河西ことみ
ライター/編集者/Webディレクター。IT系、ビジネス系、美容系、ゲーム系などさまざまな系統の記事を執筆・編集していました。
「ビックリマン」といえば、ウエハースのお菓子とともにおまけシールが封入されていて、そのシールにはアイコニックな二頭身のキャラクターが描かれている。そんな印象が強くありました。
しかし令和の今、あの見慣れたビックリマンキャラクターたちが、現代風の美少年/イケメンになってしまったのです!
食品メーカーのロッテが1977年に発売を開始したチョコレート菓子「ビックリマン」。封入されたトレーディング要素のあるおまけシールが話題となり、1980年代後半から1990年代初頭にかけて大ブーム。最盛期には年間4億個売れて1人3個までしか買えないという伝説を生むなど、社会現象にまで発展したそう。
とはいえ、その人気は永遠に続くものではなく、徐々に売上が低迷。なんと存続の危機にまで瀕していたというのです。
そんな状況を打破したのが、『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』『進撃の巨人』といった人気作品とのコラボレーション。この施策が功を奏し、徐々に若い世代への知名度が向上しています。そして2023年、新たなビックリマンのコンテンツが打ち出されました。
それは、2023年10月から放送中のビックリマンを題材にした完全新作アニメ『ビックリメン』です。
現代のコンビニを舞台に、ビックリマンをかけた争いが勃発。主人公・ヤマトは争いに巻き込まれていく、というストーリー。ビックリマンでも人気の「悪魔VS天使」シリーズをベースにしたキャラクターたちが、“現代風のイケメン”として登場。
ビックリマンをあまり知らない世代やアニメ好きの女子たちからも注目を集めました。
これまでにもビックリマンのアニメ作品はあったものの、ここまで様相が違う作品は初めて。なぜ令和の今、ビックリマンのアニメをつくろうと思ったのか。“現代を舞台”に、キャラクターたちを“イケメン化”したTVアニメが誕生したのか。
その真相に迫るべく、ロッテの「ビックリマン」責任者・本原正明さんと、アニメ制作会社レスプリのアニメプロデューサー・清水香梨子さんにインタビューを決行。
存続の危機に瀕していたところからTVアニメ『ビックリメン』制作に至るまでのビックリマンの変遷、アニメ制作の舞台裏など、ビックリマン世代ではない筆者が気になることを余すことなく質問。ビックリマンの歴史や令和のコンテンツ戦略など多くの学びを得ることができました。
INDEX
――はじめに、「ビックリマン」責任者・本原さんに「ビックリマン」の近年の動向をお聞きしたいです。
本原正明(以下、本原):
ビックリマンシールは1977年に発売され、1985年に「悪魔VS天使」というシリーズで人気に火が付きました。しかし時が経つにつれ、購買層は当時熱狂していた30〜40代男性が全体の90%を占め、10〜20代は数%いるかいないかという状況に陥っていました。
一時期は社内でも「ビックリマンはもう終わりかな」という話も出ていたほどだったんですよ。
――え!ビックリマン存続の危機があったとは驚きです。
本原:
そんな中、2013年ごろに僕がビックリマンの商品担当に就任することになったのですが、その時にビックリマンブランドの課題に気付いたんです。
それは「ビックリマンを知らない世代の人たちが入ってくるには難しすぎるコンテンツである」ということ。そもそも僕より前の商品担当者は全員がビックリマン世代だったため、「ビックリマンとは何か」という理解がもともと深く、これまでの歴史を重んじる意識も強かったんです。
けれど、僕自身はビックリマンのド真ん中世代ではなかったので、商品担当になってからはそれこそ学生時代の歴史や社会の授業を思い返すように1から勉強しなければならなくて。でもなかなかキャラクターを覚えることができずにかなり苦戦したんですよね。
その時、「担当者の僕がこれだけ苦労するなら、普通の人たちはより難しいと感じるはずだ」と思いました。
――1977年から始まった「どっきりシール」から1985年にビックリマンシールが確立するまでにも歴史があるのに加え、本原さんが商品担当になる2013年までにも10を超えるビックリマンシールのシリーズが誕生しています。その歴史を辿るのは、たしかにハードルが高い……。
本原:
それに加えて、当時周囲の人たちに「ビックリマンってどう思う?」と聞いてみると、「お父さんが買っているイメージ」とか「古臭い」といった答えばかりで、若い世代はビックリマンを自分たちの世代のブランドだとすら思っていなかったんですよ。
だったらまずは、ビックリマンを知らない人たちにも興味を持ってもらうこと。そして、目先の売上よりも数年先を考えた未来への種まきを行なうことが重要だと考えました。
その上で、じゃあどうしようかと考えた時に、「趣味と絡めながら」であれば、ビックリマンのことを全く知らない世代でも興味を持ってもらいやすいのでは?とひらめいたんです。
――ビックリマンと趣味を絡めるとは?
本原:
実際に僕自身がビックリマンの勉強をしていた際にも、趣味のサッカーに例えたことで少しずつキャラを覚えられるようになったので、実体験からも「これならいけるぞ」と。
そうした経緯から、まずはプロ野球選手やアニメ、アイドル、芸人など、さまざまなコンテンツとのコラボに挑戦することにしたんです。
――多種多様なコラボにはそういった経緯があったんですね。最近は『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』など人気アニメとのコラボに加え、VTuberの「にじさんじ」とのコラボも話題になりましたよね。
本原:
ええ。そうした人気作品とのコラボを通じて若い人たちとの接点ができたことにより、現在は10〜20代の購買層も35%程度まで増えました。大学生の認知度も大きく高まり、10年くらい前は100人中2〜3人程度だったのが今は90人程度に。
売上も大きく伸びてきて、ここにきて改めてビックリマンがロッテの代表ブランドに返り咲いてきています。
そしてさらに、新しい層にまで認知を拡大していくことを狙い、ビックリマンというブランドを「今の時代を生きるものにしたい」という思いからアニメ化へ挑戦するに至りました。
――『ビックリメン』で新しい層への認知拡大を目指したということですが、具体的にどのようなことを意識したのでしょうか。
本原:
私からは二頭身デフォルメの今までのビックリマンイラストではなく、新しいイラストタッチでのアニメを希望しました。
そういう希望をしたところ、「思い切ってキャラクターの頭身を上げて、現代を舞台にしたオリジナルストーリーにしましょう」と制作陣から提案がありました。
当然、「今までビックリマンを応援してくれていたコア世代の方からはテイストの違いから違和感を持たれてしまったり、批判的な意見が来てしまったりするかもしれない……」というリスクもありました。でも「それでもいいから振り切ろう」「新しいファン層に対してこれからのビックリマンを見せていこう!」と、かなり割り切って一緒に制作陣のみなさんと進めていきました。
――初めてアニメPVを観た時、『ビックリメン』のキャラクターデザインやキャラクター性は現在のアニメファンにも好まれそうだと思っていたのですが、しっかり戦略に乗せられていたというわけですね……!
――『ビックリメン』製作段階で、ロッテ側が求めたことはありますか?
本原:
ロッテ側としては「当時のビックリマンシールやシール交換の価値を表現してほしい」という思いはお伝えしました。
ビックリマンの「悪魔VS天使」は当時社会現象になっていて、購入制限がかけられたり年間4億個も売れたりと、今の時代には考えられないほどの熱狂を生んでいたんですよ。あの頃の勢いや価値を、ストーリーを通じて今の世代の方々にも知っていただきたいなと。
――『ビックリメン』1話で描かれた、ビックリマンシールを求めた人たちが溢れかえるコンビニの様子は、あながち嘘ではなかったわけですね。
本原:
アニメなので多少の誇張表現はあるものの、当時の空気感を汲み取っていただいたと思います。
それ以外は、ほとんどクリエイターの皆さんにお任せしていました。僕はアニメのプロではありませんから、あまり入り込みすぎるのも良くないと思ってのことです。
――基本的にはお任せするスタイルで進められていったのですね。
本原:
はい。ただ、僕自身もアフレコ現場を含め、制作現場には行かせていただいていました。アフレコ現場は意外とスパルタな感じというか、「もっと気持ちを込めて!」みたいなやり取りがあったりして。
そんな中、第4話に元プロ野球選手でビックリマンPR大使の里崎智也さんが声優で参加されているのですが、声優初挑戦だったのにあまりにもうまかったです。演出家(音響監督)から追加オーダーがあったぐらいです(笑)。そういうアニメの裏側を現場で見ることができて楽しかったですね。
――実際に完成した『ビックリメン』を観ていかがですか?
本原:
ビックリマンといえば二頭身のデフォルメキャラのイメージが強かったですが、『ビックリメン』ではキャラが八頭身になったことで、新鮮さや今時感が出ていて、とても良いですよね。ジャックが想像以上にカッコいいなと感じています(笑)。
物語もおもしろくて。うちの4歳と7歳の子どもも楽しんで観ていますよ。子どもたちが分かるということは、若い世代のビックリマンに詳しくない人たちが観ても理解しやすいストーリーなんだろうなと。
でも、子どもたちには「『ビックリメン』ちょうだい!」って言われるんですよ(笑)。「いやいや“ビックリマン”なんだよ」なんてやり取りもあったりして。今後若い人たちの主流は『ビックリメン』になっていくのかもしれないですね。
――ビックリマン世代ではない子どもたちに届いている一方で、ビックリマンがもともと好きだった世代の方たちの反応はいかがでしょう?
本原:
キャラクターデザインなどをかなりアレンジしているので「もしかしたら批判がくるかもしれない」と思っていたのですが、意外とそんなこともありませんでしたね(笑)。
1990年頭くらいに『スーパービックリマン』という八頭身のメカロボットデザインのシールやアニメを展開していたことがあったのですが、「それを彷彿とさせる」というような声が聞こえてきていて、意外と通じるところがあったのかなと。キャラクター原案の武井先生が描いてる作品のファン層にビックリマンのコアな世代が多く、そこもマッチして受け入れていただいている印象です。
――『ビックリメン』が今後、ビックリマンにも影響を与えていく可能性もありそうですね。
本原:
『ビックリメン』のキャッチコピーに「これが、令和のビックリマン」と付けられているように、『ビックリメン』は新しい世代がビックリマンを知る入り口になっていることは間違いないと思います。
なので、アニメをきっかけにビックリマンが若い人たちにもさらに親しまれたら嬉しいですね。
それこそアニメで興味を持った人たちには、ネットで検索していただいて「ビックリマンってこんなに人気があったの!?」とかネットオークションを覗いていただいて「めっちゃ高値じゃん!」とか、『ビックリメン』でも触れられているビックリマンの価値やすごさを知ってもらいたい。
そして、そんなビックリマンが45年経った今も続いていることに気づいていただけたらと思っています。
また、今後は『ビックリメン』をきっかけにビックリマンを知ってくれたり好きになってくれたりした方へ向けた施策などもいろいろと企画しているので、ぜひ期待していただきたいです。
――『ビックリメン』で新しい世代へ間口が広がった先、ビックリマンが目指すこととは?
本原:
歴史を超えて今もなお「今の時代のブランドだよね」と思ってもらえるようになったらと思います。
約10年前にビックリマンと趣味をかけ合わせた戦略を始めた時、ビックリマンの10年後、20年後のことが見えなかったんですよね。「昔流行っていた」「古臭い」という声を聞くたびに、“今の時代を生きていないブランド”だと思いました。
だからこそ、どんな世代の人たちでも「ビックリマン知っているよ!」「だから、絶対になくならないよね」となる未来を目指し、青写真を描きながらここまでやって来ました。その想いは今でも変わりません。
今後さらにファンの裾野を広げるためにも、手法は決め切らなくていいと思っています。ロッテは食品メーカーですが、今後もコラボ、食品以外でのグッズ展開、アニメ、イベントなど、食品以外のコンテンツを打ち出し、さまざまな人たちと繋がれる接点を積極的につくっていこうと。
ビックリマンを、「自分にとって過去のコンテンツ」と思われるものではなく、「自分と同じ時代に生きている今の時代のコンテンツ」と思ってもらえるものにしていきます。
次ページ▼『ビックリメン』の「メン」は、イケメンの「メン」?
河西ことみ
ライター/編集者/Webディレクター。IT系、ビジネス系、美容系、ゲーム系などさまざまな系統の記事を執筆・編集していました。
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