「大切なのは、世界観を好きになれるか」VTuber・叶が語るお気に入りアニメ4選

初のアニメタイアップに「まさか自分が！」と驚き

――最近ではVTuberさんがアニメのタイアップを担当したり、VTuberのアニメが作られたりしていると思うのですが、叶さんが活動し始めたころは、こういった状況になることを予想していましたか。

叶：
あるんじゃないかなとは思っていました。最初こそ“VTuber”というジャンルで括られていましたけど、YouTubeやニコニコ動画で僕らと同じように活動していた歌い手さんが、徐々に自分の曲をメジャーラインで出したり、ゲーム実況の人がゲーム内のアナウンスボイスを担当したりするようになりましたよね。

ということは、VTuberもVTuberというジャンルに縛られず、タレントの道をなぞっていくんじゃないかなと予想していました。

僕自身、VTuberを「新しいタレントのあり方」だと思っているので。VTuberという業界が続いていく限り、アニメに関わることはいつか訪れる未来だと思っていましたね。

――ご自身もVTuberとしてデビューした当初は、タレントやアーティストとして活動していきたいという思いがありましたか？

叶：
そうなるんだろうなとは思っていました。とはいえ、思っていたよりも早かったですね（笑）。もっと時間がかかるような気はしていたんですけど、界隈の流れがめっちゃ速かった。

僕の気持ちとしてはあっという間でしたけど、自覚がないだけで意外と時間は経っていたのかなとも思います。

――叶さんご自身は2022年にアーティストデビュー。デビューから1年経った今、TVアニメ『オーバーテイク！』のタイアップが決まりました。実際、アニメに関わると決まったとき、率直にどう思われましたか。

叶：
「まさか自分が！」と思いました。VTuberがいつかそうなると思ってはいたけど、僕にタイアップのお声がかかるとは思っていなかったので。ありがたいことですけど、恐れ多くもありますね……。最初に話を聞いたときは、びっくりして「えっ！」ってなりました（笑）。マジでビビりましたよ。

📢オープニング主題歌決定！
「#オーバーテイク！」を彩るオープニング主題歌が#にじさんじ所属のバーチャルライバー #叶（かなえ）さん（@Kanae_2434）が歌う「Tailwind」に決定🎉

叶さんからコメントもいただきました🎁 pic.twitter.com/2gZeV7ieCl

— TVアニメ『オーバーテイク！』公式 (@komaki_motors) August 27, 2023

どんなアニメなのか、あまりイメージできていない段階からお声がけいただいたので、ヒアリングを重ねながら曲を作り上げていきました。

――先にタイアップを経験していたVTuberの先輩方に、お話を聞くこともありましたか？

叶：
同じレーベル（ランティス）からアーティストデビューしている樋口楓さんに、お話を聞いた覚えがあります。「やってみて、どうでした？」と軽く話を聞きました。樋口さんも似たような境遇だったみたいで、タイアップのお声がかかったときはかなり驚かれたそうです。

「Tailwind」が『オーバーテイク！』を観るきっかけに

――TVアニメ『オーバーテイク！』のOPテーマである「Tailwind」。レコーディングで意識したことはありますか？

叶：
めっちゃ爽やかな曲なので暗くならないように意識して歌いました。実は明るい曲を歌うのが本当に苦手なんですよ……。ポジティブなイメージの楽曲が、あまり得意ではなくて。でも、嫌いなわけではないので、いい歌だなと思いながら「Tailwind」はレコーディングに臨みました。

――叶さんの声そのものが爽やかなので、歌声にも自然と爽やかさが出そうですよね。

叶：
とんでもないです……！「Tailwind」のデモを聴いたとき、自分の中では朝早くのジョギングから1日が始まって、サビに向かってどんどん時間が過ぎて、そこから走りだすイメージが浮かんだんですよね。だんだん起き上がっていく印象というか……。なので、そこは意識して歌いました。

正直なところ、自分が歌う上では苦手なジャンルだし、初めてのタイアップだし、大丈夫かなと思っていて。『オーバーテイク！』のOP映像を観るまでは不安だったんですよ。

だけど、出来上がったOP映像を観たら、自分の想像していた映像と近かったので嬉しかったですね。自分で言うのもあれなんですけど「合っていてよかった……」と思いました（笑）。

――ファンからの反響は、いかがでしたか。

叶：
みんな楽しみにしてくれていたみたいで。僕の配信の視聴者さんの中には、「Tailwind」をきっかけに『オーバーテイク！』を観て、「『オーバーテイク！』すごくよかった」と話をしてくれている方もいました。みんな、毎週『オーバーテイク！』を楽しみにしてくれているんじゃないかなと思います。

――ちなみに、アニメ好きな叶さんから見て、『オーバーテイク！』にはどのような印象を持っていますか？

叶：
年齢も価値観も違う人たちが、同じ場所に向かって苦悩している印象があって。キャラクター一人ひとりが何かを抱えているように感じています。だから、どんどん物語が気になっていくんですよ。「このキャラクターは、このときにどんなことを考えていたんだろう」って。最初から何回も観返すことも多いですよ。

――今後の『オーバーテイク！』の展開によっては、「Tailwind」の印象も変わってきそうだと思いますか？

叶：
僕自身も『オーバーテイク！』の最後がどうなるかはわからないですが、そうなりそうな気がしています。最後まで観終わったとき、また聴きたくなるようなオープニングになったんじゃないかなと思いますね。

「アニメに沿った、いろんな歌を歌いたい」

――個人的にはカップリング曲の「Always be here for you」が、とても素敵だなと思いました。

叶：
ありがとうございます！難しい曲だったので、自分のなかでストーリーが完成するまでは、歌うのが大変でした。「Always be here for you」はサビ部分の歌詞が英語なんですけど、僕自身めっちゃ英語が苦手なんですよね。だから、すごく難しく感じました。

でも、収録中に難しいと感じた曲って、終わってから聴くと「いい曲だな」って思うんですよね（笑）。今回は、いろいろなニュアンスを試しながら、レコーディングを進められたので、最終的に自分が納得する一番いい形に落ち着いたと思います。

――どういったイメージに落ち着いたんですか？

叶：
すごく楽観的というか。曲を聴いたとき、「そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない？」と投げかける歌なんじゃないかと感じたんですよね。いい意味で、ちょっと無責任な気持ちで歌いました。

――聴いていて前向きな気持ちになれたのは、叶さんの“ちょっと無責任な歌い方”あってこそだと思います。また、せっかくなので『Tailwind』に収録されている3曲それぞれのオススメポイントもおうかがいできますか。

叶：
表題曲の「Tailwind」は、歩いているところから次第に走りだすような、だんだん盛り上がっていくような全体の流れが僕は好きです。思わず歩きだしたくなっちゃう曲なんじゃないかな。なので、楽曲の流れにも注目しながら、ぜひ朝の通勤や通学の時間に聴いてほしいですね。

「Always be here for you」は、気楽な気持ちで聴いてほしい曲。「今日は頑張ったな」って思えるような曲だから、疲れたときに聴いてほしいです。

僕的に気に入っているのは、一定のリズムで聴こえてくる楽器の音色。そんな楽器のメロディやリズムに乗っているかのような歌詞の一つひとつの言葉を感じていただけたら。楽曲と歌詞がリンクしている部分が多い曲なので、そこに注目してもらえたら嬉しいです。

逆に「Tepid」は曲を歌っているときのニュアンスが、ちょっと気取っているというか、斜に構えているようなイメージ。

リズムが独特で「Tepid」もレコーディングは苦労しました。僕は意外と声が低いから、最初から高い音で入って、ずっと高い音が続くこの曲はすごく大変で。だけど、音の語感やリズムが気持ちいい曲なんですよね。ずっと一定の速度で鳴っているドラムがチルいので、人の目を気にせずチルしながら聴いてもらえたらなって思います。

――今後また機会があったら、アニメのタイアップをしてみたいと思いますか？

叶：
機会があれば、ぜひやりたいです。いただいたお話にできるだけ沿った楽曲を提供できたらいいなと思います。

それを前提に、いろんなアニメに沿った歌が歌えたら嬉しいですね。いつも同じような曲調を歌うのではなく、作品によってガラッとイメージを変えてみたい。何よりもタイアップを通じて、僕自身がいろんな曲を歌いたいと思っています。

――最後に。VTuberが、さらにアニメに進出していく可能性を、叶さんは感じていますか？

叶：
もっとあるんじゃないかなと思っています。それこそ、声優としてアニメのキャラクターを担当することもありそうですしね。それは、そんなに遠くない未来のような気がします。

（執筆：坂井彩花、取材＆編集：阿部裕華）