双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。今月の深堀りテーマは“音楽”。
うれしい時、悲しい時、幸せな時。そして、ちょっぴりつらい時も。いつも私たちに寄り添ってくれる…「音楽を推す」特集を実施中です。
2024年に声優デビュー20周年、アーティストとしてはデビュー13年目を迎える、声優アーティストの寺島拓篤さん。そんな節目の年に、寺島さんの“音楽遍歴”を調査してみることに。
すると、「幼い頃にハマった90年代『ガンダム』などのアニソンや、『ニジガク』(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)で元気をチャージしている!」と、深〜いアニメ愛を感じる回答が返ってきました。
さらに、これまでの音楽活動を振り返って「アーティストとしての活動が、“役者としての自信”につながった」と明かす寺島さん。
2024年9月4日(水)発売のコンセプトEP「ELEMENTS」には、そんな自信を与えてくれたファンへの感謝、そしてこれまでに演じたキャラクターたちとの運命的な出会いを表現したと語ります。
“寺島拓篤の音楽”を形成するものを深掘りするとともに、アーティスト活動を通して得た気付きについて伺いました。
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INDEX
――まずは声優アーティストとしてこれまで数多くの楽曲を歌ってきた寺島さんの、音楽遍歴について伺います。初めて音楽に興味を持ったのは、いつ頃でしたか?
寺島拓篤さん(以下、寺島):
アニソンを除くと、中学生の頃に「B’z」を好きになったのが最初ですかね。友達がアルバムを貸してくれて。B'zはアニメ『地獄先生ぬ~べ~』の主題歌で以前から知っていたアーティストだったので、興味を持った記憶があります。
アニメと関係ない曲をちゃんと好きになったのは、それが初めてだったかな。それ以外は、ずっとTVアニメ『るろうに剣心』のサントラなどを聴いていました。
――では、寺島さんに影響を与えたアーティストを挙げるとすると?
寺島:
実は、ないんですよね。学生時代に熱中していたアーティストや音楽ジャンルも、これといって思い浮かばないんです。
邦楽ロックのバンドサウンドが好きなのですが、その反面、初音ミクみたいなDTMも好きで、めちゃくちゃデジタルサウンドやないかい! って感じですし。最近は、中森明菜さんとか80年代のサウンド感も好きで……。
本当になんでも好きで、昔から特定のアーティストを追っかけてきたわけではないというか、言ってしまうと雑食オタクなんですよ(笑)。
最近だと、90年代のアニソンを聴くことが多いですね。 それと、世代的に作品は観ていなかったけど80年代のアニソンも。
昔好きだった懐かしい曲を聴くと、心が安らぐじゃないですか。幼い頃や学生時代にハマった楽曲を聴いて、元気をチャージしています。
――昔ハマった曲を聴くと心が落ち着くのは、すごく分かります。その中で、特によく聴いている曲はありますか?
寺島:
森口博子さんの『機動戦士Ζガンダム』OP主題歌「水の星へ愛をこめて」とか、あとは90年代の『ガンダム』楽曲ですね。
聴くだけで、爽快な気分になるんですよね。オタク的な感覚だと思いますが……「キタキタキター! これこれ!」と、自然とテンションが上がるんです(笑)。
ちょっとヘコむことがあったとしても、当時のアニソンが気分を上げてくれる。子どもの頃、何のしがらみもなく好きなアニメを観ていた頃の気持ちに戻してくれる気がするんですよね。
ほかに最近よく聴いているのは、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(通称『ニジガク』)の曲。僕は『ラブライブ!』シリーズが好きだと公言しています。
「μ'sじゃないんだ!?」と言われてしまうかもしれないのですが(笑)。『ニジガク』の音楽が妙にしっくりハマる感覚があって、いつも聴いています。
――『ニジガク』楽曲は、キャラクターソングやユニットソングを含めるとかなりの曲数がありますが、特にお気に入りの曲はありますか?
寺島:
「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」メンバー全員での曲でいうと、「トワイライト」ですね。TVアニメ第2期のOP主題歌「Colorful Dreams! Colorful Smiles!」のカップリング曲なのですが、めっちゃ好きです!
ユニットだと、推しのかすみん(中須かすみ)がいるQU4RTZ(クォーツ)が好きで、そのユニット曲はどれもかわいくてお気に入りです。キャラクターのソロ曲なら、ミア・テイラーの「Lemonade」をよく聴いているかな。
『ラブライブ!』は仕事とかを抜きに、ただ趣味として楽しむことができて、ありのままの自分を受け入れてもらっている感覚がするんです。
自分の楽曲や担当しているキャラクターソングを聴くこともありますが、どうしても分析してしまうクセがあるので……(苦笑)。「もっとこういう風に歌えたかもしれない」と、つい真剣に考えてしまうんですよね。
『ラブライブ!』楽曲は、純粋に曲を聴いて楽しむことができるので、無条件でテンションが上がります!
――あくまでもファンの視点から、純粋に楽しむことができるのが『ラブライブ!』なのですね。『ニジガク』はライブやイベントを頻繁に開催していますが、それらを観て楽しむこともあるのでしょうか。
寺島:
ライブを観にいくことは基本的にありません。役者さんの努力は尊敬するし、その凄さはよく分かるのですが、それ以上にキャラクターが好きなんですよね。ただ、以前Aqoursと同じライブに出演する機会があって、少し特殊な経験をさせてもらいました。
ステージ裏でスタンバイしていたら、ライブのトリを務めるAqoursの歌声が幕のすぐ向こうから聴こえてきたんです! それを聴いた瞬間、「え、僕今アニメの世界にいる?」みたいな錯覚を覚えたんですよ! ステージの幕が、まさにアニメの世界と現実を隔つ画面のような役割を果たしていたんですよね。
その時の感覚が、もう……最高で! 『ラブライブ!』シリーズの楽曲を、舞台袖やステージ裏で聴くのが一番面白いことに気付いたんです。それ以来、ご一緒する機会があったら、ステージ裏でひっそり聴いてはコールをするという、こじらせた楽しみ方をしています(笑)。
――同じステージに出演する側しか楽しめない方法ですね(笑)。『ニジガク』を好きになったことで、ご自身のアーティスト活動に良い影響はありましたか?
寺島:
たくさんありますが、僕を応援してくれている方々は、きっと同じくらいの熱量を注いでいるのだろうなと実感することができたのが大きいですね。
――ご自身が『ニジガク』を推しているからこそ、“推す側”の気持ちを理解できたのですね。
寺島:
まさにそうです。アーティストとして何を届けるべきか、何を届けるのが最高なのか。そういうことを、より具体的に理解することができたなと思います。
――寺島さんは、今年(2024年)アーティストデビュー13年目になりますが、以前のインタビューで「高校生までは歌うことが苦手だった」とお話しされていました。
寺島:
そうなんです。歌を本格的に学んだのは専門学校でのレッスンが初めてだったのですが、人前で歌うのはすごく苦手でした。意識が変わったのは、専門学校で出会った恩師の存在が大きいですね。
――恩師のどんな教えが、寺島さんを変えたのでしょうか?
寺島:
歌うことの楽しさを、教えてくれたんです。音楽はただ聴いて楽しむだけではなく、自分が音楽に“入っていく”ことで楽しさがより増すものなんだと、そこで気付かせてもらいました。
ピアノを弾きながら、楽しそうに「こうやってもっと音楽に乗って!」と教えてくださった姿が、すごく印象に残っています。
とはいえ、今でも人前で歌うことに対してどこか苦手意識があるというか、恥ずかしさみたいなものは残っているんですよ。子どもの頃から、人前でなにかをやるというのが苦手で。大人になった今でも、カラオケはすごく苦手なんですよね。
――大勢の観客を前にライブをする経験を多くされていても、カラオケは苦手なのですね。
寺島:
カラオケって、誰に向けて歌うものなのか分かっていないからかもしれません(笑)。
ライブやコンサートは、僕の歌を聴きに来てくれているのが明確なので「その人たちのために歌おう」と思える。ですが、一緒にカラオケに来た人たちは僕の歌を聴きたいとは限らないじゃないですか。
もともと僕は「人のために何かをしたい」という意識が強いので、自分が楽しいから歌うというよりも、「みんなが楽しんでくれるから歌う」方が正しいんですよね。
――つまり、寺島さんにとって「歌う」という行為は、それを聴いて喜んでくれる存在があってこそ成り立つのですね。それでも、アーティスト活動を始めた理由は?
寺島:
寺島拓篤を応援してくださる方々に、もらってばかりではなくて、お返しがしたいと思ったからです。
僕の考えは、声優を始めた当初から変わらず、「声優=裏方」なんです。キャラクターを生かすためのパーツの一つになる、それが声優の仕事だと考えていて。
それでも、ファンの皆さんはわざわざ作品を飛び越えて“キャラクターの向こう側にいる寺島拓篤”を応援してくれているんですよね。
それならば、僕も境界線を一つ飛び越えて活動をしないとフェアではない。その考えが、アーティスト活動を始めた理由の一つでもありました。
――長く音楽活動を続けてきたからこそ、得たものはありますか?
寺島:
「自分自身に価値があるんだ」ということに気付けたことですかね。もちろんどんな人にも価値はあると思うのですが、自分自身に関してはなかなか見出すことができなくて。
「僕が生み出すものを、一体誰が見て喜んでくれるんだろう」というネガティブな思考は未だにあるし、怖さもあります。
それでも音楽活動を続けることができたのは、ファンの存在があってこそ。日々のコミュニケーションを通して、僕に「寺島拓篤は応援したくなるほどの価値がある人なんだ」と自覚させてくれたんです。
それが何よりも自信につながっていますし、皆さんに対する感謝の気持ちが、何よりもアーティスト活動のモチベーションになっています。
――「自分に価値がある」という気付きを得たことで、声優業にどんな良い影響がありましたか?
寺島:
自分の価値を認められるようになって、“役者が持つエゴイズム”を取り入れることができたと思います。
以前は、オーディションを受けても「絶対このキャラクターは僕が演じるべきだ」なんて思えるほどの自信はほとんどなかった。
でも、だんだんと自分の長所に目を向けられるようになってきて、そう思えることも増えた気がします。以前よりも堂々と、自分の演技に対して自信を持てるようになりましたね。
――ここからは、声優デビュー20周年を飾るコンセプトEP「ELEMENTS」について伺います。楽曲とは別にボイスドラマが収録され、音楽と物語という二つ側面から魅せる内容に仕上がっていますが、この構想はどのようにして生まれたのでしょうか?
寺島:
今回のコンセプトEPの内容を決めるのと並行して、ライブをする話が出ていたんですよ。そこでどう魅せるかと考えたときに、声優活動20周年だな、と。
声優をやっていなければ、当然アーティスト活動もしていないので、“声優であること”を演出に組み込みたい。そう考えて、オリジナルのボイスドラマを作ろうと考えたのがきっかけです。
――ボイスドラマは、寺島さんご自身がキャラクター考案からシナリオ執筆まで担当されたそうですね。そのような取り組みは、今回が初挑戦だったのでしょうか?
寺島:
初めてでしたね。すごく難しかったです。ストーリーを一から組み立てるのには、いろんなことを考えなくてはいけないのだなと、改めて実感しました。
完成したシナリオをいざ読み上げてみると、物語としてうまく成立しないことに気付いて、また書き直して……のくり返しで。
キャラクターに関しても、最初は「ELEMENTS」になぞらえて5体の精霊を登場させようかと考えていたのですが……いろいろとパターンを考えた末に、「サマエル」という“世界の創造主”に決まりました。
――収録曲も、それぞれ「火・水・土・風・光」という元素をイメージされているとのこと。この発想は、どこからヒントを得たのでしょうか。
寺島:
以前から「コンセプトEPを出してみたい」という思いがあって、季節とか星座とかをいろんなモチーフで考えていたんです。
そんな中、すでに配信シングルとしてリリースしていて、今回のEPに必ず収録したいと考えていた「ヒカリハナツ」という曲があって。「“光”だから、元素とかハマりそうだな」と、ふと思いついたんです。
本来であれば光じゃなくて「空」が一般的だと思うのですが、光と空って、なんとなく共通するイメージがあるじゃないですか。そこから「5大元素をコンセプトにしてみよう!」と決めて、ほかの元素を表現した4曲を追加していきました。
当初、「ELEMENTS」は仮タイトルだったんですよ。「ELEMENTS(仮)」としていたのですが、途中で「いや、もうほかに良いのないな」と(笑)。ちょっとストレートすぎるかなとも思いましたが、これ以上ハマるタイトルはないということで「ELEMENTS」としました。
――EPのタイトルのみならず、全楽曲の作詞も寺島さんが担当されています。「ヒカリハナツ」はすでに発表されていた楽曲とのことでしたが、ほか4曲のうち最も「元素」を歌詞に落とし込むのに苦労したのは?
寺島:
「土」をイメージした曲である、「明けの地平」ですね。サウンド感や描きたい情景のイメージは、制作に取り掛かる前から持っていたんです。乾いた大地に朝焼けが差し込んで……みたいな情景が、すでに頭に浮かんでいて。
ですが、それをもとにどんな歌詞を書こうかと考えたら、めちゃくちゃ「光」に寄った歌詞になってしまって。そもそも、朝焼けが差し込んでいる情景をイメージする時点で「光やないかい!」という話なんですけど(笑)。
でも、光がどこから生まれるかと考えると、東の地平線からじゃないですか。そう考えると、土と光ってつながっているなと。
――土をイメージした曲を書こうとして光に寄ってしまうのは、必然的だったのですね。
寺島:
ほかの元素に関しても同じで、乾いた大地に「水」が流れて、「風」が吹いて……。地面を照りつけるほどの日差しは「火」を感じさせるし、土には全ての元素との結びつきがあると気付いたんです。
今回の楽曲は、それぞれが異なる元素を表しているからこそ個性がはっきりしているのですが、「明けの地平」に関しては“すべてを包み込む大きな器”としての土をイメージさせる内容になったと思います。
ほかにも「明けの地平」には、声優活動20周年に対する感謝の気持ちが込められているんですよ。“これまでに演じたキャラクターたちとの出会い”という、運命的なものへの感謝を伝えようと思って。
――土をイメージした曲で、どのように“キャラクターたちとの出会い”に対する感謝を表したのでしょうか?
寺島:
僕と画面の向こう側にいるキャラクターたちの間にある「画面」という隔たりを書こうと思いました。
その果てにあるのが、僕とキャラクターたちが交わる地平線だと考えているのですが、それがあるからこそ特別な光が生まれる。特別な光が僕と彼らの絆であり、声優としての誇りでもある。そんな思いを、「明けの地平」の歌詞に込めました。
(以下、歌詞引用)
透明な境界は彼方まで divided
触れ合うことはない
乾いた空気に潤んだ目が 僕らを繋いだ>
(ココマデ)
――<透明な境界>や<触れ合うことはない>というフレーズは、まさにキャラクターたちとの隔たりを想起させます。
寺島:
サビの<This is the life>というフレーズにも、自分が声優であることや役との向き合い方について、シンプルな英語で表現しているんです。最後の単語を“life”にしたのは、「20年も続けてりゃそれはもう人生だろう」と。
(以下、歌詞引用)
<This is the fate
This is the grace
なぜ出会えたんだろう
This is the pride
This is the life
その答えと 歩き出そう>
(ココマデ)
生まれてから、声優の道を目指すまでの18年間。それより長い時間を声優として生きてきたので、その思い出を凝縮できたらという思いで“life”にしました。
自分としてはすごくしっくりきていて、とても気持ちよく埋めることができたフレーズですね。
――まさにこの「明けの地平」は、寺島さんの声優アーティスト人生そのものを表している曲なのですね。
寺島:
声優としてこれまでにいろんなキャラクターたちを演じさせてもらいましたが、僕が生きている間では、彼らと物理的に触れ合うことは技術的に不可能かもしれません。
でも、この曲で表している通り、二次元と現実との間に隔たりはあって然るべきだと考えているんです。僕はやっぱり、キャラクターたちは画面の向こうで生きていると考えているタイプのオタクなので(笑)。
そんな隔たりがあってもなお彼らに出会えたこと、そして応援してくださる皆さんへの感謝の気持ちを、これからも大切にしていきたいなと思います。
(執筆=双海しお、撮影=洞澤佐智子(CROSSOVER)、取材・編集=柴田捺美)
双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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