海外BLはどう違う?韓国は「傲慢攻め」中国は「執着攻め」が人気。台湾は…国ごとに異なる“推し”を調査

BLジャンルを専門とするレビューサイト「ちるちる」を運営する株式会社サンディアス。そのサンディアスが主催するWEBセミナー「似ているようでけっこう違う海外BLと日本BL」が開催。確かに、言われてみれば日本BLと海外BLってどこか違う……。もっとBLのことを深く知るべく、BL大好きなnumanライターが本セミナーを取材しました!

十数年前よりは大分メジャーになり、人口も増えた気がする日本のBL。海外ではどうなっているのでしょうか?

講師は「ちるちる」が開設されてから約15年、BLに関するデータを収集&解析してきたサンディアス代表取締役兼腐女子マーケティング研究所所長の井出洋さんが担当。長年のBL研究によって得たデータと知見で、日本と海外BL文化の違いを熱く語ってくれました。その様子を【前後編】でお届けします。

『魔道祖師』1巻(ダリア文庫e)

『魔道祖師』1巻(ダリア文庫e)

世界のBLは若者の文化。10代~50代まで支持する日本は珍しい

まず、日本と海外のBLファン層から知っていきましょう。データによると、日本のオタク層は10代から50代までと幅広く、これは世界的に見ても珍しいケースなのだそう。BLやオタク趣味について堂々と語ることができる風潮なのは、「間違いなく日本だけ」と話します。

 

日本BLと海外BLのちがい(腐女子マーケティング研究所作成資料より)

日本BLと海外BLのちがい(腐女子マーケティング研究所作成資料より)

さらに商業BL本に関しても、購入する際に多くは年齢制限が設けられていないのも、実は珍しい環境。日本は“R-18”などの表現規制も緩めで「むしろ海外資本のX(旧Twitter)などのSNSから締め付けをくらってしまうこともある」と言われるほど。ほかの国と比べると自由にBLが楽しめる土壌となっているのです。

対して中国は10代から30代前半までがメインのオタク層とされています。中国は規制が厳しいイメージがありますが、実際は抜け道も多く、BLをはじめ日本のマンガやアニメを楽しんでいるオタクが多くいます。

BL小説『魔道祖師』を原作としたブロマンスドラマ『陳情令』が大人気となったことからも、BLコンテンツは中国国内でも注目度が高いことが伺えるでしょう。

『魔道祖師』3巻(ダリア文庫e)

ドラマ『陳情令』の原作となった小説『魔道祖師』3巻(ダリア文庫e)

そして続いて韓国。韓国のオタク層は10代から20代とかなり若い。しかし実はBLに関する規制がアジア圏のなかでもトップレベルに厳しく、日本ほど自由に楽しめる環境ではありません。

台湾やタイについても10代から20代が中心層とみられており、世界的にみても日本ほどオタク文化・BL文化を幅広い年齢層で楽しんでいる国は少ないようです。良質なBLコンテンツが気軽に楽しめ、また幅広い年齢層で盛り上がれる今の状態は、実は世界から見たら「当たり前」ではないかもしれません。

日本のBLファンは“受け”が好き。推しの好みも国ごとに分かれる

人気のキャラクターをはじめ、好まれるBLの要素やストーリーについても各国で違いが見られるようです。

井出さんは「日本では近年、丸顔可愛い系のキャラクターデザインが人気な傾向にあります」と『ハイキュー!!』、『あんさんぶるスターズ!』を例に出しつつ指摘。

そして推しキャラクターを「受け」にする、もしくは「受けキャラクター」を好きになる傾向が強いのも日本の特徴だと言います。

また、ストーリーとしては、あくまでメインカップルの“恋愛”に焦点をあてたものが多く、途中で攻めと受けの力関係が逆転したり、揺れ動くというような繊細な物語が好まれやすいと分析しています。

さらに特徴的なのが、日本のBLには「年下攻め」「健気受け」が多いこと。確かに年下攻めや健気受けは王道の要素のように思えますが、実は国民性でも好きな「攻めタイプ」「受けタイプ」は変わってくるそうです。

中国も似たようなキャラクターの系統が人気がありますが、加えて「長身」という要素も外せないポイント。よって中国では「可愛い+長身」のキャラクターやアイドルが人気が出る要素になります。

中国で人気のカップリングは「ハイスペ同士」「執着攻め」で、受けと攻めのどちらの視点でも好きな人が多いとのこと。

日本BLと海外BLのちがい(腐女子マーケティング研究所作成資料より)

日本BLと海外BLのちがい(腐女子マーケティング研究所作成資料より)

韓国では攻めタイプの男性がが好まれており、井出さんは「BLでも攻め視点が多い気がします」と分析しています。人気のカップリングは「傲慢攻め」「健気受け」。メインカップルを含む群像劇的な作品も少なからず見られること、攻めと受けの関係性は固定であることが特徴的です。

台湾と日本の好きなBL傾向は似ている。ハートフル展開が人気

さらに井出さんが示したデータによると、台湾のBLオタクは日本と好みが似ているようです。「かわいい系」のキャラクターを好み、人気のカップリングは「年下攻め」「健気受け」。ただドラマは、ハートフルでLGBTQに配慮した展開が多く、攻めと受けという概念がやや薄い傾向にあるという点で違いが見られました。

タイではデータが充分ではないものの、近年台頭がめざましいタイBLの文化から井出さんが分析するに、「濃厚な展開からピュアなラブストーリまで幅広い。ストーリーキャラのバランスがよい」ことが特徴に挙げられました。

また井出さんは「日本・中国・台湾は2次元声優文化」であるとの論も展開。特に中国は声優の人気が高く、日本以上にファンが多い声優もいたりするとのこと。同じアジアでも違いが多いことが判明したが、「オタクが注目する人は実は似ている」という親近感を覚える結果もありました。

日本のBLコミュニティは世界一静か?中国、韓国は自己主張が強め

セミナーではオタクコミュニティの活発さについても言及されました。日本ではオタクやBLファン同士のコミュニケーションでは圧倒的にX(旧Twitter)が主流ですが、「表向きには自己主張しない」人が多いとの井出さんの意見。「感想や意見も積極的には言い合わない。日本が一番静かなコミュニティ」と分析しました。

海外BLはどう違う?韓国の腐女子は「傲慢攻め」、中国はハイスぺ同士が人気傾向。日本と異なる傾向を調査

対して、中国、韓国、台湾、タイなどの国は微博やFacebookなど使用するSNSは違っても、かなり積極的に発言する文化だと言います。海外のオタクたちは感想を相手にはっきり伝え、推しのためには行動で示す活動的なコミュニティを形成します。これは羨ましいような気もします。

意外な相違点や共通点が分かった前編。想像もつかなかった世界のBLファンたちの姿が少し掴めてきました。後編では各国のBLファンがどのサイトに生息しているのか、世界の同人誌即売会、「ハイキュー‼」の人気の謎に迫ります。

(執筆:住岡)

<参考>
・第13回BLアワード2022 商業BLの祭典
https://www.chil-chil.net/blAwardRank/y/2022/
■2022年のBL流行はジャンルレス?専門家が見たトレンド傾向とは。映像化も過去最多に
https://numan.tokyo/column/PMHbR
■令和のBLは“クソデカ感情”至上主義時代へ。2023年トレンド予測を専門家に聞いた
https://numan.tokyo/column/8FdQj

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住岡

アニメ、漫画、2.5次元・アイドル・声優などのジャンルを一通り嗜むライター。自宅が商業BLの山に埋もれている。お笑いも好き。

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