舞台『遙かなる時空の中で３』ゲネプロレポート｜運命を変えるヒロインと、己を貫く敵将の戦いの行方は――？

乙女ゲームの金字塔『遙かなる時空の中で』シリーズ。2000年のPlayStation向けゲームソフト『遙かなる時空の中で』発売から、まもなく2020年には20周年を迎えようとしています。
そんな『遙か』シリーズが舞台化されて早10年。本作、舞台『遙かなる時空の中で３』は『遙かなる時空の中で』シリーズ舞台化10周年記念作品として制作されました。

『遙か』シリーズといえば、ごく普通の女子高生が"龍神の神子"として異世界に召喚され、"八葉"と呼ばれる8人の男性たちとともに、異世界を救う――というのがどのシリーズでも物語のあらすじとなっています。『遙か３』でヒロインが飛ばされる時代は、源平合戦の真っ只中。ヒロインを守るはずの八葉は、源氏にも、そして平家にも存在します。

ヒロインの春日望美（吉川友さん）と行動を共にすることになる源氏軍の総大将、源九郎義経（早乙女友貴さん）は、初めは望美に「覚悟もない人間が戦場にでるなんて」ときつい言葉を浴びせます。しかし九郎は分かりやすい"ツンデレ"キャラ。冷たく見える言動の裏には常に思いやりがあります。総大将らしい剣の腕前も魅力的です。

そんな九郎を支えるのが、軍師の武蔵坊弁慶（石渡真修さん）と戦奉行の梶原景時（輝馬さん）、そして九郎の剣の師でもあるリズヴァ―ン（村上幸平さん）。

真っ直ぐで嘘がつけない九郎の代わりに、知略を巡らせ、常に源氏の利になるように事を運ぶのが弁慶。鋭い目線や、笑顔のようで、たまに目が笑っていない表情にも注目です。

梶原景時は面倒見がよく、家族想いな人物。望美とともに異世界から飛ばされた有川譲（千綿勇平さん）にも、兄のように優しく接します。この2人のシーンでは、アドリブのやりとりも……!?

譲が望美とともに戦うため、弓の腕を磨く一方、譲の実の兄である有川将臣（井上正大さん）は行方不明のまま。彼は異世界に飛ばされたときに譲、望美とはぐれてしまったのです。
夢の中で望美と出会った将臣は、望美を下鴨神社に呼び出し、再会します。しかし、将臣は望美とともに行動はできない様子で、ただ一言、「譲を連れて京から出ろ」とだけ警告し、望美のもとを去ってしまうのです。

怨霊を生み出して戦い続ける平家に反発し、命からがら逃げ出してきた平敦盛（星元裕月さん）も八葉の1人。
美しくもどこか物悲しい敦盛の笛の音は、いつしか源氏の皆の心を癒すようになります。平家でありながら源氏側につき、そして八葉に選ばれた敦盛の葛藤と決意は大きな見どころです。

そして、源氏にも平家にも属さない謎の青年、ヒノエ（杉江大志さん）。軽い言動とは裏腹に、この源平合戦の行く末を常に見定めているような言動を繰り返し、試すような口調で望美を振り回します。
「もし将臣が剣を向けてきたらどうする？」そんなヒノエの言葉を理解できず、笑い飛ばす望美。この瞬間が、1つの運命の分かれ道だったように感じます。

ヒロイン・望美の選択次第で、敵にも、味方にもなりうる八葉の男性たち。ヒロインとどう心を通わせ、どのような道を選択するのか、それぞれの生き様に注目です。

『遙か』シリーズは、攻略対象となる八葉以外にも、魅力的なキャラクターが多く登場します。

ヒロイン・白龍の神子と対になる黒龍の神子・梶原朔（野本ほたるさん）は景時の妹。望美が召喚されてくるまでは1人で怨霊と戦っていた気丈な女性です。

白龍（稲垣成弥さん）は、自分の神子である望美が大好き。神様なので、普通の成人男性とは違い、無邪気な言動が目立ちます。大きな身体で、子供のように望美に甘える様子が非常にかわいらしいです。

そしてこの物語のキーパーソンとなるのが、平家の将である平知盛（中村誠治郎さん）。戦闘狂である知盛は常に自らの高揚感を求めて剣を振るいます。両手に剣を握った瞬間、普段の退廃的な雰囲気が一変。舞台上に登場するだけでその場の空気を支配してしまうような存在感に、客席にいながら震え上がってしまいます。

平家からすれば裏切り者である敦盛との対峙、冥府から蘇ったとされる還内府こと、兄・平重盛との関係性……そして白龍の神子への興味と執着。自らの心を"滾らせる"ものに対して貪欲な知盛の生き様も、この舞台の見どころです。

原作ゲーム『遙かなる時空の中で３』が発売当初、ファンから支持された大きな理由の1つが"運命上書きシステム"。

文字通り、1度たどった運命をやり直すことで、世界を救うことができるのです。この舞台でも1幕、2幕に分けて、そのシステムが上手く表現されていました。

ヒロイン・望美は訳が分からないままに異世界へと召喚され、戦いに巻き込まれていきます。しかし、その中で八葉を初め、多くの人物たちと触れ合い、心を通わせ、だんだんと異世界とそこに存在する人々に愛着を感じていくようになります。

しかし残酷にも運命は望美の大切な人々の命を次々と奪っていきます。守りたいはずの人からも刃を向けられ、何が間違っていたのか、どこで間違えたのか――望美は後悔し、1度は絶望します。

自らの意志で、運命を変える――それが出来るのが『遙か３』の大きな魅力。

確固たる意志を固めて時空を遡った望美は、同じ人物とは思えないほど凛々しい瞳をしていました。

その眼差し、言動に惹かれ始める八葉、そして、知盛。
少しずつ、でも確かに運命が変わっていく様子を1幕と2幕を見比べることで顕著に実感でき、高揚感を感じながら望美を応援してしまいます。
ネオロマンスシリーズの中でも人気のヒロインである春日望美。料理が出来なかったり、言動が男前だったり、そんなサバサバとしたところも含めて魅力的な望美が確かに存在しているように感じました。

彼女の剣は、どんな未来を切り開くのか。どんな運命を選び取るのか――。

『遙かなる時空の中で』舞台化シリーズ10周年を記念して、満を持しての上演となった舞台『遙かなる時空の中で３』。過酷な運命を変えるべく立ちあがるヒロインと、影響され、変わっていく男性たちの姿は生で観るとより臨場感があり、特に1度は絶望を味わうヒロインの姿にはつい感情移入してしまいます。甘い恋愛模様だけではない、苦しく、つらい別れも描かれる本作品。何を選び、何を守るのか、ぜひそれぞれのキャラクターが進む運命を見届けていただきたいと思います。

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