広告をスキップ
『ベルサイユのばら』1巻 (フェアベル)

なぜ『ベルサイユのばら』オスカルは女性を夢中にする? マリーやロザリーら“虜になった”キャラとの関係からその理由を探る

今もなお、色褪せずにばらのように咲き誇る少女漫画の金字塔『ベルサイユのばら』(通称『ベルばら』)。『ベルばら』は漫画家・池田理代子先生が1972年から1973年にかけて連載し、当時「歴史ものは流行らない」と言われていたにもかかわらずフランス革命前を生きる人々の人間ドラマを緻密に描き、絶大な人気を博した伝説的な作品です。

その人気ぶりは50周年を迎えた現代でも健在で、2025年1月31日には劇場アニメ版が全国の劇場で公開される予定です。

劇場アニメ『ベルサイユのばら』キービジュアル

劇場アニメ『ベルサイユのばら』キービジュアル

魅力的な登場人物が数多く登場する中で、やはり注目すべきはいつの時代も女性を虜にしてきた男装の麗人・オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。代々フランスを守る将軍家の末娘として生まれながらも、男性として育てられた彼女は美しく高潔。作中でもあらゆる女性を虜にしてきました。

今回は、そんな「オスカルが虜にしてきた女性たち」に焦点を当てて、オスカルの魅力について深堀していきます。

溢れんばかりの親愛を向ける マリー・アントワネット

実は『ベルサイユのばら』の前半の主人公ともいえるマリー・アントワネット。彼女はオスカルを初めて目にしたとき「フランスには美しい殿方がいるのね...」と感心していました(すぐにその誤解は解かれましたが)。

マリーがオスカルに向ける感情は恋愛的な好意ではなく、あふれんばかりの親愛です。素直な感情を表に出しやすい気質のマリーは、女王になってすぐにオスカルの昇進を願い出ました。そして「地位でも城でも、望みのものはすべて差し上げたい。オスカルはどうしたら喜んでくれる?」とまで言い始めます。

その当時のマリーは孤独と不安と退屈に怯えていて、数少ない心の支えとなっていたオスカルに、少し依存していた部分もあったのではないでしょうか。

『ベルサイユのばら』1巻 (フェアベル)

『ベルサイユのばら』1巻 (フェアベル)

しかしオスカルはそのような申し出に対して「(私が喜ぶのは)アントワネットさまがりっぱな女王陛下になりあそばすこと...それだけでございます」とキッパリと断ります。

このどのような立場の人にも媚びず、一定のラインまでは誰も寄せ付けないような高潔さがまさにオスカルの魅力。この場面に打ち抜かれた読者も多いのではないでしょうか? 美しい上に高潔さというトゲをも持つオスカルは、まさにばらの花なのです。

ただ...その高潔さが、後にマリーが暴走する引き金を引いた部分もあるのではないかと、私は思っています。依存させてくれないという沼すらも持ち合わせているオスカル。どこまでも女性のツボを押さえてくる感じが罪深いですね。

独占欲も露わにする 11歳 シャルロット・ド・ポリニャック

シャルロットは、ポリニャック家という貴族の家に生まれた11歳の女の子。オスカル側とは敵対することになる家なのですが、そんな事情とは関係なく、オスカルに淡い恋心を抱くことになるのです。

シャルロットがオスカルへ向ける感情はまさに恋愛的な好意で、柱の陰からオスカルを見つめることしかできない、いじらしくも愛らしい姿がよく描かれています。

敵対する家の出身ということもあり、読者視点では恋敵(?)と認識したオスカル側のロザリーに対し、当初少し意地悪に見えるシャルロット。しかし、それは彼女がまだ11歳だということに起因していると思います。

『ベルサイユのばら』2巻 (フェアベル)

『ベルサイユのばら』2巻 (フェアベル)

オスカルに向ける感情は憧れにも似た可愛らしい好意である一方で、一方的な独占欲や嫉妬も表に出してしまうのは、まだ彼女が子供で隠すことを知らないから。そうした無垢さが、その後の彼女の運命の切なさと苦しさを、いっそう悲劇的に映し出すことにはなるのですが...。

オスカルとの場面で印象的なのは、オスカルに「左手に触らせてほしい」とお願いする場面。自分の家のせいで左手を怪我してしまったオスカルの左手を苦しそうに愛おしそうに触り、そっと涙を流してその場を去ります。

オスカルとしては、敵対する家の人間であり、ロザリーに対しても失礼な態度をとったことも事実であるため、シャルロットを適当にあしらっても当然のように思います。しかし、オスカルは決してそのようなことはせず、何も言わずに左手を差し出しました。おそらくこのとき、オスカルはシャルロットが自分に好意を抱いていることをわかっていたのではないでしょうか。

『ベルサイユのばら』3巻 (フェアベル)

『ベルサイユのばら』3巻 (フェアベル)

たとえ敵対する家の人間であっても、震えながらお願いするシャルロットの姿は目の前にいるのは自分に好意を向けるただ一人の女の子でしかありません。

ちょうどオスカル自身が女としての人生と自分の恋について悩み始めた時期でもあったため、自分に向けられた感情や彼女の境遇を思うと、決して邪険にすることはできなかったのではないでしょうか。

己の正義を信じぬく強い意志をもちながらも、甘さを捨てきれないオスカル。高潔で完璧に見えて、弱さも隙もちゃんとある人間らしさも、オスカルの魅力ですね。

叶わぬ恋に身を焦がす ロザリー・ラ・モリエール

母を奪った貴族に復讐を誓い、オスカルに拾われて生活を共にするロザリー。剣術から基本的な礼儀の指導までオスカルが行い、やがて一緒にベルサイユ宮殿へ赴くまでになります。

母も姉もなにもかも失ったロザリーは、オスカルにやや依存気味で、当初は仕事だからとマリーを優先するオスカルに嫉妬するほどでした。オスカルの優しさや実直さに触れるたびに惹かれていくロザリーですが、それと同時にオスカルが女性であるという事実は彼女の胸を締め付け、叶わぬ恋に涙を流します。

『ベルサイユのばら』4巻 (フェアベル)

『ベルサイユのばら』4巻 (フェアベル)

ロザリーは、私の記憶の中では作中で唯一オスカルに「私は女だ」と釘を刺された人物です。オスカルは好意を向けてくる女性に対して、わざと女性が喜ぶように振る舞い、冗談でかわすような態度を取り続けていました。

しかしロザリーに対しては真剣に向き合い、そのうえで突き放しています。これはオスカルがロザリーを大事に思うがゆえの行動だと、私は考えています。

ロザリーがオスカルに向ける恋心は、ロザリー自身のアイデンティティや生きる目的と化しているような描写もありました。その感情はマリーよりもまっすぐで、シャルロットよりも濃く危ういものです。もしオスカル本人から釘を刺されなければ、葛藤し続けて心を壊してしまうほどに...。

おそらくオスカルは、そんなロザリーから向けられる熱を持った視線には早い段階から気付いていたのだと思います。そのためロザリーが好意を露わにするたびに、オスカルは釘を刺して一線を引くようにしていました。その理由は、ロザリーには自分の人生を歩んできちんと幸せになってほしいから。

『ベルサイユのばら』5巻 (フェアベル)

『ベルサイユのばら』5巻 (フェアベル)

オスカル自身に「どうしてやることもできなかったのだ。女の身では...」と苦悩させ、「私の春風」とまで言わせたロザリーへの感情は、間違いなく愛に溢れたものでした。

愛するがゆえに、言葉を用いてしっかりと突き放す選択をするオスカル。ロザリーのことを考えた理性的なその姿に、どこか寂しさや儚さも感じられます。悲しくも愛情にあふれた厳しさを、自分にも向けられたい...と、つい考えてしまいますね。

成熟した二人が醸し出す色気 ソフィア・フォン・フェルゼン

「もしオスカル様が女性だと知らなかったら、恋焦がれて焦がれ死にしていたかも...」と語ったソフィア・フォン・フェルゼン。『ベルばら』の主人公の一人ともいえるハンス・ アクセル・フォン・フェルゼンの妹君ですが、時にはオスカルをドキッとさせるような発言をする、非常に勘の鋭い知性溢れた女性です。

ソフィアは初めてオスカルに会った際、マリーと同様に「フランスの殿方って素敵!」と舞い上がります。しかし兄であるハンスからオスカルは女であると告げられ、あっさりと好意を胸にしまいました。

『ベルサイユのばら』6巻 (フェアベル)

『ベルサイユのばら』6巻 (フェアベル)

その後しばらく経って再会した際に、ソフィアは冒頭の言葉をオスカルに告げます。そのときの二人のやり取りはとても短いのですが、雰囲気になにか色気があるように感じて、読んでいて少しドキッとする場面です。これはお互いに成熟した精神を持つ大人であることがわかっていて、気を揉むことなく冗談で済ませられるという余裕があるからなのでしょうか。

オスカルの返答は「女性に生まれたおかげで、こんな美しい魅力的な貴婦人を妻にしそこなってしまった!」という飄々としたもの。

オスカルは常にこうして好意を冗談に変え、女性を立てて受け流してきましたが、清廉潔白でお堅い雰囲気からそういったおちゃめさが顔を出すギャップがたまりません。同じように女性から好意を向けられて受け流す場面では、手を握ったり甘い言葉をささやくような一面が飛び出すことも...。

普段から女性たちに対して、こうして冗談めかして翻弄していると思うとあまりに罪深いオスカル。現代ではある程度パターン化した「こういうのがお好きでしょ?」と言われる部分がこれでもかと詰め込まれているのだから、当時の読者の衝撃たるや想像に難くないですよね。

他にも沢山の女性を虜にしたオスカル

オスカルは上記で紹介した女性以外からも熱烈な好意を向けられています。恋愛、親愛、憧憬、依存、嫉妬...決して美しいだけではないさまざまな感情を向けられながらも、常に己の信念のもと高潔に咲き誇る彼女はまさに『ベルサイユのばら』。

その美しさと豪華さ、儚さと孤独をぜひ完全新作アニメでご覧ください。『ベルサイユのばら』の劇場アニメ版は、本日より全国の劇場にて公開開始です。

(執筆:宮本デン)

IMAGE

宮本デン

音楽と酒とネット文化、そしてアニメ・ゲームに心酔するサブカルライター。大衆が作り出すカオスがどこまでいくのか見届けたいという思いで、日々執筆活動を行っています。表現に対する深読みや考察が大好きなオタク。あなたの好きなカルチャーを、深く独自に掘り下げます。

この記事に関連するタグ

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

オタ腐★幾星霜