すなくじら
下町育ちのエンタメライター。アニメ&映画ジャンルを中心に執筆活動中。ダークファンタジーやゴシックなテイストの世界観の作品が好きです。乙女ゲームの新作情報が生き甲斐。
ありのままの自分を貫くことは、案外難しい。
春を迎え、新しい環境で過ごす中、それを痛感している人は多いのではないでしょうか。
2024年5月24日(金)よりNetflixにて世界独占配信&日本劇場公開される、スタジオコロリドの新作映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』の主人公・八ツ瀬柊も、似たような悩みを抱えています。
みんなに嫌われたくなくて頼まれごとを断ることができず、一生懸命やってみても、いつも何だか上手くいかない15歳なのです。
「そんな柊に、共感できる人は多いはず。でも、正反対の性格を持つ鬼の少女・ツムギとの出会いを通して、彼は大きく成長していきます」
柊を演じた小野賢章さんは、思春期の成長を等身大で描いている点が印象的だったと話し、「15歳の頃なんて、僕はまだまだ子どもだった」とはにかみます。
4歳で子役デビューしてから、“演者の道”を歩み続けて30年以上。「30代に入ってからは仕事への意識が変わり、やりたかった事も実現できた」と打ち明けます。
“子どもだった”状態からとうに抜け出して、成長実感を得られたターニングポイントはいつ、どこにあったのでしょうか。そして、これからどんな未来を見据えているのでしょう。
小野さん自身の軌跡について、『好きでも嫌いなあまのじゃく』でのお話と合わせて教えてもらいました。
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INDEX
ーー小野さんはスタジオコロリドの過去作、『泣きたい私は猫をかぶる』にも出演されています。柴山(智隆)監督とは再タッグを組む形になったと思うのですが、今回のアフレコ現場での印象的なやりとりはありますか?
小野賢章(以下、小野):
ありがたいことにアフレコはかなりスムーズに進んだので、役作りやディレクション的な部分ではあまり無かったです。
ただ、柊って割と「監督自身の経験が投影されている」らしく、柴山監督の意外な一面を知ることができたので、その話は鮮明に覚えています。
ーーキャストコメントでは「何回かに分けて収録したので、ゆっくりと役と向き合いながら丁寧に進んでいけました」とおっしゃっていました。
小野:
劇場版のアフレコだと丸1日とか2日でスピーディーに収録することが多いんですけど、今作は数回に分けてゆっくり収録しました。
最後のシーン以外は、ツムギ役の富田美憂さんと一緒に収録できたかな。収録が数回に分かれていたからこそ、自分の中でゆったり気持ちを整理しながら、作品の流れに身を任せて演じることができたと思います。
ーー自然なまま、演じることができたのですね。小野さんは俳優のお仕事もされていますが、声優のお芝居と俳優のお芝居で意識して区別している点はありますか?
小野:
個人的には、「声優だから、俳優だからこういうふうにやらなきゃ」というのは雑念でしかないと思っていて。どちらのお仕事でも自然体で、自分が感じるままに演じられるのが一番だと思っています。
舞台なのか、映像なのかもあんまり関係ないというか……。どちらかというと、昔から感覚を大切にして演じるタイプなんです。
「この後にこういう展開があるから、ちょっとここでは演技を抑えよう」とか、そうやって色々考えながら演じるのが苦手なだけかもしれませんが(笑)。
ーー感覚を頼りに演じると言っても、自分とは真逆の性格の役や、人間ではない場合など自分の中に引き出しがない役の場合もありますよね。そのときはどうするのでしょうか?
小野:
自分の感覚にはないけど、「きっとこういう人もいるんだろうな」と想像力で補って演じることが多いですね。確かに、自分の中にもともと引き出しがないものって、咄嗟に出にくいこともあるんですよ。
なので、演じたことのないどんな役でもすぐに演じられるように、日頃からよく人間観察をするようにしていますね。
ーー人間観察、ですか?
小野:
声優や俳優などの間ではよく言われる例え話なのですが、酔っ払いの演技って、実はお酒を飲まない人の方がうまかったりするんですよ。お酒の席で冷静に、酔っ払っている人を観察できるからという理由で。
そういう場でいつも酔っぱらってしまう人は、いざ演じようとしても日頃観察していないから説得力がなくなってしまうこともあるんです。
なので、日頃から人間を観察して想像力を養うことと、実際にそれを表現する力が演者として成長するためには必要なのかなと思います。
ーー確かに、見たことのないものを演じるのは難しそうですよね。ちなみに、アフレコ現場でも共演者の方を観察することはありますか?
小野:
ありますよ。やっぱりその人によって、声の出し方が全然違うんです。セリフを発する時の身振り手振りや、どこに力を入れているのかも人それぞれ違ってすごく面白いんです。
ズボンをぎゅっと握りしめながら演じる人もいれば、手をブンブン振りながら演じる人もいて。あとは耳に手を当てて、自分の声を聞きながら演じる人もいますね。
声の出し方だけじゃなくて、セリフの言い方、言い回しも人によって全然違うので、「自分の感覚だけが正解じゃないんだ」ってすごく勉強になります。
ーー小野さん演じる主人公の八ツ瀬柊は「周りに流されがちで、断るのが苦手な男の子」とありますが、彼に対してはどんな印象を持ちましたか?
小野:
言葉を選ばずに言うなら、柊って他人にうまく利用されているような雰囲気もあるんですよね。
最初は友達からの頼まれ事を断れなくて苦労する場面も多かったのですが、物語の後半では自分のやりたいことを貫こうとするシーンもありました。
そんな頑固なところも次第に見えてくると、「柊って、意外とそういう一面もあるんだ!」ってちょっとびっくりしました(笑)。
ーー確かに、ちょっと頑固な部分は等身大の高校生らしさを感じました。
小野:
心配になるくらい弱い子ではないんですよね。案外、コミュニケーションが苦手なタイプではないと思っています。
そんな彼が、正反対の性格を持つ鬼の少女・ツムギと出会い、いろんな人の生き方を知る中で自分自身や家族への向き合い方とか、考え方が変化していく。
『好きでも嫌いなあまのじゃく』は、そういう柊の心の変化や成長の一つひとつが、とにかく丁寧に描かれている映画だと思いました。
ーー作中の柊は、15歳ならではの感性でさまざまな出来事に悩みを抱えています。小野さんが柊と同じ15歳の頃は、どんな学生でしたか?
小野:
15歳の頃かぁ。まだまだ子どもでしたね。当時は高校生男子らしく、どうやったらモテるかとか、そんなことばっかり考えていた気がします(笑)。
柊は自分の心の内側を見せられるような親友がいないことに悩んでいますけど、このくらいの年齢って良くも悪くも周囲との関係性が変わりやすいから、当然の悩みなのかなとは思いますね。
僕自身も高校生活を振り返ってみると、最初の頃に仲良かった友達と疎遠になって、途中から仲良くなった子と卒業まで仲良かったですから。
ーー小野さんが15歳の時だと、映画『ハリー・ポッター』シリーズの吹き替えもすでに担当されていましたよね。自分の中でも明確に役者としての意識が固まり出したのは、どのタイミングだったのでしょう?
小野:
僕は遅かったと思います。当時はまだ仕事としての感覚がしっかりと芽生えていたわけじゃなくて。なんだろうな……“部活に近い感覚”というのが、一番近いかもしれません。
きちんと固まり出したのは18歳、高校3年生の頃でした。卒業を間近に控えたタイミングで、大学に進学するかどうかを決断したことが大きかったですね。
結局大学には行かず、演技の道に専念することを選んだのですが、そこから「声優で食べていくんだ」って強い覚悟が芽生えたんです。
ーー18歳ということは、今から25年以上前のことですね。その後ご自身の成長を実感したターニングポイントとして、よく『黒子のバスケ』の黒子テツヤ役を挙げられている印象があります。
小野:
そうですね。『黒子のバスケ』を最初に演じたのは23歳くらいの時で、そこを起点に20代はただただ真っ直ぐ、仕事に打ち込みました。「なんでもやります!」って精神で、与えられた目の前の仕事一つひとつに全力投球。
もちろん今でも全力を注ぐことに変わりはありませんが、30代に入って少し余裕が出てきたのもあって、「自分のやりたいことに時間を使いたい」と思うようになりました。それは、割と最近の成長というか、変化かもしれません。
実際に、一昨年にはやりたかった仕事が実現できました。
ーーどんなお仕事ですか?
小野:
以前から挑戦したかったことの一つに「古典文学の朗読」があったのですが、京都の西本願寺内の国宝「鴻の間」で、細谷佳正さんと『平家物語』の朗読をさせてもらったんです。
事務所や色々な方々の力を借りて実現した企画だったのですが、鴻の間は特別な時じゃないと入れない場所なんですよ。そんな場所ですごく貴重な経験をさせていただいて、とにかく嬉しかったですね。
ーーまさに「自分のやりたいこと」を実現できたのですね。お客さんの反応はいかがでしたか?
小野:
正直、おいてきぼりにされている人もいたかもしれません(笑)。
西本願寺での朗読は、お客さんからしたら結構難しい内容だったと思うんですよね。僕自身が、最初に古典の朗読を聞いた時もそうなので。
でもこういうイベントは、作品の雰囲気を楽しんでいただければそれでいい気がしています。
その場では完璧に意味を理解できなくても、作品の持つ世界観や美しさを肌で感じて、興味を持っていただけたら。
そのきっかけ作りはできたかなと思っていますし、そういうことにまたチャレンジできる機会があれば、どんどんやっていきたいです。
ーーすてきです。今度はぜひ、『好きでも嫌いなあまのじゃく』の美しい世界観も多くの方に楽しんでいただきたいですね。
小野:
そうですね。日常から非日常へ自然に入っていくところが印象的で、鬼という存在が出てくる非現実的な部分と、リアルな青春模様がミックスされているところが、スタジオコロリドさんらしい世界観だなと感じました。
キャラクターの心情の移り変わりが分かりやすく描写されているからこそ、いろんな人に楽しんでもらえる作品だと思います。
「本当の気持ちを隠しすぎると体から小鬼が出て、それがたくさん出る人間はやがて鬼になる」という設定もすごく分かりやすいですし、誰かのために頑張り過ぎてしまったり、頼まれ事を断れなかったりする性格の柊にも共感できる。
誰しもが共感できる要素がある作品だと、個人的には思っています。
ーー柊と同じような悩みを抱える方にも、広く届く作品になるといいですね。
小野:
はい。柊がツムギとの出会いを経て新しい自分を見つけていく過程は、まさに10代の子たちに刺さるんじゃないかなと思います。
「自分らしさって何だろう?」「周りとどう折り合いをつけていけばいいんだろう?」と悩んでいる方には、柊たちの物語がきっと自分事のように感じられると思います。
次々と大事件が起きるタイプの作品ではないのですが、だからこそゆったりと、心穏やかに観てほしいですね。
(取材・執筆:すなくじら、編集:柴田捺美、撮影:洞澤佐智子(CROSSOVER))
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映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』
5月24日(金)よりNetflix世界独占配信&日本劇場公開
■ストーリー:
高校1年生の柊(ひいらぎ)は、“みんなに嫌われたくない”という想いから、気づけば“頼まれごとを断れない”性格に。毎日“誰かのために”を一生懸命やってみているのに、親友と呼べる友だちがいない。
季節外れの雪が降ったある夏のこと。いつも通り頼まれごとを頑張ってみたものの、やっぱり“何か”が上手くいかない。
「なんだかな」と家に帰る途中、泊まるあてがないというツムギを助けるが……その夜、事件が起きる。
とあることで父親と口論になりそうになるも、“本当の気持ち”を隠してしまった柊。言葉にできない何かを抱えながら、部屋で居眠りをしてしまう。
ふと寒さで目が覚めると、部屋が凍りついていて!?柊はお面をつけた謎の化け物に襲われるが、異変に気付き助けに来たツムギとふたりで、部屋を飛び出す。
一息ついた先でふとツムギの方を見ると……彼女の頭には“ツノ”が!?
ツムギは自分が“鬼”で、物心つく前に別れた母親を探しにきたという。そして、柊から出ている“雪”のようなものは、本当の気持ちを隠す人間から出る“小鬼”で、小鬼が多く出る人間はいずれ鬼になるのだと……。
柊はツムギの「お母さん探しを手伝って欲しい」という頼みを断り切れず、一緒に旅に出ることに。しかし、時を同じくして、ツムギの故郷・鬼が暮らす“隠の郷(なばりのさと)”でも事件が起きていて——。
■キャスト:
八ツ瀬柊:小野賢章
ツムギ:富田美憂
■スタッフ:
監督:柴山智隆
脚本:柿原優子 柴山智隆
キャラクターデザイン:横田匡史
キャラクターデザイン補佐:近岡直
色彩設計:田中美穂
美術監督:稲葉邦彦
CGディレクター:さいとうつかさ
撮影監督:町田啓
編集:木南涼太
音楽:窪田ミナ
音響監督:木村絵理子
配給:ツインエンジン ギグリーボックス
企画・製作:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
すなくじら
下町育ちのエンタメライター。アニメ&映画ジャンルを中心に執筆活動中。ダークファンタジーやゴシックなテイストの世界観の作品が好きです。乙女ゲームの新作情報が生き甲斐。
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