双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
ショウ:
あと、初めて読んだときに思ったのは、絶対に5、6巻じゃ終わらない内容だなと。実際のところ、1話時点ではどのくらい先のことを折り込んでスタートしているんですか?
松木:
実は、連載開始当初は5、6巻くらいで終わればいいかなと思っていたんです。
ショウ:
マジっすか。
松木:
前作が打ち切りだったので、打ち切りが怖くて。だから最初は5、6巻くらいでまとめたいなと思っていたんです。でも、2、3巻あたりの手応えとして、打ち切りはないかなと。
ショウ:
こんな面白いんだから、絶対ないっすよ!
松木:
そこからは少しずつ、やりたいことやろうという感じでシフトしていきました。
ショウ:
じゃあ当初は、もっとコンパクトな世界観というか物語を想定して始まったんですか?
松木:
いや、物語としては長いものを用意しているのですが、途中で終わっちゃうかもなと思っていたので、〇〇編を終わらせることで作品も終われたらいいかなという感じです。4巻で「聖夷西征編」が完結するので、そこが終わると同時に完結という形もありかなと、当初は思っていました。
ショウ:
なるほど。たしかに「〇〇編完結」という区切りがありますもんね。
松木:
今思えば、連載当初から〇〇編って作ったのはすごく挑戦的ですよね。打ち切りがあるかもしれないと思っているのに、最初から「聖夷西征編」って出していくのって(苦笑)。
ショウ:
いや、そうですよ。「聖夷西征編」から始まるから、俺としては少なく見積もって25巻はいくだろう。もっと言うと40巻くらいいくんじゃないかなと思っていました。
実際、青輝が何歳でどうなるか、みたいな構想自体はあるんですか?
松木:
あります。連載開始前に、物語の年表を作っているんです。大和暦(作中の年号)何年に何が起きるという歴史書みたいなものを全部作っていて、それをマンガに落とし込んで描いています。
ショウ:
はぁ~(感嘆)。
松木:
途中に休んだ期間があったのですが、その期間は歴史を少し違う展開にする作業をしていました。
ショウ:
ここまでやってみた感触を踏まえて、「もっとこうしよう」と。
松木:
そうですね。歴史そのものを改ざんするというより、解釈を変えてみたという感じですかね。大河ドラマで源平合戦を描くにも、いろんな解釈があるじゃないですか。
ショウ:
うわぁ、この先がめっちゃ楽しみです。
— 松木いっか MATSUKI IKKA (@IKKA_neko) October 29, 2024
――マンガと音楽、それぞれフィールドは違いますが“表現者”という共通点があります。同じ表現者として聞いてみたいことはありますか。
ショウ:
松木先生はマンガが好きでマンガを描いているタイプですか。それとも、マンガ以外の好きなものをマンガに落とし込んでいるタイプですか。
松木:
マンガはあれこれ読むタイプではないですね。もともと『頭文字D』(講談社)が好きなのですが、『頭文字D』をずっと読むとか、『NARUTO』(集英社)をずっと読むとか。好きな作品を追っていくタイプです。
ショウ:
マンガ家と同じように、バンドマンにも2つのタイプがあると思っていて。バンドマンになりたくてバンドマンになっているタイプと、音楽が好きすぎてバンドをやらざるを得なくなっているタイプと。
俺は完全に後者なんですが、自分の音楽愛が強いせいで音楽にがんじがらめになっちゃう時があって、その限界みたいなもの をときどき感じるんです。
その点、前者のバンドマンになりたくてバンドマンをやっている人の方が、変なひねくれとかなく自由にやってる印象があって憧れがあるんです。その点、松木先生はどっちのタイプなのかなと。
松木:
その話を聞くと、僕はオカモトさんと同じタイプだと思います。マンガ家になりたいというより、マンガを描いていたら楽しくて、そうしたらマンガ家になっていた感じです。
なんならマンガを描いていた小学生時代、マンガ家という職業を知りませんでした。小5くらいかな。『NARUTO』のオフィシャルブックに岸本(斉史)先生が載っていて、「マンガ家という職業があって、マンガにはそれを描いている人がいるんだな」と、そこで初めて知りました。
ショウ:
『NARUTO』! 松木先生は何年生まれですか。
松木:
1994年です。
ショウ:
ちょうど『NARUTO』世代なんですね。俺は90年生まれですが、初めて買ったマンガが『NARUTO』の1巻でした。いやぁ、年代近いのもめちゃくちゃ嬉しいっす!
――では逆に、表現者同士だけどここは違うなと感じるところはありますか。
ショウ:
“長さ”というところはミュージシャンとマンガ家は違うのかなと思います。マンガ家の方って、数年単位で一つの作品に取り組むわけじゃないですか。目の前の作品を描いている間、その先の作家としての展望といったものを考えることはあるんですか。
松木:
考えることもありますが、次にやりたいことであってもマンガに落とし込めるなって思うんですよね。恋愛とか家族愛とか兄弟関係の物語とか、全部今やっている作品に入れちゃえばいいなという感じです。
ショウ:
たしかにそうですよね。やっぱりそこが大きく違うのかな。俺らは基本的に、長くても1時間ちょっとのアルバムを作って、それでツアーを回ったら、もう次に進んでいく。
バンドとして昔の曲を演奏することももちろんありますが、マンガ家は一つの作品に何年も費やすじゃないですか。そこがすごいなと思うし、同時にどういう感覚になっていくんだろうなと。だって、一つのアルバムをずっと作っていたら、たぶん俺は気が狂ってきちゃうと思うから(笑)。
松木:
いや、僕ももう狂っています(笑)。
ショウ:
アハハ。やっぱりそういう感覚なんですね(笑)。
松木:
僕も、僕以上にコンスタントに連載しているマンガ家さんはどうしているんだろうって思っています。
ショウ:
本当に想像できないんですよね。だって人って、数年周期で人間関係だったりマイブームだったりが、ちょっとずつ更新されていくわけで。でも、連載が続いている間は、そういった更新を無視して作業する部分も出てくるんだろうなと考えると、いやぁ……。マンガ家さんってどうしているんだろう。
松木:
マイブームは定期的にあるんですが、じゃあそれがマンガに繋がっていくかっていうと、そうでもないことが多いですね。例えばゲームをやるにしても、『三國無双』ならインプットになるけど、『モンスターハンター』はめちゃくちゃ面白いけれど、何のインプットにもならないですし(笑)。
――ちなみに、最近のマイブームは何でしょうか。
松木:
ベイブレードです。去年、新しいのが出て……ってすごく余談になってしまう。
ショウ:
(食い気味に)全然聞きたいです!
一同:
(笑)
松木:
去年から第4世代シリーズの「BEYBLADE X」が出ていて、得点方式も新たに追加されたりしていて。これがもう楽しくて、ずっと1人でやっています。
ショウ:
……っていうことは「3・2・1 GOシュート!」を2人分、1人でやっているってことですか!?
松木:
そうです。
ショウ:
アハハ。
松木:
これがけっこういいストレス発散になるんですよ。亜鉛合金同士がぶつかって響く音が、脳にもいい感じで。とくに寝起きにやるとすごく気持ちよく目が覚めていいです。
ショウ:
起きてからベイブレードをやるまでの姿を、「ウラ漫」(マンガワンの公式YouTubeチャンネル)でぜひアップしてほしい。絶対面白いですもん。
松木:
しかも、シュート力をアプリで計測できるんです。なので、毎朝ちゃんとアプリで計測して、自己ベストを更新できるかチャレンジしています。そうやって心が満たされてから『日本三國』を描いています。もしかしたら、ベイブレードがなかったら3、4巻あたりの『日本三國』は出ていなかったかもしれない(笑)。
ショウ:
ベイブレードとタカラトミー社に感謝ですね(笑)。いやあ、まさかここで先生のモーニングルーティンを聞けるとは思いませんでした。
――逆に松木先生からオカモトさんに聞いてみたいことはありますか。
松木:
僕は単行本にする際にかなり修正を入れていて、先ほどの撮影中に「ミュージシャンでもそういった修正はある」と聞きました。
僕は、ときには「こっちの方がいいな」と、修正というよりページを増やしちゃうこともあるのですが、ミュージシャンの方も同じ曲をシングルとアルバムで変えようと思うことはあるんですか。
ショウ:
あります、あります。シングルって1曲で聴くものだけど、アルバムでは流れがあるので、アルバムとして聴いたときに浮いちゃう場合は、アレンジを変えています。楽器を増やしたり減らしたり、ときには歌詞を変えたこともありました。
最近はサブスクが主流で、再生回数の問題からアルバムバージョンのアレンジを作るのかどうか悩ましいところでもあるんですが……。同じ曲でもシングルバージョンとアルバムバージョンの合計再生数でランキング表示されるわけではなく、それぞれになってしまうから。シングルバージョンがたくさん再生されていると、もったいなさもあって。
松木:
そうか、サブスクの問題があるんですね。僕はサブスクとかのアルゴリズムでおすすめされるのがすごく嫌なタイプです。
ショウ:
わかります。
松木:
自分の好みのものしか出てこないのが嫌で、履歴とか全部オフにしています。
ショウ:
あれってその人の世界を閉じさせていく感じがして、良くないなって思います。
松木:
今のSNSのおすすめとかもそう。
ショウ:
そうそうそうそう! でも便利は便利で、久々にやる曲の歌詞がわからないときに、サブスク開いて自分の曲の歌詞を確認しています(笑)。
松木:
それは僕もよくやります(笑)。久しぶりに出てくるキャラクターの顔を確認するときとか、マンガワンのアプリ画面とか、Webの画像検索とかから確認しています。
――自分を推してくれているオカモトさんとお話しされた心境はいかがですか。
松木:
仕事以外の場だと、友達に作品の話をされるのはあんまり得意じゃなくて。なので、こうやって目の前で自分の作品について語ってもらっている姿を目にする機会というのは、もしかしたら今日が初めてかもしれないです。
ショウ:
これだけの尺と熱量で語られたら、めっちゃ困りますよね。自分でこれだけ褒めといて言うのもアレですけど(笑)、褒められたときの反応って難しいじゃないですか。
松木:
すごく嬉しいんですけどね。褒められたときに困ってしまうから、どういう顔をすればいいのか正解がほしいです(笑)。自分が困るタイプだから、人を褒めることも最近はしていないですね。マンガ家さんとの集まりでも、マンガ自体の話ってしない人が多い気がします。
ショウ:
やっぱりマンガ家の集まりってあるんですね。
松木:
ちょくちょくあります。僕は『アイアムアヒーロー』や『アンダーニンジャ』の花沢健吾先生や『ガンニバル』の二宮正明先生と交流があって、半年に1回くらいお会いしていますね。
ショウ:
おお……! どの作品もめっちゃ好きです。
――ミュージシャンの方も同業の方と交流する機会があると思います。松木先生はマンガの具体的な話はあまりされないとのことでしたが、オカモトさんはいかがですか。
ショウ:
俺は最近、「一緒に曲作ってみない?」と誘うことが多いです。
松木:
一緒にですか!?
ショウ:
そうなんです。最近それが楽しくて定期的にやっています。曲を作るときって、自分の世界に入ってアウトプットの作業をするじゃないですか。その反動じゃないですけど、リリース用とは別に気軽に一緒に作業するのが、新しい発見もあるし楽しいんですよね。
松木:
それはすごく刺激をもらえそうですね。
ショウ:
そうなんですよ。そういったミュージシャン同士の繋がりはあるんですが、マンガ家の方とは普通に生きていたらなかなか出会えないじゃないですか。今回はこうして出会えたので、本当に感謝しています。
――では改めて、推しである松木先生とお話してみての心境を教えてください。
ショウ:
いやもう本当にお腹いっぱいです。大満足。いろいろ聞きたかったこと、疑問に思っていたことの謎が解けて嬉しいです。
ミュージシャンの場合は、ボーカリストの声という情報があるけど、マンガ家の方って、作品を読んでも人柄とか喋る温度感とかが見えてこない。なので、今日お会いして「この人が描いているんだ!」と知れたことが、ファンとして嬉しかったです。
今日は本当に貴重な時間でしたし、久々にベイブレードをやろうと思いました(笑)。今度ぜひベイブレードを教えてください!
松木:
ふふふ。
(インタビュー&執筆:双海しお、編集:阿部裕華、撮影:井上ユリ)
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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