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岡垣吏紗(以下、岡垣) アートディレクターとして舞台の宣伝美術(※)を制作しています。ポスターなどで使用される”メインビジュアル”やキャストが衣裳に身を包んだ”キャストビジュアル”、パンフレット、そして作品によってはブロマイドなどのグッズまわりやWEBサイトのビジュアルまで、舞台の"絵作り"に関するものに全般的に関わっています。
※宣伝美術=公演作品の世界観を象徴したビジュアルのこと。
岡垣 そうですね。"アートディレクター"の仕事はまだ何もないゼロの状態からビジュアルのコンセプトを練り、最終的なデザインチェックまで行うディレクション作業がメインになります。 "デザイナー"の仕事は実務的なデザインの仕事が主です。
アートディレクターの仕事について具体的にお話しすると……まず依頼を受け、作品や宣伝の方向性を主催側にお伺いするところから制作がスタートします。それから原作作品や舞台脚本を読み込んで、"ラフ"と呼ばれるビジュアルの設計図を3~5案ほど提案し、構図やイメージなどを考えていきます。
方向性の決定後は撮影に入ります。カメラマンに撮りたい写真の要望を伝え、キャストにはポージングや表情の指示を行い、何十、何百と撮った写真の中からベストなものを選びます。
その後、ようやくビジュアルに落とし込むためのデザイン作業をしていく――という流れになります。デザイン作業は私が行うこともありますし、他デザイナーにお願いしディレクションに徹することもあり様々です。
岡垣 その作品の本質、何を目指している作品であるかを大切にしています。たとえばキャラクターの関係性でも、一人のキャラクターがどこかを見て笑っているとすると、見ている先に誰がいるかによってその笑顔の意味が変わります。
2.5次元舞台は普通の舞台よりもストーリーがはっきりしているので、そういう部分は作りやすいですね。「この人はこの人と今どういう会話をしているのか」と考えながら作るのが醍醐味だと思っています。
岡垣 いろいろな要素が詰め込まれて、見た人が想像や妄想ができるビジュアルのほうが面白いと思うんです。だから表情もなるべく「撮りました!」という感じがでないよう自然な表情を意識してもらっています。
岡垣 『ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス2015-』のビジュアルはかなり時間を費やしました。建て込み(※)をやっての撮影で、ライトを決めるのにものすごく時間がかかってしまったんです。
バタバタしながら焦って撮影したら、やっぱり自分もカメラマンも迷いが生じてきてしまって……(ビジュアルを見ながら)これ、少し固い感じがしませんか? 初めての建て込みで試行錯誤だったし、撮影でしっくりこないと後々加工で頑張らないといけないので本当に大変でした。
※建て込み=スタジオや舞台のセットをつくり、飾り込むこと。
――加工でどうリカバリーしたんですか?
岡垣 通常よりたくさんの合成をしています。 それから中央にいるセバスチャンとシエルの後ろにあるステンドグラスも作っていただいたんですが、より理想通りに近づけるために、それも上からいろいろなものを重ねて合成しています。
私が最初に手掛けた2.5次元作品が『ミュージカル「黒執事」』だったので、このシリーズにはたくさんの思い出があるんです。
岡垣 どうしても舞台の仕事がしたいと思い、現在所属しているGene & Fredの門を叩いたんです。最初は代表の二宮と一緒にに動いていて、その時に演劇のビジュアルを作る上での大切なことをみっちり仕込まれました。『ミュージカル「黒執事」』を初めて手がけたときに、二宮が“自分よりも岡垣のほうが向いてる”と言って、仕事を任せてくれるようになったのがきっかけです。
当時はまだ2.5次元舞台もここまで流行っておらず、何が正解なのかが分からなくて。あの時代は2.5次元舞台ビジュアル=顔を白くする……みたいなイメージがあって、最初は私もその流れを若干汲んでいました。今見返すと、レタッチもなんとなくやり過ぎたかなという反省があります(笑)。
岡垣 『ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス-』からですね。このときに初めて“キャラクターがその場所にいて、その場所にいるキャラクターを撮る”という感覚が理解できたというか、実際にキャラクターが今ここにいて写真撮影をしているという考え方になったんです。
そして、その後の『ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-」』でもネルケプランニング代表取締役(現会長)の松田さんのやりたいことなどを聞いて、方向性が見えてきた気がします。
カメラマンの中村理生さんとの出会いも転機でした。『ミュージカル「黒執事」』は『~NOAH'S ARK CIRCUS~』から、ミュージカル『テニスの王子様』シリーズは全部彼にお願いしています。
カメラマンさんの中には2.5次元舞台に興味がない方もいらっしゃるのですが、中村さんは興味を持って撮影してくれます。それは私の作るビジュアルの仕上がりに大きく関係していると思います。
岡垣 好きな気持ちはもちろん大切ですが、それだけではなく”そこから何をしたいのか”をきちんと持っている方がいいと思います。
私はある舞台をきっかけに、”自分が楽しいと思える人生を歩もう”と思ったので、舞台に”感謝を返したい”という想いでお仕事をしています。こんなに素晴らしい作品がいっぱいあるんだからそれを広めていきたいし、演劇界を盛り上げて、観劇するのが当たり前の世界になってほしいなと。
ただ”好き”なだけじゃなくて”何か”を持っていた方が未来につながると信じています。
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