「BLアワード2023直前対策 ユーザー投票分析から見えた意外な事実」と題し、2023年に流行るであろうBLジャンルについてのセミナーに30代オタク女子ライターが参加してきました!
セミナーを主催するのは、商業BLのマーケティングやBLレビューサイト「ちるちる」の運営などBLコンテンツに精通する株式会社サンディアス。15年に渡りBL業界を研究してきたサンディアスの代表取締役兼腐女子マーケティング研究所所長・井出洋さんから、興味深いお話の数々を聞くことができました。前半の本記事では、 現在のトレンド傾向などについてお伝えします。
『オールドファッションカップケーキ』佐岸左岸(大洋図書)
via 『オールドファッションカップケーキ』佐岸左岸(大洋図書)
2022年はBL作品の映像化が最多を記録。試行錯誤の段階?
2018年放送の実写ドラマ『おっさんずラブ』の大ヒットを受けて、一般層へのBLの認知が進みました。そこから「BL作品(実写ドラマやアニメ)を作れば売れるんじゃないか?」という新たなニーズへの商業的期待が生まれ、2020年には実写化7本、アニメ化4本と大量のBL映像作品が世に出ます。
BLアワード入賞作品のアニメ化・実写化作品(腐女子マーケティング研究所作成)
via BLアワード入賞作品のアニメ化・実写化作品(腐女子マーケティング研究所作成)
BLアワードの過去入賞作品で実写化、アニメ化されたものが数多くあると井出さんの言う通り、最近だと2022年にドラマ化された『オールドファッションカップケーキ』と『高良くんと天城くん』はBLアワード2022年コミック部門の1位と2位にランクインした作品。ランキング上位の作品、特に1位や2位を獲る作品は歴代で見ていくと大体映像化されている傾向が過去のデータからもよくわかります。
『窮鼠はチーズの夢を見る』(2009年コミック部門1位/2022年実写映画化)や『花は咲くか』(2011年コミック部門2位/2018年実写映画化)など、大分前の受賞作が近年になって映像化されるケースもありますが、前述の『オールドファッションカップケーキ』や『高良くんと天城くん』のように受賞後すぐに映像化される作品も最近は多くあり、映像化への動きが早くなっている状況も見てとれます。
『高良くんと天城くん』はなげのまい( KADOKAWA)
via 『高良くんと天城くん』はなげのまい( KADOKAWA)
2021年には実写ドラマが3本しか作られなかったものの、
『美しい彼』(2015年コミック部門1位)の実写ドラマがヒット。そして2022年には実写ドラマ化本数が多数作られ、過去最多を記録しています。
ただ、『おっさんずラブ』や2020年にドラマ化された『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』の大ヒットを上回る作品を生み出すことはいまだ難しく、試行錯誤を続けている段階にあるようです。
2023年のBLアワード入賞予想作品は?年代別傾向から探る
それでは、現在のBLトレンドはそのような作品なのでしょうか? BLアワード2023入賞に近いであろう人気作品群から探ります。
「現在のトレンドはストーリー重視の作品が流行っているかと思えば、キャラクター&胸キュン重視の作品も流行っているというかなり幅広いジャンルに人気が分布していて、何か一つの作品を挙げてコレが流行っている、とは言えない状況です」(井出さん・以下同)
なぜ、そのようなことが起こるのかというと「購入する世代間の違いがあるから」。年齢が低い層ほどキャラクター&胸キュン重視、年齢が高い層ほどストーリー重視の作風が好まれるようです。さらに、好まれるトレンドジャンルは大体3つに分けられるとのことで、BLアワード2023の上位入賞を狙える作品の傾向について注目していきます。
【1】年齢層<低め>:“甘酸っぱい王道系”。鈴丸みんた先生が強い!
『タカラのびいどろ』鈴丸みんた(新書館)
via 『タカラのびいどろ』鈴丸みんた(新書館)
【作品例】『タカラのびいどろ』『かんしゃく玉のラブソング』(著:鈴丸みんた)/『なんかもうあーあって感じ』(著:宮田トヲル)
「この世代では日常、 特に学生の生活を描いた作品が人気です。気を揉ませる展開もありますが、砂糖を引き立たせる塩ひとつまみといった具合で、全年齢に受ける作風です。このトレンドは鈴丸みんた先生がすごく強い! 鈴丸先生は2022年に2冊出していますが2冊とも上位に位置する人気です。昨年に作品の発表がなかっただけに、待ち焦がれていたファンが一気に買ったというのもあるかも」
【2】 年齢層<中間>:“基本甘いが酸味あり”な作品。シリアス具合がポイントに
『純情でなにが悪い』冬縞しぐれ(祥伝社)
via 『純情でなにが悪い』冬縞しぐれ(祥伝社)
【作品例】『純情でなにが悪い』(著:冬結しぐれ)/『ピンクハートジャム』(著:しっけ)/『なつめさんは開発(ひら)かれたい』(著:ミマタ)
「こちらのトレンドは、身体の関係から始まったりする作品群。葛藤を経て、さらに二人の間に深刻なイベントがありながら、それを通過してさらに強い絆で結ばれる。シリアスの味付け具合がポイントです。
上記で紹介している3作品は全て風俗から始まる、出会ってすぐに結ばれやすい話の構造になっています。葛藤からお互いの感情のうねりがあって、その後に分かり合えてハッピーエンド……というのがBL作品の基本だと思うのですが、その本質を描くのに風俗という舞台はわかりやすいのかなと思います」
【3】年齢層<高め>: “酸っぱいけど甘い”。一筋縄ではいかない作品
『きみ色に汚されたい』さがのひを(幻冬舎コミックス)
via 『きみ色に汚されたい』さがのひを(幻冬舎コミックス)
【作品例】『きみ色に汚されたい』(著:さがのひを)/『この手を離さないで』(著:咲本﨑)/『ドラッグレス・セックス 辰見と戌井Ⅱ』(著:エンゾウ)
「こちらはシリアスなラブありで極端に感情が揺さぶられる、一筋縄ではいかない物語展開が特徴。読破するのに精神力・体力・経験値が必要になることも。30 代から支持されやすい作品です。
『この手を離さないで』は今年の前半でヒットした作品なんですが、受けと攻め両方が不幸な境遇で、極端に感情を揺さぶってくる。本当にかわいそうな目にあうんですがそれを乗り越えて二人が一緒になる、“夜明け系”に分類される作品です。こういったBLは昔からの主流で、今年も強かったですね」
少女漫画系BLや日常系BLが上位に。もはやジャンル分けが難しい?
では、どういった作品がBLアワード2023の上位になりそうなのでしょうか? 去年、発表されたBLアワード2022のコミック部門のランキングに注目して続けます。
【BLアワード2022「コミック部門」ランキング】
1位『夜明けの唄(1)』 著:ユノイチカ
2位『幼馴染じゃ我慢できない(1)』 著:百瀬あん
3位『神様なんか信じない僕らのエデン(上)』 著:一ノ瀬ゆま
4位『フェイクファクトリップス』 著:末広マチ
5位『世界で一番遠い恋(1)』 著:麻生ミツ晃
「2022年1位の『夜明けの唄』は、画力もストーリーもすばらしく満場一致で選ばれた作品です。ただ、ファンタジーな世界観でストーリー重視な内容であり、少女マンガ誌で連載されていても不思議ではない作品なんです」
このランキングで注目すべき点は、上位ランクイン作品が“一般的に想像されるようなBL”っぽくないという特徴を持っていることだといいます。
『夜明けの唄 3巻』ユノイチカ(シュークリーム)
via 『夜明けの唄 3巻』ユノイチカ(シュークリーム)
「2位の『幼馴染じゃ我慢できない』も少女漫画テイストが盛り込まれていて、
少女漫画好きの若い層に刺さる作品です。ファンタジー系の『夜明けの唄』とはガラッと異なり、少女漫画のなかでも日常系に近いですね。
3位の『神様なんて信じない僕らのエデン』は、BL界で流行っているオメガバースを扱った作品ですが、青年誌に連載されていても違和感がないような作品です」
『神様なんか信じない僕らのエデン 下』一ノ瀬ゆま(リブレ)
via 『神様なんか信じない僕らのエデン 下』一ノ瀬ゆま(リブレ)
このように上位にランキングされた作品は、どれもいわゆる王道的BL作とは異なる作風だったと井出さんは語ります。
「“一体BLって何なの?”とわからなくなってしまうくらいに今のBLのカテゴリーは広がっていて『これはBLだ』と明確にはわからないというのが昨今の状況だったりします」
つづく【後編】(※)では2022年ランクイン作品をさらに深堀りし、2023年のヒット予想をお届けします。令和は“クソデカ感情”がポイントになってくる……!?
※後編は30日(金)12時公開予定です
【後編】令和のBLは“クソデカ感情”至上主義時代へ。2023年トレンド予測を専門家に聞いた
■BLジャンルは多種多様な時代に。ライト作品の増加は『おっさんずラブ』の影響大?
https://numan.tokyo/column/U5io1■2022年のBL流行は王道甘々系と骨太系に真っ二つ!世代で異なる理由は“シェアしたい”
https://numan.tokyo/column/OXpzC