ふくだりょうこ
大阪府出身。大学卒業後、フリーランスのライターとして執筆活動を開始。ゲームシナリオのほか、インタビュー、エッセイ、コラム記事などを執筆。たれ耳のうさぎと暮らしている。ライブと小説とマンガがあったら生きていける。
「一歩一歩進んでいけば、こんなに素敵な景色が待っているんだ」
この言葉にどれほどの想いが込められているのだろうかーー。
2020年からコロナ禍の影響で変化したライブの形。アーティストと一緒に歌う、アーティストの名前を呼ぶ、これまで良しとされてきたことが“行ってはダメなこと”となってしまった。そんな中でも、アーティスト側はファンを楽しませようと、ファン側はアーティストを応援しようと試行錯誤してきた。
そこには新たな気づきもあった。声を出さなくても、ライブは楽しいものだということ。アーティストの楽曲、歌声、演奏に、ここまで集中することはなかったように思う。しかし、だ。決定的に何かが物足りない。この物足りなさの正体は何なのか。
つい最近、“とあること”がきっかけで、その正体に気づくことができた。ライブの声出しは、画面の向こう側、イヤホンの向こう側にいる存在と、コミュニケーションを取れる貴重な時間だったということだ。
そんなことを気づかせてくれたのは、コロナ禍を乗り越え、約4年ぶりにファンの声出しがOKとなった声優アーティスト宮野真守のライブツアー『MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2023 ~SINGING!~』に参戦したから。
ツアータイトルにもあるように、「一緒に歌うこと」がテーマになっていた今回のツアー。2023年9月16日からスタートし、大阪・宮城・広島を回り、最終公演を含む10月21(土)・22日(日)には、東京の国立代々木競技場 第一体育館にて行われた。
本記事では、10月21日(土)に行われたライブの模様をレポートする。「声援を送ること」の意味に気づかされた、歌声と、歓声と、感謝の声があふれるステージを体感してほしい。
INDEX
定刻。
照明が落ち、流れ始めるオープニング映像。宮野がレコードに針を落とすと、ツアーテーマ曲の「Sing a song together」が聴こえてくる。映像には、ダンサーたちと共に軽やかなステップを踏み、モノクロの世界を少しずつカラフルに彩っていく様子が映し出され、心を明るくしていく。
そんな時、ステージ上にはダンサーたちが登場。スクリーンには「Hey, Let’s Sing!」の文字が。そのメッセージに誘われるように客席のペンライトの光が揺れ、メロディが口ずさまれる。
そしてステージ上段にミントブルーの衣装に身を包んだ宮野の姿が現れると、一段と大きな歓声が上がり、代々木を揺らす。会場に視線を向け、その光景に笑顔を見せたあと、「歌え!」と声を張り上げる宮野。「Sing a song together」でオープニングを飾った。
ペンライトが煌めかせるステージに、踊り出るようにして花道を進み、センターステージで歌い上げる。力強い歌声を響かせつつ、会場の端から端まで、全員と目を合わせるように視線を送っていく。
そのままセンターステージで「BREAK IT!」でシャウトを披露。客席からもコールが上がり、グングンと会場の熱を上げていく。
3曲目は激しさから一転、艶めく歌声から始まった「THE ENTERTANMENT(HIRO REMIX)」。軽やかにステップを踏み、その華麗な身のこなしに客席から「Fu~!」と声が上がる。さらに、指ハートとウィンクで締め、序盤からファンの心をわしづかみにしていく。
ダンサーのパフォーマンスでステージが彩られたあと、ナチュラルな衣装にサングラス姿の宮野が登場。「FANTASISTA 2023」では、セクシーさをまといながら、バックショットだけでも魅せる。そんな宮野が「行くぞ!」と煽ると、会場は「ラララ」の大合唱。センターステージに歩み出ながら「もっともっと!」と煽り、ファンの歌声も盛り上げていく。
メインステージに戻ってからの「行こう!」では、歌声のみならず、表情、ダンス、ささやかな仕草で表現力を爆発。かと思えば、ギターのイントロが印象的な「Greed」では、ロックに攻め立てていく。続く「Invincible Love」は、黒の衣装に身を包み、しっとりと歌い上げる。怒涛のように披露した7曲で早くも宮野の魅力の奥深さを見せつけた。
「ついに約4年ぶりに声出しありのツアー、楽しんでいますか! 盛り上がっていますか!」と呼びかけた。そして響き渡る「マモー!」という声ににっこり。
ここからはバラードコーナーへ。
今回のツアータイトルにもあるように、「みんなで一緒に歌っていきたい」という想いから、バラードコーナーでも「歌えるかな?」と宮野。客席からは「歌える!」とレスポンスが。それに対し宮野は「任せたよ」「みんなを信じているよ」「綺麗な声を聴かせて」と投げかけ、芝居がかった口調で「恥ずかしがってんじゃねぇぞ」「ついてこれないやつは置いていくからな」と次々とセリフめいた言葉を繰り出し、最後は「頼む、俺の手を握ってくれ」とカメラに向かって手を差し伸べ、客席からは大きな歓声が上がった。
「みんなで歌うのにぴったりの曲」と言って宮野がチョイスしたのは「ぼくのキセキ」だ。曲中では「一緒に遊びましょう!」と歌う箇所をレクチャー。女性男性に分けて歌うことを促し、女性に向かっては「綺麗な歌声だね」と微笑み、男性の重低音には「それもあり!(笑)」と顔をクシャッとほころばせた。ファンと一緒にたっぷりと歌い上げ、満足そうな表情を見せる。歌い終えると、「上手だったよ、よしよし」と頭を撫でてあげる仕草を見せた。
MCでは、バンドメンバーと軽妙なトークを繰り広げた。ギターでバンドマスターの木原良輔とは年齢の話と共に、15年という道のりを振り返る。また、ベースの前田逸平からはツアー中のMCで、“エンタメに対する本音”を引き出されたと語った。
「チームマモと一緒にいるおかげで、ステージ上でのあり方やエンタメをやっている人間としてのポリシー、自分が目指しているもの、こだわっていることを素直に話せたかな、と思う。その話の中には、“ただ自分の好き勝手に喋るのではなく、どういう言葉の紡ぎ方をしたらみんなに伝わるかな”とか、ファンのみんなが聞いてくれているからこその伝えたい思いが入るんだよね。声を生業にしている人間としては、言葉で伝えるってすごく大事だな、と思っているから」
そして、ファンのみんなへ感謝を伝えることについても言及。「“ありがとう”という言葉の裏にはいろんな想いが乗っている」と語った。
「どんな想いが“ありがとう”に乗っているのかによって、声に色がつくわけじゃないですか。だけど、どんな想いが乗っているかって何か作品を見ていても説明してくれるわけではない。その説明が、ここ(チームマモ)でできた感じがします。『この“ありがとう”には、こういう想いが詰まっているんですよ』ということを、だーまえ(前田逸平)と話せたんですよね。例えば、『みんながいてくれないとライブが完成しないことに気づいたよ、ありがとう』とか。そういう感謝の裏側にある想いを、今回のツアーではたくさん話せたのがおもしろかったなと思います」
そのあとも「今日はすごくはしゃいじゃっている」というピアノの佐野宏晃が、観葉植物好きだったり、電気工事士の資格を取ったりした話で盛り上がり(実は前田も電気工事士の資格を持っているということも明らかに)、今回ツアー初参加のドラムス・中村“マーボー”真行は「今日、人生初のアリーナのステージに立っているんですよ」と告白。さらに、生まれて初めて、アリーナに足を運んだのがアシスタントとして立ち会った宮野のライブだったそうで、宮野からも客席からも「おめでとう!」の声が飛び、温かな空気に包まれる。宮野も驚きとともに、嬉しそうな表情を浮かべ「感動しちゃった」「いい日にしようね」と伝えた。
そのあと、バラードをもう一曲。「EVERLASTING」を届け、ここからは幕間の映像の時間へ。映し出されたのは、今回のツアー本番までを追ったノンフィクション風のコント映像だ。その一部もレポートでお届けしたいと思う。
冒頭、チームマモで本ツアーの会議の様子が映し出される。毎回ツアーの幕間ではコントを披露してきた宮野だったが、今回はなんとコントを封印。その代わりに、15周年ということから、「ツアーのための曲を書き下ろしたい」という宮野。しかし、アイディアがなかなか浮かばない。
南海キャンディーズの山里亮太、福士蒼汰、星野源から15周年のお祝いコメントが届き、そこから何か着想を得たように見えたが、〆切前日になっても曲ができたという知らせはなく、スタッフにも焦りがにじむ。宮野と親交の深い俳優・髙木俊が進捗を伺おうとしたが、宮野を追い詰めただけだった。そのまま宮野は姿を消してしまうーー。
宮野の行方を追うスタッフたち。発見された宮野は新曲のモチーフ探しに苦心していた。そんな彼が見つけたのは……イチゴだ。イチゴ→15→15周年……。かくして彼が作り上げた15周年記念ということで作られた楽曲は「ICHIGO~甘くてChuぱいぜ~」。
歌唱映像が流れただけではなく、映像終了後に登場した赤いジャケットを着た宮野は、「一緒に歌って踊ってお祝いしよう!」とサビ部分のダンスをレクチャー。イチゴカラーの赤と緑で染まった会場はとても華やかだ。しっかり全体で練習をし、全員が一緒になって新曲をレッツダンシング。大いに盛り上がった。
キュートに魅せたところで続く「愛の詩~Ulyssesの宴」では、ジャケットを脱ぎ捨てガラッと空気を変える。椅子を使ったパフォーマンスで妖艶に演出。さらに、ここからはメドレーで「FIRE」、「Now and Forever」、「Butterfly」、「Space Travellers」、「EGOISTIC」とクールからさわやかさまで多彩な楽曲が続く。踊り歌い、ラストは腹チラで会場の絶叫を呼んだ。
激しいステージはまだまだ終わらない。「カノン」では、宮野は拳を振り上げ、客席はペンライトを振り上げる。終盤にもかかわらず、会場のボルテージがまた上がったのが分かる。さらに「Quiet explosion」では、ワイルドなステージを見せる。
本ライブのスタートを彩った「Sing a song together」を今度は「disco mix」バージョンで披露。「みなさんの声を聴かせてください!」と会場の歌声をリードした。アリーナ席とスタンド席で分けたり、ステージ中央から右側と左側で分けたり、そこからさらにパートを分けたり、とたっぷりと客席とのコミュニケーションを楽しんだ。
そして「Kiss×Kiss」では、会場のライティングもペンライトもピンクに染まる。トロッコに乗り込んだ宮野はよりファンの近くへ。歌声だけでなく、投げキッスで客席をノックアウトしていく。1曲かけてアリーナを一周し、メインステージに戻ってきた宮野は、「かわいい笑顔をありがとう」とにっこり。
改めて久しぶりの声出し解禁となったツアーに喜びをかみしると、「ずっと僕のことを支えてくれたみんなもチームマモだね!」「みんなの顔、もっと近くに見に行こうかな」とゆっくりとセンターステージに歩みを進める。そして、コロナ禍になってから今までの歩みを静かに振り返った。
「もちろんコロナ禍になって苦しくもあったんだけど、それでもエンタメを止めちゃいけないな、と思った。でも、エンタメを続けていくやり方が、なかなか難しくて。始めのうちは、何をやったらいいのか悩みながら、何が正しいのかを苦しみながら、それでも歩みだけは止めちゃいけないなと、そのときにできる最大限を目指してきました。
これからもそういう難しい状況はなくなるわけじゃないと思うけど、今日、みんなが改めて僕に希望を示してくれたと思います。みんなで力を合わせて、一歩一歩進んでいけば、こんなに素敵な景色が待っているんだ、と教えてもらいました。ありがとう!」
力強い言葉に大きな拍手が沸き起こる。さらに宮野は、「僕が学んだことは、そのときにできることを諦めないこと」と言葉を続ける。
「みんなの歩みの中でも、大変なことがたくさんあったと思う。そこで僕が言えるのは、ちょっとした何かの最善を見つけただけでも、そこから突破口が見えるはず。多少は形が変わったとしても、自分が持っている芯が変わらなければ、そこでまた広げていける。そこで広がった結果、こうして戻ってこられたり、進んでこられたりするって思うんです。
いろんな状況の中で苦しいことがあった人たちも、『マモがそう言っていたからがんばるか』と、今日という日をきっかけに何かしてもらえたらいいな。コロナ禍で初めて(有観客)ライブをしたときに言った、『みんなのマイルストーンになる』という自分の答えを僕自身が示していこうと思うので、ぜひこれからも宮野真守についてきてください。よろしくお願いします!」
本編ラストを締めくくる楽曲は、宮野がコロナ禍で制作した「TEAM」。こんな時代だからこそあえて作った合唱曲だ。まだ声出しができなかった前回のツアーの最後に、「みんなの声がここにあるよ、大丈夫だよ」「僕らの声にみんなの想いを重ねて、って」と気持ちを込めて歌われた。
そんな宮野にとって意味のある楽曲は、ファンにとっても意味のある曲なのだろう。声援が可能となった今だからこそ、「やっぱり歌いたかったよね?」と宮野は問いかける。「今日、リベンジってわけじゃないけど…声を出して歌いませんか! みんなの声を聴かせてください!」「チームマモだからね、みんな」と言い、音を奏でる。ファンの大合唱に目を細め、嬉しそうにその歌声に耳を傾ける宮野。「これからもよろしく!」と声の限りに叫び、想いを伝えた。
宮野がステージを立ち去り、会場が暗転すると、すぐさま会場には「マモコール」があふれる。大きくなっていくコールに呼ばれ、宮野はツアーTシャツ姿で再び登場した。白いペンライトの光の中で披露したのは「透明」。思いを込めるように歌いあげると、「今日、この曲を歌えたことでまたひとつ僕の夢が叶いました」と言葉を紡いでいく。
「この曲をいただいたときから、ずっとこの時を夢見てきました」
この曲ができたのはコロナの真っただ中。声も出せない、みんなにも会えない。MVは空の客席の前に立って歌うというものをあえて作っていた。「いつかこの客席にみんなが座ってくれて、僕の声を聞いてくれて。そんなときを夢見ていた」と語る。作詞を担当したのは、宮野と同じくアーティストとしても活躍する声優の坂本真綾だ。
「『マモくんの音楽活動におけるファンの人への想いを込めて言葉を紡いでいきたい』と言ってくれました。『コロナ禍だけど、その先の希望を夢見て。こんな気持ちで終われるなんて。こんな自由が待っているなんて。あなたの声に抱かれながら』と、その景色を夢見て書いてくれました。なので、ずっとみんなの声に呼ばれて、包まれて、この曲を歌うのが夢だったんです。時間はかかりましたけど、ついに歌うことができました。みなさん、ありがとう!」
そんな宮野に、会場からは再びのマモコール。屈託のない笑顔を浮かべながら、宮野はファンに向けてこう叫んだ。
「名前を呼んでくれてありがとう!」
エンターテイナーとしてファンを楽しませ、その中に強い想いを込め、伝えきった本公演。ラストを飾ったのは「EXCITING!」。その楽曲タイトルにふさわしく、最高潮の盛り上がりの中、約3時間半のショーは幕を下ろした。
(執筆:ふくだりょうこ、編集:阿部裕華、ライブスチール:山内洋枝/PROGRESS-M、青木早霞/PROGRESS-M)
『MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2023 〜SINGING!〜』
■開催日程/会場
【大阪】大阪国際会議場 グランキューブ大阪 メインホール
9月16日(土)・9月17日(日)
【宮城】仙台サンプラザホール
9月30日(土)・10月1日(日)
【広島】広島文化学園HBGホール
10月7日(土)・10月8日(日)
【東京】国立代々木競技場 第一体育館
10月21日(土)・10月22日(日)
●各音楽配信サービスにて『MAMORU MIYANO ARENA LIVE TOUR 2023 ~SINGING!~』セットリストのプレイリストが公開中!
配信サイト一覧
https://lnk.to/MM_SINGINGSETLIST
●24th Single 「Sing a song together」
発売日:2023年12月13日(水)
品番:KICM-2145
価格:¥1,364+税 (CD only)
収録内容:
M1 Sing a song together
M2 Sing a song together LIVE ver.
M3 カップリング楽曲(新曲)
●Digital Single「Sing a song together」
Streaming now!
作詞:宮野真守
作曲・編曲:Jin Nakamura
配信サイト一覧
https://lnk.to/MM_Singasongtogether
公式ホームページ https://miyanomamoru.com
公式Twitter https://twitter.com/miyanomamoru_PR
公式Instagram https://www.instagram.com/miyano_mamoru_pr/
公式TikTok https://www.tiktok.com/@miyanomamoru_pr
オフィシャルYouTubeチャンネル https://www.youtube.com/c/miyanomamoru
ふくだりょうこ
大阪府出身。大学卒業後、フリーランスのライターとして執筆活動を開始。ゲームシナリオのほか、インタビュー、エッセイ、コラム記事などを執筆。たれ耳のうさぎと暮らしている。ライブと小説とマンガがあったら生きていける。
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます
特集記事
ランキング
電ファミ新着記事
2024年の思い出を振り返っちゃおう【黒木ほの香のどうか内密に。】
2024.12.21