双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
BLドラマが毎クールのように制作される近年。
「BLって市民権を得たなぁ」と感慨深い一方で、年々拡大するBL漫画市場に「すべて買ったら、財布が空っぽになってしまう……」と、新刊リストとにらめっこしている人も多いのではないでしょうか?
かくいう筆者も、シリーズ買いに作者様買い、表紙買い、口コミ買い……と欲望のままに通販サイトのカートに突っ込んでは、そこに入り切らなかった作品たちを見て、「もしかしたらこの中に、運命の1冊があったのでは?」と、後ろ髪を引かれつつ粛々と決済ボタンをポチッと押す日々を過ごしています。
その“カートに入り切らなかった作品”の一つが、海外発のBL作品。
興味はあるものの、国内の新作を追うので手一杯という気持ちと、連載で単話を追うのが得意ではないという個人的な事情で手が伸びず……。これまでに購入したことがある海外発のBL漫画は、韓国発の『ENNEAD(エアネド)』(ビーボーイコミックスデラックス)です。
そんな筆者が先日ご対面したのは、「ダリアコミックスユニ」が2024年5月から3ヶ月連続で発売した、韓国発BL漫画の3作品。
貴族の影武者になった青年と皇太子の偽りの恋を描く『ソーラーエクリプス』(作:PH)と、セックス指南から始まるワンコ系年下男子×年上美人のハウツーラブを描く『グッド・ティーチャー』(作:Eeej)。そして、拗れた大人の三角関係を描く『Love OR Hate』(作:パクダム、ヨンハ)です。
おそるおそる読んでみた結果、キャラクター造形やフルカラーならではの表現の美しさ、そしてストーリー展開など、日本のBL漫画とは少し違った良さが見えてきて……。これは、意外と良いかもしれないぞ!?
今回は、国内のBL作品を読み漁ってきた筆者が感じた「韓国BL漫画の3つの魅力」について、初心者ならではの視点で語っていこうと思います。
INDEX
3作品を読んでまず感じたのは、登場人物たちの美しさ。
韓国BL、知ってはいましたが出てくる男出てくる男、みな美形。それはもう恐ろしいほどに。
作者さんそれぞれの絵のテイストはもちろんありますが、ある程度共通した“美の基準”があるように感じました。すっと目元は涼しげでメイクのりの良さそうな美しい男たち。
偶然か必然か、今回読んだ3作品の受けキャラはみな韓国男性アイドルを彷彿とさせるような黒髪で、儚い美しさが印象的でした。
韓国は、「美容医療大国」と言われるほど美容医療が発展しています。
芸能シーンを見ていても、美への関心が高く、厳しい審美眼を持つ人が多いことがうかがえます。そんな風土の中で生まれたBL漫画は、やはり美へのこだわりがハンパではない様子。
「美人受け」は国内BL漫画でも人気ジャンルのひとつですが、韓国BL漫画の美人はよりミステリアス度が高い印象。
攻めの、ひいては読者の、「この美人な受けくんのことをもっと知りたい、内面を暴きたい!」という欲を掻き立ててくれるキャラが、受けポジションに配置されているように感じました。
『ソーラーエクリプス』は借金を抱えた“幸薄美人”、『グッド・ティーチャー』は“ほだされ系年上美人”、『Love OR Hate』は素直になれない“ひねくれ執着美人”が受けキャラとして登場します。
どのキャラクターも「美人すぎる」「顔がいい」とSNSで話題になりそうな雰囲気が特徴的。
特に現代を舞台にした『グッド・ティーチャー』と『Love OR Hate』は、リアルにいそうな……というより、目の前に現れたらつい拝みたくなるようなキャラクター造形が記憶に残りました。
実写ドラマ化の妄想が捗る、といった感じでしょうか。韓国ではアイドルが主演のBLドラマが次々と制作され、最旬ジャンルのひとつとなっていると風のうわさで聞きました。アイドルにいそうなビジュアルのキャラクターが多いのも納得です。
ちなみに韓国では、芸能界を舞台にしたBL漫画作品も多いようです。これも世界的に人気のアイドルやアーティストを輩出している韓国ならではの特徴なのかもしれませんね。
……と、筆者は受けの愛らしさに目をかっ開く習性があるので、つい受けの魅力ばかりお話ししてしまいましたが、もちろん攻めキャラも美形です!
筆者が思わず目を奪われたのは、攻めの美しい筋肉&体格。
今回読んだ3作品は、どの攻めもしなやかでいてたくましい体格をお持ちで、骨格からして“圧倒的攻め様”のオーラを放っているのが印象的でした。
『グッド・ティーチャー』は(受けの)スンウも体格がしっかり目なので、彼は受けか攻めか判別できなかったのですが、ページをめくるとそれを凌ぐ肉体的包容力を持つ(攻めの)ホジュンが登場して、「なるほどね」とすぐに得心するに至りました。
例えば、2人がホテルで初めて会ったシーン。スーツでキメて大人の余裕の雰囲気を醸しだすスンウに対し、前の恋人に「エッチが下手」だと言われた経験を持つホジュンは終始弱気。シャワー室では、雨に打たれた大型犬のように縮こまっています。
だけど、身体はめちゃくちゃ強気なのです。惜しげもなくページ半分を使ってお披露目されるホジュンの裸体、しかもこの筋肉……!
この肉体を前にしたら、攻め受け論争が起きる余地などなかったのだと、突如として脳が“理解”しました。
攻め受けで体格が逆転しているカップリングも大好物ですが、古より愛されてきた「体格がっちり攻め×美人受け」の王道カップリングには、久しぶりに食べる実家のご飯のような格別な安心感がありますからね。いくらあっても困りません。
BLを読みはじめた頃の大切な気持ちを思い出させてもらった気がします。感謝……。
突然ですが、筆者はBL特有のオノマトペを隅々まで拾って読むのが好きな、「文字優先で脳内処理する」タイプの読者です。
その点でいうと今回読んだ3冊はとても“静か”という印象でした。静寂の中で響く行為中の息遣いが、じわっと壁に吸い込まれていくようなイメージで読んでいました。
例えば、『Love OR Hate』での車内キスシーン。
自分を試すような攻め(ジュウォン)の言動に、受けのヘスがイラつきながらキスを仕掛けます。
この後、ほかの車にクラクションを鳴らされるので往来には人もいるのでしょうが、この圧倒的な“2人きりの世界”感よ。シンプルな背景と最低限の物音が生み出す、独特の静寂を感じます。
オノマトペ好きとしてはやや物足りなさを感じたものの、「韓国BLは濡れ場の雰囲気を、“音”ではなく“質感”重視で描いているのでは?」という考えに至りました(今回読んだ3作品だけで判断するのは、性急かもしれませんが……)。それが非常に艶っぽいんです。
艶っぽさをよりいっそう際立たせているのが、フルカラーです。
実は筆者、フルカラーのBL漫画にどうしても違和感を覚えてしまっていたのですが……。実際に読んでみると、むしろフルカラーだからこそ表現できる“なまめかしさ”があることに気づきました。これは、今回得た大きな収穫の一つです。
例えば『Love OR Hate』はフルカラーなのですが、受けのヘスが色白で、彼とセフレ関係にある元義兄で俳優のジュウォンは健康的な肌色で表現されています。この2人が肌を重ねたとき、フルカラーの威力というものを思い知りました。
密着した身体の肌色のコントラストが、なんともいえないエロさを演出していたんです。ヘスが高揚して白い肌がじんわり赤く染まる表現や、白い肢体に伸ばされるジュウォンの雄みのあるゴツくて健康的な手……!
フルカラーだからこそ分かるわずかな肌色の違いや上気した肌の質感が、2人が“交わる”行為を強調していて、これは“目に効くBL”だなと感じました。
艶めかしいシーン以外で言うと、皇族ファンタジーを描く『ソーラーエクリプス』は、背景の美しさや細かな描き込みに目を引かれました。
空の抜けるような青さや、城内の美しい調度品などを堪能できるのは、フルカラーならではの醍醐味です。
妄想力豊かなオタクという生き物は、脳内補完であれこれ補ってしまう習性があります。けれども、フルカラーなら最初から作者の脳内の風景をそのまま受け取ることができるわけです。
トーンだけで表現されるモノクロのBL世界も捨てがたいのですが、豊かな色彩によって作者が“答え”を提示してもらえるというのも、フルカラーが近年人気な理由なのかもしれませんね。
最後にもう一つ。韓国発BL漫画を読んでみて印象的だったのが、複雑なストーリーかつ展開がゆっくりだということ。
実はこの3作品を読む前に、「オタクたるもの予習は欠かせん!」とネットの海を徘徊しては、韓国BLについてリサーチしていたのです。
その結果、どうやら韓国BLはストーリー重視で複雑な人間関係が展開される、いわゆる“激重系”作品が多いらしいという情報をゲット(たしかに、遠い昔に観た韓流ドラマも相関図がかなり複雑だった気が……)。
恋愛感情だけではくくれない、愛憎や執着、秘め事が複雑に絡み合っているようなストーリー展開が多いということなのでしょう。
そういった前情報を入れて、この3作品を読んだのですが……たしかに、1巻だけでは物語の全貌が見えてこないほど“激重”ストーリーの予感がしました。
しかも、もちろんあえてだと思うのですが、序盤でほとんど情報が与えられないまま物語が進んでいくのです。
例えば、(受けで主人公の)ライが借金返済のためにヘクトル皇太子の恋人を演じることでストーリーが展開する『ソーラーエクリプス』は、1巻冒頭シーンでいきなり頭から血を滴らせながら懲罰的に身体を重ねている二人が映し出されます。
ですが、そもそもライに“影武者”になるよう命令した人物の思惑は、1巻では全く明かされる気配がありません。
『Love OR Hate』は冒頭にインタビュー風の自己紹介が挟まるので少しわかりやすいのですが、合間に突然元カレとの別れ話やエッチが入ってきます。「このお相手はどなた!?表紙にいる!?(いない)」と混乱しましたが、まさかのモブくんでした……。びっくりした……。
しかし、実はこれも伏線の一つ。インタビューに応じているヘスと(その依頼主である)テギョンは面識がないものの、その受け答えから察するに、ヘスはテギョンのことを知っているよう。冒頭では詳しく語られないからこそ、その後の展開を予想しながらじっくり味わうことができるのかもしれません。
正直、どの作品も1周目は「なんで?」「どういうこと?」「なぜそんなことを?」が頭の中を渦巻いていました。
1巻の終盤まで読んだところで、「これは徐々に真相や胸中が明かされていくタイプか!」と理解はしたのですが、それはつまり2巻発売を待たなければいけないということ。「Oh……早く続きを読ませてくれ」と頭を抱えるに至ったことは、言うまでもありません。
国内BL漫画は、事前にシリーズ化が決まっていない限りは、たいてい1巻でキリよく話がまとまるように構成されています。反響が大きければそこからシリーズ化することもありますが、そのパターンはそう多くありません。
そのスタイルに慣れていた筆者の脳は、自然と今回の3作品も一気に起承転結が駆け抜けていくのだろうと無意識に考えていました。
しかし、目玉となるであろう激重感情やそれに付随するバックボーンも、1巻ではまだふわりと匂わせがあった程度で、本格的には動き始めていない印象。
3作品の中で最も平和なストーリーという印象だった『グッド・ティーチャー』も、1巻ラストで受けと因縁がありそうなイケメン先輩が登場。20ページくらい前まで、「そろそろ2人がくっつきそう〜!」と能天気にホクホクしていた筆者のニヤつきは完全に行き場を失いました。
ほかの2作品も、当然のようにラストで、第3、第4のキャラ、しかも執着心が強そうな美人が不穏に動き始めているんですよ。
1巻でキリよく話がまとまる国内のBL作品とは異なり、ゆっくりと丁寧に“激重”ストーリーを描いている韓国BL作品。
1巻でこれだけじっくり“序”を描くのであれば、2巻以降には相当読み応えたっぷりの展開が待っているに違いありません!
このもどかしさと期待感はクセになりそうで、随時更新される単話版をポチポチと課金してしまう未来が見えました。
長い時間をかけてじっくりと味わう、韓国BLならではの“遅効性の沼”に現在進行系でハマりつつあります。1人では心細いので、ぜひ皆さんにもこのジリジリ感を味わってもらいたい……!
韓国BL作品を読んでみたら、絵の雰囲気やストーリーのテンポの違いに驚きつつも、文化圏が違うからこその新鮮なBLエッセンスを摂取することができました。
“ボーイズがラブする”という大枠は同じでも、国が変わればこんなに雰囲気が変わるのか……と驚くばかりです。
「待つのが苦手」というせっかちな人は、完結するのを待ってから一気に沼にダイブするのがいいかもしれません。
ただ、「じわじわ沼に浸かりたい」という人は、引きが強すぎるこの作品たちの1巻を読んで、とりこになってみるのもいいのではないでしょうか。
執筆:双海しお
■「ダリアコミックスユニ」韓国発BL 特集ページ
https://www.fwinc.jp/daria/uni/2405dcuni/
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双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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