双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。2024年8月の深堀りテーマは“ホラー”。「苦手…」と言いつつ、ついつい見たくなる・聞きたくなる…「ホラーを推す」特集を実施中です。
「『劇場版モノノ怪 唐傘』は、とにかく人間のコワさを感じました」
そう熱く語るのは、本作に出演する梶 裕貴さんと福山 潤さん。
実はお二人とも、2007年のTVシリーズ放映時から『モノノ怪』の大ファンだったそう。2024年7月26日に公開された『劇場版モノノ怪 唐傘』のキャスト発表時のコメントでは、念願叶って出演できたことの喜びを語っています。
ジャパニーズホラーアニメの代表作として、多くの視聴者を虜にしてきた『モノノ怪』。
日本美術を彷彿とさせるような美しくも恐ろしい表現が印象的で、TVアニメシリーズ放映から15年以上の月日を経て発表された今作では、さらにパワーアップした“コワさ”を魅せています。
そこで今回、梶さんと福山さんにその魅力や収録時のエピソードと合わせて、「最もゾクっとしたシーン」について教えてもらうことに。
すると意外にも梶さんの“ホラー苦手”が発覚し、対する福山さんは「オバケを描くホラーは怖くないけど、人間は恐ろしい!」などと、違いが明らかに…? お二人のコワさの価値観について迫ります。
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INDEX
――お二人とも、TVアニメ版から『モノノ怪』ファンだったと伺いました。
福山 潤(以下、福山):
はい。放送当時、「すごい表現をするアニメが出てきたな」と興味を持ったのがきっかけでしたね。時代劇的な要素と歌舞伎のような演出を取り入れていて、それらが一つのパッケージとしてうまくまとまっているな、と。
もちろん映像だけでなく、ストーリーも考察の余地があるのがすごいなと思っていました。いろんな要素があって、楽しみ方をこちら側に委ねられているのが、刺さりましたね。
梶 裕貴(以下、梶):
僕は『怪~ayakashi~』という作品で、『モノノ怪』の前身である「化猫」のエピソードをテレビで初めて観た時、衝撃を受けました。
人間のどろっとした部分がストーリーに凝縮されているにも関わらず、和紙のようなテクスチャーと鮮やかな色彩、そして美しい音楽によって“総合芸術”としてエキサイティングに鑑賞できる。それが、すごく新鮮でした。
当時は、まだ声優としてデビューして日が浅かったので、「いつかこういう作品に関われるような役者になりたい」と思いながら観ていましたね。なので、今回オーディションのお話をいただいた時はすごく嬉しかったです。
福山:
嬉しかったんだ! じゃあ、これは僕と逆だな。オーディションに受かれば好きな作品に関われるけど、落ちたらその思い出が一生残るわけじゃん。だから僕は「受けたいけど、落ちたら嫌だな」という思いの方が強かった。
梶:
もちろん、その気持ちもすごく分かります(笑)。
作品に思い入れがある分、自分の中で勝手に「なんとしてでも出演したい」という気持ちが膨らんでいたので、たしかに妙な緊張感はありました。結果的に出演させていただくことができ、とても光栄に思います。
――念願叶っての出演だったのですね。劇場版をご覧になって、TVアニメ版からパワーアップしたと感じた点はどこでしたか?
福山:
映像に関しては、観ている側が「ここまでやっちゃうの!?」と驚くほど丁寧に描いていた印象がありました。パワーアップどころか、僕としてはオーバーキルに近かったですね(笑)。
そもそも、TVアニメとはアウトプットの方法が異なるじゃないですか。アニメでは一つのストーリーを2〜3話分で描いていたのに対して、今回は90分の映画1本にまとめなくてはいけない。
視聴者側の“時間の経過”を味方につけられなくなったにも関わらず、とんでもない量の情報をうまく盛り込んでいるな、と思いました。
梶:
TVアニメと映画では、かけられる時間や労力が大きく異なると思うので、今作は特に映像やストーリーの密度がものすごく高まっているなと感じました。
それから、薬売りの役割やキャラクター性がこれまでと若干異なるので、彼から受け取る印象も少し変化していたような気がします。
これまで、通称“ハイパー薬売り”と呼ばれていた変身後の姿が「神儀」と名付けられるなど、新たな一面も加わりましたよね。彼がモノノ怪を退治するアクションシーンも、すごく派手になっていて驚きました。
全体的に、劇場版ではエンターテインメント性が強くなっていたのかなと感じています。
――アフレコ時のエピソードについて伺います。薬売り役・神谷浩史さんは「中村健治監督の収録時間はかなり長いという噂を聞いて、覚悟して臨んだ」と仰っていましたが、お二人はいかがでしたか?
梶:
僕は福山さんと二人だけの収録でしたので、どちらかというと、むしろコンパクトなスケジュールだったなという印象です。もっと世界観に浸っていたかった!(笑)
福山:
僕は中村監督とご一緒するのが今回が初めてだったので、いつもと比べてどうかは分からないのですが、最初にスケジュールを聞いた時は「短っ!」という印象で。
梶:
大体2~3時間くらいですかね?
福山:
それでも実際、少し余るくらいの時間で終わったよね。収録順として僕らはトップバッターではなかったので、そのあたりもスムーズだった理由の一つかもしれないです。
梶:
収録前に監督から直接、作品やキャラクターについて詳しいご説明を頂けたのが、ありがたかったですね。
加えて、監督ご自身の中に明確にイメージがありつつも、アフレコの中で生まれる役者側のアイデアも面白がりながら採用してくださる形だったので、あまりリテイクも少なく、終始スムーズに収録が進んでいった印象があります。
福山:
僕としては、「もう1回全部やろうか?」と言えるくらい、あっという間で楽しい収録でした(笑)。
梶くんと僕は、声の系統で言えば少し近いんですよ。キーの高さとか体格とか、それこそ今まで演じてきた役柄もすごく近くて。
平基と三郎丸のように関係性の近い二人を演じるとき、相手役の方に合わせて声のトーンを調整しなければいけない場合があるのですが、今回はその必要が全くなかったんです。
梶くんが三郎丸を演じてくれたからこそ、僕は自由に平基を演じることができたと思いますね。
――まさに平基と三郎丸のように、お二人は良いタッグだったのですね。
福山:
でも実は、僕らのストロングポイントは全然違うところにあるなと思います。梶くんは、素直で正直なところがすてきだなと思っていて。
監督やスタッフから提示されたリクエストがあれば吸収するし、自分の考えもきちんと言葉で説明できる。これは、意外と難しいんですよ。僕なんかは、もう面倒くさいので前もって「こう演じます」と説明することはあまりしませんけど(笑)。
梶:
そんなことないでしょ! 全然僕より言っていると思いますよ(笑)。
福山:
いや、実は「とりあえず演じてみて、ダメだったら言ってください」みたいなタイプなんだよね。
今回の収録も、平基をどう演じるかは一切伝えていなかったですね。何事も、挑戦する前に答えを知りたくないんですよ(笑)。失敗が許される段階であれば、まずはわがままに挑戦してみたいんです。
――そうした挑戦があったからこそ、平基らしさが生まれたのですね。福山さんの演技を見て、梶さんはどう感じられましたか?
梶:
福山さんは明るく陽気に振る舞いつつも、相手に自分の考えを決して見透かさせないし、何をしてくるか分からないトリッキーな一面があって。
そこが、人間としても役者としてもすごく面白くて、僕は大好きなんですよね。
平基はお調子者ではあるけど、単に浮ついているわけではない曲者感がある。そんなアブノーマルな性格なのが、福山さんと共通している部分なのかなと感じています(笑)。
ひょっとすると、平基はそのキャラクター的には「なんで、この人が大奥に派遣されているんだろう?」と疑問を持たれる可能性もあったかもしれません。
ですが、福山さんの声と芝居が入ることによって「きっと、この人には何かあるんだろうな」と納得させられるんです。まさに一筋縄ではいかない雰囲気が生み出されていて、さすがだなと思いました。
福山:
最終的に「(平基には)何もなかったんかい」となる可能性もあるけどね(笑)。
梶:
(笑)。オリジナル作品なので、ストーリーの舞台裏や結末は、僕らにもまだ明かされていないですもんね。
――『モノノ怪』はジャパニーズホラーアニメに分類される作品で、コワさも魅力の一つです。劇場版で、お二人が思わず背筋が凍ったシーンを教えてください。
福山:
大奥に仕える女性たちが一斉に水を飲む、あのシーンですね。
アサとカメが大奥に入って間もない頃、「生臭い」と言って水を飲むのを嫌がっていたじゃないですか。それなのに、大奥での儀式だから避けられない。
そういった同調圧力が、僕自身もあまり得意ではなくて。あのシーンから感じる、「みんなと同じものを飲まなきゃいけない」という雰囲気がたまらなくコワかったですね。
しかも、物語が進むにつれて、アサだけ匂いを感じなくなる。
“モノノ怪”のような得体のしれないものの怖さより、人の心理を操る描写とか、「集団の中で生きなければいけない」という圧力の方がよっぽど恐ろしいなと思いましたね。
梶:
いわゆる“得体の知れない”コワさは、TVアニメ版の方が強かった印象がありますよね。
今作は大奥を舞台に描かれているので、そこで生きる女性たちの嫉妬や憎しみといった情念に焦点が当たっている。「やっぱりコワいのは人間なのかな」と思わせるシーンが多かったです。
たくさん思い浮かびますが、強いて一つ挙げるなら物語の中盤でアサとカメが淡島の手によって引き剥がされてしまうシーンですね。
カラッとしていて快活な性格なカメが、普段とはうって変わって悲鳴をあげていて。
「仕事を完璧にこなせなかったことで、大奥から追い出されてしまうかも」という思いからくる恐怖心や、「せっかく仲良くなれたアサと離ればなれになってしまう」という焦りが入り混じったあの絶叫からは、すごく生々しさを感じましたね。
福山:
やっぱり劇場版は、人のコワさが印象的だよね。普段から僕は、ジャンルでいうとホラーよりもサスペンス作品の方を好んで観ることが多いんですよ。
社会に出て働くようになってからは特に、実際の社会で起こる人の考えの行き違いの怖さや、集団による信仰の怖さとかの方が恐ろしく感じるようになったからかもしれないですね。
――『劇場版モノノ怪 唐傘』同様、“人が怖い”作品に恐怖を感じるのですね。梶さんも、普段からホラー作品はよく観られるのでしょうか?
梶:
実は僕、コワいものが本当に苦手なので、なるべく避けて生きてきたんですよ...(笑)。
なので『モノノ怪』以外にこれまでどんな作品を観てきたか、思い返してみたのですが...なかなか頭に浮かんでこなくて。「いわゆる“王道”と呼べるホラー作品を観たことあるかな?」「 いや、もしかしたら、ないかもな」と(笑)。
実は(インタビュー)前日の夜に、「ホラーについて話してもらいますよ」と聞いていたので、コワかった記憶のある映画の内容を思い出していたのですが……。いろいろと考えていたら、眠れなくなっちゃって(笑)。
福山:
ホラーについて考えるだけで、ゾクっとするよね。
梶:
そうなんです。それが一番のホラー体験でした(笑)。
ということで……結果的に“王道”のホラー作品は避けて生きてきたはずなので、やはり僕も“人間のコワさ”を描いた作品を観てきたタイプだと思います。
そういった作品については、コワがらずに、最後まで観られるんですよね。どちらかというと、むしろ楽しめる方で。
福山:
へぇ~!
梶:
だって、人間のコワさは想像できるじゃないですか。心と脳のバランスが取れなくなってしまって、そういう行動を起こしてしまったんだろうな、と。
もちろんそうはなりたくないですけど、ともすれば自分にも起こり得ることというか。芝居をしている以上、そういう場面を想像したり、人の深層心理まで足を踏み入れなくてはいけないこともあるので、全然理解できるんですよ。
だけど、得体の知れない存在に食べられるとか、急にそこに何かがいるとか……想像できないものが、本当にコワい。
福山:
なるほどね。
梶:
つい想像しちゃうんですよ。「オバケがいたらどうしよう」と考えてしまうから、帰り道とかシャワー中に背後が気になっちゃうし、トイレも行けなくなっちゃう(笑)。
人間だったら目に見えるし、逆に「本人の姿が見えていなければ、基本的に何も起こらない」と思えるから平気なんです。
福山:
完全に逆だ、おもしろい! 僕は幽霊とかよく分からないものは、いないのと同じだなぁ。
梶:
そういう方もいらっしゃいますよね。でも、僕は分からないからこそコワい!
作中にも、天秤(※モノノ怪との霊的な距離を測る薬売りの道具、モノノ怪に反応して傾く)が出てきますよね。人によっては、天秤が傾いたらモノノ怪がいることがわかるから安心できるんでしょうけど……。
僕には特別な力はないから、天秤が傾いたところで何もできないし、とにかくコワいから、そもそも存在すら知りたくなくて。なので、天秤はいらないです(笑)。
福山:
いるって分かったら見に行っちゃうぜ、俺。
梶:
いやいやいや(笑)! 僕は意識もしたくないんですよ! 天秤が傾かなければ、知らずに済むじゃないですか。
福山:
なるほどね。でも、オバケって結局何をするのかよく分からないじゃん。呪いと言われても、「じゃあ呪われてどうなるの?」と思わない?
梶:
呪いですよ!? もう、めちゃくちゃコワい。血がぶわーっとにじみ出てくるとか…そういう現象って、実際に危害がなくても嫌じゃないですか。
福山:
嫌だけど、「すげぇ! そんなのできるの!?」ってなるかな。
梶:
(笑)。
――福山さんは人間の方がコワくて、梶さんはオバケのように見えない存在がコワい、と。ホラーに対するお二人の価値観は、まさに正反対なのですね。
梶:
もう……なんでしょうね。この通り、僕らは人間性が違うんですよ。真逆と言ってもいいくらいに(笑)。
でも、だからこそ今作でも最高のバディになれたのかもしれないですね。
執筆:双海しお、撮影:小川遼、取材・編集:柴田捺美
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■キャスト
薬売り:神谷浩史
アサ:黒沢ともよ カメ:悠木 碧
北川:花澤香菜 歌山:小山茉美
大友ボタン:戸松 遥 時田フキ:日笠陽子
淡島:甲斐田裕子 麦谷:ゆかな
三郎丸:梶 裕貴 平基:福山 潤 坂下:細見大輔
天子:入野自由 溝呂木北斗:津田健次郎
■主題歌
「Love Sick」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
■スタッフ
監督:中村健治
キャラクターデザイン:永田狐子
アニメーションキャラデザイン・総作画監督:高橋裕一
美術設定:上遠野洋一 美術監督:倉本 章 斎藤陽子 美術監修:倉橋 隆
色彩設計:辻田邦夫 ビジュアルディレクター:泉津井陽一
3D 監督:白井賢一 編集:西山 茂 音響監督:長崎行男 音楽:岩﨑 琢
プロデューサー:佐藤公章 須藤雄樹 企画プロデュース:山本幸治
配給:ツインエンジン ギグリーボックス 制作:ツインエンジン EOTA
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双海 しお
エンタメジャンルで執筆するフリーライター。2.5次元舞台が趣味かつライフワークで、よく劇場に出没しています。舞台とアニメとBLが好き。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。
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