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『映画 ギヴン 海へ』公式サイトより

ガチ腐女子が独断で選ぶ【2024年ベストBL】5選。『ギヴン』オタクは幸せでした…『囀る鳥は~』は頼む、もう幸せになってくれ!

2013年に発売され毎年新刊が発売されるごとに、各サイトのBLアワード1位に輝いてきたレジェンドシリーズの最新9巻が今年10月に発売されました。自己矛盾を抱えて生きる矢代と、愚直なまでに矢代に従う百目鬼。裏社会で人生の傷を抱えて生きるふたりの物語は、巻数を重ねるにつれて色濃くなっていきます。

『囀る鳥は羽ばたかない 9』(講談社)

『囀る鳥は羽ばたかない 9』(講談社)

ゆっくりではあるけれど、毎年この「囀る」の新刊を出してくれる喜びには何ものにも代えがたい! 個人的には6巻で第1部が終わり、それから4年後の現在を描いた第2部のクライマックスだと感じた本作。『頭と用心棒』の関係だった4年前と違い、今は他組の構成員となってしまった百目鬼は読者から見ると引き続き、と言うよりは、より一層矢代への想いが強くなっているのが分かるのですが、何せ矢代は気が遠くなる年月、自己矛盾を抱えて生きている男。

『愛し愛される心の安定』を極端に恐れ自身を常に孤高で居ようとする男。いやさすがにもう百目鬼にほだされろ! と何度コマに向かって叫んだことか状態です。

ドラマCD『囀る鳥は羽ばたかない』第8巻(フロンティアワークス)

ドラマCD『囀る鳥は羽ばたかない』第8巻(フロンティアワークス)

9巻では、矢代は変わらない自分自身を家畜のようだと自嘲しています。4年前に、こんな矢代がいたでしょうか。1巻で「俺は俺のことが結構好きだ 俺という人間をそれなりに受け入れている」とモノローグで言っていた矢代です。

自分自身を受け入れているため、変わる必要も無ければ、積み上げてきた自分をわざわざ辛い思いをしてバラバラに解体しなければならないような必要もなかったわけです。

でも、現在の矢代は違います。前述の9巻の独白からは、変わらない自分自身への微かな苛立ちが伺えるように感じます。矢代がこのように考えること自体が、もう既に変化の兆しなのではないでしょうか。

また一方で百目鬼! 1巻で矢代に「ウソが下手な奴だなぁ」と言われていたのがそれこそ嘘のように、現在の百目鬼は自分自身の思いや感情を覆い隠すことに注力しているように伺えます。

“もう二度と(自身の恋心を)悟られるわけにはいかないから。”二度と4年前のようなことは起きてはならないから。感情を制御し決して本音を口にはしない。そんな、この4年間を経てきた百目鬼の覚悟が見えるように感じます。

ドラマCD『囀る鳥は羽ばたかない』第7巻(フロンティアワークス)

ドラマCD『囀る鳥は羽ばたかない』第7巻(フロンティアワークス)

4年経った今、2人は再会し、諦めたはずの、捨てたはずの感情が蘇る――どうしたらいいかわからず、訳がわからない態度や行動をしてしまうが、2人はまた、関係を続けてしまう。百目鬼の本心は? 矢代の本心は? 行く末にハラハラしながら見守り続けるしかありません。

頼む、百目鬼も矢代も、もうすべてを乗り越えて幸せになってください!(泣)

コミック「もう少しだけ、そばにいて」:リアルな問題に引き込まれる

『もう少しだけ、そばにいて』(リブレ)

『もう少しだけ、そばにいて』(リブレ)

今年9月発売の本作は、事故で車椅子になってしまった小説家・晴人と、陽気な会社員・晃の物語。本作は、事故による人生の変化、障がいを抱えること、周囲の過度な気遣い、同性のパートナーに何かあってもずっと傍にいられる状況にないこと。考えさせられることが数多くある作品です。

愛があるから障がいを乗り越えられる、というような物語ではなく、2人それぞれに起こる問題、抱える問題などに遭遇し、ひとつひとつ対応したり、しないでやり過ごしたり、乗り越えたりと日々選択しながら、そして互いに相手を想いながら過ごしていく様がとても丁寧に描かれていて、考えさせられました。

事故後の晴人が向き合うことになる“現実”は正直はじめて読んだときにはショックを受けました。実際に読んだ上で作中で感じて欲しいので、あえてここでは省きますが、健常者として生きていればまず知らない現実。ただ、生きているだけなのにこんなにもしんどいものか。

BL作品でここまでリアルを描いてしまうのか、と著者が本作に込めた熱をも感じました。車椅子生活になった晴人の不自由な生活や心情が思った以上に克明に描かれていて、ほっこりしたタッチなのに彼が追い詰められていく描写が本当に凄まじく、言葉を失いそうになります。また、著者がかなり丁寧に取材して描かれたことも作中で見て分かります。

それでも愛するパートナーである、会社員の晃との温かで柔らかい数々のエピソード場面は、本当に明るくて心はホコホコした温もりを感じ、二人の信頼し合う愛に涙がこぼれました。数え切れないほどの葛藤の中で、正反対の二人が選んだ”そばにいる”という選択。そこに込められた決意や覚悟に、ただただ泣けてしかたありませんでした。

ネタバレを避けたいので詳細は省きますが、もう少しだけ、そばにいて…タイトルが持つ意味が読み終わるとまたグッときます。また、晴人の抱える“とある秘密”や、巻末に添えられた描き下ろしのエピローグで、個人的に我慢していた感情が爆発してしまい大号泣。抑えても止まらない涙で頭が痛くなるほど泣きました。

未来に目を向けた目線も確かに大事です。でもこの物語から、“当たり前”に生きることは“当たり前”ではない。何気なく普通に生活を過ごす時間を大事に生きて欲しい、というメッセージも感じました。

BL作品の枠に収めるには、重めのストーリーかとは思いますが、社会的問題、パートナーシップ制度の問題、多様性の問題、介護の問題などリアルな現実に直結しているストーリー展開に引き込まれるので、じっくり作品と向き合い何かを作品から感じたい、そんな作品をお求めの方には是非とも手に取って欲しい作品です。

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すでに履修済みで思わず共感して頷ける作品や、未履修の作品で心惹かれる作品等々、ピックアップした作品をこの年末年始休暇の間にでも新たに楽しんでください。

(執筆:加藤日奈)

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加藤日奈

アニメ系やコミック、2.5次元舞台俳優、声優系インタビューやコラムなどWEBメディアを中心に活動するフリーライター。所有するBLコミック小説が3,000冊を超えて増殖し続けている紙派の腐女子。

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