羽賀こはく
横浜市出身。インタビュー記事をメインで執筆。愛猫2匹に邪魔をされながらゲームや漫画を楽しむことが生き甲斐。
多彩な声色で音楽を表現し、YouTubeと合わせた投稿動画再生数は累計3億回以上を記録。歌ってみた動画を投稿する“歌い手”から始まり、今や歌い手の枠を飛び越えて活躍する96猫さん。
アーティスト活動だけでなく、声優としても活動しており、2022年にはTVアニメ『パリピ孔明』で本作のヒロインである駆け出しのアーティスト・月見英子の歌唱キャストを務めました。
そんなTVアニメ『パリピ孔明』の総集編となるアニメ総集編『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』が2024年3月1日(金)に劇場公開します。現代の渋谷に転生した三国志の諸葛孔明が英子の軍師としてサマーソニアへの出場権を掴み取り、スターダムの道へと知略計略を巡らせるストーリーにちなみ、96猫さんへ今に至るまでの音楽活動を振り返ってもらいます。
「自分が楽しければそれでいいと思っていた」という歌い手活動の始まりから、投稿動画の再生回数が急激に伸び始めた時に抱いた「恐怖」、「関わってきた人たちすべてが自分にとって不可欠な存在」と語る英子にとっての孔明のような存在など、英子の道のりと重ねながらお話を聞きました。
もちろん『パリピ孔明』の魅力もたっぷりとお届け。「たくさんありすぎる!」という推しシーン、「全部!」という英子の魅力、「何度も録り直した」という収録秘話など、劇場版がさらに楽しめるであろう『パリピ孔明』の魅力も語っています。
INDEX
――96猫さんが歌唱キャストを務める『パリピ孔明』英子にとってのマリア・ディーゼル(Maria Diesel)のように、96猫さんにとっての憧れの存在、または音楽活動を目指すきっかけとなったアーティストはいらっしゃいますか?
96猫:
私がアーティスト活動を始めるきっかけとなったのは、「浅倉桐」さんという今でいう歌い手さんのような方です。
もともとアニメが好きで声優さんを中心に誰かの声真似をする遊びをしていて。同時に音楽も好きだったのですが、そこまで「このアーティストさんが好き!」と深くハマることはありませんでした。
だけど当時、携帯で録音した音を携帯専用のホームページに載せるのが趣味だったんですね。そのホームページからネットサーフィンをしていたら、浅倉桐さんのブログにたどり着いたんです。そこで初めて浅倉桐さんのオリジナル曲を聴いて、すごく感動しました。
――浅倉桐さんの何に惹かれたのか覚えていらっしゃいますか?
96猫:
言葉にするのは難しいのですが、浅倉桐さんの放つ第一声を聴いて、音を止めることができませんでした。それまでは、ネットサーフィンをしながら音楽を聴いていても、最初のフレーズやワンコーラスを聴いたら、すぐに次の曲へスキップすることが多かったんですね。だけど、浅倉桐さんの楽曲を聴いた時、出だしの発声から「すごい……なんだこれ……」とポカーン状態になりました。
「浅倉桐さんの歌を、声を、音楽を、全てがもっと聴きたい!」という欲が溢れてきて、ずっと聴き漁り、気づけば1日が終わってしまうという……。それくらいすごく引き込まれてしまいました。
それで、「めっちゃかっこいい。自分もこういう歌を歌ってみたい、自分もこれしてみたい!」「歌を投稿したい!」と思うように。今みたいにパソコンでマイクを繋いで録音ができなかったから、携帯で録音した歌を投稿し始めました。
――浅倉桐さんがきっかけで音楽を投稿し始めたとのことですが、96猫さんは動画配信サイトで「歌ってみた動画」を投稿し始めてから、かなり早い段階で人気を博したという印象があります。孔明と出会うまではなかなか目が出なかった英子と比べると、“下積み時代”のようなものはあったのでしょうか?
96猫:
“下積みをした”という感覚はないかもしれません。音楽や歌が好きで投稿を始めただけだったので、「誰かに聴いてもらえても、聴いてもらえなくても、自分が楽しければまあいいや」くらいの気持ちで活動していました。
だからある日、急に1本の動画がすごく再生されて、すごく怖い気持ちになりました(笑)。いつも通り、「これ歌いたいから歌ってニコニコ動画に投稿しよう」と投稿しただけだったので……。
最初は「え!?荒らされている!?」と思って、投稿した動画を見に行ったんですけど、コメントが荒れているわけではなくて。当時、誰かしらが不正に再生数を増やす“工作”という行為が流行っていたから、「工作されているんだ!」と思ったんですよ。だから、「すみません、工作されているかもしれないので、動画消します」と1回投稿を消して、もう一度投稿してみました。
そしたら、やっぱり再生数が伸びて……「これって本当に伸びているのかな? それとも工作で伸びているのかな?」「どちらにしても怖い」という気持ちが最初でした。正直そこまで観てもらえると思っていなかったので、ただただ怖かったです(笑)。
――顔が見えないからこそ怖さを感じるのは、ネットならではのエピソードな気がします(笑)。
96猫:
たしかに。路上ライブとかだったら来てくれた人たちの顔が目に見えるけど、ネットで投稿するだけだと数字しか見られないから本当に怖かったです(笑)。
――その不安が薄れて、「本当にたくさんの人たちに自分の歌が届いているんだ」と実感したのはいつ頃だったのでしょうか。
96猫:
歌ってみた動画の投稿と同時に生放送をやっていたんですね。その生放送をした時に、すごく人が来てくださって。最初は何が起こっているのかわからない状態だったんですよ。
生放送をランダムで観られる「クルーズ(ニコ生クルーズ)」というのがあったので、「クルーズから流れてきたのかな」とかも考えたのですが、どうやら違いそうで……。そうするとすごく伸びた動画くらいしか思い当たらなかったんです。
それまでは特定の人が観に来ては「やっほー、今来たよ」とコメントをくれていたのに、その動画がたくさん再生されるようになって以降、生放送に来る人、「はじめて来ます」とコメントをくれる人が増えました。
そこで初めて「私の歌をちょっとでもいいなって思ってくれた人がいるんだ」と気づいたんです。自信が出るまではいかないけど、「もっと投稿しよう!」という気持ちになったのはそこからですね。
――英子はサマーソニアへの出場でスターダムへ一歩前進します。同じように、96猫さんの中で音楽活動で忘れられない、あるいは特別だった出来事があれば教えてください。
96猫:
「デビューの日です!」と言いたいところですが、忘れっぽくてデビュー当時のことは覚えていなくて(笑)。
1番記憶に残っているのは、20歳になったタイミングで『アイリス』というアルバムをリリースした時。20歳(ハタチ)という人生の一つの節目でもあったので、ジャケット写真は成人式のように着物を着て撮影したり、自分が生きてきた中で特に好きな曲を収録したり、この先も関わりたいと思った方にオリジナル楽曲を書き下ろしていただいたりしました。
また、『アイリス』には母親に対して書いた「MOTHER」という曲も収録されています。初めて誰かのために自分で曲を書いて歌ったんですよ。
――「MOTHER」を渡した時、お母さんはどんな反応でしたか。
96猫:
泣いていましたね……つられて一緒に泣いちゃいました(笑)。
今自分の周りにいる人、周りにある環境がいつまでもあるわけではないし、それが当たり前だと思いたくない。だからこそ、「自分の今をどうにか形に残したい」という思いが今も昔もずっとあって。
「アイリス」は花の名前なのですが、花言葉の中に「感謝」があるんですね。いろんな変化があっても、感謝だけはずっと96猫の中にあるものなので、それが自分にとっての節目のタイミングで、アルバムという形で残すことができて本当によかったです。
そういう意味でも『アイリス』は忘れられないアルバムであり、出来事、思い出ですね。
――“アーティスト・96猫”を形づくったアルバムとも言えそうですね。また、英子にとっての孔明のように、96猫さんのこれまでの音楽活動を語る上で必要不可欠な存在はいますか?
96猫:
まずは、いつも応援してくれるファンの皆さん。先ほどお話した再生数が急に伸びたことも最初は恐怖を感じましたけど……聴いてくれる人たちがいてくれたから、「この現象ってちゃんと動画が伸びている証拠なんだ」と耐性がついたり、「これだけ聴いてくれる人がいるなら、また歌おう。投稿しよう」という気持ちになれたりしたんですよね。必要不可欠な存在だったと思います。
あとは、助けてくださるスタッフの皆さん。スタッフの皆さんが「こういうオファーがきましたけど、どうしますか?」と提案してくれる。仕事って自分一人ではどうしても限界があるけど、皆さんがいるから新しいお仕事ができています。
また、疲れた時に寄り添ってくれたり、「頑張りな」と見守ってくれたりする家族も不可欠ですね。挙げればキリがないのですが、自分の人生で関わってくれた人たちにとても助けられています。みんな、なくてはならない存在です。
それから人ではないけど、パソコンとマイクと携帯も(笑)。これらはなくてはならない相棒です(笑)。
――ここからは96猫さんが歌唱キャストとして出演されたアニメ『パリピ孔明』の魅力や沼、推しポイントを改めて振り返っていただきたいと思います。
96猫:
音楽を中心とした英子の成長が推しポイントでしょうか……。特に、孔明や(KABE)太人といった仲間たち、そして(久遠)七海の存在によって、音楽に自分の気持ちを込めることの大切さに気づかされるところにとても魅力を感じます。
音楽をやっている人もやっていない人も、元気をもらえて前向きになれる作品です。『パリピ孔明』を知っている方は『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』でもう1度英子の歩みを振り返ってほしいですし、『パリピ孔明』を知らない方は元気を得るために『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』を見てほしいなと思います(笑)。
――音楽活動をしている96猫さん的に、特に推している、または印象に残っているシーンはありますか?
96猫:
たくさんありすぎて難しいですね……! 頑張って2つに絞ると(笑)、1つ目は第1話で孔明が初めて英子の家に来た時に、英子がアコースティックギターで「I’m still alive today」を歌ったシーン。
英子の純粋さ、真っ直ぐさみたいなものがすごく詰まっていて本当に好きなシーンです。英子の音楽を聴きながら孔明が自分の記憶をたどっているのにも、すごくうるっとしてしまいました。
もう1つは、第12話のAZALEAとの対決シーンですね。英子が「DREAMER」という楽曲で、「そのままのあなたでいいんだよ」と気持ちをぶつけ、最後にAZALEAが本来の姿になって涙するシーンもすごく好きです。
――アニメ『パリピ孔明』の中で96猫さんの推し楽曲を聞こうと思っていたのですが、今のお話からすると「I’m still alive today」と「DREAMER」ということですね。
96猫:
そうですね(笑)。特に「I’m still alive today」。マリア・ディーゼルのカバー曲ではあるのですが、曲の中にすごく英子がいる感じがして好きです。
――ちなみに、歌唱キャストである英子以外に、96猫さんが推しているキャラクターはいますか?
96猫:
えー! 孔明も面白くて好きなのですが、「BBラウンジ」のオーナー・小林がめっちゃ好きです!
自分、ギャップにすごく弱いんですよ。あんなにいかつい見た目なのに三国志オタクだったり、英子のことになると不安で仕方がなくなって「孔明、本当にこの作戦で大丈夫なんだろうな!?」とソワソワしてしまう親バカなところだったり(笑)。「なんだ、この人面白すぎる!」と思っていて。登場するたびに笑っちゃうくらい、ずっと好きなキャラクターです。
――では、96猫さんが歌唱キャストを務めている英子の魅力はいかがでしょう。
96猫:
全部です! 素直で明るくて好奇心旺盛で、年相応な女の子という印象もありながら、英子の打たれ強そうで打たれ弱いところを見ていると、お母ちゃんのような気持ちになってしまって(笑)。
自分に対してはめちゃくちゃ不器用なのに、人に対しては一生懸命で努力家。「頑張れ」って気持ちでいっぱいになります。英子自身に魅力がたくさんあるから、孔明も惹かれたのかなと思います。
――英子として歌唱をする上では、英子の気持ちを投影するところもあったと思います。意識していたこと、こだわっていたことはありますか。
96猫:
収録の際に、「この楽曲はこのシーンで流れますよ」とざっくりとしたコンテを見せていただくんですね。それを見て、「この時の英子の心情はこうかな」と英子の気持ちを常に考えながら収録に臨んでいました。
中でも、第9話で七海に向けて「I’m still alive today」を歌ったシーンはいつも以上に感情を込めました。初めて英子が自分の歌声に誰かに対する自分の気持ちを込めて歌えることを知ったシーンなので、その英子の感情をとても意識していました。
――9話のほかに、収録で特に印象に残っていることはありますか?
96猫:
歌唱シーンではないのですが、第3話の野外フェス(代々木アートフェスライブ)で英子がお客さんたちへ意識を向けさせるために叫ぶシーンは、歌よりも収録したのではないかと思うくらい、何度も録り直したので印象に残っています(笑)。
自分の中にもスタッフさんの中にもこだわりがあったから、「もっといけるよね?」「もっといきたいです」と何度も叫び続けました。そのあとに歌う曲の収録の前には「休憩していいですか……?」となるほどで(笑)。
――どのくらい収録したか覚えていらっしゃいますか……?
96猫:
片手じゃ収まらないくらいには叫び倒した記憶があります(笑)。腹から声を出すと、必死に叫んでいる感じがなくなってしまうんですよね。かといって喉だけで叫んでいると、ただただ苦しい叫び声になってしまうので……。とても難しかったです。
ただ、アニメが放送された際に、その叫んでいる声に対して「これって英子役の本渡楓さんの声だよね?」と言われていたんですね。それくらい本渡さんに声を寄せることができていたと後々知って、すごく感動したことを覚えています。「何度も録り直してよかった」と思いました(笑)。
――歌を歌われる際、本渡さんの声質はそこまで意識されていなかったということでしょうか。
96猫:
そもそも英子の声をどなたが演じられるのか知らなかったんです。本渡さんも96猫が歌唱キャストを務めることは知らなかったようで、「英子が歌ったらこうなのかな?」と想像しながら声を当ててくださっていたとのこと。自分自身も「英子ちゃんが喋るとこんな感じの喋り方なのかな?」と想像しながら歌唱シーンの収録に臨んでいました。
お互いが想像していた英子の声に対する印象がいい意味で合致したのかなと思います。本渡さんと対談させていただいた時に、お互い想像しながら収録に臨んでいたことが判明して「わー!」となりました(笑)。
――3月1日公開の映画、アニメ総集編『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』では新規ライブシーンが追加されているそうですが、収録はいかがでしたか?
96猫:
とても楽しかったです! 新規ライブシーンで歌唱する楽曲は、多くの方が知っている楽曲です。自分も「この曲をまさかライブで歌えるなんて!」「この曲を歌っているライブシーンが映像で見られるなんて!」「うわー、この曲を英子が歌っている!」と感動した記憶があります。
またその楽曲は、英子だけではなくいろんなキャラクターが徐々に加わり、みんなで一緒に歌うんですね。1つの曲としてどんどん完成されていく様子がすごく好きです。観客の皆さんにも、そのライブシーンを観て感動してもらいたい。そして、感想を聞かせてください!(笑)
――『パリピ孔明』の歌唱キャストをはじめ、音楽の枠の中でアーティスト活動以外の仕事もしている96猫さん。今後、音楽を通して叶えたい夢や目指している目標はありますか?
96猫:
生きている間に様々な作品に参加したいです。いろんな作品に関わり、「ここに96猫がいた」という痕跡を残していきたいとはずっと思っています。
また、欲張りかもしれませんが、もっとたくさんの人に自分の曲を聴いてもらいたいと思っています。そうなれるように自分自身も頑張りたいですね。
――「こんな作品に携わりたい」「こんな歌を作っていきたい」など具体的な目標というよりは、もう少し漠然としている感じですか?
96猫:
どちらかというと漠然としている気がします。なんでも関わっていきたいです。「音楽をやっているから声優はしない」「音楽をやっているから舞台はやらない」という括りに閉じこもるのではなく、「やりたい!」と思ったことに挑戦できるのであれば、どんどん挑戦していきたいと思います。
――ということは、音楽に関わらない作品にも機会があれば挑戦してみたい気持ちがある?
96猫:
そうですね。もちろん自分の姿を出すかどうかは置いておいて、ですけど(笑)。音楽というよりは、自分の声で何かしら力になれることがあれば積極的に携わっていきたい気持ちはあります。
なので、自分の夢がすべて叶うことはないのかなとも思っていて。叶ってしまったら、そこが音楽活動の終わりな気もするので(笑)。
(執筆:羽賀こはく、取材&編集:阿部裕華)
2024.3.1(Fri.) 全国公開
原作:四葉タト・小川亮(講談社「ヤングマガジン」連載)
キャスト:月見英子:本渡楓/歌唱:96 猫 諸葛孔明:置鮎龍太郎
オーナー小林:福島潤 KABE 太人:千葉翔也 久遠七海:山村響/歌唱:Lezel
監督:本間 修 音響監督:飯田里樹 音楽:彦田元気(Hifumi,inc.)
音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ アニメーション制作:P.A.WORKS
配給:エイベックス・フィルムレーベルズ
製作:「パリピ孔明 Road to Summer Sonia」製作委員会
アニメ総集編『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』 公式サイト:https://paripikoumei-anime.com/
『パリピ孔明』 公式 X アカウント(@paripikoumei_PR):https://twitter.com/paripikoumei_PR
© 四葉タト・小川亮・講談社/「パリピ孔明 Road to Summer Sonia」製作委員会
羽賀こはく
横浜市出身。インタビュー記事をメインで執筆。愛猫2匹に邪魔をされながらゲームや漫画を楽しむことが生き甲斐。
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