海外の同人界隈は何が好き?『ハイキュー!!』が圧倒的人気。英語圏では“獣BL”が目立つ傾向に

BLジャンルを専門とするレビューサイト「ちるちる」を運営する株式会社サンディアス。同社が主催するWEBセミナー「似ているようでけっこう違う海外BLと日本BL」にて解説されたなかから、気になるポイントをレポート。

前編に続き【後編】では、『ハイキュー‼』の世界的人気や声優について、また海外の同人誌即売会事情などに迫ります。

世界の同人誌界隈でも『ハイキュー!!』が根強い人気

井出さん曰く、「世界の同人界隈では『ハイキュー‼』の人気が高い」との発言が。

2020年に原作漫画が連載終了した『ハイキュー!!』(著者:古舘春一/集英社)ですが、海外でも根強い人気が続くといいます。中国のSNS、微博(Weibo)のコミュニティ機能である「超話」の海外アニメジャンルでは、他の最新中国アニメ、日本アニメを抑えて話題数が1位。

英語圏最大の二次創作投稿サイト「Archive of Our Own」では10万以上の二次創作小説が投稿されており、日本アニメでは『僕のヒーローアカデミア』についで2位の投稿数を誇っています。

「日本、中国、英語圏で同等の高い人気を得ているコンテンツはいまのところ『ハイキュー!!』のみといって過言ではないです」(井出さん)。

井出さんは「『ハイキュー!!』のエッセンスを抽出した作品が作れるようであれば今後さらに日本のコンテンツ、特にBLが広がっていく可能性が高い」と期待を寄せています。

海外のオタクは何が好き?中国・台湾は声優文化

井出さんは国ごとにオタクやBLファンが注目する人物についても明らかにしました。日本のオタクやBLファンのオピニオンリーダー的な存在は「声優・Vチューバー」

アニメが昔から数多く制作されている日本ならではと思われやすい「声優文化」ですが、井出さんによると実は中国や台湾にも「声優ファン」がかなり多いとのこと。特に中国は声優の人気が高く、日本以上にファンが多い声優も珍しくないそうです。日本の声優さんのファン層の厚さを知ることができます。

 

日本BLと海外BLのちがい(腐女子マーケティング研究所作成資料より)

日本BLと海外BLのちがい(腐女子マーケティング研究所作成資料より)

 

では、アジア全般では似た傾向にあるのかと早合点しそうになりますが、韓国では異なります。

韓国のオタクやBLファンのオピニオンリーダーは「俳優・アイドル」。世界的にも人気なアイドルが多い韓国ならではの結果が読み取れました。同じく韓国アイドルが人気のタイでも、アイドルや俳優が最も注目される人物であるとされています。

アジア内でも同じ好みの国があったり、また全く違う国もあるなど、興味深い結果が示されました。

即売会規模は日本がダントツ。欧米にはあまり浸透していない?

そんな幅広い“推し”を持つ各国のオタクたち。その情熱はどこで発散しているのでしょうか。

BLファンが大好きなイベントのひとつに「同人即売会」があります。井出さんによると、海外にも同じ文化はあるのだとか。ただし規模は日本がダントツで大きく、他国を寄せ付けない経済効果を生み出しています。

日本のコミックマーケット会場、東京ビッグサイト

日本のコミックマーケット会場、東京ビッグサイト

とはいっても、台湾や韓国でも比較的大規模な同人即売会が定期的に開かれており、タイ、マレーシアなどでも小規模だが実施。規模感は違っても、同人誌を楽しむ文化はじわじわと広がっていそうです。SNSやネット上だけでは味わえない、「同人誌」と「交流」の魅力が世界に浸透する日も近いか……。

一方、欧米ではそういった文化はほぼ無し。井出さんも「しばらく消費オンリーの立ち位置になりそう」との見通しです。しかし、コスプレなどを含むコミック・アニメイベントは欧米で活発であり、違う楽しみ方をしているファンも多いのかもしれません。

二次創作投稿サイト、韓国はゾーニングが厳格。中国は小説も賑わう

また、日本でBLファンが創作物を楽しむ場はネット上にも溢れていますよね。好きなカップリングやキャラクターのイラストやマンガ、小説を「pixiv」などで検索するのはBLファンなら誰もが一度は(一度どころじゃないと思いますが)経験したことがあるでしょう。

海外にも創作物を投稿する文化はもちろん存在するようです。井出さんによると、その特色は国ごとに異なるのだそう。まず、フランスや英語圏のBLファンには「NAVER WEBTOON」の「CANVAS」というサービスが人気。

北米版「NAVER WEBTOON」より

北米版「NAVER WEBTOON」より

 

フランスはBLというより、LGBTQ色の強い作品が多い傾向が強め。フランス漫画、バンド・デシネの影響もあるためか、全体的に絵本的なふんわりテイストが好まれるようです。
対して英語圏では明るく健康的なBLが多い印象。ファーリー・ファンダム(獣好き)の文化を反映したそのまま獣BLも人気ジャンルだそうです。

韓国では「postype」という投稿サイトが主流。一次創作・二次創作問わずイラストや漫画、小説などを投稿できるサイトで、20歳未満は性的なコンテンツは閲覧できない仕様となっています。規制が厳しい韓国らしく、ゾーニングが厳格です。

中国では「LOFTER」というインスタグラムやピンタレストに似たイラストと二次小説の投稿サイトが代表的ですが、「晋江文学城」という小説投稿サイトも一般ユーザーにもBLファンにも人気があります。基本はオリジナル小説のみの掲載で、人気作品は有料化も可能。細かくタグ付けされており、攻め視点、受け視点などが日本より重要視されているようです。

「LOFTER」登録画面より

ここで興味深いのは中国のネット文学の市場規模は249.8億元、海外市場が30億元もあること。世界では月額制の小説サイトやサブスクリプションもメジャーですが、日本では主流ではない……。井出さんも「日本は小説文化が弱いのかもしれない」とコメントしました。

世界のBLファンたちも投稿サイトで“萌え”を発散していると思うと身近に感じます。もし海外ジャンルにハマった際は覗いてみるのも楽しいかもしれません。

日本のBLは世界へ広がっていく余地がある

アジアをはじめ各国のBLファンの推し傾向があり、各国の文化を背景とした多様な好みがあることを知ることができた本セミナー。

「私はあの国のBLファンと好みが似ているようだ!」という気付きも得られ、漠然と存在は知っていた世界のBLファンたちが身近に感じられました。

井出さんによると、日本のアニメや漫画が海外で売上を伸ばしている点や、アニメイトなどの専門店が欧米に進出するなどのニュースを背景に、「今後日本のBLは世界に広がっていく余地がある」との明るい予想を語ってくれました。世界のBLファンと語り合える日も近いかもしれません。

(執筆:住岡)

■2022年のBL流行はジャンルレス?専門家が見たトレンド傾向とは。映像化も過去最多に
https://numan.tokyo/column/PMHbR
■令和のBLは“クソデカ感情”至上主義時代へ。2023年トレンド予測を専門家に聞いた
https://numan.tokyo/column/8FdQj

IMAGE

住岡

アニメ、漫画、2.5次元・アイドル・声優などのジャンルを一通り嗜むライター。自宅が商業BLの山に埋もれている。お笑いも好き。

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

オタ腐★幾星霜