思います!」と笑顔で応えてくれたインタビューでは、“リアルとおしゃれ”をキーワードとした『ブレマイ』の制作裏についてたっぷりお話してくれました。
さらに、「21人21色のキャラクターで、必ず1人はビビッとくるように目指した」「キャラクターをもっと知りたくなるように、ストーリーに意味深なワードを散りばめている」など、思わず“ブレマイ沼”にハマってしまう秘密も明らかに…?
INDEX
――numan読者アンケート「2024年発売・配信で、一番遊んだゲームは?」にて、『ブレイマイ』が1位を獲得しました。おめでとうございます!
プロデューサー K.I(以下、K.I):
ありがとうございます。今年は他所でもたくさんのアプリがリリースされていて、話題作が多かった印象ですが、まさかブレイクマイケースがこんなに評価を頂けるとは。めちゃめちゃ嬉しいです!
――お話を伺う前に、まずはプロデューサーであるK.Iさんの担当分野について教えてください。
K.I:
原案・メインストーリーの藍田創先生、メインキャラクターデザイン・キービジュアルの雪広うたこ先生をはじめとしたクリエイター陣に生み出してもらった物語とキャラクターを、どのような計画でお客様に届けていくのか。また、アプリ全体をどのように進化させていくのかということを全体的にデザインし、現場に伝えるのが主な仕事です。
特に音楽とゲームデザインについてはより深いディレクションも担当していて、もう1人のゲームディレクターと2人で現場に入ることも多かったです。プロデューサー兼ゲームディレクター兼サウンドディレクター……といった感じでしょうか。
――幅広く手掛けているのですね。では、さっそく制作秘話についてお伺いします。本作はコンセプトの1つに「最高にハイセンスなリアル」を掲げていて、読者アンケートでもリアルな世界観を絶賛する声が多く寄せられました。そのようなコンセプトにした経緯は?
K.I:
ハイセンスという言葉を自分たちで使うのは恥ずかしさもあるんですが(苦笑)、もっとシンプルに言うと“リアル”と“おしゃれ”の2つがコンセプトワードとして中心にありました。現代社会を舞台としたリアルな物語は、colyが得意としているジャンルでもあります。『スタマイ』もそうですし、『ドラッグ王子とマトリ姫』や『&0』もそうですね。
その中でまったく新しいものをお届けしたいという思いが根底にあったうえで、『ブレマイ』ならではのユニークな強みを探した結果、リアルに“おしゃれ”という付加価値を置くという発想に至りました。
――リアルなドラマを作ることが、まず前提としてあったのですね。
K.I:
女性向けモバイルゲームは、例えばアイドルものやファンタジーものなのなど、架空性が高いヒーローを憧れの対象としたお話が多いと感じていて。これは音ゲーやバトルといったプレイング要素や、能力の研鑽、覚醒などの育成要素に落とし込みやすいのも理由の一つだと思っています。逆に言うと、『ブレマイ』のような“生々しい大人同士の人間ドラマ”はゲームに落とし込みにくい。
しかし、だからこそユニークな作品を生み出せる可能性がある。我々はそこにチャンスを見出し、リアルな人間ドラマを真正面から取り扱って、どうにかゲームとして出そうというところから始まりました。
そこで行き着いたのが、キャラクター達の活躍をゲーム画面上で表現するのではなく、物語を”外側から彩る”という考え方です。ブレマイのおしゃれなグラフィックデザインやBGMへのこだわりは、「現代の東京」という世界への没入感を高めさせるために存在しており、物語自体はストーリーモードでのみ展開されます。
「アイドル!」のような分かりやすいキャッチーなテーマはかなぐり捨てちゃって、作品がもたらす空気感でキャラクター達を好きになってもらうのも、colyの得意分野だと思っています。
――リアルさを追求した背景として、colyさんの代表作の一つである『スタマイ』の存在も大きいのでしょうか。
K.I:
そうですね。実は以前、僕は『スタマイ』のプロデューサーを数年担当していました。そこでメインライターの藍田創先生と出会い、「こんなに丁寧な人物描写ができるシナリオライターさんがいて、それ自体が直接ゲームの武器になっているなんて凄い!」と感銘を受けまして。個人的にはこの出会いも大きかったなと感じます。
――読者アンケートではキャラクターのビジュアルを賞賛する声もありました。メインキャラクターデザインに雪広うたこ先生を起用していますが、起用の決め手は何だったのでしょうか?
K.I:
リアルでおしゃれというコンセプトを実現するにあたって、それを得意とするイラストレーターさんを探していたんです。そこで『B-PROJECT』の雪広先生のイラストを拝見して、すぐにお声がけさせていただきました。すごくリアルでリッチな塗りと、繊細なタッチが印象的。個性的だけどおしゃれな衣装も多数生み出されていて、その豊かな発想力を『ブレマイ』でも活かしていただきたいと考えていました。
キャラクターデザインを練る段階では、「現実世界にギリギリ存在する範囲で、最高におしゃれなビジュアルの都会人」という表現がよく出てきましたね。それを実現するために、先生からもアイデアもいただきながら作っていきました。
個性を誇張するとキャッチーになりすぎてしまう、でも攻めないとおしゃれという付加価値が成立しない……というところのせめぎあいで。その点、先生にいただいたアイデアはどれも貴重なものでした。
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𝔹𝕣𝕖𝕒𝕜 𝕄𝕪 ℂ𝕒𝕤𝕖 ɴᴏᴡ ᴀᴠᴀɪʟᴀʙʟᴇ!!
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— 雪広うたこ (@mielelatte) May 11, 2024
――意見交換をしながら、キャラクターを作り上げていったのですね。
K.I:
キャラクターの基本情報は、一番最初にこちらで作ってお伝えしました。大まかな性格、体格、ファッションのトーン、セリフのイメージといった情報ですね。顔立ちや髪型に関しては、「俳優の◯◯さん風」という指定もありました。
――イメージの共有として、2次元キャラのイメージではなくリアルな俳優さんを指定したというのも、リアリティ追求の一貫なのでしょうか。
K.I:
今思えば確かにそうですね。風貌だけでなく、ファッションに関しても、現実のものが着想のもとになっているケースがかなり多かったです。
提示した基本情報をもとに先生がデザインを描き起こしてくださいました。その中には、我々のイメージをそのままに解像度がグッと高くなったキャラクターもいれば、当初の見た目のイメージから少し変化したキャラクターもいましたね。
――「当初の見た目から変化したキャラクター」は、どのキャラクターですか?
K.I:
たとえば、交渉部の在間樹帆ですね。最初はもっと和風なイメージで、淡い緑やピンク・白が合わさった和菓子っぽい色合いの衣装をイメージしていました。でも、占い師という設定やほかキャラとのバランスなどを考慮した上で、少し異国情緒っぽいテイストが加わりましたね。
それと、“個性の凹凸”についてはかなり意見交換を行った記憶があります。
――個性の凹凸とは、例えば21人中、尖った性格のキャラクターは何人いて……といったバランスのことでしょうか。
K.I:
具体的に「何人のキャラクターを必ず尖らせよう」という決まりは設けていなかったと記憶していますが、尖り具合がみんな一緒になってしまうのは避けていました。
例えば、本部の城瀬由鶴くんや管理部の槻本大河くん、交渉部の立科吏来くんは「見た目のユニークさ」という観点ではボトムで。逆に強行部の相沢篠信くんやミカねえ(御門 尊)、管理部の壱川春日くんはトップで……という感じで、数段階のティアー(階層)に分けて尖り具合のばらつきを管理していた記憶があります。
衣装デザインも、全体的に統一感が出すぎないようにしていましたね。例えば、「韓国系のファッションが好きなユーザーにはこのキャラが刺さるだろうな」という具合に、具体的なユーザーの思考を一つひとつ想像しながらデザインに落とし込んでいって。
“21人21色”になるように心がけて、誰がプレイしても必ず1人はビビッと来るキャラがいる状況を目指しました。
それぞれのキャラクターが持つ情報量を同程度に揃えてしまうと、現実味がなくなるだけでなくちょっと幼稚に見えてしまうかなという思いがあって。なので、デザイン的に情報量が少ないキャラもいれば、盛りだくさんのキャラもいて、分かりやすく差をつけることは意識していました。
ある程度キャラクターデザインが固まってきたら、21人のバランスを見てヘアスタイルや衣装の細かい色使い・構造など、ビジュアル面の微調整も加えていきましたね。
――では、キャラクターのアニメーションに、3DではなくLive2Dモデリングを実装した背景というのはどういったものがあるのでしょうか。
K.I:
これは正直、colyがもともとLive2Dを得意としていたからですね。『スタマイ』をはじめ、Live2Dを用いてのリアルな表現に関してのノウハウの蓄積があり、それを実現できる素晴らしいクリエイターが集まっている。これを活かさない手はないなと。
「リアルをうたう割には3Dじゃないのね」なんて声が聞こえてきそうですが……。『ブレマイ』にとってのリアルというのは、写実的なリアルというよりも、文学的な意味でのリアルなんですね。物語やキャラクター性を含めた全体的な世界観を通してリアルを表現したいので、物理的な3Dに頼ることは、我々が本当にやりたいことではないなという思いもありました。
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──君も本読む人?なら今度貸そうか。これじゃなくても、好きそうなの見繕うけど。#ブレマイ #宇京真央 #小林千晃 pic.twitter.com/a8w2zDqgYq— ブレイクマイケース公式【ブレマイ】 (@breakmycase) February 3, 2024
ただ、シナリオの背景イラストに関しては3Dツールを使ってシミュレーションをしていましたね。物のサイズ感や画角をじっくり検討しているので、見逃しがちな家電の配線やエアコン、換気扇といったオブジェクトもしっかり描いています。
――各キャラクターの部屋など、非常にリアルで感動しました。そういった細部へのこだわりがあったのですね。
K.I:
細かい部分が描かれていなかったとしても、シナリオを読むうえでは特に注目は行かないとは思うのですが、「リアルさ」というのはユーザーが“肌触り”として感じるものだと思っていて。『ブレマイ』にとっては決して雑に処理してはいけないポイントだと考えています。
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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