宮本デン
音楽と酒とネット文化、そしてアニメ・ゲームに心酔するサブカルライター。大衆が作り出すカオスがどこまでいくのか見届けたいという思いで、日々執筆活動を行っています。表現に対する深読みや考察が大好きなオタク。あなたの好きなカルチャーを、深く独自に掘り下げます。
重度の人見知りでコミュ障な主人公・後藤ひとりはギター演奏の動画を投稿しネット上で活動する少女。その性格ゆえに友達を作れずに高校生活を送っていたが、初対面の伊地知虹夏に誘われて急遽ライブで演奏することに......というのが物語の始まりです。
音楽を提供したアーティストの豪華さもさることながら、主人公の異常なまでのコミュ障ぶりから繰り出されるコミカルな描写と、そんな主人公が音楽を通して成長する姿が共感を集め、ネット上では覇権と呼ばれるまでの大人気アニメとなりました。
『ぼざろ』ではひとりの成長や、それを取り巻く人たちの描写が視聴者へと刺さりましたが、原作は非常にシンプルで面白い日常系4コマ漫画です。これまでも『ポプテピピック』や『らき☆すた』など四コマ漫画がアニメになり大人気になった例は多くあります。
それらの人気が出た要因はそれぞれ挙げることができますが、『ぼざろ』については“登場人物を構築した”ことが挙げられるのではないでしょうか。
もし後藤ひとりが実在したら、今、何を思い、何を考え、何につき動かされるのか。
登場人物が勝手に動くようになるまで人物を解析し、再構築する。シンプルな4コマ漫画から生身を感じるような人物を生み出すには、そういった過程が必要だったのではないかと思わされるほど『ぼざろ』では登場人物が生きていました。
ひとりが紡いだ魂のギターソロは、まさにその過程の果てにあったものだと感じています。そしてそれは後藤ひとりに限った話ではなく、結束バンドの伊地知虹夏、山田リョウ、喜多郁代も同様です。
もちろん『ぼざろ』の人気の要素として、アーティストから提供された音楽の質の高さや、ライブシーンへのこだわりも欠かす事はできません。しかし、その音楽やライブシーンから強力なカタルシスを得るためには、後藤ひとりをはじめとした結束バンドのバックグラウンドを知ることが必要不可欠です。
後藤ひとりが愛する音楽を最高に鳴らす”その時”のために、吉田さんの脚本力は余すところなく発揮されたのではないでしょうか。
「面白いな」と感じたコンテンツについて調べたら、度々吉田恵里香さんの名前を目にする……そんな経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。
吉田さんがこれまで手がけてきた作品を振り返ってみると、全体を通して“登場人物を知る”ことが脚本の鍵となっているような印象を受けます。
コンテンツを愛する我々は、いわゆる「解釈の一致」を制作側にも求めますが、吉田さんの脚本は細かいところに手が届き、かといってコンテンツを愛する人たちへ過剰に媚びるようなこともしていません。
そのため、作品に対する前提がない人も、そのコンテンツを愛する人も誰しもが楽しめるような構図になっているのでしょう。
2024年前期連続テレビ小説テレビ小説『虎に翼』は日本初の女性弁護士・三淵嘉子をモデルとしたリーガルエンターテインメントと銘打たれています。
吉田さんがこれまで漫画原作の世界で培われた“登場人物を知る”手腕が原作のない朝ドラでどのように発揮されるのか、注目していきたいですね。
(執筆:宮本デン)
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