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「ネズミが出るまで頑張って」(ねずみがでるまでがんばって)とは、小野不由美氏による人気小説『十二国記』シリーズの第一作目『月の影影の海』を初めて読む者に対するはげましの言葉。
「ネズミのところまで読んで」
「ネズミが出るまで頑張れ」
「ネズミが出るまで耐えろ」
などの少し違った表現も散見する。
最近よく聞くようになったきっかけは、X(旧ツイッター)へのポスト。
「十二国記読むのしんどいってぼやいたらみんな“ネズミが出るまで頑張って”しか言わない」とつぶやいたところ、共感とはげましのコメントが寄せられた。
『十二国記』は1992年に第一作が発売され、2002年にはアニメ化もされた長いシリーズなため、それ以前にも使われていた表現ではあるが、「ネズミが出るまで頑張って」という言葉が注目を集めるようになったのはここ数年。
『十二国記』シリーズは、重厚で細やかな世界観と、リアリティのある人物描写が特徴。それゆえ、時に人の弱さや苦しみまでも克明に描きだし、人によっては「読むのがつらい」と感じることがある。特に一作目である『月の影影の海』は、主人公の女子高生・陽子が突然異世界に迷い込み、物語中盤まで何度も苦労を重ねる展開になっている。
しかし、ひたすらに辛酸をなめたからこそ、終盤に見せる成長した陽子の姿は大きなカタルシスを産んでいる。その感動を味わわずに、序盤がつらいからといって名作を放り投げるなんてもったいない、物語のターニングポイントまで読めばその先は読みやすいから「ネズミが出るまで頑張って!」と、既読ファンは新規読者を励ますのである。
ここで展開の説明をせず、ただ「ネズミが出るまで」というセリフになってしまうのは、やはり後半のカタルシスのため。描写が克明であるがゆえにネタバレせずに、簡潔に説明しようとすると、どうしてもこう言わざるを得なくなってしまうのだ。一方で「ネズミが出る」という情報も与えず純粋に物語を楽しんでほしいという意見もある。
突き放すようでいて、十二国記沼へと通じる道は、先達の細やかな気遣いによって丁寧に舗装されているのである。そのせいか、発売から二十年以上経過した今でも、新しく『十二国記』を読み始める者はあとをたたない。2024年1月にも、X(旧ツイッター)ユーザーがイラストつきの読書レポートをアップ。新規ならではの新鮮な悲鳴を見て、古参ファンはほほえみ、未読の者は「私も読んでみようかな」と書店に向かった。
こうして、今日もまた新たな犠牲者が十二国記沼へと足を踏み入れている。
「あんたがイイっていうから『月の影影の海』読み始めたんだけど、家庭環境の時点でツラくない?」
「ネズミが出るまで頑張って!」
「異世界いったのに無双しないんだけど! 死にそうなんだけど!」
「ネズミが出るまで頑張れ!」
「売られそうになったんだが!?」
「ネズミが出るまで耐えて!」
「だからネズミどこだよ!! 読むけど!」
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