ふくだりょうこ
大阪府出身。大学卒業後、フリーランスのライターとして執筆活動を開始。ゲームシナリオのほか、インタビュー、エッセイ、コラム記事などを執筆。たれ耳のうさぎと暮らしている。ライブと小説とマンガがあったら生きていける。
テレビを見ている時、ゲームをしている時、街中を歩いている時……日常のありとあらゆる場面で触れる機会がある“音楽”。あまりにも自然と近くにあるものだから、意識しないで生きていくこともできるはず。
けれど、声優・アーティスト 仲村宗悟さんは近くにある存在だからこそ、音楽に魅せられていました。
「僕にとって音楽は、その時その時の感情に寄り添ってくれる存在」
お兄さんの影響で幼少期から音楽を聴き、中学3年生でギターを弾き始めオリジナル楽曲をつくったり、高校生になるとGLAYのコピーバンドを結成したり。プロのミュージシャンを目指すために地元・沖縄から上京するも上手くは行かず、一度は夢をあきらめました。
しかし、仲村さんはこう話します。「プロはあきらめたけど、音楽から離れたことは一度もない」と。夢破れた後に就いた介護職時代も音楽をつくっていたのだそう。
そして、声優の仕事を始めた4年後、自身の31歳の誕生日にあわせて念願のアーティストデビュー。多くの声優アーティストは提供された楽曲を歌うのに対し、仲村さんはほとんどの楽曲の作詞作曲を自身で手掛けています。
2023年12月13日発売のミニアルバム『変身』でも、収録曲6曲のうち5曲の作詞作曲を担当。バンドサウンドを軸に、「BGMにしたくない」という反骨精神から、あえて1曲ごとに“違和感”という仕掛けを取り入れるコダワリっぷり。
そんな仲村さんの音楽のルーツに迫ると、人生で初めてCDを手にしたバンド“スピッツ”が大きく影響している様子。仲村さんがこれまでハマってきた“音楽の沼”を掘り起こしていくとともに、音楽沼が高じたアルバムの楽曲づくりについてもお話いただきました。
INDEX
――仲村さんが明確に音楽を好きになったのはいつ頃だったのか、覚えていらっしゃいますか。
仲村宗悟(以下、仲村):
細かくは覚えてないんですけど、小学生の時にテレビを観ながらドラマやアニメの主題歌を歌っていましたね。
ポカリスエットのCMの曲だったFIELD OF VIEWの「突然」やDEENのアニメ主題歌など。「このアーティストのこの曲が好き」「この人のこの曲を絶対に聴くんだ」というよりも、「この番組(このCM)のこの曲が好き」でした。
なので、広く聴いて、歌っていましたね。それからずっと、音楽が好きだと思います。
――そんな中、初めて意識して聴くようになったアーティストは?
仲村:
スピッツですね。小学生の時に、兄貴とドライブに行っていたんですね。僕は助手席に座って、音楽を爆音で流しながら大声で歌っていました。その当時、兄貴がよく聴いていたのがスピッツでした。中でも、僕は『ハチミツ』というアルバムをとにかく気に入っていたんです。ドライブに行くたびに、「『ハチミツ』かけよう!」って言っていました(笑)。
そしたら、「ずいぶん気に入っているみたいだから、このCDあげるよ」と『ハチミツ』をくれて。初めて自分のものになったCDは、兄貴からもらったスピッツの『ハチミツ』でした。
――子どもの頃の仲村さんにとって、スピッツのどういったところが刺さったのでしょう。
仲村:
スピッツの楽曲のメロディって、誰が聴いても「いい」と思うようなメロディだと思うんですよね。
あと、歌詞も小学生ながら興味をそそられる歌詞だったんですよ。スピッツはボーカルの草野(マサムネ)さんが歌詞を書かれているのですが、小学生の自分からすると少し難しいんですね。それなのに、「なんかいいな……」と思っていました。
――スピッツを皮切りに、どんな楽曲を聴くようになったのでしょうか?
仲村:
スピッツを含めてなのですが、兄が3人いるので兄の影響で音楽を聴いていたんですよね。兄は邦楽をよく聴いていたから邦楽。中でもスピッツやMr.Childrenといった国民的バンドを聴くことが多かったです。スピッツやMr.Childrenはずっと聴いていたかな。
中学生くらいになると兄の影響ではなく、自分で好きなアーティストを見つけるようになって、その頃は、ORANGE RANGEやHYなど同級生みんなで聴いて歌っていました。友達が聴いていたGLAYも好きでよく聴いていたな……。
――高校時代はGLAYのコピーバンドをやられていたとか。
仲村:
コピーバンドといっても、ライブをやるほど本気でやっていたわけではないのですが……。GLAY好きな友達と「GLAYが好きだからコピーバンドやろうぜ」と集まってバンドをしていましたね。
――お兄さんの影響かもしれませんが、仲村さんが通ってきたのは「洋楽より邦楽」「ソロよりバンド」だったんですね。
仲村:
沖縄にいる時は邦楽しか聴いてなかったですね。東京に出てきてから洋楽を聴くようになりました。The Policeやスティーヴィー・ワンダー、ビートルズなど。昔から「名曲」と言われてきたのに聴いてこなかった楽曲を、一気に聴きました。
また、バンドだけではなくソロの方の楽曲も聴いています。いろいろ聴いている中で、今「いいな」と思うソロアーティストはVaundyさん、藤井風さん、アイナ・ジ・エンドさん。彼らの音楽は、本人たちに才能が溢れていると分かるくらい本当にクオリティが高い。
アイナ・ジ・エンドさんは、映画『キリエの歌』の劇中歌の歌唱に参加させていただいた時にご挨拶したんですね。
そのあと、フェスでパフォーマンスを拝見したのですが、ぶち抜かれました……。アイナさんの繊細な表現は独特な世界観があって、魂が震えるほどのパワーを持っている。素晴らしいです。
中でも、『キリエの歌』の「ひとりが好き」「前髪上げたくない」の2曲が好きです。歌詞もご自身で書いていますもんね。すごいアーティストさんだと思います。
――スピッツ、GLAY、アイナ・ジ・エンドさんなど、かなり幅広いジャンル、アーティストを聴かれていますね。
仲村:
僕、音楽に対して、浮気者みたいなところがあって(笑)。バンドの曲も聴くし、ソロアーティストの曲も聴くし……。1人を追いかけるよりは、「この人のこの曲が好きだな」と楽曲を好きになることがすごく多いんですよね。かなり雑食だと思います。
――“アーティスト・仲村宗悟”をつくり上げた楽曲を3曲お聞かせください。
仲村:
おもしろい質問ですね……!
好きな曲はいっぱいあるのですが、まずはスガシカオさんの「アシンメトリー」。たしか、高校時代に初めて聴いて、歌詞の意味が分かったのは大人になってからなのですが……とにかく歌詞に痺れました。
「アシンメトリー」は男女の歌なんですけど、幸せな男女2人ではないんですよ。中でも2番の歌詞がすごく刺さってしまって。<半分に割った赤いリンゴのイビツな方を僕がもらうよ 二人はそれでたいがいうまくいく>という歌詞。
この歌詞は一見、「男性側がいろんなものを飲み込んでしまえば、波風が立たずに2人はうまくいくんだ」という意味に聴こえると思うんですけど、僕は違うなと思っていて。「割っていびつな方を僕がもらう」と言っていますけど、割れたもう片方もキレイであるはずがないんですよ。
――たしかに。片方がいびつならもう片方も絶対にいびつですもんね。
仲村:
そう。だから、歌詞がおもしろいんですよね。実は、男性側は女性側に転がされているというか。男性側は「大丈夫、自分が大人でいればなんとかなる」と言っているけど、実は「女性側は女性側で何も言っていないだけで我慢していることがたくさんあるのではないか?」という意味に僕は感じてしまって。サインを受け取れていない鈍感な男の歌詞にも読み取れるんですよね。
「アシンメトリー」の歌詞に限らず、スガさんの言葉選びがすごくおもしろいなと思っていて。それに気づいたきっかけは、スガさんが作詞をされているSMAPの「夜空ノムコウ」だったと思います。
「夜空ノムコウ」の歌詞には、「柔らかい」ではなく「やらかい」と書かれているんですよ。それを見た時に、言葉って正しく使わなくても感覚で伝わるんだなと気づきを与えてもらって、そこから「スガさんの歌詞をちゃんと聴いてみよう」と思いました。
音づくりにもコダワリを感じられますし、スガさんご自身もおっしゃっていますけど、“天才”ですよね。
――言い得て妙ですね……! 続いて、2曲目はいかがですか?
仲村:
スピッツから2曲あるのですが、まず1曲目は「運命の人」。本当に大好きな楽曲です。
<バスの揺れ方で人生の意味が解かった日曜日>という歌詞から始まる曲なんですけど、その歌詞に衝撃を受けました。バスに乗っているのは日常的な行動なんだけど、日常の動きの中に「人生これでいいな」と思える瞬間が隠れているんじゃないかと分かる。すごく哲学的な歌詞だなと思います。
ほかにも、<ただのユートピアも汚れた靴で通り過ぎるのさ 自力で見つけよう神様>という歌詞。これは僕の解釈ですけど、誰もが幸せになれる理想郷(ユートピア)を求めているけれど、この歌詞では「みんなが“いい”と言っている場所を通り過ぎて、自分だけの神様を見つけよう」と言っているのではないかなって。
多くの人からすると「こうした方がいい」ということでも、「自分はこうしたい」と思う方向に進んでいく方が幸せだよなと思うんですよ。そんな価値観や考え方を「運命の人」の歌詞から教えてもらいました。泥臭い考え方だけど、今の僕をつくっている歌詞な気がしています。
――スガシカオさんもスピッツも、自分の経験値によって理解度が深まっていく歌詞ですよね。
仲村:
そうなんですよね。スピッツも幼少期では、歌詞を読んでも「どういうこと?」なんて思っていたんですけど、大人になって聴いてみると歌詞が分かるようになって。
最近も、ふとスピッツをまた聴きたくなった瞬間があったんです。昔聴いていた楽曲を含めて歌詞を見ながら聴いていたんですけど、「当時は分からなかった歌詞が今なら伝わってくるな」と。そういう楽曲がたくさんありますね。
――そして、3曲目に選んだのもスピッツだと。
仲村:
はい。3曲目はスピッツの「あじさい通り」。これはメロディやサウンドに影響を受けて、20歳くらいの時にオマージュした曲を作ったくらい好きな楽曲です(笑)。
単純なメロディが続くのですが、ずっと耳に残るんですよ。イントロからAメロの入りも好きで。僕の時代のJ-POPって、Aメロ→Bメロ→サビという分かりやすい構成の楽曲が多かったのですが、スピッツはAメロ→サビとか、Aメロ→サビ→サビとか。1番はAメロ→Bメロ→サビだけど、2番はサビから始まるとか。型にはまらない構成の楽曲が多かったんですよね。
そういう曲の構成におもしろさを感じていましたし、僕自身のつくる楽曲のベースにあるなと思います。
――「スピッツの音楽が楽曲づくりのベースにある」とお話しされていたように、仲村さんの楽曲は型に捉われなていない印象を受けます。仲村さんが曲づくりをする際、楽曲を先行してつくるのでしょうか。それとも歌詞を先行してつくるのでしょうか。
仲村:
基本的に曲からつくります。「書こう」というスイッチが入ると、メロディがグワーっと出てくるんですよ。2022年11月にリリースした「WINNER」という楽曲は、メロディ全体が5分くらいでできたくらい。
すでに頭の中にテーマがある時は、メロディと歌詞がなんとなく一緒に出てきます。そのアウトプットをベースに表現を広げていこうと考えています。
――アウトプットのインスピレーションを高める上で、どんなインプットをされていますか?
仲村:
受け身で過ごすのではなく、能動的にいろんな経験をしていきたいと思っています。
そして、能動的に動いた時に「自分は何を思ったのか」「何を感じたのか」と抱いた素直な感情や考えを大切にしています。音楽を聴く時、人と対話する時、外で美味しいものを食べたり旅行に行ったりする時……例えば、「この景色に対して自分はどう思った?」と自分に問いかける。そうやって言語化することによって自分の中に浸透させようと思っています。
とはいえ、時には言語化できない感情というものもあって。それはそれで、言語化できないことも大切にしています。「アーティストとして、この時に感じた言語化できない気持ちをどう表現してみよう」とか。スピッツの草野さんはそれをやっている気がしています(笑)。
――体験や経験、そこで抱いた感情の蓄積が、曲というアウトプットに結びついている。
仲村:
そうですね。音楽を聴いている時も、ただ聴いて「良かったな」だけで終わらせない。かといって自分の中で無理に意識しているのではなく、「このコードに対してこの歌の入りなんだ」「この人たちの楽曲はこういうコードを使って、こういうメロディが乗っているんだ」「この構成だから不思議と涙が出てくるんだ」と考えることが、高校生くらいから自然と好きになっていったんですよね。
1回聴いただけで、ただただ「いい!」と思える素晴らしい楽曲たちが世の中にはたくさんあるわけですよ。そういう楽曲を何回も何回も聴いて、「おもしろい」「好きだな」と感情を発露させつつ、「これってどうなっているだろう」と気になってくるから、どういうメロディの構成なのかを分解してみる。ある種の職業病みたいなところもあるのですが(笑)、それもアウトプットに繋がっていると思います。
――時代によって流行りの曲が違うと思うのですが、仲村さんが楽曲をつくるときも「流行りを取り入れてみよう」と意識していますか?
仲村:
その意識はないかもしれないですね。どちらかというと流行っている楽曲にするかどうかはアレンジャー(編曲)任せかな。アレンジャーから上がってきた音を聴くと、「今っぽくなっているな」と感じます。
僕も「こうしたい」「ああしたい」があるから、(アレンジャーの村山☆)潤さんと何回もやりとりしていますけど、「この音作りが新しいからやってみよう」「いま旬な音作りはこれだからやってみよう」というのは周りのサポートが大きいかもしれないです。
今回のアルバムの楽曲もそうですけど、潤さんの発想のおかげで今どきの音になっている。僕はどちらかというと曲の土台を作っているんですよね。「こういうサウンドが作りたい」というよりも「こういう音楽が作りたい」というのを考えています。
――声優のお仕事をしていることで、アウトプットに活かされることはありますか?
仲村:
活かされることはたくさんありますよ。それこそ、声優でいろんな役をやらせてもらって、いろんな人の考えを頭に入れているわけだから、それが表現の1つに繋がっています。
逆にアーティスト活動でお客さんの前でパフォーマンスをする時の「こういう流れでこういうパフォーマンスをしたら、みんなに声を上げてもらえる」という気づきは、「こういう表情やお芝居をしたら皆さんの笑顔を引き出せるかも」という考えに繋がることもありますし。相互的にいい効果があるなと思います。
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大阪府出身。大学卒業後、フリーランスのライターとして執筆活動を開始。ゲームシナリオのほか、インタビュー、エッセイ、コラム記事などを執筆。たれ耳のうさぎと暮らしている。ライブと小説とマンガがあったら生きていける。
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