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直木賞作家・一穂ミチが描く「BLの魅力」を振り返る。二人の関係性を緻密な心理描写と情景描写で巧みに描く

とはいいながらも、一穂先生の魅力のひとつである“お仕事BL”感はたっぷり。優等生だった計がアナウンサーとしての壁にぶつかったり、抜擢された身に余る大きな仕事のプレッシャーに圧し潰されそうになったりする。

アナウンサーという憧れの職業を、キラキラとした表面だけでなく、報道という重い責務に葛藤する苦悩の部分まで描きます。一穂先生の巧みな心理描写で、読み進めながら素直じゃないように見えて素直な計の魅力にファンはどこまでもついていきたくなってしまいます。

『イエスかノーか半分か』(幻冬舎)

『イエスかノーか半分か』(幻冬舎)

また、攻めの潮のバックボーンも複雑で、物語に深みを出しています。「選挙」「出馬」を軸に回るBL小説(※)なんて、一穂ミチ作品でしか見られないのではないでしょうか。※同シリーズ『おうちのありか』(新書館)より

ちなみに、映画『イエスかノーか半分か』の主題歌である「世界とかくれんぼ」は、一穂先生が作詞を担当。作品の世界観を落とし込んだ歌詞はファンからも好評でした。一穂先生、多彩なところもステキ。

一穂作品には「捨て駒」がいない。スピンオフ小説が楽しめる

BL小説や漫画は、基本的に一巻完結の作品が多め。しかし、一穂作品はメインのカップリング以外のキャラクターにも焦点をあてた、スピンオフ作品が多いのも特徴です。

これは一穂先生がBL小説界で圧倒的人気を誇るからこそ、という理由ももちろんありますが、デビュー作『雪よ林檎の香のごとく』から、この傾向もあるため、一穂先生の信条のひとつでもあるのでしょう。商業誌としてスピンオフが出なくても、自身のnoteのSSで補完してくれていたりもします。

『アンティミテ』(新書館)

『アンティミテ』(新書館)

当て馬的な役割のキャラクターは、メインカップルの恋を盛り上げるための燃料となりがち。しかし、一穂作品の中では、当て馬やメインカップル以外のキャラクターをストーリー上必要な「捨て駒」として扱わず、彼ら一人ひとりにスポットライトを当てたスピンオフ作品を作り上げてくれます。

一穂作品のキャラクターはメイン以外も魅力的なので、彼らの恋愛まで楽しめるのは、ファンにとっては嬉しいポイント。また作品同士のクロスオーバーも多いので、単純に楽しみが増えます。スピンオフが多いということは読み応えにもつながりますし、何より幸せになるキャラクターの姿を追い続けられるのは、ファンにとっては幸せのほかありません。

会見では「BLを描き続ける」宣言も

直木賞を受賞した『ツミデミック』で評価されていた「登場人物たちのそれぞれの心情や境遇、言動がリアルに描かれていて読みやすい」「それぞれの人の暮らしや感情が見事に書き分けられていてすぐれている」などの点は、ファンなら誰しも実感していた一穂先生の持ち味のひとつ。長年のファンにとっては「世間がようやく気付いてくれた!」と感涙ものです。

BL小説はかつては「ひっそりあるべき」だと思われていたジャンルだったからこそ、私たちの好きな一穂先生の快挙をより嬉しく感じるファンが多いのでしょう。会見では、これからもBLを描き続けると話していた一穂先生。ますますの活躍と、新作をファンは願っています。

(執筆:住岡)

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住岡

アニメ、漫画、2.5次元・アイドル・声優などのジャンルを一通り嗜むライター。自宅が商業BLの山に埋もれている。お笑いも好き。

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