ふくだりょうこ
大阪府出身。大学卒業後、フリーランスのライターとして執筆活動を開始。ゲームシナリオのほか、インタビュー、エッセイ、コラム記事などを執筆。たれ耳のうさぎと暮らしている。ライブと小説とマンガがあったら生きていける。
アニメ、映画、マンガ、ドラマ、音楽、舞台など、さまざまな“沼”コンテンツを生み出す人たちから、ご自身の“沼”について聞くインタビュー連載企画「沼、聞いてみてイイですか?」。
今回登場いただくのは、声優アーティスト・畠中祐さん。映画『ナルニア国物語』のエドマンド役の吹き替えでデビューし、2017年にはソロアーティスト活動を開始、2023年にはミュージカルへの出演を果たすなど、声優のみならず音楽とお芝居の領域で幅広く活躍しています。
というのも、畠中さんのご両親はミュージカルに携わってきた方たち。幼少期から自然と音楽、そしてお芝居に触れる環境があったことがうかがえます。
そんな畠中さん、2023年11月29日にはソロアーティスト8枚目となるシングル『グッドラック』をリリース。
TVアニメ『オーバーテイク!』のED主題歌「グッドラック」、長編映画『家族という病』の主題歌「Psycho」、恋愛ゲーム『イケメンヴァンパイア◆偉人たちと恋の誘惑』5周年記念タイアップソング「Endless Love」と、すべて表題曲となり得るようなキャッチーでタイプの異なる楽曲が収録されています。
それらを歌いこなす畠中さんの表現力に驚かされ、圧倒されるばかり。昔から培われてきた音楽やお芝居の積み重ねがあってこそなのでしょうか。
そこで、“アーティスト・畠中祐”のルーツを探るべく、ハマってきた“音楽沼”について話を聞きに行きました。これまで聴いてきた・歌ってきた音楽はもちろん、自身が音楽活動やミュージカルへ出演をすることへの率直な気持ち、さらに新曲『グッドラック』の推しポイントなど、たっぷりと話をうかがっています。
INDEX
――畠中さんが明確に「音楽が好きだ」と思うようになったきっかけから教えてください。
畠中祐(以下、畠中):
両親がミュージカル役者なので、僕が小さい頃からミュージカルの楽曲を歌っていたり、父がコンポ(コンポーネントステレオ)で洋楽を聴くことにハマっていたりしたんですよね。
それらを間近で聴いていて、僕自身も「いいな……」と思ったのが最初だと思います。
――当時聴いていた楽曲やアーティストは覚えていらっしゃいますか?
畠中:
当時は誰か分からず聴いていて、そのまま大人になってしまったアーティストがいたんですけど……。仕事仲間で仲良しの武内駿輔と幼少期に聴いていた音楽を話している時に、「曲名は分からないけど、この曲が好きなんだよ」と口ずさんだら「この人の楽曲じゃない?」と教えてもらったんです。
それが、クレイグ・デイヴィッドだったんですよね。大人になって、そんな有名な人の楽曲を幼少期から聴いていたことに気づくという(笑)。この人の楽曲はずっと家で流れていましたね。
――能動的に自分から聴くようになった音楽はいかがでしょう。例えば、初めて自分で買ったCDとか。
畠中:
それはもう明確に覚えていますよ。「だんご3兄弟」です!
――細長い8㎝シングルのものですね!
畠中:
そうです、そうです!(笑)自分で買った「だんご3兄弟」のCDが家にあったのを今でも覚えています。
あと、自分から能動的に聴くようになったアーティストだと、槇原敬之さんかな。母親が槇原さんの曲が好きで聴いていた影響で、自分でも聴きたくなったんですよね。それで、CDをレンタルショップに借りに行っていました。
槇原さんの曲は、歌詞がすごく好きで「いいな……」と思いながら聴いていました。
――お母さまが聴いていたということは、畠中さんご自身は当時まだ幼かったということですよね。槇原さんの歌詞が響くって、ちょっと大人な子どもですね……。
畠中:
子どもだったけど、槇原さんの歌詞って情景描写がはっきりしているから聴いていて分かりやすいんですよね。
例えば、「LOVE LETTER」の<線路沿いのフェンスに夕焼けが灯っている><就職の二文字だけで君が大人になってく><向かいのホーム 特急が通り過ぎる度とぎれとぎれのがんばれが砂利に吸い込まれていく>とか、情景が鮮明に思い浮かぶじゃないですか。
槇原さんの楽曲を聴いていると、本を読んでいるような気分になるんですよね。
――情景描写がハッキリしている楽曲や物語性のある楽曲に惹かれるのは、音楽へ興味を抱いた導入がミュージカルだったから、というのも影響しているのでしょうか。
畠中:
それはあるかもしれないですね。歌詞の中に物語が描かれている楽曲って、すごく分かりやすさを感じるんですよ。もしかしたら、伝えたいことがハッキリした歌詞が好きなんだと思います。
――ちなみに、音楽へ興味を持ち始めた当時から、音楽を聴きながらずっと歌を歌っていたんですか?
畠中:
そうですね。親が歌っている曲をよく歌っていました。
それもあって、ずっと自分の歌い方や歌声に合う曲を中心に聴いていたような気がします。音楽を聴いていると、まずは「自分にも歌えるかな?」と試してみたくなるんですよね。なので、音楽を聴きながら歌うこともあれば、家のお風呂場でよく大きな声で歌っていました。
ただ、実家が木造建築だったので、近所迷惑だったかもしれません。家中にすっごく響いていたと思います。丸聞こえだったのか、近所の人からある日リクエストが来たこともあるんですよ(笑)。
――お風呂場で歌っていたら、近所からリクエストが来たんですか!?
畠中:
そうそう。夏に、井上陽水さんの「少年時代」を歌っていたら、「ほかの夏の曲も歌ってほしい」って(笑)。
夏には「バーベキューをしよう!」と中庭でみんなでバーベキューをするほど、ご近所さん同士の仲が良かったんですよね。だから、歌声が聴こえていても怒られることなく、むしろリクエストがきたのかもしれません(笑)。
――ここまで畠中さんの音楽のルーツをお聞きしてきました。ここからは、“アーティスト・畠中祐”を作り上げた音楽を3曲ピックアップしていただきたいです。どんなラインナップになるでしょう?
畠中:
作り上げた音楽……なんだろうな。たくさんあって悩みますね……。
でもまず1曲目は、スティーヴィー・ワンダーの「Isn't She Lovely?(可愛いアイシャ
)」は好きでしたね。それこそ、幼少期に父親がコンポでよく聴いていたのだと思います。
子どもだったから英語の歌詞を理解していたわけではないけど、声変わり前の僕の声にちょうどいいキーだったんですよね。今は絶対に歌えないですけど、当時はあの高いキーが地声で歌えていました。そこでフェイク(原曲とは異なる音程やリズムで歌うこと)の練習をして……まあ、できなかったですけどね(笑)。
2曲目は槇原敬之さんの「ペンギン」ですね。聴いた時にすごく切ない気持ちになったんですよね。
聴いていた当時はまだ小さかったですけど、子どもの僕でもわかるような切なさ、何とも言えない“思いの届かなさ”みたいなものが、歌詞の中や曲自体にずっと漂っていて。すごく好きな楽曲でした。
3曲目は、ミュージカル『RENT(レント)』の挿入歌「Seasons of Love」。
『RENT』を観たのは幼少期だったので、物語自体はよく覚えていないんですけど、この楽曲が抜群にかっこよくて好きでしたね。
ミュージカルだから当然ですけど、歌のプロフェッショナルが揃っていて、そんな彼らがひたすらに気持ちよく歌い上げていく。「本当にこの人たちはこの曲が好きなんだろうな」ということがビシバシ伝わってくるパフォーマンスで、子どもながらにたまらない気持ちになったんです。
――ピックアップいただいた楽曲は、洋楽、J-POP、ミュージカルと畠中さんのルーツに則ったラインナップですね。
畠中:
そういう意味では、ロックはあまり通ってきませんでしたね。幼少期から学生時代は、「ゴンゴンパワーで押していく!」みたいなロックやバンド系よりも、J-POPやブラックミュージックなどノリのいい曲が好きだなと思っていました。
歌うことを前提に聴いていたこともあって、「自分の歌い方には合わないな……」とロックを聴かなかったのもあります。
学生時代だと、例えばJ-POPならスキマスイッチやコブクロとか。「ボクノート」の歌詞がすごく好きだったな……。
だから、当時はMr.Childrenを聴いている人が周りに多かったけど、最初は「声がロックな感じだし、俺はロックをそんなに聴かないからあまり好きじゃないかも……」と思っていたんですね。
だけど、全然そんなことなくて。ちゃんと聴いてみるとすごくいい歌詞じゃないですか。そこから少しずつバンド系も聴くようになりました。
――徐々に聴く音楽の幅が広がっていく中で、大人になってから聴くようになったジャンル、アーティストは?
畠中:
子どもの頃や学生の頃はグッと真剣に聴きこむことが多かったのですが、大人になってからはドライブ中にかけたくなるような曲を聴くようになりましたね。音を聴いてノれるような曲。でも結局偏っている気がしますね。いまだにロックはそこまで聴かないので。
大人になって聴くようになったのは、LUCKY TAPESやFIVE NEW OLD。彼らの楽曲は自分で歌うこともあります。あと、Furui Rihoさんの楽曲もすごくよかったですね。
でも、たまにマイケル・ジャクソンの「Love Never Felt So Good」を聴いて、「昔の曲って素晴らしいな!」と思うこともあります。
自分が生まれる前や自分が子どもの頃に多くの人が「いい曲」だと思っている曲って、ずっといい曲なんですよね。だから、古い楽曲も含めて好きだなと思います。最近流行りのアーティストや最新の楽曲ばかり聴いていると、自分の感性は狭まっていくのかもしれませんよね。
――たしかに、往年のヒットソングって、聴いているとヒットした理由がなんとなく分かりますもんね。
畠中:
そうそう。なので、「この時代に生まれていないのに懐かしいな」と思える楽曲と出会えた時は嬉しくなります。
具体的に挙げるなら、カーペンターズ! カーペンターズを聴くと世代じゃないのにすごく懐かしい気持ちになるんですよね。
(「Top of the world」を口ずさみながら)夕方の帰り道に聴くと、「全然知らない場所なのに、ここが故郷のように思えてきますなあ」みたいな気持ちになる(笑)。
だから、やっぱりこういう往年のヒットソングって出会っておかないとなと思いますよね。どことなく寂しい、切ない雰囲気も全部含めて、昔の楽曲って愛せますよね。
――そんな中で、最近はどういう楽曲にハマっていますか?
畠中:
最近、たまらなく好きだなと思ってずっと聴いていたのは、今年(2023年)夏に公開されたスタジオジブリの映画『君たちはどう生きるか』の主題歌「地球儀」(米津玄師)です。いい歌! あれはいい歌!
聴いていると、楽曲制作にすごく時間をかけたんだろうな、ということが分かります。「ギシギシ」というピアノのペダルを踏んでいる音や椅子が軋む音など、音楽を奏でる上での雑音も全部入れていて。ピアノの旋律一つひとつとってもコダワリを感じますよね。
また、歌を基準に聴くと「うわあ、すごく味がある歌だな……この歌は歌えない」と思いました。中島みゆきさんの「ファイト」など、生半可な気持ちでは歌えなくて。それと同じようなレベルで難しい歌だなと思いました。
――これだけいろんな歌を歌われていても難しいと思う曲ってあるんですね。
畠中:
もちろんありますよ!(笑)
でもそれはきっとお芝居も一緒じゃないですか。スキルや上手さだけでは人に届かないことがあるように、年月を積み重ねていかないと味が出てこない役があるように、歌でもそういうものがあると思うんです。
いくら歌がうまくて、いくら技術があって、高音で歌えたとしても、“楽曲の器”というものに伴わないこともある。誰が歌っても届くわけではなく、この人が歌うから多くの人に届く。「地球儀」はそういう楽曲なんじゃないのかなと思った時、「うわっ、米津さんすごいな」と。
米津さんはキュートでポップな曲もありますけど、「地球儀」を聴いた時は「この深みをこの年齢で出しちゃうの……?」って。純粋にすごいなと思いました。
――お話を聞いていると、幼少期から畠中さんの生活には音楽が浸透していることが感じられました。音楽活動は声優を始めてからかと思いますが、子どもの頃から音楽の道へ進む考えはあったのでしょうか。
畠中:
歌うことは楽しくて好きでしたし、近所の人を含めて歌っていると褒められるからずっと歌っていましたけど、仕事にするつもりはサラサラなかったです。
「僕の歌で喜んでくれるなら歌いますけど……」と思っていましたけど、「将来の夢は歌手だ!」「歌でお金を稼ぐぞ!」とは思っていませんでしたね。
――アーティストデビューの時も、畠中さんご自身が「すごくやりたい!」と言ったわけではなく?
畠中:
はい。求めてくださったから、というのが大きいですね。ありがたいことに、20代前半でたまたまソロアーティスト活動を始めることになった、という感覚が大きいです。
ミュージカルも同じです。僕の本業は声優なので、ミュージカルに出演するつもりはなかったですし。
もちろんいつかやりたいと思っていましたよ。でも自分で明確に「このタイミングでアーティストデビューするんだ!」と考えてはいませんでした。
人生設計的にアーティスト活動は、「役者として地に足がついてきた35歳頃にやり始めるんじゃないの?」くらいで。声優として少し余裕が出た時に、表現の方法の1つとしてアリかなって。それまでは、「趣味として風呂場で歌うくらいがちょうどいい」という感覚でしたね(笑)。
――ご自身の人生設計よりもかなり早いタイミングでのアーティスト活動だったかと思います。そんな中で、畠中さんはどんな軸を持ってアーティスト活動をされているのでしょうか。
畠中:
お芝居でもなんでも、全てに共通することなんですけど、「何が楽しいのか」を自分でちゃんと見つけないといけない、と思ってます。歌っている瞬間に「自分はこういうことが楽しいんだ」と実感ができるといいですよね。それがなくなってしまったら結構苦しくなる気がしています。
ライブの準備をしていても、「大変だ」「苦しい」と思う瞬間はたくさんあるんですけど、ライブをしている途中で「楽しいな」と思う瞬間は敏感に感じたいですね。
「本当に楽しい!」と思える瞬間って自分の気持ちがフラットでないと感じられないものだから、ネガティブな感情ばかりを拾うのではなくフラットな気持ちでいようと心がけています。
――ネガティブもポジティブも、その時々の感情を大切にしているんですね。
畠中:
それがすべての原動力になっているんですよね。
お芝居をしていても「うまくいかないな」「大変だな」と思う瞬間がもちろんあって。だけど、ある瞬間に「今の芝居は上手く繋がったな」「今、すごく流れがキテるな」ということがあるんですよ。例えば、相手の役者さんとセリフがスムーズに繋がった時とか。そういう瞬間が歌にもあるんですよね。
――歌では、どういう時に「繋がった!」「今、流れがキテるな」と感じますか?
畠中:
ライブでお客さんと一緒に盛り上がった時、バンドメンバーやダンサーとパフォーマンスが上手くかみ合った時。
最近のライブでも、僕が歌っている時にバンドメンバーと遊んでいる感覚になったことがあって。「この音の中で遊べているな」という感覚になったんですよ。
そしたら今度は、その遊びにお客さんたちもちゃんとノッてくれて。グルーブ感が徐々に高まっていく感覚がすごく楽しかった。
それは自分から生み出しているというよりも、周りにノせてもらっている感覚が強いんですよね。それが楽しい。自分が発したものに対して、周りが応えて、それが巡り巡って、結局は自分に返ってくるのがすごく面白いなと思います。
なんなんでしょうね、あの感覚は。ただ、その感覚を求めて音楽活動を続けている感覚があります。
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ふくだりょうこ
大阪府出身。大学卒業後、フリーランスのライターとして執筆活動を開始。ゲームシナリオのほか、インタビュー、エッセイ、コラム記事などを執筆。たれ耳のうさぎと暮らしている。ライブと小説とマンガがあったら生きていける。
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